101.元気に
「……殿下の高熱は下がったようですな。ただ、病み上がりですので……ゆっくり身体を休めてください」
「ありがとうございます。お医者様」
「い、いえ……すぐに呼ばれるのなら……ずっと待機していれば良かったですな……ハハ」
診察をしてくれた医師に、私は感謝を伝える。
急いで、部屋を出て行ったセスの頑張りもあってか。
すぐに――ノエルを診察してくれていた初老の医師が、再びこの部屋に訪れていた。
セスが言うには、妖精の力を使用して……帰り道を馬車で移動している医師に、待ったをかけたそうだが――。
「いやはや、殿下が元気になられたのなら……私も嬉しいです。ただ、ちょっと……私は、鬼気迫る執事の方の表情がトラウマに……」
「お医者様っ! 薬など、殿下に必要なものはございますかっ!」
「あ、ああ……一週間ほどは消化のよいものを中心に。加えて栄養剤を処方しますので、服用してください」
「はいっ! 殿下のお体のお世話は……このセスにお任せを……っ!」
「ハ、ハハハ……お、お大事に……」
ノエルのことを強く想うがために、セスは前のめりで医師と会話をしているようだった。
そして、またもや――診察が終わるとセスが医師を見送ることとなり。医師はどこか引きつった表情になりながら……部屋からセスと共に退室していった。
そして現在、ノエルの部屋には……目を覚ましたノエルの周りに人が集まる状況になっていた。
ベッドの側の床には、ノエルの妖精であるライオンが――ゆったりと伏せの姿勢で寝ており。その対面のベッドサイドに、私と……ジェイドとレイヴンが立っている状況だった。
医師の話も聞いたこともあり……私はようやっと安心感でいっぱいになる。
「ノエル、喉は渇いてないかしら?」
「お母様、ありがとうございます……! 先ほど頂いたので、大丈夫です!」
「本当? 欲しいものがあったら言ってね」
「は、はい……!」
ノエルの意識が回復したこともあり。
セスにも負けない勢いで私は、ノエルの世話に力を入れていた。
ノエルの体調変化を一瞬たりとも見逃さないように……そんなふうに集中して目を光らせていれば。
「ノエル……?」
「は、はい……?」
なんだかノエルがしきりに、目をこすっているように感じた。
(もしかして、お医者様は何も言ってなかったけれど……ノエルは目に違和感を持っていて……!?)
いつもは見ないノエルの行動に、すぐに心配な気持ちがむくむくと生まれてしまって。
「もしかして目が痛いの……? 何か異常があるのなら、すぐにお医者様を呼んでくるわ」
「あっ……いえ、その……」
「ノエルに無理をさせたくないの……遠慮はしないでね」
そう私がノエルに伝えると――。
ノエルはどこか、申し訳なさそうな表情になって。
「じ、実は……まだ、頭がボーっとしていて……」
「!」
「目をこすらないと……眠ってしまいそうで……」
ノエルの気持ちを聞いて私は、ハッとなる。
(そうよ……! なんで気づかなかったのかしら……! ノエルはさっきまで寝てたというよりも、うなされていて……ゆっくりできていなかったわ……!)
尊いノエルの気持ちに気づけなかった自分に、悔しさを感じ――。
「ノエル……! 気づかなくて、ごめんなさい……っ!」
「えっ、お、お母様は何も悪くなくて……」
「いいえ! ノエルの辛いことは全部取り除きたいの!」
「お母様……でも……むしろ僕が……今日のことで、お母様に迷惑をかけて……」
まだノエルには、酔いつぶれていた件も謝れていなかったこともあり。
積極的に謝る姿勢で、ノエルに話しかければ。
彼は――「私に迷惑をかけてしまったこと」に対して、深く後悔をしていようだった。
お互いにお互いを気遣い過ぎてしまう――そんな態度が目について。
(転生してからだけれども……一緒に過ごしていくうちに……ノエルの優しさに応えたくて、前世以上に気にしてしまう性格になったのかも……?)
ある意味、こうして気遣いをしあえる関係は――いいこともあるが。
今のノエルには、身体に負担をかけてしまうことだ。
(だって、本当は寝たいはずなのに……頑張って起きていようと――してるのよね)
ノエルの優しさは、本当に素敵で――ずっと「推し」として応援してきたからこそ、眩しくて尊い性格なのだが……。
今は、無理をしてまで……そう振る舞ってほしくはなくて。
だから私は、ノエルを安心させるように――ゆっくりと言葉を紡ぎ。
「ノエル、迷惑のことを考えるのは――なしにしましょう?」
「え……?」
「今は、ノエルの意識が戻って……私は本当に嬉しいの」
「お母様……」
「でもそこから……ノエルが身体を辛くさせてしまうのは……悲しいわ」
「!」
「だから、ゆっくり――眠って元気になってほしいんだけれど……嫌かしら?」
そうノエルに話しかければ、ノエルは私の方を見あげて。
上目づかいで、うるうると視線を向けてくる。
その視線の先には、私だけでなく――私の背後にいるジェイドやレイヴンも入っていた。
(ノエルは……周囲をよく見られるのよね)
今こそ、自分本位な気持ちで振る舞っても……ノエルのことは誰も責めないのに。
彼はとことん、自分よりも周囲の方を優先する。
特に私から見えるのは――そんなノエルの姿だ。
私もノエルと共に、ジェイドとレイヴンの方へ視線を向けると――。
私の不安を感じたのか、ジェイドは口を開いて。
「――休むことを優先してほしい」
「ち、父上……」
「もちろん、回復したら……どうしてこうなったのかを――聞きたいが……」
「……」
「それよりも、今は――お前の身体の状態が……一番、重要だ」
そうジェイドが話すと、ノエルの瞳が……一瞬、揺れた気がした。
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