141.断罪
「ノ、ノエル……何を言っているの? だって私に、両親の不正を伝えてくれたじゃない……っ」
「何をおっしゃっているのか……僕には全く分からず……」
上皇后様は歪んだ笑顔を向けながら、ノエルに言い募るも――ノエルは全く意に介さずに淡々と答えた。すると、先ほど上皇后様の話を聞いていた貴族たちは――。
「どういうことだ? 上皇后様は王太子殿下に聞いたと……」
「まさか……上皇后様が誤った発言を……?」
舞踏会の会場内はどよめきが広がっていく。
そんな中、我慢の糸が切れたのか――上皇后様は、声を荒げながら。
「……あんたたちね。ジェイドとレイラ……あんたたちがノエルを追い詰めて……嘘を言わせているのでしょうっ!」
「だ、そうだが……ノエル」
「お父様……おばあ様は何をおっしゃっているのでしょうか……? 怒っているおばあ様を見ると……僕は胸が辛いです」
「な、何を言って……っ」
「不安だっただろう……もう大丈夫だ。あとは俺にまかせて――レイラのもとで見ていてくれ」
「はい! お父様」
ノエルはそう答えると、すぐに私の隣へ戻って来た。
帰って来たノエルを見て、私はホッとするのと同時に。
「ノエル……大丈夫? ノエルに何かあったのかと思ったら……」
「お母様、ご心配おかけして申し訳ございません……大好きなお母様やお父様のことを、変に言われて……黙っていられなかったんです」
「ノエル……思って言ってくれて……ありがとう」
ノエルがどこかムスッとした表情で、そう答えたのを聞いて……私はノエルの気持ちに、彼の思いやりに嬉しさを感じた。しかし一方で――やっぱりノエルには危ないことをさせたくない気持ちもあって……。
「気持ちは嬉しいけれど、無理はしないでね?」
「はい……分かりました。お母様」
私はノエルに心配もあるのだと、伝えた――そんな私たちの会話を聞いていたのか、近くの貴族たちが……。
「王妃様は変わられたのかもしれないな……ノエル殿下がああも、慕ってらっしゃる」
「ええ、むしろ……私たちは噂に振り回されていたのかもしれませんね」
先ほどの上皇后様を擁護する意見だけではない……会話をしていた。その話を聞いて、私は流れが変わってきていると思った矢先。
ジェイドが上皇后様を目の前にして、口を開く。
「どうやら、母上には誤解があったようですね」
「ジェイド……」
「それにちょうどいい……俺からも母上にお伝えしたいことが……」
「はい?」
「母上は長期間に渡って……俺に毒を盛り続けておりましたね?」
「!?」
上皇后様はジェイドの話を聞いて、目を見開く。そしてホール内にいる貴族たちも、驚きで声を上げていた。そんな中、ジェイドは……近くの護衛騎士に声をかけて。
「あれを……」
「は……!」
騎士から、ジェイドは数枚の紙を貰っていた。それを上皇后様の前――そして貴族たちに見せるように掲げた。
「これは宮中の料理当番、毒見役の証言です。上皇后から、命令を受けて――滋養に良いからと、とある物質を今まで加えていた……と分かった」
「っ!」
「しかし……その物質は単なる毒ではなく――妖精の力を制御できなくなる……恐ろしい代物だと判明した」
「な、何を根拠に……」
「アタシが物質の成分を解析したわ」
ジェイドに言い募られながらも、上皇后様は認めない姿勢を見せていた――しかし、レイヴン卿が口を開くと、ギョッとした表情を見せた。そして私は、そこまで話を聞いて……ハッとなる。
(ジェイドの料理に毒……!? その毒ってまさか……)
私の頭の中には、ジェイドから教えてもらった「黒い物質」のイメージが浮かぶ。それに私の部屋を訪れに来た……先日には聞いていなかった話で――まさかジェイドがそうした苦しみを味わっていたと知り、胸がぎゅっと痛くなった。
(あの夜の日以降に、毒があると……あの黒い物質が混入していると分かったのかしら……?)
今初めて知った事実で、衝撃的な気持ちはあれど――ずっと忙しく根を詰めていた彼に、怒る気持ちは湧かなかった。彼なりに時間がない中で、こうして計画をしていたのだろうし……もしかしたらいらない憶測をなくすためにも、そうしたのかもしれない。
切なさは感じつつも、ジェイドを非難する気持ちはなく――彼を見守るように視線を向けていれば。ホール内にいる貴族たちもの会話が聞こえてくる。
「上皇后様が……陛下に毒を……!? しかも妖精の力を制御できなくするとは……なんと非道な……」
「公爵様の家は確か……妖精の研究を長年続けてらっしゃる家柄だろう?」
「え、ええ。だから、証言に信ぴょう性がありますわね。しかも彼は騎士団長という肩書もありますし……公爵様のこれまでの功績を鑑みるに、本当のことなのでは……」
ジェイドの話に肯定を示す反応を見せていた。そしてジェイドとレイヴン卿の話を聞いたうえで……一人の貴族が、口を開き。
「そういえば……先ほど……上皇后様は、陛下に欠陥があると……その欠陥はつまり……」
一人の貴族の言葉によって、周囲の貴族たちもハッとしたような顔つきに変わる。そしてジェイドは、不敵な笑みでニヤッと笑ったかと思えば。
「母上の毒のおかげで……俺は妖精の力をうまく制御できないようにさせられた」
「!」
「証拠の毒物も――レイヴンに押さえてもらっている」
「な……っ」
「ああ、伝えるのが遅れました。わざわざ、息子のバルコニーに贈り物を届けてくれて――父として、お礼を言わせてください。母上」
ジェイドの言葉を聞いて、上皇后様はどこか合点がいった表情ののち――唇をかみしめて、ジェイドを睨みつけた。そんな上皇后様の視線を受けながらも、ジェイドは意に介さず……口を開く。
「今日この場で、上皇后による――現国王への反逆、ひいては国の混乱を招く転覆の罪で……」
そして――ジェイドは続けて。
「上皇后……お前に、断罪を下す!」
そう、言い放つのであった。
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