123.歪な理由
■ジェイド視点■
「ええ。アタシも信じられないんだけど……見た目は確かに年をとっているように見えるわ。けれど――老いていないの」
「いったい何を言って……」
レイヴンが言った「上皇后が老いていない」という話に、現実味が湧かない。
そもそもそんな荒唐無稽なことは、ありえない話で。
思わず、不可解な顔をしながらも――レイヴンの話を聞いていれば。
「……順を追って、話すわね。アタシは最初……上皇后様がノエルに薬を処方したと聞いたから――専属医師から医薬の知識を学んだと思ったのよ」
「……」
「だって、王族だからと言って――医学や薬学なんて習わないでしょう?」
「そうだな……」
「だから――そうした知識がある者に教えを乞うたのか、と……そう思ったの」
レイヴンの話を聞き、確かに――とそう思った。
王族として基本的に学ぶのは剣技や帝王学……そしてマナーなど。社交界や王宮政治に不要なものは学ばない。
だから母上が、薬を作れるなんて――おかしいのだ。
ゆえにレイヴンは、どうやって薬を調合できる術を得たのかを調べたのだろう。
しかも母上は、上皇后という地位になってからは……周囲の家臣の進言もあって。
いかなる不調や風邪にも対応できるように――有能な医師を専属として迎えたと聞いていた。これらの情報は、レイヴンも最初から知っていただろう。
「だから、上皇后様の専属医師に話を聞こうとしたら……いないの」
「……なんだと?」
「――国王退位後に……すぐに、専属医師を解任していたのよ」
「解任した……?」
「ええ、そもそも――退位後は……上皇后様は一度も医師を呼んだこともないの」
レイヴンから母上の医師の利用について、聞けば聞くほど理解しがたい想いが生まれる。
いついかなる時でも、身体を万全に保ちたいからこそ――専属医師がいれば、その分安心するはずなのに。それを真っ先に、解任するのは――通常の流れではない。
「さすがにおかしいと、思ってね……もうすでに解任された――上皇后様の専属医師に話を聞きに行ったのよ」
「……なるほど」
「専属医師は水にされていなくて――ちゃんと会えたわ。それで奇妙なことを聞いたの」
「……」
「配属されて、初日だけ――上皇后様の身体検査を行ったらしいわ。その結果、異常がない――どころか」
レイヴンは、俺の執務机に置いてある――報告書の一枚を手に取って。
俺の目の前に差し出して。
「上皇后様は、30歳以降の身体変化が――ないの。若々しいという次元じゃなくて、細胞も血液も、骨も――全部の性質が30歳当時のデータと一致するのだそうよ」
「それは……」
レイヴンから出された資料を見れば、母上の比較された……身体の数値が記入されていた。
(確かに、30歳の頃と――退位後が一緒の値だ)
にわかには信じがたいデータに、目が離せなくなる。
そんな俺の反応を見たレイヴンは、暗い表情になってから。
「そこから、一つの仮定があるんだけど……」
「……」
「上皇后様は――人間ではない……という可能性よ」
レイヴンは、眉間に皺を刻みながら――そう告げた。
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