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【書籍発売中】ユーリ~魔法に夢見る小さな錬金術師の物語~  作者: 佐伯凪
第五章 錬金術の下準備〜水晶樹の森と、ユニコーンの角〜
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第140話

「一緒に料理をしよう」


 ユーリとセリィが一緒に過ごし始めた次の日、ユーリは唐突にそう提案した。


「エレノアが言ってたんだよね。錬金術師は料理人みたいなものだって。だから一緒に料理して息を合わせよう!」


 向かったのはセレスティアの屋敷である。もう『仲良し組』の拠点といっても差し支えないかもしれないが。

 セレスティアの屋敷に行くと、今日も今日とてオリヴィアがセレスティアを叩き起こしていた。


「もう! せっかく朝ごはん作ったのに冷めちゃうじゃない! ティアがカボチャのポタージュ飲みたいって言ったんでしょ!? あれ作るの面倒なんだから!」


 オリヴィア、不憫な女である。


「オリヴィアおはよう。朝から大変だね」


「あらユーリ、とセリィじゃない。おはよ。朝からどうしたのよ」


「オリヴィアに料理教えてもらいに来た!」


「料理? これまた唐突ね。まぁ、別に構わないわよ」


 先日オリハルコンのマンゴーシュを貰い、さらにはあの後折れた細剣を鋳なおしてもらったのだ。細剣は粘りが必要であるため、純オリハルコン製ではなく玉鋼に微量のオリハルコンを混ぜて作っている。それでも買うとしたらかなりの金額になるだろう。

 ユーリの些細なお願いを断れるはずもない。


「でもどうして急に料理を覚えたくなったの?」


 あまり布でサクッとユーリとセリィのエプロンを作りながらオリヴィアが問う。何でもできる女である。


「あのね、錬金術の為にセリィと呼吸を合わせる必要があるんだ。だから一緒に料理して絆を深めようと思って。エレノアが錬金術師は料理人みたいなものだって言ってたし」


「いや、あの子料理なんてこれっぽっちも出来ないじゃない……。まぁいいわ。それで、何作る?」


「せっかくだからおいしいのがいい!」


「これまたざっくりしたリクエストね。折角だから食材の買い物に行く?」


「いく!」


 まずは食材調達である。三人は朝市へと出発した。




「……かぼちゃのポタージュ」


 しばらくして目を覚ましたセレスティアが、ぬるくなった朝食を前にしょんぼりしていた。



 オリヴィアの後ろにユーリとセリィが手をつないで歩く。


「あんたたち随分仲良くなったのね。手なんてつないじゃって」


「うん! 触媒を付けて手を握ってるとね、なんだかセリィの魔力の波長が分かるような気がするんだ! 二人での錬金術がもっとうまくできるようになると思う!」


 想定と異なるユーリの返答にオリヴィアがため息を吐く。そうだった、ユーリはこういうやつだった。


「適当に見て回って、気になった食材があったら教えなさい」


「分かった! 行こ、セリィ!」


 セリィの手を引き市場をウロチョロするユーリ。たくさんの野菜や果物、今朝卸したであろうお肉、卵や牛乳や乳製品、唐辛子や胡椒といったスパイス類。

 見たことのない食材にユーリがキラキラと目を輝かせる。無表情なセリィも何処か楽し気だ。

 特に何か買うわけでもないのに、店主たちはそんな二人の微笑ましい様子に笑顔になる。

 ふと鼻に届いた懐かしい香りにユーリが惹かれる。


「あれ、この匂い……マヨラナ?」


 少し甘みを思わせる香り、ユーリの産まれたマヨラナ村の特産のスパイス、マヨラナ。


「おや、マヨラナを知ってるのかい? あまり有名なスパイスではないんだけどね。お嬢さんは物知りだねぇ」


 恰幅の良い女店主が言う。マヨラナはメジャーなスパイスではないため、知っている子供は少ない。


「僕、マヨラナ村で産まれたんだ! 懐かしいなー。しばらく帰ってないなー。お母さんとお父さん、元気かな」


「あらま、それは寂しいねぇ」


 ユーリが故郷を思い、少し寂しそうな顔をした。


「ほらほら、そんな顔をしなさんな。少し齧ると良いよ」


 おばさんがユーリとセリィ、そしてやってきたオリヴィアにも乾燥させたマヨラナを少量渡す。


「わー! いいの!? お母さんが料理に使ってはいたけど、そのまま食べるのは初めてなんだ。いただきますっ」


「私ももらって良いの? ありがたくいただくわ。……ん、とても香り高くて良いマヨラナね」


 オリヴィア味と匂いを確かめるように思案顔になる。


「せっかくだからマヨラナを使った料理にしようかしらね。……って、どうしたの?」


 オリヴィアが何やら変な顔でモグモグしているユーリに問う。


「香りは良いけど……変な味」


「あんたねぇ……」


「あっはっは! そりゃそうさね! スパイスなんて、それ単体だとそんなもんさ!」


 おばさんは気を悪くした様子もなく快活に笑う。


「そいつは香りが良いだけじゃなくて、肉や魚の臭みをとってくれるよ」


「いいわね。魚料理にでもしようかしら。ユーリ、あんたのお母さんが良く作ってくれた料理とかないの?」


 オリヴィアに問われ、ユーリが考え込む。


「うんとねー。川魚とね、玉ねぎとかを、焼いたような蒸したようなやつ!」


「了解。おばちゃん、マヨラナとローズマリーちょうだい」


「あいよ。いい魚屋紹介しようか?」


「んー、そうねー……」


 オリヴィアがお代を渡しながら、チラリと二人を見る。たしか、絆を深めたいとか何とか言っていたはずだ。


「あんたたち、二人で釣りでも行ってきたら?」


「釣り?」


「晩ごはんの食材調達も兼ねて。二人共やったことないでしょ? 一緒に初めてのことに挑戦するなんて、絆を深めるには持って来いじゃない」


 なるほど、一利ある。


「やってみたい!」


「自分たちでやってみなさい。遅くとも夕の六の刻には帰ってくること。釣れなかったらどっかで四匹買って帰ってきて」


「分かった! セリィ、行こう!」


 ユーリは目を輝かせ、セリィの手を引いて走り出した。


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