128.妙案が
(妖精の力は触れない……? そりゃあ、力っていう概念は触れないのだろうけど……)
ジェイドが言った意図をうまく噛み砕けず、困惑していたら。
彼は手をテーブルの上に差し出したかと思うと。
「見たほうが分かりやすいな……妖精の力を発動しようすると……」
目の前でジェイドは、手を淡く光らせ始める。
「こうやって、手から出せるには出せるが――俺は別に、直接この光に触れてはいない。あくまで手からは距離がある」
「! 確かに、浮かせてる状態なのね……!」
彼の手をしげしげと見つめれば、彼が言う通り――光は彼の手との間で、数センチほど離れていた。
それと比べるように映像の上皇后様の手を見ると。
(付着……そう、黒い靄が手にひっついているのよね)
「全然、違うのね……」
「ああ、妖精の力はあくまで間接的にしか発動できない。妖精自らに作り出させる、もしくは加護を持つ人間が――妖精を介して力を発動する。こうやって、触らない形で……な」
ジェイドはそう言うと――力を発動するのをやめた。
そして彼は続けて口を開いて。
「だから、母上のように――見たこともない黒い靄を触りながら……しかも相手に作用させるものを出すのは……」
「人間ではできないわね……」
「その通りだ。もし力を直接出せるのなら、それは……妖精そのものに他ならない」
「……」
ジェイドの話を聞いて、私は――上皇后様という存在になんとも言えない感情を抱く。
彼女が人間なら、罪を犯したのなら法で裁くというイメージがつくが。
相手が――ジェイドの言う通り、妖精となるならば……いったいどのように対処すればいいのだろうか。
(しかも、妖精というのなら――死ななそうなのに……どうして私の知っている物語では、亡くなったの……?)
疑問が疑問を生み出す、よくない流れになっていた。
眉間に皺を寄せて、うんうんと考え込んでいれば……。
「――大丈夫だ」
「!」
「母上が妖精ならば、対処はしやすい。人間ならば、牢にて拘束となるが――妖精ならば、妖精同士で力で解決できる」
「でも、それは危険なんじゃ……」
「もちろん、相手は力が強い……が。ノエルが持ってきてくれた筒から、母上の力であろう……あの映像の黒い靄を取ることができた」
「そ、そうなの……!?」
「ああ。今はレイヴンに内容を解析してもらっているから……明日にはあの黒い靄がいったいどんな効果があって、何に弱いのかについても分かるはずだ。それが、あいつの研究だからな」
ジェイドは私を安心させるように、そう話した。
その話を聞いて――私は安心感を持つのと同時に。
「教えてくれてありがとう。ジェイド」
「!」
「私は妖精に疎いし……きっと話しにくかったはずなのに……その……」
きっとジェイドが話したことは、他国にバレてはいけない機密情報だと――そう思ったのだ。
それを彼がこうして話してくれたことに、ジェイドに負担をかけすぎてしまったやも……と。
国を一番深く考えているジェイドに、無理を強いてしまったかと――そうも感じたのだ。
ゆえにジェイドには感謝や申し訳なさを伝えようとした――その時。
私が続けて口を開く前に、ジェイドが声をあげて。
「いや、お前も知るべきことだった」
「ジェイド……」
「レイラはユクーシル国の王族、だろう?」
「……っ! ええ、そうね……」
彼は柔らかく笑みを浮かべながら、そう話した。
そうした言葉を聞いて、私は勇気づけられるような――引け目なんて感じなくてもいいのだと、背中を押される感覚を持った。
(そう、私は……ノエルやジェイドを守りたい……だから少しでも知って、その可能性を大きくしていく……! それが重要よね)
自分の考えをあらためて、再確認し――納得するようにこくりと頷いた。
そして今の状況を確認するためにも、私は口を開いて。
「そうなると……レイヴン卿の研究結果の明日までは、休めるってことなの?」
「ああ、そうだな」
そう尋ねた。
すると彼からも、肯定の言葉を聞き――ジェイドの顔をじっと見つめる。
彼の目元には濃いクマが、出ている。
(ただでさえ、寝れないということだし……できるかぎり、身体を休めてほしいわ)
そうした思いもあって、彼に言葉を紡いで。
「ずっと忙しかったでしょう? だから、ジェイドにゆっくりと寝てほしいのだけれど……」
「ふ……レイヴンと同じことを言うのだな?」
「! そりゃあ、レイヴン卿もあなたを心配して……あ!」
ジェイドと話している中――妙案が浮かんだ。
というのも……ジェイドは普段だと睡眠を削ってしまう。
寝ようとしても妖精の力の制御ゆえに、逆に気を張ってしまったり――痛みを伴うから……ということだったが。
(私が触れると――幾分かましになると言っていたわ……!)
本でも「守り手」は、妖精の加護を受けた人間にも――治療のような効果があると書いてあった。
けれど私は現在、休養中のため部屋からは離れられない。
それにもうだいぶん夜も更けたことだし――今から自分の部屋に帰るのも、ジェイドの手間だろう。
そうだ、そうに違いない……と思った私は、深く考えずに。
「ジェイド、ここで寝ていくのはどうかしら?」
「!」
「私の部屋のベッドはすごく広いし――それに、私が触れることであなたの身体が楽になれ……ば……」
こう言葉を紡いだ時――私はハッとなる。
なんだか、ジェイドの顔が驚いているような……。
(も、もしかして――私、やらかしちゃった……?)
あわあわと――今更になって、焦りが大きくなっていく。
そんな私の様子を見たジェイドは、先ほどの驚きの表情から一変して――。
「ほう? それは良い提案だな」
「え……あ、あわ……」
「しかしレイラもまだ休養が必要なのだから……共に寝るのがいいと思うが――」
「!」
「お前はどう思う? レイラ」
ジェイドは楽し気に、そう言葉を紡ぐのであった。
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