127.妖精のゆえん
(やはり……?)
私はジェイドが言った言葉の意味が分からず、疑問を浮かべる。
しかしまだ動画が終わっていないため、全て見終わってから聞こうと思い――言葉を口に出さなかった。
そして――映された映像が終わりまで、再生したのち。
私はカメラの起動をオフにして、テーブルに置いてから……ソファの対面に座り直し。
ジェイドの方へ視線を向けると……私よりも先に彼が口を開いた。
「確かに黒い物質が……母上から出ているようだ」
「ええ、そうよね……その……もしヨグドの機器だから心配とかあれば……その……」
ジェイドも映像を見て、同じ黒いものを見たことに――私だけではないという安心感を覚えつつ。
審問会の時では、ヨグドの機器という……この国では認知されていない道具ゆえに、不信感を持たれていたことを思い出す。
万が一……ジェイドとしても信用ならないようであれば、手紙の話に戻ろうかと思っていれば。
「ヨグドの機器だからといって、心配はない。むしろこの映像で……だいぶ、はっきりとしたこともある」
「はっきり……? そういえば……映像を見ていた時、やはりって言っていたけれど……」
「ああ……つまりは……」
ジェイドは一瞬、逡巡したような表情になったかと思えば。
再び口を開いて――。
「母上が、人間ではなく――妖精である可能性があるんだ」
「え……よ……え……?」
ジェイドから言われたことに、私は思考停止してしまう。
上皇后様が人間ではないという内容もすさまじいが、妖精という意味が全く分からなかった。
(だってどう見ても、上皇后様は人間の姿だし……妖精って子犬ちゃんとか……)
私が知っている妖精というのは、子犬しかり、子ライオンしかり……動物の姿をしているイメージだ。
なのに、人間体の上皇后様が妖精と言われても――ピンとこない。
そんな不可解な表情をした私に気づいたのか。
ジェイドは、説明するように話し始めた。
「理解できないのも無理はない。俺も……最初はあくまで推測だったから、な」
「推測だった……つまり……さっきの映像で確信したの?」
「……そうだ。はじめは黒い物質は、外部からもたらされたものかと――そう思っていたが……母上によって……いや、妖精の力が発動していたのなら解決する」
「! で、でも……妖精って、火とか水とかを出す力のイメージがあるけれど……」
「ああ、基本はそうだ。属性があって、それに対応する力が加護によって発動される」
「じゃあ、あの黒い物質は……」
「レイヴンの妖精のことは覚えているか?」
「え? ええ……綺麗な鳥よね……?」
「そう、レイヴンは風の精霊の加護を得ている……が、風の妖精が一般的に持っている――風を起こしたり、遠くへ移動する力の他に……他人の妖精の状態を見ることができただろう?」
「……!」
私はジェイドの説明を聞いて――ようやっと妖精のことが分かった気がした。
(か、風の妖精って……風を起こすだけじゃなくて、遠くへ移動もできるのね……すごいわ……)
妖精の知識に関しては、OL時代に深く読み込まなかったために――完全に初心者だ。
もちろん、最近は本を読んでいたものの……「守り手」や「黒い物質」を探すのに時間を費やしてしまい。
ジェイドの説明のおかげで、だいぶ妖精についての知識が深まった気がする。
(レイヴン卿の場合は、一般的な力以外にも……あの時、ノエルを診てくれたような力が出せるってわけね)
自分の中で、妖精についてまとめていれば。
ジェイドは続けて、口を開いて。
「ユクーシル国では妖精の力が強いほど、権威がある。もちろん王族としての身分もそうだが、基本的には……一般的な妖精の力とは別に――何かしらの力を持っている」
「それってつまり……ジェイドも……」
「ああ、俺の場合は……水の妖精の……あの子犬だな。水を凍らせて……外部と遮断したり、記憶を氷の反射で映し出すことができる」
「す、すごいわ……!」
私が素直な感想をそう言えば、ジェイドは眉尻をやわらげていた。
まるで、小さい子どもに教えてあげるような……そんな彼の優しさに、どこか居た堪れない気持ちになった。
優しく教えてくれて嬉しいような。
自分の至らなさに申し訳ないような。
そんな私の気持ちはおいておいて、彼の話は続き。
「王族ほど、妖精の力が強く出る――その理由として、ユクーシル国の成り立ちが関わってくる」
「ふ……ふむ……」
「簡単に言うと……ユクーシル国の初代国王が、はじめて妖精の加護を得たことをきっかけに……ユクーシル国全体に“妖精の加護”が広まった」
「初代国王様が、妖精との関係を……?」
「ああ……。ユクーシル国全体に及ぶほどの力があったがゆえに、相当――力の強い妖精だったのだろう。そんな偉業を成した国王の血族ゆえに――王族にも妖精の力の遺伝があるのかもしれないな」
「じゃ、じゃあ……上皇后様も強い力を受け継いだゆえに、黒い物質を出しているわけではないの? 妖精になっちゃってる想像ができなくて……」
ジェイドからの話を聞いて、私はそう言葉を紡いだ。
王族が強い妖精の力を持つ理由はよくわかったから、上皇后様もその遺伝によるものだと思ったのだ。
しかし私の言葉を聞いたジェイドは。
「確かに、未だに――想像はしたくない気持ちがある……が、お前が撮ったカメラの映像が事実だと――俺は思った」
「……!」
「もう一度、あのカメラを起動してくれるか?」
「え? ええ……」
ジェイドに言われるがまま、再度カメラの動画を再生する。
壁に映し出される動画を、ジェイドともう一度見ていれば。
「ここで、止められるか?」
「あ! ええ、できるわ」
ジェイドが動画の途中でストップをかける。
映し出されていたのは、ノエルと上皇后様が映るシーンだった。
上皇后様の周囲には、黒い靄が漂っている。
「母上の手を見てくれ」
「手……?」
ジェイドに言われて、映像に映る――上皇后様の手を見る。
もちろん彼女の手にも黒い靄が付着しているようにあって――。
「妖精の力は、触れないんだ」
「え?」
「だが……母上の手はどう見ても――黒い靄を触っている」
ジェイドは映像を睨みながら――そう言った。
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