第163話
3日ほどかけてユーリとエレノアは錬金術の研究内容を、アンナは真の魔法史をまとめた。セリィは散々魔導具をいじった末に、パーシヴァルが作ったらしい鑑定水晶を持って帰ることにしたようで、両手で大事そうに抱えている。
ベルベット領都へ帰る馬車の中でアンナが口を開く。
「パーシヴァルは凄腕の錬金術師で、甥のアルマーニはその弟子だったようです。パーシヴァルの日記によると、サンドワーム砂漠に魔法素材を集めに行ったアルマーニが遭難し、渇きで死ぬ直前に編み出したのが魔法の始まりとのことでした。アルマーニが魔法の開祖であることに誤りはなさそうです。残念ながら、魔法史の1ページ目は変わらなさそうですね」
しかし、とアンナが続ける。
「錬金術の歴史はことさらに大きく変わりそうですね」
魔法より後に発明されたとされていた錬金術。しかしその歴史は魔法史よりも古かったのだ。
「……まぁもっとも、錬金術師という人種は歴史には興味が無さそうですが」
歴史学者からすれば好奇心をくすぐられる内容でも、錬金術師には興味がないようだ。
あくびを噛み殺しながら聞いていたユーリとエレノアにアンナが問う。
「どうですか。錬金術の歴史を調べてみますか?」
「ううん。つまらなさそうだからやらない」
想像通りの答えに苦笑が漏れる。
「ところで、ユーリ君とエレノアさんは何か有意義な情報を得られましたか?」
「そうそう! それなんだけどね!」
こちらの話題には食い付いてきた。
「鑑定水晶ってさ、もともとは魔法素材の属性を調べるために使われてたんだって! 僕は魔力の属性が分かるなら魔法素材にも反応するかもって考えたけど、そもそも逆だったんだ! 面白いよね!」
先程とは打って変わって、生き生きとユーリが言う。
「あとね、気になったものがあってね、パーシヴァルは『スカーレット鋼』っていう金属を発明していたみたいなんだ」
「スカーレット鋼、ですか?」
「うん。エレノアが発明した魔力鍵にはね、魔力を感知できるように触媒を練り込んであるんだけど、そういう道具ってね、通力するとどうしても触媒が目減りしちゃうんだ。でもパーシヴァルが発明したスカーレット鋼は、魔力を多く、強く流しても目減りしないんだって。僕が目指す魔法を使えるようになる魔道具には必要なものなんだ」
「なるほど。詳しくは分かりませんが、とても便利そうなものだという事は分かりました。それで、そのスカーレット鋼とはどこにあるんですか?」
アンナの問いかけにユーリの顔色が曇る。
「それが、詳しく書いてなかったんだよねー。赤みがかった金属でパーシヴァルは当たり前に使ってたみたいなんだけど……。まぁでも、そういうものがあるって分かっただけでも一歩前進かな。あ、あとね。パーシヴァルも魔法の適性が無かったって書いてあったよ。何だか僕と同じで親近感湧いちゃった」
ユーリはぐぐっと伸びをする。
「しばらくはスカーレット鋼の情報でも集めてみようかな。ありがとうアンナ、アンナのおかけで僕の夢への手がかりを手に入れることが出来たよ」
ぺこりと頭を下げるユーリをアンナが手で止める。
「何を言っているのですか。感謝をするのは私の方です。パーシヴァルの地下室の地図の提供に、開けられなかった扉の開錠まで」
そこまで言ってアンナはふと思い出す。そういえばこの少年、私に扉を開けられることを黙っていたなと。感謝はしているが、少しくらい意趣返しをしてもバチは当たらないだろう。
「そういえば、魔法の発明者はパーシヴァルではなくアルマーニだったわけですが、これではユーリ君の学園試験の魔法歴史学は99点。合計点数は299点となります。これでは合格点に届かないので、退学になってしまうかもしれませんね?」
すこし意地悪に笑いながら言うアンナ。ユーリは少しだけ考えた後、セリィが持ってきた鑑定水晶に手を触れた。
「そうだね。魔法歴史学は99点。そして、魔力適性試験の点数は100点に訂正してもらおうかな」
鑑定水晶は火と水の魔力適性があることを表す紫色に輝いていた。もちろん本当にユーリに適性があるわけではない。
火と水の魔法素材を使用して光らせているだけだ。
「合計点数は399点だね。金クラスからやり直させてもらわなくちゃ」
「……本当、成長しましたね。ユーリ君」
アンナは呆気にとられた後、苦笑した。




