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【書籍発売中】ユーリ~魔法に夢見る小さな錬金術師の物語~  作者: 佐伯凪
第四章 魔法への三歩目~グレゴリアの書記とエレメント~
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第088話

第四章、魔法への三歩目~グレゴリアの書記とエレメント~

 木々が葉を落とし木枯らしが吹く。秋が終わり、冬を迎えようとしていた。

 ユーリはエレノアの研究室の窓から茜色の空を眺め、大きくため息をついた。

 また失敗である。

 色無鮫の歯を手に入れてから、研究が一気にはかどるかと思われた。しかし、現実はそう甘くはない。

 確かに波長をナイアードの髪と同じ形にすることは出来た。出来たが……明らかに小さいのだ。波長の振幅が。

 考えてみれば分かることだ。己の魔力の波長を中和剤で打ち消し無属性にした後、素材に魔力を流して波長を変形しているのだ。当然力が弱くなるに決まっている。

 百歩譲ってそれは良いとしよう。

 それ以上の問題は、変換した魔力を使用して魔法を使うことが出来ないということだ。

 なにか理由があるのか、触媒を通った魔力では魔法が使えないのか、それとも己の波長と異なる魔力は操れなくなるのか。

 一体何が原因化かは分からないが、魔法を使えないことだけは確かである。

 ユーリは机に突っ伏した。


「んぅ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」


「なかなか進展がありませんねー」


「んーー……」


 ユーリは机に突っ伏したままエレノアの方へと顔を向けた。おでこに魔力用紙がくっついている。

 エレノアはというと、自分の研究に没頭しているようだ。

 以前話していた魔力鍵の作成がうまく行きそうらしい。ユーリがニコラから貰った魔力箱のように、金庫のように強固なものではなく、単純に魔力の波長を鍵として扱えるだけのものである。

 しかし、部屋の鍵を魔力鍵で作成すれば、わざわざ鍵を持ち歩く必要もないし、鍵をなくして困ることもない。合鍵が作れないという問題もあるが、便利であることには違いが無い。


「エレノアが作ってる魔力鍵って、どういう仕組なの?」


「気になりますかっ!?」


 グリン!


 ユーリの言葉を聞いたエレノアが嬉しそうに顔を向ける。実は前々から話をしたくてウズウズしていたのだ。しかしユーリの研究はスランプ真っ最中。私のうまくいっている研究の話など聞きたくないだろと、エレノアは話すのをずっと我慢していたのである。


「鍵の構造自体は一般のものと同じです。閂の要領で穴に棒が入り開かなくなるといったものですね。違うのは開け方です! 登録されている魔力と同じ波長の魔力を感知した時にだけ、閂が抜けて開くんです! 開くときの動力は熱を元にしていますので、寒冷地では開くのに少し時間がかかります。とりあえず扉の鍵型の魔力鍵を試作してみたのですが……」


 エレノアが見せるのはごく普通に使われているだろう扉の鍵だ。というか、普通の鍵に錬金術を施したのだろう。

 閉める動作は普通の鍵と同様。そして開けるときには……


「このようにドアノブにしばらく触れていると、魔力を感知して自動的に開くんです」


 エレノアがドアノブに触れてから数秒後、ガチャリと音がした。


「エレノアすごい! もう完成してる!!」


「えへへ、それほどでもないですよー」


 ユーリから直球で褒められて照れるエレノア。


「僕がニコラから貰った魔力箱も同じ仕組みなのかな?」


「どうでしょう。そればっかりは試すこともできないのでなんとも言えないですね……」


「それもそっかー」


 一通りエレノアの発明を聞いた後、ユーリは再び机に突っ伏す。

 しばらくして……


「そうだっ!」


 ユーリは勢いよく立ち上がった。


「何かいい方法を思いつきましたか?」


「ううん、魔力属性の研究の方じゃないんだけどね」


 ユーリは研究室で文鎮として使用していた、以前ニコラから貰った魔力箱を錬金台の上に置く。

 触媒と中和剤を混ぜたもので線を描き魔力箱へと繋ぎ、魔力箱からは触媒のみで円を書くようにまた魔力箱へと繋げる。


「何をしてるんですか?」


「ちょっとした思い付き。上手くいくかわからないけど……」


 ユーリは触媒と中和剤を混ぜたもので描いた線に指を触れ、そこから魔力箱へと通力する。魔力箱まできたら、円を描いている触媒に通し、また魔力箱へと帰って来る。

 つまり、自分の波長を魔力箱の波長へと変換し、また魔力箱へと戻しているのだ。

 エレノアもユーリがやっていることの意図に気が付いたのだろう。息を飲んで見守る。

 しばらくして。


 ――カコリ


 可愛らし音がして、魔力箱が開いた。


「……開いた」


「……開きましたね」


 ユーリとエレノアは思わず顔を見合わせた。

 現代の技術では開けることは不可能だと言われていた魔力箱が、あっさりと開いたのだ。

 まさか本当に開くとは思っていなかったユーリが焦る。


「どどどどどうしよう! 開いちゃった! じゃ、邪神とか封印されてたらどうしよう!?」


「じゃしん? ……邪神!? どうしましょうどうしましょう!? せ、聖水! とりあえず聖水を撒きましょう! 聖水!」


「エレノア聖水どこ!? 聖水どこにあるの!?」


「はわわわわわ! そんなものありませんでした! かわりにポーション! ポーション撒きましょう!」


 エレノアは第四級位ポーションをユーリへと手渡す。ユーリはそれをバシャバシャと錬金台の上に振りかけた。


「これでいい!? これでいい!? ナンマイダー! ナンマイダー!」


「な、なんまいだあ!? なんまいだあってなんですか!?」


 どうでもいいところで前世の知識を披露するユーリであった。

 魔力箱の周りを第四級位ポーションでびちゃびちゃにしたユーリとエレノアは、研究室の戸棚の影に隠れて魔力箱の様子を伺う。

 当然邪神なんて出てくる筈もなく、ただ液体が撒き散らされるだけに終わった。


「……よく考えたら、邪神があんなに小さい箱に封印されてるわけないよね」


「そ、そうですね。ちょっと慌てちゃいました」


 二人はアハハハ、と顔を見合わせた後、恐る恐る魔力箱の元へ。

 少しだけ開いている蓋を、ユーリが慎重に手で触れて全開にする。

 中に入っていたものは……


「なにこれ……お金?」


 直径五センチメートル程の金貨が五枚。


「これって金貨かな?」


 エルドラード王国で流通している硬貨で一番価値が高いのが金貨である。その価値なんと一枚当たり十万リラ。一般人ではなかなかお目にかかることのできない硬貨である。

 もし金貨であれば、これだけで五十万リラの価値があるということだ。

 しかし、


「うーん、金貨は何度か見たことはありますが、これはエルドラード王国の金貨では無さそうです。エルドラード王国の硬貨には必ずEの文字が刻印されているはずですが、それが見当たりませんし」


 エレノアの見立てによると残念ながらエルドラード王国の金貨ではなさそうだ。他国の金貨だろうか。


「ふーん」


 もっと面白いもの、例えば錬金術の素材や宝箱の地図などが入っていないかと期待していたユーリは、もうすでに金貨への興味が薄れて来たようだ。

 いくら価値が高かろうと、自分にはどこかに売る伝手も無ければ、そもそもどの程度の価値かも分からない。

 元々の持ち主であるニコラにでも返そうと思い、コインを雑に箱の中に戻す。


「つまんないのー」


「つまらないって……エルドラードの金貨じゃなかったとしても、相当価値のあるものだと思いますよ?」


「欲しいのはお金じゃなくて錬金術のヒントだもん。もっと面白いものが入ってると思ったのに……」


 ユーリはまだまだ子供、お金よりおもちゃが欲しいのだ。


「……あ」


 ユーリが唐突に声を上げた。


「どうかしましたか?」


 ユーリは気が付いてしまった。エレノアを地獄へと突き落としてしまうかもしれない可能性に。

 ユーリはエレノアが試作した魔力鍵を手に取り、魔力箱を開いたときと同じように錬金台の上に置く。


「ユーリ君、どうしたんですか?」


 触媒と中和剤を混ぜたもの、魔力鍵、中和剤で円を描いてまた魔力鍵へと繋げる。

 魔力を通してしばらくすると……


 ――カチャリ


 開いた。魔力鍵が。

 エレノアの魔力でしか開かないはずの魔力鍵があっさりと開いてしまったのだ。

 試作の段階ですでにピッキング技術が確立してしまったのである。


 エレノアが、膝から崩れ落ちた。


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