第73話 制限時間
「俺のとっておきを喰らったな。ここからは永遠に俺のターンだ。反撃などさせる間も与えない」
宣言通り、バイオレンスの猛攻が始まった。巨躯に見合った大剣が唸りを上げるたびに、空気が裂ける。奴は、容赦なく【デスブレイカー】を連発してきた。
「無双闘剣! セイバーマリオネット!」
俺は二つのスキルを同時に発動する。双剣ジョブ、グレイトダブルセイバーの【無双闘剣】と、ダブルセイバーのスペシャルスキル【セイバーマリオネット】。
無双闘剣の効果で俺の攻撃力は跳ね上がり、さらにマリオネットによって闘気から模造された双剣が空中に浮かび上がる。
その双剣は防御モードで俺の動きに連動し、バイオレンスの【デスブレイカー】に対処するための盾ともなる。
「双剣のジョブか。だが無駄だ。お前の動きは鈍い」
その言葉通りだった。奴の攻撃で負った傷と、【デスクリムゾン】によるダメージで、俺の身体は重く、手足はまるで鉛のようだ。
それに――感じる。じわじわと、確実に死が迫ってきている。まるで首筋に冷たい刃を突きつけられているような感覚。
(あれは……時間制限型のスキルか)
即死ではないが、発動後から徐々に死のカウントが進むタイプ。更にステータスを下げるデバフも併用している。どちらか一つだけでも厄介だが、合わせてくる辺りがバイオレンスの恐ろしさだ。
「ダブルスタンダード!」
俺はもう一つのスペシャルスキルを起動する。グレイトダブルセイバーの【ダブルスタンダード】――俺そっくりの分身を生み出すスキルだ。
これで【セイバーマリオネット】【ダブルスタンダード】というスペシャルスキルを同時に展開。だが、スペシャルスキルには制限がある。効果時間はそれぞれ三分。再発動までには長いクールタイムが必要だ。
しかも俺には、猶予など残されていない。あの死のスキルが、三分持つ保証などどこにもない。
「二人に増えたところで、無駄なことだ」
バイオレンスが構わず衝撃波を放ってくる。その数は倍増していた。全てを避けきるのは不可能。
「――範囲キャンセル!」
俺は即座に発動した。周囲一定範囲内のスキルをキャンセルし無効化するスキルだ。バイオレンスの衝撃波がかき消え、空気が一瞬静まる。
「見せてやるぜ、とっておき――!」
俺と分身が同時に構えを取り、闘気を高める。バイオレンスまでの動線は今、完全に開かれている。
「【疾風怒濤】――そして、【双剣竜牙】ッ!」
俺たちの身体が闘気に包まれ、竜の如き光を纏う。刹那、双剣を構えた二人の俺が駆け出す。その突進はまさに嵐のごとき怒濤。
闘気が形作った二頭の竜が、咆哮とともに前方へと駆ける。
バイオレンスを中心に挟み込むように、俺と分身がすれ違いざまに斬撃を叩き込む――竜の牙が、喰らいつくように双剣を叩き込んだ。
「これで終わらせるッ!」
「――甘いな。【デスクロス】ッ!」
バイオレンスの大剣が十字を描く。斬撃が閃光となって交差し、俺たちの攻撃を打ち砕いた。分身が砕け散る音が響く。
(チッ、やっぱり分身は限界か……!)
ダメージの蓄積により、分身は効果時間を待たずに崩壊。赤黒い残光を残しながら空気に溶けていった。
「残念だったな。これで終わりだ。お前はもう、死ぬ」
――そう言わせるために、わざとやった。
「いや……まだだッ!」
「――ッ!?」
バイオレンスの背中が震えた。まさかの俺の声が、真後ろから響いたのだから。
疾風怒濤の速度上昇と、直前の混戦。その中で俺は【ステップキャンセル】を発動していた。
移動という事実をスキルとしてキャンセルする。それにより、俺の移動は“相手の知覚から消える”。
バイオレンスはカウンターの構えに集中していた。俺の狙いはそこだった。分身を囮にし、真正面からの突撃に見せかけて、背後へと回り込む。
移動に関する一瞬の誤認――そのおかげで俺は奴の背後を取ることに成功していた。
「つまり、こっちが本命ってことだ!」
「くッ、貴様ぁああぁあぁああッ!」
俺の牙が、バイオレンスを捉える。
双剣が赤い鎧を打ち砕き、鮮血が舞い散った。地を赤く染めながら、勝負は最終局面へ――




