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異世界のキャンセラー~俺が不遇な人生も纏めてキャンセルしてやる!~  作者: 空地 大乃
第二部二章 王国西部の旅編

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プロローグ前編

新章の開始です


「大人しく荷を半分置いていけ。そうすれば命だけは助けてやるよ」

「ひっ、わ、判った、言うことをきくよ――」


 顔を半分だけ隠した屈強な男の戦斧を喉元にあてられ、商人の男は大人しく馬車から半分積み荷を下ろしていく。


「ほら! あんたらもぼ~っとしてないで手伝うんだよ。護衛なんだろ?」


 すると今度は若々しい女の声が山中に響き渡った。戦斧を持った男と同様、顔半分はスカーフで隠されている。短い茶髪の小柄な女だ。声の感じからして少女といっていいぐらいの年代かもしれない。


 周囲にはふたりの仲間と思われる男女も商人達を囲っているが、やはり誰もがスカーフやフードで顔が見えないようにしていた。


「全くなんだって俺達がこんな……」

「仕方ないだろ。負けちまったんだから……」

 

 ぶつぶつと愚痴をこぼす護衛を恨めしそうに見やる商人。当然だろう、高い金を払って雇っているのに途中盗賊に襲われ積み荷を守り切る事が出来なかったのだから。


 尤も当然その分護衛の連中の報酬もなくなるだろうから、荷降ろしを手伝わされている護衛達が文句をいいたくなる気持ちもわからないでもない。


 この山道は土竜山賊団の縄張りであった。そして商人にとっては次の街に抜けるためには必ず通らねばいけない道でもある。


 何せこの山道を通らないとなると、大小様々な山が連なるこの大山脈を迂回せねばいけず、その道もやたらと険峻でありとても馬車で越せるような場所ではない。


 だからこそ山賊が出ると判っていても商人はこの道を通らざるを得ないのだ。そしてだからこそ商人は必ず護衛を雇いこの道を通るわけであり――


「これで丁度半分だよ」


 少女が馬車の荷台を確認して戦斧を持った男に告げた。雰囲気的には彼がこの山賊達の頭と思える。


「そうか、ま、お前らも運が悪かったな。だが、命があるだけマシだと思うんだな。じゃあな」


 山賊達は馬車から荷を半分奪い、約束通り商人と護衛は解放し颯爽と馬に飛び乗りその場を後にした。

 そして為す術もなくその後ろ姿を呆然と見送る商人たちであった――





「上手く行ったな親父」


 無事荷物を奪い山道から外れた森を掛ける山賊達。誰も知らない経路を確保しておくのは腕の良い盗賊なら当たり前のことだ。

 その道すがら快活な口調で少女が後ろの男に向けて言う。

 

 どうやらこの娘、山賊の頭の娘なようである。すると男はニカッと少し黄ばんだ歯を覗かせ笑った。


「ああ、お前も大分山賊稼業が板についてきたしな。父ちゃんは嬉しいぜ」

「じゃあこれであたいも一人前だね!」

「いや、半人前だな」


 父親の言葉に、え~っとむくれる娘。するとそのやり取りを聞いていた仲間たちからクスクスという笑い声。


 彼らは確かに山賊だ。だが一部を除けば(・・・)その雰囲気からは賊特有の悪辣さは感じられない。


 そして更にそれから暫く馬を駆り、険阻な岩山の頂近く――かつての役目を果たし取り残されていた山砦にたどり着く。尤も今は山賊たちの手で改装され彼らの根城として活用されているわけだが。


「頭のお帰りだーーーー!」

「見ろ! どうやら荷の強奪は上手くいったようだぞ!」


 そして見張り台の上から山賊たちの声が上がる。砦を守らせている仲間なのだろう。

 次々と砦から顔を出し土竜山賊団の凱旋に歓喜の声が上がった。

 

 それに手を上げ答える頭とその娘である。ただ――凱旋した一団の中には一部、渋い顔をした者たちも混じっているが……。


 





「もういい加減うんざりなんだよ!」


 仕事が上手くいったことを祝して根城に戻り酒盛りを楽しんでいた土竜の面々であったが――突如仲間の一人が杯を地面に叩きつけ怒鳴りあげたのだ。

 

 それに頭の娘も怪訝な顔を見せる。ただ男が荒ぶっている理由は明白だ。頭が今回の戦利品の内訳について話し始めた瞬間のことだったからだ。


「……一体何がそんなに気に食わねぇんだ?」


 威圧するような声で頭が言う。だが怒鳴った男は畏怖することなく言葉を返した。


「何もかもだ! 大体どうして俺たちが奪った物の殆どを村の連中になんかに配って回る必要がある! やるにしても余りもんだけくれてやりゃいいじゃねぇか!」


 どうやら男は頭の示した内訳に不満があるようだ。つい今まで陽気に歌い踊り楽しんでいた場に静寂が訪れた。


 そんな中、頭に文句を言う男をじっと見据え、盃をぐいっと飲み干した後、頭が口を開く。


「今更何を言ってやがる。元々俺たちが山賊として活動するようになった理由は重税に苦しむ民を助ける為だ。俺達が潤うためじゃねぇ。そこを履き違えてんじゃねぇよ」

「……チッ、だとしてもなんで対象を選ぶ必要がある! 全員襲って奪えばいいじゃねぇか! だがあんたはこの間も実入りが良さそうな商団を見逃した!」

「あれは連中がマントス領の商人だったからだ。俺達の目標はあくまでアクネにダメージを与えることだ。その為に奴に取り入ってる商人だけを狙ってんだろうが」

「そうよ! 先代の領主が死に、アクネの奴が領主の座についてから領民の暮らしは酷いもんさ。そのくせアイツは自分に有意義な貴族や商人だけは優遇して税を軽くしたりしている。その皺寄せが全部他の人々に来ちまってるんだ! それをなんとかするのがあたい達土竜の仕事だよ!」


 土竜山賊団にとってターゲットとなるのはあくまでアクネに有益な商人だけであった。そうやって商人を襲い荷を奪うことで少しでもアクネに打撃を与えることが目標であったのだ。


 ただ、それでも全ての荷を奪わないのは商人の中には仕方なくアクネの言うことを聞いているようなものもいることを知っていたからだ。


 それはここの山賊団で仕事しているものであれば誰もが承知していることであった。

 だがそれでも中にはこういう風に不満を持つものも現れる。特に後から入団したようなものはその傾向も強い。


 今文句を言っている男も最近になって土竜に入団してきたものだ。彼らの噂を耳にし下手な仕事よりも山賊でもやったほうが儲かるとでも思った口なのだろう。


 しかし、実際は頭は最低限必要な分を除いては全て貧困に喘ぐそうに配ってしまっている。

 それが気に食わず、更に自分より年下の少女にまで責められ苛立たしさが募るばかりといったところか。


「ちっ、まるでどっかの領地で派手に動き回っていたシャドウキヤットみたいだな。義賊様々ってか?」

「……それの何が悪い?」

「そうだよ。第一そのシャドウキャットがいたからこそあたい達も心動かされて行動に移せたんだ!」


 今のレフター領と同じように、セントラルアーツも重税に苦しんでいた時期があった。しかしそんな人々の希望の星となったのが義賊団シャドウキャットでありその噂は一時期ここレフター領にまで響き渡っていた。


 山賊団土竜が結成されたのもそんな彼らに触発されてのことである。


「ふん! 随分と賛美しているようだけどな、でも結局シャドウキャットの連中はセントラルアーツの領主に目をつけられて処刑台送りになったそうじゃねぇか。散々盗んだ金を恵んで回ったにも関わらずいざとなったら全員知らんぷり決め込んで助けようともしなかったとも聞くぜ。俺はそんなのまっぴらごめんだ! 大体俺らは山賊やってんだろ? どんなに口でいいこと言ったってやってることはただの強盗だ!」

「その辺にしておけ」


 口汚く罵りの言葉を吐き出す男の肩を背後から掴み、褐色の肌を有す屈強な男が彼を止めた。


「ふ、副頭……」

「すんません頭。こいつまだうち入って日も浅いもんでね。この俺に免じて勘弁してやってもらえませんか? 後できっちり教育しときますので」


 そう言って頭を下げる。すると頭が盃に酒を注ぎぐいっと飲み干し言った。


「別に俺は怒っちゃいねぇさ。こんだけ所帯が増えりゃ色んな意見が出るだろうよ――それにな」


 そう言って目を眇め先程まで不満を口にしていた男を見やる。


「そいつの言ってることも間違っちゃいねぇ。これは俺達の身勝手な行動さ。ようはお前の言うように只の自己満足だ。そんなのこちとら百も承知なんだよ。最初から誰かに感謝されようなんて思っちゃいねえ。だがな、それでも俺達には俺達なりの矜持ってもんがあるんだ。例えどんなに手を汚しても、それだけは常に心に秘めてなきゃいけねえんだ。それを無くしちまったら――俺達はあの糞領主と同じになっちまう。それだけは覚えておけ――」


 結局なんとも言えない雰囲気のままこの話は終わった。そして副頭と呼ばれた男が彼を連れて席を後にする。

 すると改めて場は盛り上がりを取り戻していった。この切替の早さが彼らのいいところなのかもしれない――

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