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53.オサソイ



(ヘイカカラ……オデカケノ……オサソイ……?)


侍女から言われた内容を、自分の頭の中で理解しようと試みるが……。


(何を言っているの……? そんなわけが……)


信じられなかった。

ギョッとした顔で、侍女を見つめるものの。


「へ、陛下が、王妃様を……っ」

「やっぱり、これって……!」


余計に彼女たちの勘違いに、拍車がかかってしまった。


「その言伝として――こちらのお手紙を、いただきましたので……っ」

「あ、ありがとう……?」


おずおずと渡された手紙を、受け取り――中身を見てみれば。

紙に書いてあることを理解するために、おもむろに口に出して読んでいた。


「今日の……昼に、王宮から城下町へ行く……?」

「お、お忍びデートってことですか……!?」

「いえ、ここには視察のついでにと書かれて……」

「これは私たちが、力を入れねばいけませんね!」

「ちょっと聞いてる……?」


私の言葉が聞こえていないまま――侍女たちは先ほどよりもテンションがあがったようで。


もう少しで支度が終わりそうだったのに……私は侍女たちの強い勧めによって、衣裳部屋に連れていかれ。


「さぁ、王妃様……! 今日は一段と輝けるように、私たちが力を入れますね」

「……あ、ありが……とう……?」


侍女たちの出世欲、もとい強い圧によって、私はされるがままになった。

それよりも……。


(お出かけの誘いって……どういうこと……!?)


ジェイドの真意が全く分からないまま、私は着せ替え人形のごとく、おとなしくしているのであった。



◆◇◆



「ふぅ……」

「王妃様……今日の装いは、一層力が入っておりますね」

「セインもそう思う? 侍女たちが力を入れまくったのよ……」


侍女たちによる、着せ替え奮闘劇が終わったのち。

私はセインと共に、ジェイドが待つ――王宮の出口へと向かっていた。


私が転生する前のレイラは豪華絢爛さをアピールする服装を、よく着ていたそうだが――。

最近の私は、目に優しいカラーのドレスや、動きやすさを重視したドレスを好んで着ていた。


(そうじゃないと、息が詰まる感じがして……着やすいのを着ていたのよね)


しかし今日はジェイドに誘われたということもあり、というか侍女たちがそれを知ってしまったこともあり……。


私はいつもなら着ない――鮮やかな緑のドレスと、侍女いわく……お忍びデートというコンセプトのために、派手になり過ぎない紺色の上着を羽織っていた。


「恐れ入りますが――とても素敵だと思っております」

「セイン、褒めてくれてありがとう」


セインにそう言われて、窓にチラッと映る自分の姿を垣間見る。

部屋の中でも、侍女たちに大層褒めてもらっていたが……あまりにも、前のめりに言ってきたので、半信半疑だったのだが――。


(確かに、レイラの瞳の色に合うドレスと――派手過ぎない上着が、いい感じな気がするわ)


侍女たちの目に狂いはなかったように思う。

ちゃんと、不躾にならないように、そして綺麗さもあるコーディネートになっている……はずだ。


昨日からのメンタルの凹みのせいで、もうそう思わないとやっていけないほどになっているだけなのかもしれないが。


そうして歩いているうちに。

気が付けば、待ち合わせ場所に辿り着く。


するとそこには、一台の馬車と――。


「……っ!」

「お待たせしました、陛下。遅れてしまいましたか?」


今日も今日として、美しい相貌の――ジェイドがそこにいた。


「あ、いや、そんなことはない」

「良かったです」


なんだか一瞬、いつもより鋭く睨まれたような気もするが……。


(いつも通りなこと、よね?)


ジェイドの険しい表情を見過ぎた結果なのか、私はジェイドに耐性が付き始めているようだ。


「では王妃様、私は馬にてついていきますね」

「ありがとう、セイン」


本日は馬車でジェイドと移動し――護衛として、セインをはじめとした騎士が数名……側で控えてくれるようだった。


馬車の中にジェイドと共に入れば――。

彼とは向き合って座る形になった。


「……」

「……」


先ほど、ジェイドには耐性がついたと言ったが、訂正しよう。

二人きりの馬車内、とんでもなく気まずい。


私とジェイドを乗せた馬車はゆっくりと動きだすが――いつぞやの庭園の時と同じく。


(何をしゃべれば……これって、どうして誘ってきたのか、聞いてもいいのかしら……!?)


今回の誘いの意図が全く分からない私は、混乱が頭の中でうずまく。

そんな中……ジェイドは、無言から一転して口を開いたかと思うと。


「今日の……装いはいつもと違うな」

「えっ……ええ、そうですね」

「その……似合っている。良い色だな」

「っ!?」


私はジェイドを見つめながら、頭の中がフリーズした。




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