118.父と子
■ジェイド視点■
「この紙は――無害のようだな」
「い、今のはいったい……」
俺がひらりと落ちた紙を拾い上げる中。
ノエルは、何が起きたのか理解に努めているようだった。
「どうやら、母上は――お前をまた洗脳させようとしたのかもしれないな」
「!」
「氷の中にある……黒いものが見えるか?」
「は、はい……」
「お前が倒れた時――お前の妖精は黒い物質に覆われていた。それと同じものだと――俺は思っている」
俺がそう告げれば、ノエルは目を見開いて――驚いているようだった。
初めてこの黒い物質を見たのは、ノエルの妖精の色が変わった時だったが――。
(この黒いものは……妖精の力、なのか……?)
ノエルは薬を飲んだから……妖精の色が黒くなったとそう見ていた。しかし、こうして黒い煙単独で――筒の中から現れたのを見るに。
(薬にはこの黒い物質を混入して、飲ませた……ということか?)
見たことのない……しかしあまりにも危険な代物に、無意識のうちに見つめる視線が鋭くなっていた。
しかしその一方で――。
(こうして、母上の証拠が見つかったのも事実だ)
もしノエルが何の気なしで、この筒を開いていたら。
また良くない事態に戻ってしまうところだったかもしれない。
こうして母上から送られたものを、持ってきてくれたノエルに対して――視線を向け。
「……ノエル、感謝する」
「え?」
「これは――母上の悪事に関する証拠になる。お前のおかげだ」
「!」
そう言葉を紡ぐと、ノエルは再び大きく目を見開いて。
「ぼ、僕が……お役に、立ったのですか……?」
「ああ。助かった」
「それは……その……」
どこかぎこちなく口を動かしてから。
ノエルは――俺の方をまっすぐと見つめて。
「僕も嬉しい、です。その……お、お父様のお役に立てて」
ノエルが言った言葉を聞いて、俺はじっと――我が息子を見つめ返す。
(呼び方を変えた……? いやそれよりも……)
いつもノエルは――大人以上に丁寧すぎる対応をしていたのを覚えている。
そうした対応にはもちろん、俺も含まれていて。
しかし呼び名を変えておかげなのか……どこかいつもと違うノエルの雰囲気に、俺は気づけば――眉間に込めていた力がなくなり。不思議とノエルから目が離せなくなっていた。
(これが……わが子に対する情、なのだろうか。まだはっきりとは分からないが……)
それでも、今までは違った気持ちで――ノエルと接しているのは事実で。
レイラが言うような「家族」という関係には、きっと程遠いかもしれないが――それでも、嫌な気分は全くなかった。
今まで、王族という立場以外の関係で……息子のことを考えられていなかったこともあり。
家族ならどうするべきなのかは――未だに手探りな状態ではあるが……俺はおもむろに口を開いて。
「……いつもよく――頑張っている」
「!」
「このまま精進すれば……お前は立派な王になると――俺は思っている」
「お、とう……さま……」
「ただまだ……知らないことも多いはずだ。だからその時は、今日のように俺を利用して――自分の経験につなげればいい」
「り、利用……」
父親として、どう声をかけるのが正解か――全く分からない。
とりあえず自分なりに、初めてノエルにかける言葉をかけてみたものの――ノエルは俺の言葉を聞いて驚きを露わにしてから。柔らかい笑みを浮かべて――。
「はい! 期待に応えられる――立派な王になるために、精進いたします!」
そう明るく声をあげた。
そんなノエルの返事を聞いて、俺は「……ああ」と返事をするのであった。
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