第13話 ダンジョンの仕掛け
「ふむ、フェンリィ殿は鼻が利くのでござるな」
「ウォン!」
マサムネが感心したように言うと、フェンリィが軽快に吠えて返す。なぜかわからないけどドヤ顔してるように見えるな。
尤もここに関してはマサムネの方向音痴が過ぎるのが問題だけど。
そしてダンジョンの入口に関して言えば、なんというか普通に山に出来た洞窟って感じだ。湖からちょっと離れた場所にあったんだけどな。
けれども、湖に繋がっている川はこのダンジョンのある岩山を通ってきている。そう考えると可能性は高いのだろうし、何よりフェンリィの鼻はマサムネと違って信頼たるものだ。
「ボス、こんな陰気臭いダンジョンさくっと攻略してしまおや~いつもどおりうち先いくで」
「それならニャーコもカラーナに合わせるにゃ」
そんなわけで、カラーナとニャーコを先頭に俺たちはダンジョンへと潜った。
ふたりのすぐ後ろにはセイラとフェンリィのコンビ。そして残った俺達が後に続く。
「それにしても、こういったところで女性に前を歩かせるのは、なんとも忍びないでござるな」
「それは偏見というものだぞ。それにこれには当然意味がある。カラーナは職業柄罠の存在に敏感であるし、ニャーコも忍びのジョブ持ちだけにカラーナ程じゃないにせよ気配には敏感。そしてフェンリィはもう知っての通り鼻が利く」
アンジェの言うとおりだな。それにそもそもこのメンバーは俺とマサムネ以外は全員女性だしな。
「それに皆さん実力は確かですから、私達も安心して任せていられるのですよね」
メリッサがアンジェに続いて前を行く女性陣を評した。確かに下手な男じゃ太刀打ち出来ないぐらいうちの女性陣は実力があるからな……。
「おっと、そうこう言ってる間に罠見つけたで。解除や!」
「おお! なるほど確かに罠の解除ができるとなるとこうも違うものでござるか。拙者が一人で向かうのとは大違いでござるな」
「マサムネはこれまではどうしてたんだ?」
「それは勿論、拙者は罠はあえて受けて解除するやり方でござる故」
着物の袖に手を通し、得意気に語るマサムネだが、それ解除って言わないぞ?
「にゃ! 何か近づいてきてるにゃん!」
「ウォン! グルルウウルルゥ!」
「……フェンリィも敵の気配感じた」
「見えました! 近づいてきてる魔物はリザードマン、リザートデュラル、そしてリザードマン系のユニーク種であるリザートジェネラルです」
メリッサはスポッターになったことで目に色々なスキルが付与されているからな。カラーナなみに夜目が聞くし、遠い場所でも近くにあるようにくっきり見ることが可能で、その上で鑑定眼もあるからサポーターとしては本当に優れている。
とは言え――いくらユニーク混じりとはいえリザードマン系は既に俺達の相手にはならなかった。結構な集団だったが、カラーナのナイフとニャーコの忍術だけでも殆ど倒され、そこへセイラとフェンリィの波状攻撃であっさり殲滅。
「こ、これは確かに女性だからと馬鹿にはできないでござるな」
マサムネが目を丸くさせて言う。一応魔獣戦はあったけど、あれはマサムネがわりとあっさり終わらせちゃったしな。
まともな戦いを見たのはこれが初めてって感じだろ。だから驚いているようだ。まあ、マサムネも強さはかなりのものなんだけどな。
そして俺達のダンジョン攻略は続いていくが、正直出てくる魔物は大したことがなく、トラップも複雑なものも無い。構造も単純でお宝みたいなのもないしで俺的にはかなり肩透かしな状況だ。
ただ、正直このレベルのダンジョンで街の冒険者が全く戻ってこないというのもおかしな話だと思う。
そうこうしているうちに洞窟も結構下ってきたのだが――そこで行き止まりにあたってしまった。
「なんだ? ここで終わりなのか?」
「ちょい待ち、ボスそこに妙なものあるで」
「う~ん、これは、どうみてもお墓にゃんね」
「……こんなところに一つだけ、妙」
「アオン!」
カラーナの示した方向には確かにニャーコの言うとおりお墓が一つ設置されていた。セイラの言うように洞窟の中で確かにこれは妙だな。
とりあえず罠がないことを確認してから近づいてみるが。
「ふむ、何か刻まれてるな、『地獄の入り口へようこそ』?」
「な、何か不気味ですね……」
墓に刻まれた文字を見てアンジェが眉を顰める。メリッサも不安そうな声で呟いた。
「これ、このお墓に秘密がありそうちゃう?」
「にゃん、確かに妖しいにゃん」
「ならば拙者がちょっと切ってみるでござるよ」
「脳筋か! いやいや、そんな切ってなんとかなるものじゃないだろ!」
マサムネが構えだしたのですぐさま止める。そんなことしてとんでもない罠でも発動したらどうするつもりだ!
「……動いた」
「クゥ~ン……」
そんなやり取りをしてたらセイラが墓を押して、なんというかベターというか、墓が横にずれ動いた。フェンリィは呆れた目でマサムネを見てる。
「むむぅ、このような複雑な仕掛けが施されているとは、これは相当な切れ者が作成したダンジョンでござるな」
「いや……わりと古典的な仕掛けだと思うぞ」
「単純すぎて逆に驚きやわ」
「にゃ~地下に続く階段があるようだにゃん」
「空気が妙にひんやりしてますね……」
墓が横にずれて現れた階段。その下を覗きこみながらそれぞれが感想を述べる。
う~ん、単純ではあったけど、確かに不気味でもあるな。
とは言え、ここで黙っていても仕方ない。恐らくだが先に来ていた冒険者もこの仕掛には気がついたのだろう。何かこれあえて見つけてもらうように設置されてるようにも見えるしな。
なので俺達はそのまま地下へと降りていくことにする。そして辿り着いた先は、いかにもダンジョンといった雰囲気ただよう通路であった。
周囲が石造りの壁に囲まれていて、横に三人程度が並んで歩ける程度の幅の通路が続いている。さっきまでの自然に出来た洞窟タイプと違い、なんとも人工的な造りだ。
そして妙なことに凄く明るいってことはないが、薄明かり程度は確保されている。松明などがあるわけではなく、単純に通路が淡く光っている形だ。ヒカリゴケというわけでもなく天井から壁、床に至るまで発光する素材なのだろう。
「……さっきよりは気を引き締めて進んだほうが良さそうやね――」
カラーナがそう言いつつ、やはり彼女とニャーコを先頭に先を急ぐ。ただ戦闘になった時はいつでも俺達と入れ替われるようにある程度の間隔はあけての移動だ。
そしてある程度進んだところで――ガシャン、ガシャン、とどこかで聞いたことがあるような音。
そして姿を見せたのは――
「スカルソルジャーか……」
ようは骨の戦士だな。以前も遭遇したことがあるが、今回はいきなりの登場か。
「ニャン! こいつらなら前に相手したにゃん! 任せるにゃん! 火印の術・息吹にゃん!」
ニャーコが飛び出していき、炎の息で燃やし尽くす。前より印を結ぶのが早くなった気がするな。
「なんと、流石ニャーコ殿はシノビでござるな。見事な忍術でござるよ」
「それほどでも、あるにゃん!」
振り向いて胸を張るニャーコ。こいつすぐ調子に乗るんだよな。でも結構大きめな胸が揺れてるのは眼福だな。
「――ご主人様目がえっちぃです」
「え? いやいや! 誤解だぞメリッサ!」
ジト目でメリッサに突っ込まれてしまった。いやいや胸なら断然メリッサの方が大きいからな! て、そういうことじゃないか……。
とにかく何故かメリッサよりも更にきつい目を向けてくるアンジュを見なかったことにしつつ、先を進む。
すると今度はゴースト系の魔物が多く出現して襲ってきた。
「にゃ! こいつらは炎が効かないにゃん!」
「ボス!こいつら物理攻撃もすり抜けるで!」
「あ! いいのがあります!」
炎の息吹もカラーナの投擲に通じなかったが、そこでメリッサがダンジョンに来る前に作成しておいた灰を取り出した。
それをそれぞれの武器にふりかけていく。確か薬みたいに調合して出来た灰だったな。聖灰と同じ効果があるという話だった筈だ。
「……多少なら聖魔法使える、今、神の奇跡がこの水に溶け込んだ。悪しきを浄化せし聖なる水だ。神よ感謝致します――【ホーリーウォーター】」
詠唱しそして水筒を取り出し中の水をゴーストにふりかけると煙を上げて魂が浄化されていく。
ゴースト相手にはかなり役立つな。ただ水を必要とするため多用はできなそうだ。
なので俺達も灰をかけてもらった武器で次々とゴーストを退治していく。
「ふぅ、こいつらも片付いたな。しかし、ここはアンデッド系の魔物が多いのか……」
中々厄介なことだなと思いつつもスケルトンタイプは火で、それ以外は聖灰の効果やセイラの聖水で排除しなら俺達は進んでいった。
洞窟と違いそれぞれの階層に下へと続く階段があり、それをどんどん下っていく。二階層ほど攻略し――いよいよ三階層目に到達した俺達の前に姿を見せたのが――
「ウァアァアアァ」
「ガァ"ア"ァ"ア"ア"」
「こいつらゾンビか……しかし、この姿――」
アンジェが忌避感のこもった顔を見せ言う。俺達もすぐにこのゾンビの正体に気がついた。死体がまだ新しいし、装備品のいかにも冒険者といった様子――全員男だが、恐らく先に攻略に向かっていた冒険者の成れの果てだろう……。
「にゃん……なんとも酷いにゃん」
「……そうでござるな」
「せやけどボス、これはもう……」
「やはり、もう死んでるのですよね――」
カラーナとメリッサが憂いの表情で呟いた。それに誰も答えることは出来ない。
だが確かなことがある。
「……せめて殺してやるのも情けってものかもな」
俺の声に全員が無言で頷いた。そして俺達は聖灰の効果のついた武器で未だ現世に残り続ける哀れな死者たちを葬ってやった。
「……何や急に湿っぽくなってもうた」
「だが、カラーナ、立ち止まっている場合ではないぞ。この無念を晴らすためにも意地でも攻略しないとな」
アンジェの言うとおりだ。今更引き返すわけにもいかないしな。こんなところじゃお墓も作ってあげられないけど、せめて安らかに眠ってくれ。
そう思いつつも俺たちは先を急ぐ。そして三層目も相当奥へと進んだところで――一つの広い空間に出た。
と、同時に突如俺たちが入ってきた入り口に格子が降り、空間内に閉じ込められてしまう。
「しまった、ボス、罠や! うぅ、うちとしたことが――」
「カラーナ過ぎてしまったことは仕方がない。それより先の事を考えないと」
「そうにゃんね。でも、前に一つだけ扉があるにゃん」
確かにニャーコの言うとおり、正面には頑丈そうな鉄の扉がある。普通に考えればそこから先に進めという意味にも感じるが、何か仕掛けがあるのではないか? と不安もある。
だがそんなことで逡巡していると、鉄の扉がギギギっ、と不気味で耳障りな音を奏で――かと思えば中から何者かが姿をみせたわけだが……。
『ククッ、これはこれはまた美味そうな獲物がのこのこやってきたものだぜ』
『ああ、しかも俺達の大好物の女が大量だ。これはあたりかもな』
『さて、この中の女とどっちが旨いかな』
そんな下衆な会話をしながら、現れたのは骨、つまりスケルトンタイプの魔物。ただ、俺達が相手してきたスケルトンと明らかに違うのは先ず一つ一つの骨が異様に太いこと、そして一体一体の大きさがスカルソルジャーの倍はあること。
そして何より――
「なんだよ、その女性たちは……」
思わず呻くように呟く。この骨の魔物は、事もあろうに裸の女をその骨の中に閉じ込めていた――
冷やし中華……ではなく新連載を始めました。
異世界殺人鬼
http://book1.adouzi.eu.org/n3869dm/
夏らしくホラーティストの殺人鬼が異世界で暴れまわるお話です。
よろしければちらりとでも覗いて頂けると嬉しく思います!




