73.再び…?
ジェイドの真剣な表情を見て――私は、混乱しそうになった……が。
(いったん落ち着くのよ、私……彼の言葉の意味は……応急手当って意味なのだから……!)
もし庭園で彼と会った時に、こうした言葉を聞いていたら……変な誤解をしてしまうが――。
この前の外出で、彼が困っていることを聞いたのだ。
一旦、呼吸を整えてから。
「その……身体の調子をよくするために……よね?」
「ああ、それもあるが――」
「それも……?」
疑問を彼に聞き返せば――。
ジェイドは、私の片手をぎゅっと握って。
「お前と――もっと近づきたいと思ったからだ」
「ち、近づく……?」
「関係を深めたい――そう言えば分かるか?」
ジェイドの言葉によって、やはり私は混乱に陥った。
だって彼があんまりにも、艶やかに言うものだから……勘違いしてしまいそうになるのだ。
(落ちつくのよ! 落ちつくの、私……! ジェイドが言っているのは、家族として、家族として、よ!)
外出の日から、どうも心臓が変な動悸を起こしている。
勝手に勘違いをして、こんなに焦ってしまうのはよくない。
「そ、そうよね。家族として、当たり前だもの、ね……!」
「ん?」
私が自分にも言い聞かせるために、そう彼に言えば。
ジェイドは、不思議そうな顔をしてから。
私の言葉の意味に気が付いたのか――ぎゅっと握った片手を、ゆっくりと持ち上げて。
ジェイド自身の方へ、ぐいっと近づけ……彼の頬にピトッとくっつけたかと思うと。
「家族以外の関係は――嫌か?」
「えっ……それは……」
「俺たちは家族の前に、夫婦だろう?」
「へ、あ……」
「もっとそうした――お前のことも知りたいんだ」
真っ直ぐと彼の瞳に射抜かれて、私は言葉をうまく出せなくなってしまう。
(本当に、ほ、ほんとうに……え、でも、だって……)
頭に熱がこもっていくような、感覚に。
先ほどよりも激しい動悸に、くらくらとしてしまう。
彼の言葉を受けて、私は――キャパオーバーになっていた。
信じられない気持ちと、彼の瞳から伝わる嘘じゃない気持ちとで……うまく頭で整理できなくて。
ずっとブラック企業に時間を捧げていた私には、難しすぎる状況だった。
恋愛の免疫も、異性への免疫もゼロに等しく……。
(どうしよう……な、何が正解なのかしら……!?)
そうパニックになりながら――顔を真っ赤にしていれば。
「ふ……」
「え?」
「今すぐに何かを答える必要はない――今はダンスのことだから、な」
「え、ええ……! そうよね!」
「今日はもう十分に練習をしたから……明日以降、また別の練習をしよう」
「あ、ありがとう……! 分かったわ……!」
ジェイドがいきなり、私を見て笑ったかと思えば。
助け船を出すかのように、言葉を紡いだ。
そんな彼の言葉に、私は救われるように――乗っかった。
「そ、それじゃあ……私はセインが待っているから……そろそろ、部屋へ帰るわねっ」
「……分かった、明日からの時間も――追って連絡しよう」
今日のダンスは終わりなので、彼の時間をとってはいけないと思った私は。
帰る旨をジェイドに伝える。
すると彼は――持っていた私の片手を、今度は彼の口元へ持っていき。
――チュ。
この前と同じように、ジェイドは私の手の甲へ……キスを落とした。
そして彼は、ゆっくりと私の手を放して。
「では、またな」
そう言葉を紡いだので、私はギクシャクとしながら。
「……! ええ、また……っ!」
そう返事をするので、精一杯だった。
そして機械のように……ギコチナイ動きでなんとか歩き――その場から出て。
ジェイドの宮に配属している騎士に、宮の出口まで案内されるのであった。
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