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120.回復のために



■レイラ視点■


ノエルと温かい時間を過ごした……あの日から。

あっという間に三日ほどの時間が過ぎようとしていた。


目覚めてからは、十二分に健康だと自分では思っていたけれど……。


あらためて医師に身体を診てもらった際に。

24時間寝たという大記録ができたこともあり、念のため身体をもっと休めたほうがいい――という言葉を貰ったのだ。


(一回の睡眠で、簡単に身体の疲れは取れないのだと……口酸っぱく言われたわね……)


確かに、ブラック企業で勤めていた時。

週末にいくら長時間寝ても――意外と疲れが取れ切れなかった。


寝不足や疲労というのは、簡単に消えないもの……この認識はOL時代も、今も変わらないようだ。


そのためここ最近は、身体を酷使しないように――「休養」として。


自室で静かに過ごす生活になっていた。

今日もまた――私は自室のソファに座って。


セインや侍女にお願いした本を――読む時間を過ごしていた。


分厚い本を手に持って、ゆっくりとページをめくる。

本の内容は「妖精について」や「守り手について」の内容だ。


「まぁ……いいきっかけよね……。全然知らなかったことばっかりだし……」


思わず口に出た独り言で、自分を納得させる。


動けない時間も有意義に使おうと思って、こうして自分の知らない分野の本を読むことにしたのだ。


「はぁ……もっとノエルと……お昼に話せばよかったなぁ……」


ノエルが私の部屋に来た日以来。

あの約束通り――最近はノエルと過ごす時間を増やすために、食事を一緒に摂っている。


今日はノエルが……授業が午後長くかかりそうとのことで、昼ご飯を一緒に……私の自室で食べた。


まるで入院生活のように、ノエルからのお見舞いを受けつつ。


今日あった授業の話など……他愛もないことを話した。


(ノエルが元気になったのはすごくいいけれど――回復が本当に……はやいわよね)


ノエルは私をすぐにお見舞いできるほどに――回復が速かった。


もちろん成長期ゆえに回復が速いのかもしれないが。

一番の差は――。


(妖精の力も関係するなんて……本当に違う文化だわ……)


医師から言われたのは、私には妖精の加護がないため――十分すぎるほどの休養が必要なのだ……ということだった。妖精の加護があれば、人間の免疫や回復力だけでなく……妖精からもそれを促進する力があるようで。


(私が守り手とかいう存在なら……私にもそんな加護があったら良かったのに……)


今のところ、一般人な私には――分かりようもない「すごい力」があるということしか分からなかった。


だからこそ、こうして「妖精関連の本」を持ってきてもらって。

なんとか自分の身体が速く治る方法を探そうと――そう思ったのだが。


「守り手に関しては、妖精の加護がない……なんて……うぅ……」


思わず呻いてしまうほど、残念な結果だった。

しきりに該当箇所を、何度も読んでみるも――結果は同じで。


(何かすごいことができると思ったのに……ちょっとよくばり過ぎかしら……)


レイヴンがあんなにも驚いて、呼んでいたのだ。

私も炎を出したり、水を出せるのかと――何かすっごい力を持っているのかと……そう期待して読んだら。


『妖精に触れて、妖精の傷や怪我を良くする。または、妖精の主にも同様の効果を発揮する』


ということだった。

別に悪い力ではないし、期待外れということでもない。


けれど勝手に手品のような――超能力が自分で使えちゃうかもと、イメージが加速してしまったこともあって。


勝手に……自分自身にがっかりしてしまっていた。


(もしすごい炎とか、自然を操れるとかあったら……妖精で脅迫されても、対抗して――ノエルをあらゆる側面から守れる…とか考えちゃっていたわ……)


どんな災害が起きようとも、ノエルや大切な人たちを守れる力があったら強い……と思っていたのだ。


きっとそういう風に考えてしまうのは。

以前に、マイヤードが風の妖精の力を使って――密室にさせられた時に、何も対抗できなかった自分に悔しい……と思っていたからなのかもしれない。


「でも……ノエルの妖精が回復したおかげで、ノエルが元気になったのは……いいことよね」


ぐったりと――辛そうな様子のノエルはもう見たくない。


ノエルの苦しみの原因だった――ライオンの黒い付着物を取ったためか。私が目覚めた後に会った――ノエルの妖精のライオンは、すごく元気な様子だったし。


ノエル自身もみるみるうちに、すぐに元気になって……明るい顔を見せてくれることは――すごく嬉しい。


(お昼の時も――本当に天使だったわ……)


ノエルと会話するたびに、癒しを感じまくっていた。


しかしその一方で――。


(ジェイドに……会えていないのよね……)


本を持つ手の力が無意識のうちに、入ってしまっていた。


私が眠気で気を失って――ジェイドに部屋まで送ってもらった日から。


ジェイドとは会う機会がなかった。ノエルからは、私が目を覚ます前にジェイドが来ていたのを聞いてはいたけれど……あれから、彼がここに来ることはなかった。


ノエルからは――ジェイドがマイヤードの不可解な死など、対応すべき業務がたくさんあることを、間接的に聞いてはいるのだが……。彼にお礼を伝えきれていないことに、やきもきした気持ちが生まれてしまう。


しかも現在私が――部屋で休養が必要となってしまったことも相まって。


彼のところへ気軽に会いに行けないのもネックだった。


(けれど、そう簡単にはへこたれないわ! もう私は、学んだの!)


そう、ノエルとなかなか会えなかった時。

遠慮をしたせいで、大変にから回ってしまった。


変に遠慮をするくらいなら――無理にでも、突撃するくらいに会いに行った方がいいということ。


タイミングがいいことに、医師から推奨された休養日は明日までだ。だから明日になれば――強硬手段も使える。


けど――これはあくまで、最終手段だ。


(そう、ちゃんと――先んじて、ジェイドには手紙で連絡したわ。さ、さすがにすぐ……彼の執務室へ押しかけるのはハードルが高いもの……)


その結果、私の連絡に対して――ジェイドはすぐに返事をくれた。そして、会う日の約束は……「今日」となったのだ。


私はふと……本から視線をあげて。

側に控える侍女に目を向ける。


「……聞いてもいいかしら。今は何時かしら?」

「今は――16時でございます。王妃様」

「そう、わかったわ」


侍女からの返事を聞いて私は――。


(あと……4時間ね……!)


ジェイドと会うまでの時間が刻々と近づいているのを実感し。


なんだか久しぶりに会う気がして――無意識のうちに私はそわそわしているのであった。




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