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109.償い



「ノ、ノエル……!? どうしたの……っ!?」

「お母様が目覚めたら、あらためて謝罪がしたいと……思っていたんです」


眉尻を下げて、ぽつぽつと話すノエルに――私は慌てて声をかければ。


ノエルは目を伏せながらそう話した。


「で、でも……そのことはもう……」

「お母様は……優しくそう言ってくださいますが……僕が自分を許せないんです」

「!」

「自分の願望だけを求めて……多大な迷惑をかけてしまったことが……申し訳ございません」

「ノエル……」

「もしかしたら、お母様の命に危険があったかもしれない――そう聞いて……僕は……っ」


ノエルの言葉を聞いて、私は彼をじっと見つめた。すると彼は、続けて口を開いて。


「こうして謝罪だけで終わらすのも……足りないと思っているんです」


悔しそうに両膝を手でぎゅっと握りしめながら――ノエルは顔をあげて。


「本当に、ごめんなさい……僕の一生をかけて償い続けます……ごめんなさい……」


ノエルは目を赤くしながら、そう言葉を紡いだ。

彼の言葉を聞いて、私は胸が痛くなる。ノエルが最初に目覚めた時、「無事でいてくれたこと」だけで何も問題はない――そう思っていたのだが。


(ノエルは……今回のことで、自分を許せていなかったのね)


あらためて知ったノエルの気持ちに、私はかける言葉を失う。


私としては――ノエルのことを責める気持ちはないし……なんなら怒りだってなかった。


(むしろ……ノエルの悩みに気づいてあげられなかったのが……)


私としての後悔であり、申し訳なさがある部分なのだ。


しかしノエルとしては、きっと「許し」をもとめていないようだ。それよりも……。


(叱られたがっている……?)


罪人として罰せられたいような――そんな姿勢に感じた。まだ二桁も歳がいかないのに、王宮で暮らすノエルは通常の子どもよりも大人びた考えに染まってしまっているように感じた。


本来ならのびのびと、遊んだり……時には悪さを叱られたり――私が想像する子ども時代とは違う生活を続けているから。


だからこうして……一回許されたとしてもまた――けじめとして謝罪をしないと納得いかないのかもしれない。


王宮で暮らすゆえに、通常の子ども以上に周囲に気遣うノエルゆえだからこそ――といわれたら仕方ないのかもしれないが……。


それでも、どこか縛られたノエルの様子に――私は胸がぎゅっと切なくなってしまった。


(ノエルを想うからこそ……安易な答えを出したくはない……けれど、そうだとしても……ノエルに厳しく当たるのも違うわ)


今回のノエルが倒れてしまった経緯を、今一度……思い返した私は。


「……確かに、ノエルは……私に秘密で無理をしたこと。これは、いけないことだわ」

「!」

「前に……何かをする場合は、私に相談をすると――そう約束したでしょう?」

「はい……そうでした」


私がそう話すと――ノエルは申し訳なさそうに返事をした。


「だから何も言わずに……しかも命の危険が迫ることをされて……私はすごく悲しかったわ」

「っ! ご、ごめんなさい……」


ノエルの謝罪の言葉を聞いて、私は胸がぎゅっと締め付けられる。


現状はあくまで事実ベースで……お互いの認識をすり合わせることから始めていた。


私としては、ノエルを責めるつもりはなかった――けれどきっと、ノエルは今の言葉を聞いて罪悪感を持ったのだろう。そんな彼の反応に、胸が痛くなったのだ。


しかしもしここで、ノエルは何も悪くないといっても――また元の状態に戻ってしまうからこそ。


私は気持ちを決めて、口を開き。


「だから――もっと話す時間を増やしましょう?」

「え……?」

「そうね……問題が起きて日の浅い……今週は毎日1時間ずつ――なんてどうかしら? もちろんノエルの授業の予定を圧迫しないように……」

「お、お母様……?」

「あ! もしくは一緒にご飯を食べる時間……それでいくのも……」


私がそう言葉を告げると、ノエルはポカーンとした表情になっていた。


そんな彼の顔を見て、私は笑みを浮かべて。


「今回のことはノエルだけが悪いわけじゃないわ。私だって、時間を作らず――ノエルと会うのを避けてしまっていたし……」

「! そんなことは……!」

「ううん、そうよ」


私の言葉にノエルは目を見開いて、じっと見つめていた。


そんな中、私は口を開いて。


「これは――私の反省でもあるの」

「はん……せい……?」

「ええ。ノエル――私の方こそ行動ができずに……ごめんなさい」


ノエルの瞳を真っすぐと見つめながら、そう言った。




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