第26話 秘密を暴け
ここでスペシャルスキルを使用したのには勿論理由がある。
先ず皆と自分の身を守るため。ダブルセイバーのスペシャルスキルであるセイバーマリオネットはモードによって複製剣の動作に違いがある。
そしてこれを防御モードにすることで自動で敵の攻撃から身を守ってくれようとしてくれる。
これの重要性はキャンセルの隙を少しでも減らせる事にある。
キャンセルは基本個別に指定するか範囲を指定するかどちらかで発動するわけだが、当然その時には対象を意識するため、若干とはいえ隙が出来てしまう。
アンデッドの数もまた増えてきたので、この隙に攻撃される可能性だって十分ある。
しかしここでスペシャルスキルであることが生きてくる。何故なら基本スペシャルスキルというものはキャンセルを掛けなくても、通常スキルの間に割り込んで発動が可能だからだ。
だから俺がキャンセルを使用して生まれた隙の間でも、セイバーマリオネットの効果は上手く働いてくれる。
その点が先ずひとつ。だが、何より重要なのは――
「オートモード&防御モード――」
俺は片方の剣を自由に行動するオートに、もう一本は防御モードにして行動に移す。
それぞれ効果が半々になってしまうが、ある程度は仕方がない。
特にオートーモードは今回の作戦の肝だ。このモードにしておけば半径十メートル以内の敵に自動で攻撃してくれる。
自動と言っても目標はある程度定める事ができるからな。そして、当然俺がターゲットに選んだのはアウナスの本体だ。
「これからあの剣で、アウナスに攻撃をし続ける。何か変化があったら教えて欲しい――そう伝えてくれ」
俺は近くにいたフェンリィにそう伝える。頭のいい神獣だ。しっかり理解してくれたと思う。
「アオン!」
「頼むぞ、それとフェンリィも期待しているからな」
「アンッ! アンッ!」
フェンリィが尻尾をパタパタと振り、そして先ずセイラの下へ向かう。セイラはフェンリィの言葉が判るからしっかり理解してくれるはずだ。
そしてセイラは初級であれば全ての魔法が使える。その中には短い距離なら声を相手に運べる魔法もあったはずだ。
それを上手く使えば全員に俺の考えは伝わるだろう。
カラーナ、そしてアンジェと目があいふたりが頷く。意思疎通が図れた証拠だ。
さてここからが重要だが。
「チッ! 鬱陶しい!」
アウナスが舌打ち混じりに吐き捨てる。俺の生み出した双剣の一振りが執拗に本体を切りつけているからだ。
だが、傷つけても傷つけてもアウナスの本体には損傷がない。
もしかしたら自動治療や再生系かとも思ったが、それとも違うようだ。治療や再生系なら何かしらダメージを与えてから治していくはずだしな。
なら、単純に頑丈なのか? いや、それにしては妙だ。何せ斬撃は間違いなくあの顔を斬りつけている。もし単純に硬いということならば、弾かれたりするはずだ。
そう考えるとやはりおかしい。俺の使用したファントムのボルトは、魔法の力が込められた武器だ。
だから魔法だけをもし無効化しているなら、双剣による物理攻撃ならどうかと試したわけだが、物理的攻撃すら現状見るに全く効いていない。
しかし――流石に無敵はありえない。俺は周囲に群がってくるアンデッドを片付けながらも周囲も含め何かおかしな点はないかと観察する。
おかげで自分に関しては甘くなるが、そこは防御モードの片割れに期待するしか無い。
自動で双剣の攻撃は続く。しかし、どうみてもアウナスの変化は見られない。
敢えて言うなら、胴体部分の動きが活発になったぐらいか。
ただ、確かに動きは大きいのだけど、あまり攻撃そのものは仕掛けてこない。
それでもアンジェやセイラが近づいた時には攻撃をし、あの飛び道具も撃ってくるけどな。
天井からは黒い雷も落ち続けている。直撃は全員避けているものの、余波によるダメージは多少なりともあるだろう。
で、隙をついてカラーナが短剣技で反撃を試みているけど、やはり鎧側にもダメージはない。
でもなんだろか? 何か妙な違和感がある。本体が攻撃されたときの鎧の位置取りが、妙にはっきりしないというか――
「アンッ! アンッ! アンッ!」
すると、突如フェンリィが大きな声が吠えあげ始める。何かを訴えようとしているみたいであり、すぐさまセイラがフェンリィの意志を汲みに向かった。
『……ご主人様、フェンリィが気がついた。あれのひみ――』
セイラの魔法によって声が俺の耳に運ばれる。だがその瞬間、胴体部分の鎧が跳躍し散開していた俺たちを結ぶ中心部に落下し地面に剣を突き立てた。
唸る轟音。地面に亀裂が走り衝撃が駆け抜ける。俺の身体も見事にふっ飛ばされた。
かなりの衝撃で、体勢を立て直してなんとか着地したが、セイラやフェンリィ、アンジェやカラーナとも距離が開いてしまった。
ただ、これはアンデッドもおなじで、敵味方関係なくふっ飛ばされている。
衝撃のおかげで土煙も上がって視界が少し悪いか。例のうざったい黒球は消えたな。それははっきりと判る。そして離れた位置から剣を振る音と、鞭を鳴らす音、それにフェンリィの鳴き声も聞こえる。
これは――あの胴体がセイラを狙っているってことか?
くそっ! どちらにしても、これでセイラが何を言おうとしたのか、フェンリィが何に気がついたのかわからなくなってしまった。
「【カオスクラッカー】」
あの黒雷を発生させる球が消えたかと思えば、アウナスがまた魔法を仕掛けてくる。今度は黒い球が名前の通りクラッカー状に繋がったものだ。
五つの球が魔法の糸のようなものでつながり、耳障りな音を奏でながら、俺に向かって飛んでくる。
頭蓋に響き渡る嫌な音だ。これも一つの効果なのかもしれない。おかげで集中も出来ないしな。
だけど、ここまでするという事は、アウナスはセイラが何かに気づいたことを察しして、俺に伝わらないようにあの胴体を仕掛けたと見るべきだろ。この魔法で集中力を乱そうとしているのもそういった理由からだろ。
ならば何に気がついた? それが間違いなくあの魔族の弱点に繋がってるはずだ。
考えろ俺! もうスペシャルスキルの持続時間だって残り少ない筈なんだ。もうすぐ複製の双剣だって消える。
「キャンセル!」
とにかく妙な球は避けても追いかけてきて煩わしいから消しておいた。そしてアウナスに目を向ける。剣が攻撃を仕掛けアウナスに当たっているが――相変わらずダメージが通っているように思えないが、表情を歪めてかなり嫌そうだ。
気になるのはアウナスと胴体との距離感だ。微妙に付かず離れずの位置を保ち続けている気がする。
それは、何か関係しているのか? だが胴体側には本体を攻撃しても変化が見られ――しまった! ここで時間切れか! スペシャルスキルの効果が切れてしまった。
「ほう、どうやらあの妙な剣は消えたようだな。時間切れといったところか? 残念だったな。まあ何をされたところで私に攻撃は通用しないが」
「アンッ! アンアンッ!」
アウナスが妙に得意がっているところでフェンリィが本体に向けて突っ込んだ。
身体を猛回転させて風を纏ってのドリルのような攻撃。
「くそ! うるさい獣だ!」
「――ファイヤーボール!」
たまらずアウナスの本体が上に逃げたところで狙いすましたようにセイラの魔法が炸裂。どうやら鎧の下半身の隙をついて魔法を行使してくれたようだ。
そして――着弾! 爆発。アウナスが炎に包まれスケルトンの数体が爆散した。
「ふん! 無駄なことばかりしているな」
無駄なこと? それはどうかな。今のは俺にとって最大のヒントになった。そう、今明らかにおかしなことがあった。
だからこそ理解した。何故鎧の方の動きに違和感があったか。何故アンデッドを巻き込んでまで俺とセイラを引き離そうとしたか。
そして何故、最初は近づくのを嫌がったか――全てからくりが判ればなんてことはなかった。
「アウナーーーース!」
俺は狙いを定める。アウナスに向けて。そしてファルコンに込めなおした爆破の付与されたボルトを、打ち込む!
「クッ!」
ファルコンの矢は淀みなくアウナスの本体に着弾。当然その場で爆破する。そしてこのタイミングで――」
「無駄なことを!」
「キャンセル!」
「何!? グワァアァアア!」
ここで初めて、アウナスの悲鳴が俺の耳を貫いた。爆発の勢いで派手に飛んでいき、アウナスの頭が天井にぶち当たり地面に落下する。
へぶっ! という呻き声が聞こえた。ザマァないな。
そして、ついでに言えば俺の予想が正しければ――
「今だ! 胴体にも攻撃を纏めろ! 今ならダメージが通る可能性が高い!」
「ボス! 何か掴んだんやな!」
「うむ、流石ヒットだ!」
「……フェンリィ」
「アンッ! ガルルルルルウゥウ!」
カラーナ、アンジェ、セイラ、フェンリィの一斉攻撃が胴体へと向けられた。
そしてそれらの攻撃は全て――胴体にもしっかり突き刺さった! 派手な轟音。そして鎧に明らかな損傷が見られ胴体も大きく吹っ飛んでいく。
「クッ! 何故だ! 何故こんなことが!」
「お前が浅はかだったって事だよ。俺に弱点を知られないよう焦ってそれに気づいたセイラと引き剥がそうとしたんだろうが、その結果逆に視界が開けた、だから気がついたのさ」
そこまで語ると、再びアウナスの頭が宙に浮き始める。だが、その様相に明らかな変化。顔の半分が黒焦げとなり、随分といい男になったものだな。
「ヒット、あの男の力は一体なんだったのだ?」
「ああ、身代わりだよ」
「身代わりやて?」
「そうだ。あいつは自分の受けたダメージを全て周囲のアンデッドに肩代わりさせていたんだ。それが不死身に見えた奴のスキルの正体さ」
そこまで言うと、やはりアウナスは悔しそうにワナワナと震えた。
だが、本人からしたらそれがわかったからと言ってどうしてダメージを受けたのか? といったところだろうが。
それも俺のキャンセルのおかげ。ダメージを受けた時に肩代わりさせるなら、ダメージを当たるのと同時にキャンセルをかけてしまえばスキルは発動せずダメージだけが通るってわけだ。
「さて、仕掛けさえ判ればこっちも手の打ちようがある。そろそろ――」
「あ! ボス! 壁が!」
俺が奴に向かって言葉をぶつけていると、何かの崩れる音が耳に届く。そしてカラーナの指さした方を見ると――骨の壁が崩れ去り、目をパチクリさせているマサムネ、メリッサ、そして、何故か裸のニャーコの姿。
いや、なんで裸なんだ? 目のやり場に困るぞ。
まあ、それはそれとして――
「どうやら勝利の女神は確実に俺たちに微笑みかけてくれているようだな」
アウナスに向けて俺ははっきりと言い放った――




