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異世界のキャンセラー~俺が不遇な人生も纏めてキャンセルしてやる!~  作者: 空地 大乃
第二部第三章 西部レフター領編

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第22話 ブルーの作戦

「馬鹿な話だ。何が戦争だ、こんな小さな町で伯爵に勝てるわけがないだろう!」


 ブルーの話を聞いてスコッチが咆えた。それにしてもこいつ、何でも否定から入るな。


「確かに戦力差は明らかです。伯爵の抱える私兵の数は約五千八百、それに騎士二百、冒険者の数は領内で二千人程度、合計八千が私達の相手する戦力です。それに対して今この町で戦えるのはヒットさんを含めた六人とアイリーン、それに私も戦えなくはないですが、それでも八人。住人からは……二十から三十名といったところですか。総戦力は多少甘く見ても四十程度がいいところでしょうね。ここまで差が開くと逆に笑えますね」


 いや、笑えないだろう……なんかもう勝利の余韻に浸る余裕すらないぞ。


「ほら見たことか! こんなの最初から無茶――」

「ですが、それはここで何もせず手をこまねいていた場合です。当たり前ですが、戦略も戦術もなくして勝利はありえないですからね」

 

 ブルーがスコッチの上から覆いかぶせるように言葉を続けた。

 スコッチは出鼻を挫かれたような悔しそうな顔を見せているわけだが。


「ブルーよ、確かに貴殿の言う通り、戦争をしようというのであれば、それ相応の準備もひつようであるし、いろいろ考えるべき事もあるだろう。ただ、そこまで言うからには、何か良い手があるのだろうか?」

「せやな、口で言うだけなら簡単や。せやけど、言い出しっぺなんやから、この戦力差をひっくり返す起死回生の作戦があるんやろ?」


 カラーナも中々無茶を言うな……。


「流石にそれ一つでひっくり返すような甘い手段はありませんねぇ」

「ふん、当然だ、そんなものがあれば苦労はしねぇよ。だけどな、こんなこと言っている間にも伯爵が全軍率いて向かってきてるかもしれないだろ! 危機はすぐそこまで迫ってるんだよ!」

「あはは、流石にそれはありませんね。今回の負けはあの三人にとっては青天の霹靂のようなものです。まともな準備もせず逃げ出したのですから、当然足も鈍くなります。食料なども途中で調達する必要があるでしょうからね」

「そ、そんなもの、この周辺の村にでも立ち寄って奪うだろう」

「それぐらいの相手なら楽もできそうなのですけどね。ですが、今回は相手が逃げている側です。しかも少数でね。グレイからすれば下手な真似をしている間に追いつかれる事を一番嫌うでしょう。それにこの状況であれば立ち寄った村から足取りが掴まれてしまうかもしれないという懸念も生まれます。なので先ず真っ直ぐ領内の中心部に位置するビッグ砦を目指すと見たほうがいいでしょう」


 またもや意見を否定され悔しがるスコッチ。どうやら頭の面ではこの男ではブルーに遠く及ばなそうだ。


「ビッグ砦じゃと、往復で七~八日といったところかのう。それに戦力を整えてといった準備期間を含めると十二、三日といったところか」


 一人の老翁が過程を述べる。俺にはこのあたりの地理感がないから、こういった予測が出来る人がいるのは助かる。


「それぐらいと考えるべき、ですが、今回は我々にとっては幸運な事があります」

「幸運な事?」


 俺が問うと、はい、と笑みを浮かべ。


「ギルドマスターのビッグは今、アクネの居城に向かってます。アクネが拠点を置く都市は領内の北部に位置しますので、そこまで辿り着き、顛末を説明し、挙兵を許してもらうまでその更に倍の日数が必要でしょう。それを考えるなら早くても仕掛けてくるまで三十日程度は掛かるはずです。逆に言えばこちらには三十日間、戦力を整える余裕があると言えます」


 住人たちがざわつき始めた。正直三十日という日数がそこまで余裕の持てる事か疑問が残るが、ブルーはそれを語りのテンポや雰囲気で余裕があるように感じさせてくれた。


 このおかげで一度は下がったモチベーションがまた上がり始めている。


「は? 三十日もあるだって? 冗談言うな! そんなもの――」

「ですが、貴方がまるでわざと絶望に追い込むように口にしたでたらめな話よりは、まだ現実的ですし、上手く動けば十分対抗できる日数ではありますよ」


 人々の冷たい視線が否定派の連中に突き刺さる。

 ネガティブな発言を繰り返す奴らに、ブルーは見事楔を打ち込んでみせた。

 

 これでもう町の住人はこいつらの言うことに耳をかさないだろう。


「しかし、かといって浮かれていられるほど余裕があるわけでもないな。ブルーの中では既にやることは見えているのか?」


 奴らがおとなしくなったところで俺は改めてブルーに問う。

 この男、俺達には見えてないものが見えているような気がする。


「先ず、早急に周辺の村にあたってみることです。重要なのは我々が冒険者ギルドに勝利し、副長を追い出したことで、管理体制が大きく変わったということです。これまでは冒険者が各村を回って強制徴収に近い行為を繰り返していたようですが、それがなくなったわけですから、それを活用し、今後は我々が自治権を手にしたことをアピールし、協力を得るのです」


 ブルーの話では、このアドベンフッドの町が管理していた村だけでも十村存在しているとのこと。

 

 それらの村を説得して回り、戦いへの賛同を得られれば、当面の食料の補給にも役立つし、戦力も増やせるとのことだ。

 

「ただ、こちらにも何かしらの強みが必要です。そうでなければ、ただ領主と戦うことにしましたといったところで、中々決断できない村も出てくるでしょう」

「強みか、難しい問題だな……」

「そうですね。ただ、手はあります。その前に一つヒット様にお窺いしたいのですが、マントス領とコネのようなものはございませんか?」

「え?」


 俺は一瞬ドキリとした。この男、何か知ってるのだろうか?


「その様子だと、なにかありそうですね」

「……なぜそう思ったんだ?」

「難しい話ではありませんよ。皆さんがマントス領側からやってきたのは、初めて拝見したあの時に察することが出来ましたから。そして、もう一つ、丁度貴方達がこの領内に足を踏み入れた頃、アクアマントスの問題を解決した冒険者がいたという情報も耳にしたので、もしかしたらと思いまして」


 それが本当だとしたら、恐ろしく耳の早い男だ。

 いや、冷静に話を思い出すと、このブルーの情報量は相当な物と言える。

 

 セブンスについてはもちろん、ギルドマスターが今どこにいるかも知っていた。


 ただ、それを言うべきか少し迷う。すると、アンジェが耳打ちしてきた。


「一から十まで信用できるとは言えないが、確かにマントス領との関係は重要だ。このまま協力するなら、話しておくべきだと私は思う」

 

 確かに、もうすでに片足どころか肩までつかってるようなものだ。

 顔も見られているし、到底無視して通り過ぎることは不可能だろう。


「……そうだな。隠しておいても仕方ない。確かに俺はマントス領でエド伯爵と面識があるし、依頼も一つこなしている」

「おお!」

「それは、かなりこころ強い!」


 住人たちの声が更に明るくなった。

 それからブルーも話してくれたが、このアドベンフッドとマントス領で関係が持てることは非常に大きなアドバンテージになる。


 何せすぐ隣の領地だからな。上手く交易出来るような関係が築ければ大きい。

 それに、エド伯爵はこの領地のアクネという領主を快く思っていない。


 反旗を翻す旨を伝えることが出来れば、積極的に関わってくれるかもしれない。


 とりあえずここまでの話で、この町にも希望が見えてきたと、明るい声が増えてきたな。


「しかし、ここまでの話で、とりあえず優先してやるべきことは決まりましたね」

「うん? それは一体なんなんや?」

「……はい、今この辺りで跳梁跋扈している黒獅子盗賊団の壊滅と、モール砦の奪還です」

「黒獅子盗賊団やて?」

「……親父の仇、ようやく……」


 その名前を聞いて、カラーナとアイリーンの様子が変わった。


 特にアイリーンには、何か因縁がありそうだな……。

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