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103.謝罪のわけ



ノエルの部屋から、なるべく音を立てずに――ジェイドとレイヴンと共に、廊下へ出た。


扉の外にセインがいないことから、まだ上皇后様の件で事情聴取が長くかかっているのかな……という想像が頭をよぎった。


そんな中、廊下の窓から日光が……私の顔を照らしてきて――。


「すっかり……朝ね……」


かなりの長い時間をノエルの部屋で、過ごしていたのを実感する。


そろそろ部屋に戻って……今日は侍女たちに、ベッドでゴロゴロと休みたいことを伝えよう――と考えていれば。


「王妃様……」

「? 閣下……どうされて……え!?」


レイヴンに話しかけられて、私は彼に視線を向けた瞬間――驚いてしまった。


というのも……目の前で跪いて頭を垂れる姿の――レイヴンがいたからだ。


「ど、どうされたのですか……!? い、いったい……」


助けを求めるように、側にいたジェイドに視線を向ければ。


ジェイドは何も問題ないという具合に、視線を返してきた。


何も私の中では解決しないので、アワアワと焦っていれば――。


「王妃様、困らせてしまい……申し訳ありません」

「い、いえ……それよりも、閣下がこうした姿にならなくとも……」

「これは……アタシのけじめであり――王妃様にあらためて、謝罪をしたく思っております」

「え……?」

「王妃様のお力を疑っていたこと……」

「……!」

「そして……ずっと――王妃様に一線引いて、距離を取っていたこと」


レイヴンは、一度顔をあげて――私の方へ視線を向けてから。

真っ直ぐと……。


「誠に……申し訳ございません」


そう、レイヴンは謝罪の言葉を口にした。


その言葉を受けて、私はレイヴンの言葉の意味を考えた。


(きっと……ノエルの部屋のことや……最初に会ったことを気にして……?)


思い浮かぶのは、先ほどの――ノエルの部屋で、「私が本当に妖精を触れるのか」ということを確かめた件だ。


(でもあれは……レイヴンは私が妖精を触れることを知らなかったのだし……なにより)


最初に出会った頃のことは――セインやノエルを想うゆえにの行動だったと記憶している。


レイラが突然……性格や行動が変わったら、疑ってかかってくるのは当たり前で。


そう思うからこそ、レイヴンに対して私は。


「閣下、顔をお上げになって……それと、姿勢を直してくださいませ」

「お、王妃様……」

「閣下は悪くありませんわ。きっと……そうした行動の意味として……ノエルを案じてくださったり――思いやりの意味があるはずですから」

「!」


私がそう言うと、レイヴンは目を大きく見開いて。


ポツリと……。


「王妃様は……本当にお変わりに……なったのですね」


そう呟いた。

レイヴンに言われた言葉を聞いて、私はあらためて――。


(そうね……だいぶん――以前のレイラとは違った行動を……し続けているわ)


今までの自分の行動の……あれこれを思い出す。

以前とは違う考えだからこそ、やっぱりレイヴンをそのままにしているのは――モヤモヤとするので、姿勢を直すように今一度お願いすれば、彼はどこか現実を確かめるように……パチパチと瞬きをして。


それから――。


「王妃様の寛大な御心に感謝いたします。ですが……やはり、騎士団長として……それにこの国を代表する公爵家の者として――。王妃様に一線を引き過ぎていたことを……謝罪させてください」

「閣下……」


レイヴンの言葉には嘘偽りはなく――真っすぐと心に伝わってきた。


私の側にいるジェイドは、無言で静かに見守っていて……。どんな返事をしても構わない――といった様子だった。つまりはレイヴンへの返事は、私に一任されていて。


(貴族としての決まりごとや外聞よりも……)


真正面に話してくれたレイヴンの気持ちに……きちんと応える必要があると思ったのだ。だから私は――。


「あなたの謝罪を受け入れます。閣下」

「……!」

「そして……もし閣下がお嫌でなければ――これからは、フランクに接していただけたら嬉しいです」

「そ、れは……」

「ノエルを想う……同志として――いかがでしょうか?」


私は敵意はないと――笑顔を浮かべながら、レイヴンにそう話しかけた。




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