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【書籍発売中】ユーリ~魔法に夢見る小さな錬金術師の物語~  作者: 佐伯凪
第五章 錬金術の下準備〜水晶樹の森と、ユニコーンの角〜
166/167

第166話

 ユーリが野山を駆ける。

 大きな岩を飛び越え、道が無ければ木から木へと飛び移り、水たまりを踏んでも気にしない。

 探し物は、あるかどうかも分からない植物の種だ。

 どうやって探そうかと考えながら駆けまわる。


「絶滅したって言われれてるってことは、地面の浅いところにあるわけ無いよね。地面を深く掘って探せばいいのかな」


 立ち止まり、シースナイフを地面に突き立ててみる。


「いや、数十年前には絶滅してるんだ。こんなところにあるわけ無い。うーん、数十年前に絶滅している植物。その種があるとしたら……雪山で冷凍保存されているとか? いや、寒いところには生えないはずだから、可能性は低そう」


 ブツブツとつぶやきながら、木にもたれかかる。


「普通に考えたらだめだ。何か、何かヒントになるもの……」


 ユーリは思考を巡らせる。

 しかし、早く見つけなければと焦るばかりで妙案など浮かばない。


「あーもう! 分かんない! 取り合えず走り回ろう!」


 もたれかかっていた木から身体を離し、背中がベタついていることに気がついた。


「……ん? これは」


 樹液である。針葉樹の幹から溢れるよう流れた樹液。


「樹液……琥珀……もしかしたら、種を取り込んだまま固まった琥珀がある、かもしれない」


 可能性は低いだろう。しかし、ゼロではない。


「ニコラに相談してみよう」


 ユーリが再び走り出した。



「当店で取り扱っている琥珀はこちらで全てです。お気に召すものはございますか?」


 ニコラとともに宝石店に来たユーリ。

 並べられた琥珀を食い入るように眺め、ため息をつく。


「……だめだ。入ってない」


「そう……ありがとうございました。また来ます」


 これでベルベット領都の宝石店は全て回った。しかし、そうそう都合よく不知火草の種を取り込んで固まった琥珀など見つかるわけもない。

 ガックリと肩を落とすユーリにニコラにが声をかける。


「一応、蚤の市にも行ってみる? 質の良い琥珀はないと思うけど」


「……うん」


 幾百幾千もの店が雑多に並ぶ蚤の市。その中でも鉱物や宝石、考古品を多く扱っている一角を歩く。

 商品なのか、ゴミなのか。山と積まれた物を、目を凝らして見て回る。


「ん? ニコラ、あれ!」


 浮浪者の様な男の商人が開く露店に置かれた琥珀色の物体。ユーリの目には琥珀にしか見えない。

 無知そうな子供が商品に興味を持ったとあって、カモを見る目をユーリに向ける商人の男。


「いやっしゃい、可愛らしいお嬢さん。いやー、気づいてしまいましたか。実はね、これ、琥珀なんですよ。みんな気が付かないで通り過ぎちゃうから、気づいてくれた人には格安でお譲りしてるんですよー。お嬢ちゃんになら、たったの五千リラで売ってあげますよ?」


「そんな嘘をついてるから商売がうまく行かないのよ」


 しゃがみ込むユーリの頭の上から、ニコラがひょいと琥珀らしきものを摘んで眺める。


「これ、コーパルでしょ。しかもかなり若い。数年で劣化して割れるわよ」


「ちっ。つまんねぇの」


 さっきまでの笑顔はどこへやら。不貞腐れたような表情をして商人の男がゴロリと横になる。

どうらやニコラの指摘は当たっているようだ。


「ニコラ、コーパルって何?」


「琥珀になりきれていない琥珀、といったところかしら。琥珀って樹液の完全な化石なんだけど、半端に化石化したのがこのコーパルってわけ。だからそのうちひび割れて壊れちゃうのよ」


「ふーん。……ねぇ、おじさん。コーパルってまだある?」


「あ? あるにはあるが、なんだい嬢ちゃん。ほしいのか? やめとけやめとけ。俺が言うのも何だが、こんなもんに価値はねぇぞ」


 開き直ってそんなことを言う商人の男にユーリが苦笑する。


「この中にね、種が入ってるのを探してるんだ。だから壊れるのは構わないよ」


「そうかい。へんな子もいたもんだな。えーっと、どこだったかなっと」


 しばらくガサゴソと荷物を漁った後に、商人が一つの巾着袋を取り出して、中身をひっくり返す。

大小二十ほどのコーパルが転がりだした。

 目を皿にして見つめるユーリ。しかし、お目当てのものは見つからなかった。


「……だめだ。ねぇおじさん。このコーパルって、どこで手に入れてるの?」


「んだよ。買わねぇくせに情報だけよこせってか? 実は俺が直接取りに行ってるんだが……流石にただじゃあ教えられねぇなぁ」


 浮浪者で詐欺師のようなことをしているとはいえ、腐っても商人。交渉をしようと目をギラつかせる。

 しかし、そんな彼に向けて、ニコラが一言。


「百万リラ」


「ひゃ?」


 ポンと出てきた数字にあっけに取られる。


「売るの売らないの? どっち?」


 ポケットから取り出した金貨をチラつかせる。百万リラというのも嘘ではなさそうだ。


「え、あ」


「ダメそうね。ユーリ、次を当たるわよ」


 金貨をポケットに戻して立ち去ろうとするニコラに、慌てて男が声をかける。

 

「ま、まてまてまて! う、売る! 売る決まってんだろ!」


 交渉成立である。

 ホクホク顔で金貨を受け取った商人の男がペラペラと話をはじめた。


「『司教鳥しきょうちょう』って鳥がいるんだ。独特な『シキョー、シキョー』って鳴くから司教鳥って名前が付いたらしいが、おれは『ゲッゲッゲッゲッ』っていう鳴き声しか聞いたことがねぇ。まぁそれはどうでもよくて、その司教鳥のある習性を利用してんだよ」


「習性?」


「ああ。コイツラはな、光るものを集める習性があるんだ。タマムシの羽だったり、金属片だったり、それこそ琥珀だったりな。琥珀やコーパルは川や海で見つかるから、そこらへんで『ゲッゲッゲッ』って鳴く鳥を探して、そいつの巣に行くんだ。運がよけばコーパルもあるだろうよ。たまーに琥珀が見つかるときもあるが、俺が見つけたのは一回だけだ。どうだ、参考になったか?」


「うん、ありがとうおじさん!」


「こちらこそだ。うぇっへっへ。今日は豪華な飯になりそうだぜ」


 大金をどう使うかで頭がいっぱいなのか、金貨を撫でる商人の男に手を振って別れる。


「ニコラ、あんなに大金渡してよかったの?」


「別に良いわよ。琥珀を買うと思ってもっと持ってきてたし。それにね、ああいう相手は金貨で殴りつけた方が安く収まるのよ」


「でも、流石に高すぎない?」


「じゃあ、ユーリだったらいくら払うの?」


「えっ、うーん……10万リラ、とか?」


「それじゃあ売ってくれないわよ。そもそも何でユーリはその種を見つけたいの?」


「それは、アデライデに見せてあげたいからだよ。決まってるじゃん。アデライデが死んじゃう前に、早く見つけてあげなきゃ」


「死にそうなお婆ちゃんの最後の願いを叶えるのに、百万円も払えないの?」


「そんなことないよ!」


「じゃあ、二百万リラでも買うわよね?」


「当たり前じゃん!」


 憤慨して言うユーリの頭をニコラがコツンと叩く。


「アンタがチョロ過ぎるっていうのもあるけど、もう金額が二百万リラになってるわよ?」


「え? ……あ」


「例えあまり価値がなさそうな情報だとしても、私達は是が非でも欲しいの。そうなると足元を見られて、いくらでも値段を釣り上げれちゃう。だったら、最初から相手の判断力を奪うくらいの金額を叩きつけたほうが結果安くなるのよ。覚えておきなさい」


「うぅー。商売って難しい……」


 頭を抱えるユーリに苦笑しながら、ニコラが言葉を続ける。


「そんなことより、アデライデさんの為にちゃんと見つけて来てよね、その不知火草の種、だっけ? 百万リラも払ったんだから」


「うん、頑張って探してくるよ! まずは地図を調べて川の場所を確認しないと。……そうだ、地図と言えば」


 ユーリが思い出す。昔、冒険者を始めたての頃にアデライデにいろいろと教わったことを。

 その時にアデライデの夫が使っていたという地図を貰ったはずだ。様々な書き込みがされた地図を。もしかしたら、不知火草についても書かれているかも知れない。書いてあれば、その周囲の水辺にいる司教鳥の巣を探せば、見つかる可能性はグッと高くなる。


「ニコラ! 今日はありがとう! 絶対に不知火草の種を見つけてくるよ!」


「お願いね。でも無茶しちゃだめよー!」


 居ても立っても居られず、ユーリは学園へとかけて行った。

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