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60.はじめて



ジェイドの反応を見て、もしかして自分は空回ってしまっているのでは……そう思ったのだが。


(今更、あとになんて引けないわっ……!)


すでに自分の気持ちを、素直に言ってしまっているので――ここで引き返すのは無理だ。そのため――。


「で、ですから……その……この前、ノエルを訓練場まで迎えに行こうとしたら……その、上皇后様が先にいらっしゃって、ノエルが嬉しそうに笑顔を向けていたから……なんだか親として切ないというか、ノエルに近しい存在の立場が……みたいな、器の小さいことを思ってしまって……」

「……」

「陛下に会った時も、ずっとモヤモヤしていて……その、顔が上手くつくれなかったといいますか……」


私の口は止まれなくなっていた。

ジェイドに聞かれていた「気分」の理由を、ちゃんと話すべきだと――そう思っていたのだが、気づけば詳細に語りはじめてしまっていて……。


「王宮にいると、ノエルに会いたいのに……その、面と向かって、会った時にちゃんと笑顔でいられるのかな……って思ったり、モヤモヤが出そうで……」

「……」

「だから、私が気分が暗かったのは……その、そのことが理由と言いますか……」


私は完全に、あたふたしていた。

話を聞かされているジェイドは、突然の話題過ぎたのか少し虚を衝かれた様子で。


(いえ! ここで折れてしまったら、もう何も言えなくなってしまうわ! あっ……それに……)


先ほど、ジェイドに家族の話をした時とは打って変わり。

私の思いのたけを、とりあえずジェイドに話してしまっている現状だった。


そんな中、私は毎回言えてなかった……あのことを思い出す。


「そ、それと! 今のタイミングで思い出したので、その……夜にご訪問くださった際に……」

「ん?」

「思いが高まってしまった……といいますか……いえ! 言い訳なんて、よくありませんね……」

「……?」

「つまりは――陛下に対して敬語を使わなくてごめんなさい! 気遣いが漏れてました!」


私は話すことをすべて、ジェイドに話し切っていた。

特に言えなかったことが、頭にあれもこれもと思い浮かび――しっちゃかめっちゃかになっていたようにも思うが。


(で、でも言えたわ……)


変な達成感を感じつつ――私はジェイドの方をチラッと向くと。


(ふ、不思議な顔をしてらっしゃる……!)


ジェイドは、完全に――驚きと呆れと……いろんな感情が入ってしまったような、不思議な顔をしていた。きっと、こんな個人的な想いをジェイドにぶつける人なんて……今までいなかっただろう。


ジェイドにとっては未知の生物との対面にも等しいのかもしれない。


(やっぱり、言いすぎてしまった……? 自分の気持ちでいっぱいいっぱいになってたわ……!)


すべて言い切ってから、今更のことなのに。

やっぱりヤバかったのかも……と弱気になっていれば。


「ふ……」

「ふ?」

「フ……ッ。ハハ……」

「え……?」


隣に座っていたジェイドをまじまじと見つめれば――。

そこには、口元に手を置きながら堪えられないとばかりに笑っている――ジェイドがいた。


「あの時の――敬語の有無について、結構悩んでいたのだな」

「え? ええ……」

「それに、昨日は……ノエルのことを悩んでいたのか」

「は、はい……」

「そうか……そうだったのか」


ジェイドは、何かを納得したのちに――ふっと身体の力を抜いた。

そして彼は、こちらに向き直って。


「ノエルは、お前に――これほどまでに思われて、幸せだろうな」

「え?」


私の視界には、花が咲いたように……優しく笑うジェイドが――そこにいた。




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