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110.互いに…



「で、でも……お母様は何も悪くないですっ……僕が、僕が……」

「ノエル……」

「お母様を守りたくて……もっと妖精の力があれば、お母様を守れるって……」

「!」


私の言葉を聞いたノエルは、気持ちが決壊したように言葉を紡いでいた。


そして彼が言った「私を守るために妖精の力を強くしようとした」ことを知って――私は、目を見開いた。


(ノエルが妖精の力をより欲していたのは――私のためだったの……?)


大人が子どもを守るのは当たり前だと――そう思ってたからこそ、ノエルのその考えを聞いて……驚きとともに、大きな衝撃を心の中で感じていた。


それはノエルにそこまで深く思われていたことの――嬉しさや……気を遣わせすぎてしまった切なさといった色んな感情が一気に押し寄せてくる。


「全部、僕のせいなんですっ! 自分の身のほども分からずに……僕が勝手をしてしまったがために……僕が何もしなければ、問題はなかったのに……っ」

「……!」

「お母様に喜んでほしくてしたことが……かえってお母様を苦しませてしまって……だから僕がすべて悪くて……」


ノエルの目からは、大粒の涙がぽろぽろとこぼれていた。


その涙を見た瞬間、私は咄嗟にノエルの目元に指で優しく触れて――涙を掬い取った。


「な、泣いてしまって……ごめ、ごめんなさ……い」

「いいえ、ノエル……あなたは……」


私はノエルに声をかけようとして――口を閉じてしまった。


というのも、色んな感情がないまぜになってしまい……うまく言葉が出なかったのだ。


思い出すのは先ほどノエルが言った……私を守るためという方法のこと。


(確かに、以前ノエルからは――私を守りたい旨の話をされたけれど……)


それはノエルに出会った当初の話で……その時は相談したうえで危険はないように、という約束の上での話だった。


ノエルからの気持ちは嬉しいものの、大切な――守るべき存在のノエルに……おんぶにだっこで守られるのではなく、私としては親である自分が矢面に立って……そのうえで――。


(いえ、結局……私がノエルと会おうとしなくて――相談ができなくなったことが原因よね)


ノエルがここまで私のことを思ってくれたことに……胸が締め付けられる想いが生まれる。


そして同時に、そこまでノエルを追い詰めてしまった自分に――歯がゆさも感じた。


こういう時に……なんて声をかけたらいいのだろう。


ノエルは自責の念があって、自分を叱ってほしいと思っているのかもしれないが――どう考えても、ノエルだけの責任ではない。加えて、彼の想いを聞いた今ならなおさら、そう思う。


(ノエルを守れると……そう思ってきたけれど……できた気で――いただけね)


不甲斐ない自分の在り方に、消化できないほどのモヤモヤとした気持ちが大きくなっていき。


「お、お母様……?」

「え……?」


気づけば、ノエルの涙をぬぐっていた私自身が――目から熱いものがぽたぽたと流れていて。


それを見たノエルが、驚いたように……今度は、ノエルが指を私の方に差し出して涙をぬぐい始める。


はじめノエルにしたのは――手元にハンカチがなかったための……応急措置だったのだが。


ノエルもまたハンカチがなかったようで、私の真似をして涙をぬぐってくれていた。


ノエルには頼れる親でいようと思っていたのに――うまくいかない。


頭では涙を引っ込めて、冷静に……ノエルのために話すべきだと分かっている。分かっているはずなのに、感情が追い付かなかった。


「ぅ……ノエルは、やっぱり悪くないわ……っ!」

「え……?」


止められない感情のままに、そう告げると――ノエルは私をじっと見つめていた。


そして私は続けて。


「だって私のために……行動をしてくれたのよね? その気持ちは嬉しいし……もっと私が頼れる存在になっていれば……話し合っていれば、こうはならなかったのに……」

「違います……っ!」

「ノエル……?」


私が思いのたけを声に出すと、ノエルはストップをかけた。


そして――。


「僕が……! 僕が秘密にしてて、危ないことをしてしまったのが原因なんですっ! お母様は僕にとって頼れる存在だし……唯一無二なんです……っ!」


ノエルが、私を庇ってくれる言葉を言ってくれた。


そのことに彼の優しさを感じつつも――ノエルが悪いという結論に至ってしまうのは……嫌だと思い。


私もヒートアップして、さらに言葉を続けた。


「で、でも……! そうだったとしても、私が王宮で立場がないせいで……ノエルを悩ませてしまったのよ……っ!」

「お母様のせいじゃありません! それならば、僕だって! 未成年なばかりに権力が無くて……お荷物な状態でした……!」

「お荷物……!? ノエルにそんな酷い言葉を言った人がいるの……!?」

「い、いません……っ! あくまで僕がそう思っていたというか……」

「それならやっぱり、そう思わせてしまった私が悪いわ……! ごめんなさい……」

「お母様は悪くないですっ! そう思わせてしまった僕の方がさらに悪いんです……っ!」

「違うわ! 私の方が……」


気づけば、お互いが互いを庇いあう状況になっていた――そんな時。


「にゃあっ!」


二人の間を割って入るように、見覚えのある子ライオンが入ってきた。


「こ、子ライオン……?」


私が虚を衝かれて――思わず、そう問いかければ。

子ライオンは……そうだ、と言わんばかりに再び「にゃあ」と鳴いた。




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