136.話をして…
ジェイドの笑みを受けて、私はダンスの練習の時のこと――それだけでなく、彼と二人きりだった時間を思い出してしまって……カアッと顔を赤くさせてしまう。
「お父様……お母様に何かしたんですか?」
「フ……さあな」
「っ! お母様、大丈夫ですか? 何かお父様から酷い扱いを受けたり……」
「え? そ、そんなことはないわ……心配してくれてありがとう。ノエル」
「……本当に大丈夫ですか?」
ジェイドの発言を聞いたノエルが、遺憾だと言わんばかりに抗議してくれた……が、ノエルにジェイドを意識したがあまりに赤面してしまったとは、気恥ずかしくて言えず――私は「大丈夫だ」と伝えるので精いっぱいになった。
ジェイドとノエルは視線を交わしながら、どこか剣呑とした雰囲気になった時。
――コンコンコン。
「失礼します。ご連絡がございます」
「……どうした」
「王妃様の舞踏会に着用しますドレスやアクセサリーに関しまして、最終確認のお時間が近くなっておりますが、いかがいたしましょう?」
「あ……!」
執務室の扉の外から聞こえたのは、ジェイドの護衛騎士の声だった。騎士の言葉を聞いて、私はハッとなる。舞踏会まで残り三日に迫っている中で、舞踏会に関わる色んな事の確認が予定されていたのだ。
本日は確か――騎士が言っていた通り、ドレス周りの確認が入っていて……。
(とはいっても……ジェイドと一緒に外出した時に……買ってもらったあのドレスなのだけど――サイズ調整や似合うアクセサリーを見ないといけないのよね)
体型はほとんど変わりないと思うのだが――意外とここ最近は、ノエルの一件で食事がまともに食べられなかったり、回復してすぐに食べたり……など不規則な生活を送っていた。だから、サイズはあらためて確認したほうがよさそうだ。
騎士の言葉に反応した私を見たジェイドは――。
「行ってくるがいい。レイラとノエルに伝える――今日の話は先ほどの件で終わりだ」
「! そうなの……?」
「ああ、もちろんさっきの話は大事だが……お前のドレス姿も大事だ」
「え、あ……あわ……」
「当日を楽しみにしている、レイラ」
さっきから、私に対して艶めいた表情をするジェイドに――私は翻弄されてしまう。やっぱり、あの夜以降、ジェイドのリミッターが解除されたのだろうか。リミッターというのも何かはよく……分からないけれど。
(それか寝不足で、理性が……? いつもよりも性格が変わった……とか……?)
色んな原因を考えては、ジェイドの様子を考察するも――明確な理由は分からずじまいだった。ただ私は……どうにか口を開いて。
「き、期待に応えられるように……頑張るわね……その、い、行ってくるわっ!」
「フ……走って転ばないように、気をつけてな」
「そ、そんなことしないわ……!」
どこか慌てながら出て行く私に、ジェイドがほほ笑みながらそう言った。彼の言葉に、「もう!」と思いながらも――嫌な気はしなくて。
(ドレスの確認なのに……変に緊張しちゃいそうだわ……っ)
ジェイドからも言われたこともあり、どこか心臓の鼓動がいつもよりも早い気がするが……気持ちを切り替えて、ドレスの確認に集中しようと意識を切り替える。
(舞踏会の日の計画についても、ちゃんと覚えたから……今はドレスのことね……!)
心の中で「よし!」と活を入れてから。
私はジェイドの執務室から、退室するのであった。
■ノエル視点■
お母様がどこかわたわたと慌てながら、出て行ったのち。
お父様の執務室では、僕とお父様――そしてセスだけが残った。
「……お母様とずいぶん仲良くなったのですね」
「そう見えるか? それなら――嬉しいものだな」
「ですが、お母様を悲しませたら……僕が容赦しませんからね」
「……そうか。ならば覚悟しないとな」
お母様とお父様が仲良くなったことは――家族的には、とても嬉しいはずなのだが……。ああして、お母様を困らせるお父様を見ると、ムッとした気持ちが生まれてしまう。
(それに、僕が本気で言った言葉に対しても……どこか余裕そうなのが……)
精神的な器で負けている気がして、対抗心が湧いてしまう。
加えてお母様と話したからなのか、お父様の様子が――いつもよりも和やかな雰囲気でなのも、どこか僕としては落ち着かなくなってしまう。
これ以上、お父様に負けていると思うのも癪なため……僕は再び口を開いて。
「先ほど、お話は終わったとききましたので……僕もこれにて失礼します」
「ああ、来てくれて――感謝する」
「いえ……」
淡々と別れの挨拶をしてお父様の部屋から出ようとした――その時。
「ノエル」
「? なんでしょうか?」
「お前は王の器として――ふさわしいと思っている。民を思い……母であるレイラのことも、しっかり守るように」
「言われなくとも……そのつもりです。期待に応えられるように、尽力いたしますね」
「ああ、期待している」
「! そ、それでは失礼しますっ……」
「フ……。レイラと似ているな……」
お父様からこうも優しく――助言を受けるなんて思わなくて、僕はたじろいでしまった。珍しいと思いつつも、お父様から言葉を貰って嬉しさや気恥ずかしさも生まれる。
色んな感情がないまぜになってしまったこともあり――これ以上、お父様に不格好な姿を見せたくないと思った僕は、セスを連れて、お父様の執務室から退室した。
この時の僕はあとになって……。
いつもと様子が違うお父様を見て……お母様の前だからと決めつけずに、もっとお父様と話をしておけばよかった、と。そう思うことになるとは、この時はまだ知らなかった。
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