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111.温かい



ノエルと「相手が悪くない論争」を繰り広げていた中で。


私たちの間に飛び出て来た――子ライオンは、私が座っているベッド……ノエルと私の間に割り込む形で入って来た。


そして私たちのことよりも、ベッドの感触を確かめるように……前傾姿勢で大きな伸びをして。


「くぁ~~」

「……」


そのまま、大きなあくびを欠いていた。

そんな穏やかな子ライオンの様子を――ノエルと一緒にただ見守っていた。


さきほどまで互いに言い募っていた状況だったが、毒気を抜かれるような……雰囲気が違う子ライオンの様子を見ていたら、ストンと気持ちがなぜだか落ち着いていて。


気づけば、ノエルも私も涙が止まっていた。


そして子ライオンは気ままに、私の方へ身体をこすりつけるようにやってきて。


「にゃあ~~」

「え……あ、よし……よし……?」


見た目は子ライオンではあるが、仕草が猫そのものだったため……自然と可愛がるように子ライオンの頭や背中をゆっくりと撫でていた。


触り心地はふわふわで、本当に良くて――。


(いえ、それよりも! 今はノエルと話している最中で……)


気がそれてしまったが、ノエルとの話はまだ終わっていないことにハッとなり。


ノエルの方にあらためて視線を向けると。


「本当に……お母様は妖精を触れるんですね」

「!」

「レイヴン様から経緯は聞いていたんですが……こうしてみると、あらためて実感します」


ノエルは私が子ライオンを撫でている姿を見て、目を見開いているようだった。


「えっと……この子はノエルの妖精なの? 確か、あの時はもっと大きかったような……」

「はい。本来は大きいんですが――いつもは制御をしやすいように小さい姿を保っているんです」


ノエルから子ライオンのことを聞いて……ふとジェイドの妖精である子犬のことを思い出す。


(確かジェイドも、力のことで――子犬ちゃんのままにしてるって言っていたっけ)


そう、私が思い出していれば――。

ノエルは「元の姿もすぐに戻れますよ」と言って……。


「え?」

「ほら、こっちにおいで」


ノエルが子ライオンを――自分の隣に座るように指示する。


すると子ライオンはノエルの言う通りに従ったのち……淡い光がその場で放たれたかと思えば。


「グルルル……」

「わ……お、大きくなったわね……!」


ノエルの部屋で見た時と同じ――大きく逞しいライオンがノエルの側で、姿勢正しく……お座りをしていた。その大きさに私は……目を奪われていた。


(何度見ても、見慣れないからか……は、迫力があるわね……)


そんな風にしげしげと見つめる私に、ライオンは私の手の方へ頭を近づけて。


「え?」


――ごろごろごろ……。


ライオンは喉から「ごろごろ」と音を鳴らしながら、私の手に自身の頭をすりすりと擦り付けていた。


「なっ! お、お前……僕のお母様に甘えるなんて……!」


そんなライオンの様子に、ノエルはムッとしたのか――非難の声をかけていた。


一方で、ノエルの声を聞いても知らぬ存ぜぬでライオンは、存分に私の手に頭をすり寄せていて……。


「む……っ。ず、ずるいよ……僕だって、撫でられたいのに……」


ノエルは自分の制止を全く効かないライオンに、むくれてしまっている様子だった。


そんなノエルの様子を見ると、自然と私は――。


「ふふ……っ」

「お母様……?」


笑みを浮かべて――そして、片方の空いている手をノエルのほうへ差し出して。


ノエルの頭をゆっくりと撫でた。


「!」

「これで、ずるくはないわね?」

「……う、うん……」


ノエルは一人の時だと、大人になめられないためなのか――礼儀正しく、かしこまった振る舞いをしているような気がする。私よりも敬語はちゃんとしているし……場の雰囲気だって、ちゃんと見極めている。


だからこうした……ノエルの等身大の言葉や気持ちが見えて――愛おしい気持ちがさらに増して……。


(きっと……このライオンとは、兄弟のような……友達のような親しい関係だからこそ――こうして心を許しあえているのよね)


先ほどよりも、柔らかい雰囲気が場を包み込む。


ノエルは頭を撫でられることに、少し恥じらいつつも――嫌がる素振りはないので、彼の柔らかい毛をゆっくりと私は撫でた。


するとノエルは……。


「僕が……倒れて、眠っていた時も……お母様の……あったかい手の感触を感じたんだ」

「え……?」

「きっと……僕の妖精を撫でてくれて……そこから僕にも伝わっていた……というか」

「そうだったのね」

「うん……すごくあったかくて、大好きなんだ」

「!」

「お母様……僕を助けてくれて、ありがとう」


ノエルは目をうるうるとさせながら、そう言葉を紡いだ。


その言葉を聞いた私は……ぎゅっと胸を掴まれたような感覚になりながら。


「うん、私もノエルが大好きよ」

「お母様……」


今の気持ちを素直に――ノエルに伝えた。

そして……。


「ねぇ、ノエル。お互いに自分の悪いところを言い合ったけれど……大切なのは、今後だと思わない?」

「……それは……」

「十分に反省したら、それを活かして――私たちのこれからを大切にしたい……そう思うのだけれど、どうかしら?」

「……僕も、そう思います」

「よぉし! そしたら、謝罪はもう終わり! 私は今後、自分本位で行動を控えすぎないようにするわ。そして、ノエルは……」

「僕は危険なことを……一人で抱え込まないようにする」

「うん! それでこれからは――お互いに気を付けていこうね」


私はライオンを撫でていた手を放し――ノエルの頭を撫でていた手も引く。


そしてあらためて、両手をノエルの方へ差し出して――ぎゅっとノエルを抱きしめた。


「こうして、話してくれて――ありがとう、ノエル」


そう言葉を――ノエルにかけた。

すると私に抱きしめられたノエルは、おずおずと私のほうに腕を回して。


ぎゅっと抱き返してくれるのであった。



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