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【書籍発売中】ユーリ~魔法に夢見る小さな錬金術師の物語~  作者: 佐伯凪
第五章 錬金術の下準備〜水晶樹の森と、ユニコーンの角〜
115/167

第115話

「ユーニ、だから角の場所だってば。草じゃなくて。角の場所! 角!」


『フシュルルルル』


「フシュルルじゃわかんないってば。角! とんがって長いの! 君の頭に生えてたやつ! それが欲しいの! もう、分かってよ!」


 言葉が通じていないのか、通じた上でからかわれているのか。ユーリとユニコーン、もとい『ユーニ』がじゃれあいながら歩き、四人がそれに着いていく。なお、レンツィオだけ十メートルほど離れているが。

 ちなみに『ユーニ』とはフィオレが付けたユニコーンの名前だ。白くて自由気ままなところがユーリに似ているのと、ユニコーンのユニをかけて命名したらしい。


『ヒヒヒーーン!』


 ゲシッ


 色々と言って来るユーリにイラついたのか、ユーニがユーリの頭を蹴った。


「あ、やったなー!」


 ドンっ!


 お返しとばかりにユーリがユーニを強く押す。そのうち二人で取っ組みあって地面を転げまわり始めた。


「あはははははは! もう、やめてってば! ……って、遊んでる場合じゃないの! だから角だって、角!」


『ヒヒン?』


 子供と仔馬がじゃれあう、微笑ましい光景だ。微笑ましい光景だが……


「あれさ、普通の子供だったら死んでるわよね……?」


「最初の蹄で、頭割れてる」


「あ、あはははは……」


 ユーニは幼体と言えども金級の魔物、ユニコーンである。レンツィオを軽く吹っ飛ばせるくらいの力はあるのだ。そんな魔物の堅い蹄を頭に受ければ、子供どころか大人だって即死である。咄嗟に偏重強化が出来るユーリだからこそ、ああやってじゃれあえるのである。


「ていうか、ちょうど生え変わりで角が落ちてて本当に良かったわよね。レンツィオの奴、角が生えてたら最初の頭突きで串刺しだったわよ」


「確かに。角あったら、串刺しだった」


「そ、そうだったんですか? 私は寝てたので知りませんでした……」


「見事な頭突きだったわよー。確か、角が生え変わるのって10年に一度だったわよね? レンツィオ運がいいわねぇ」


「運が良いのでしょうか……そもそも頭突きされてる時点で運が悪いような……」


 他愛ない会話をしながら、ユーニと共に歩くこと三時間。


「って、ここ今朝の野宿場所じゃねぇか!」


 グニャグニャと歩きまわって、結局は朝の場所に戻ってきてしまった。


「はぁ、なんか気疲れしたわね……。丁度いい時間だし、昼食にしようかしら」


「うん。おなか、すいた。果物、たべたい」


「果物っつったって、水晶樹の森の奥地に気の利いた果物なんてなってねぇぞ」


「ん、だいじょぶ」


 セレスティアがごそごそとポケットから取り出したもの、それは……


「種?」


 ユーリの疑問に答えず、地面に種を一粒撒いて手を添える。

 しばらくすると……


 ズズズズズ……


 芽が生え、双葉が伸び、にょきにょきと成長し、みるみるうちに一本の木となり赤い実をつけた。

 セレスティアは高いところになっている赤い実、リンゴめがけて風の刃をとばし、ふわりと落ちてきた実をキャッチ。シャクリと齧る。


「ん、おいしい」


 呆然と見ていた4人と一匹。いち早くオリヴィアが反応する。


「って、ティア! アンタ木魔法も使えるの!?」


「私、風と木、ダブル」


 左手でリンゴを食べながら、右手の人差し指と中指を立てるセレスティア。無表情ながら得意げである。


「聞いてないんだけど!? ていうか出来るなら初日の野宿の時からやりなさいよ!」


「無理。これ、結構疲れる」


「じゃあなんで今使ったのよ!?」


「食欲が、まさった」


「こいつ……っ!」


 なんともマイペースで自分勝手な銀級冒険者だろうか。ちなみにセレスティアの言っている『疲れる』というのも嘘ではない。

 木属性は植物の成長を促す魔法を使用できるが、植物の成長すなわち水と光に成り代わる魔力も必要なのだ。見た目以上に魔力を使用し、そして戦闘面ではあまり役に立つことのない、割と不遇の属性、それが木属性である。

 その代わり、貴重な植物を使用する錬金術師との相性が良い属性でもある。現にエレノアも木属性だ。もっとも、属性に関わらず根暗引きこもりのエレノアは錬金術師になっていただろうが……


「はぁ、まぁ新鮮な果物が食べられるだけ良しとするか……。あんた、一人だけ食べてないで私たちの分も取りなさいよ」


「ん」


 セレスティアが軽く手を動かすと、風の刃が飛んでいきリンゴをいくつか切り落とす。

 皆で昼食代わりに食べていると、ユーニが物欲しそうな目で見上げてきた。


「ん? 何? アンタも食べたいわけ?」


 オリヴィアが聞くと、頷くように足に額を擦り付ける。


「アンタ、本当は言葉分かってんじゃないの……?」


 疑問に思いながらリンゴを上げるオリヴィア。ユーニが美味しそうに食べる。

 四つたべたところで満足したのか、急に走り出しどこかへ行ってしまった。


「あっ」


 反射的に追いかけそうになるユーリをオリヴィアが引き留める。


「放っておきなさい。あの様子じゃそのうちおなかをすかせてまた来るわよ」


「それもそっか」


 五人がリンゴを食べ終わり、もうひと探索始めるかと腰を上げたところでユーニが戻って来た。


「あ、帰って来た! おかえりユー……あああああああ!!」


 ユーリが大声を上げる。何事かと四人がユーニの方を見ると、何やら口に細長いものを咥えていた。


「それ、もしかして抜け落ちた角!? 角なの!?」


 ユーリが駆け寄るが、ヒョイと躱される。


「頂戴! それ頂戴! それを探しに来たの! お願い! 僕に頂戴!」


 必死に追いすがるユーリだが、まるで遊んでいるかのようにヒョイヒョイと避けるユーニ。しばらくそうしているも一向に捕まらない。流石は金級の魔物である。


「……もう怒った。本気でいくからねっ!」


 ユーリの目つきが変わる。身体強化を最大出力。今出せる本気だ。

 一方でユーニも挑発的な目である。やれるもんならやってみなと言っているようにも見える。


「僕の角を……返せえぇっ!!」


「いやお前のじゃねぇだろ」


 どう考えてもその角はユーニのものだが、そんなことはユーリには関係ない。もうあの角は自分の物なのだ。

 ものすごい勢いで追いかけるユーリと躱すユーニ。そのまま二人は森の奥の方へ……


「って行っちゃったんだけどぉ!?」


「あんのバカが!」


 慌てて追いかけるオリヴィアとレンツィオ。セレスティアも風魔法を使いふわりとフィオレを抱きかかえて走りだした。


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