第15話 地下一〇層にて
地下九層は階段を下りて抜けた先から、広い空間になっており、そこにはスカルウォーリアにボブゴブリン、リザードマンからオークまで大量の魔物が犇めき合っていた。
全くここに来て手厚い歓迎を受けてしまったものだ。
ただ、数こそ多いが敵のランクは上階あたりにでてくるようなレベルのが多かった。
なので――
「ファイヤーボール――フェンリィ……」
「グルルルルルゥウウウ! アンッ!」
「主様には指一本触れさせません!」
「シューティングウィンド!」
「炎印の術・息吹にゃん!」
「トリプルスターや!」
先ずはセイラの放った火炎球がボブゴブリン達の中心に激突。
爆発し吹き飛び、続けてムチを打ちフェンリィの闘争心を煽り、風を纏ったフェンリィがリザートマンを切り裂いていく。
シャドウの近くまで寄ってきた魔物はコアンの暗殺術で絶命していき、シャドウはシャドウで影で創った槍を放ち地味に敵数を減らしていく。
アンジェのウィンガルグを纏っての突きの連射で、オークの腹に風穴があき、ニャーコの炎は盾を持っていないスカルソルジャーの身を焦がしていった。
カラーナの短剣での攻撃もいい感じにヒットして相手の数を減らしている。
そして俺は俺で――
「ハリケーンスライサー!」
「ギェギェーー!」
回転しながらの範囲攻撃で周囲の敵を斬り刻む。ここはメリッサを守りながらの戦いではあるが、トドメを刺しきれなかった魔物には、メリッサがウィンドエストックで援護する形で倒してくれた。
そういえば一応メリッサも武器は扱えるんだったな……最近は鑑定ばかりですっかり忘れていたけど、弱った魔物ぐらいなら任せても大丈夫そうではある。
まぁそんなわけで恐らくは一〇〇近くは魔物がいたと思うんだが、蓋を開けてみるとそれほど苦もなく片付けることが出来たってわけだ。
そしてそれからこのフロアを全員で探索するが――ここは他の層に比べるとこぢんまりとしている感じだ。
広めの部屋の数はそれなりに多いし、その度に魔物と遭遇し戦いにはなったが、それほど苦もなくフロア内を調査し終えてしまう。
「特に隠し部屋も宝もなさそうやな。後は階段でおりるだけや」
「うむ、これまでに比べると随分とさっぱりしているものだな」
カラーナが両手を広げると、アンジェが頷き感想を述べる。
「魔物も数は多かったですが――」
「……大したことない」
「アンッ!」
まぁ確かに最初の一〇〇近い軍勢には少々驚きもしたがな。
「ふむ、もしかしたら次のフロアが最下層に当たるのかもしれないですね」
「それは構造の違いからか?」
「えぇ。あとは雰囲気などただの勘ではありますが」
「主様の六感ほど優れたものはない! 貴様何か文句があるというのか!」
「いや、気になったから訊いただ――」
「んなん、ちょっと気になって訊いただけやろ! 犬耳やからっていちいち噛み付いてなんやねん!」
そういうカラーナも十分噛み付いている気もするが――とにかくふたりの事は俺とシャドウで宥め、気合を入れ直しシャドウのいうところの最下層におりてみる事にする。
しかしやはり最下層となると、何かが待ち受けていたりするのだろうか――
◇◆◇
最下層におりてからは、カラーナを先頭にクランク上の廊下を慎重に進んでいく。
しかしこれといった罠もなく一本道を行くと正面に鉄製の扉が見えてくる。
一応ニャーコも一緒になって調べてはくれたが、他にはこれといって分岐する道も隠し通路らしきものもないので、必然的にこの扉を開けて先に進む事になるが――
「何か嫌な予感がするんだよな……」
「うむ、私もこの奥から殺気に近いものをビリビリと感じる」
俺が思ったままを口にすると、アンジェが真剣な表情で同意を示した。
これは何かがいる可能性は高そうだな。
「ヒット様やアンジェ様がいうなら間違いなさそうですね」
「大丈夫です。主様は私がしっかりお守りいたしますので」
後ろから付いてきているシャドウが言うと、コアンが張り切った口調で述べる。
まぁ何かいるとして、シャドウの事はコアンに任せるのが一番か。
「扉は錠も掛かってないようやし、罠もないで。ただ鍵穴もないしこのタイプは少しでも動かすと音がどうしてもしてまうから探るのは難しいかもしれへん」
「ご主人様。透視を試してみましたが妨害する魔法のような物が掛けられているようで――」
メリッサが申し訳無さそうにいうが、それなら仕方ないしな。
カラーナは扉を調べて扉自体には問題無いとは言っているし――
「……フェンリィ、緊張してる」
「クゥ~ン」
「にゃん! でもここまできたら行くしかないにゃん!」
セイラの言うとおり確かにフェンリィには戸惑いも見えるか。
野生の勘が働いているのかもしれない。
ただ、ニャーコの言うようにここまで来て何もせず引き返せないしな。
「ここはアンジェと俺でまず中に入り状況確認。その後ろからフェンリィとセイラに続いてもらい、敵がいるようなら戦闘開始。その場合はカラーナとニャーコはメリッサをサポート、コアンにはシャドウを守ってもらい、初めて目にする相手ならメリッサには鑑定を、後は様子をみながらそれぞれの判断で動く形で……どうだろうか?」
「うむ、いいと思うぞ。流石ヒットだ」
騎士のアンジェにそう言われるとちょっと照れるな。
「……フェンリィ頑張る」
「アンッ!」
フェンリィも気持ちを奮い立たせやる気を見せているな。
ここに来て様々な相手と戦闘を経験し能力もかなり上がってきてる気がする。
「うちらはメリッサの鑑定が成功するよう全力でサポートやな」
「にゃん、物足りにゃい気もするにゃんが、仕方ないにゃんね」
「ご主人様、私鑑定、頑張ります!」
メリッサも小さな拳を握ってやる気を見せてる。
まぁチャージキャンセルに頼ることにもなるかもしれないがな。
「方針も決まったようですね」
「あぁ、取り敢えずはな」
「ヒット、私はいつでもいいぞ」
「主様、何が出るかはわかりませんのでお気をつけを」
後ろのシャドウと軽く話してるとアンジェも扉の前にやってきた。
コアンはシャドウに気を配ってるし、後は俺達が先に出るだけだな。
「よし、じゃあアンジェ。三つ数えたら一気に駆け込むとしよう」
俺の提案にアンジェが頷く。
そして俺が、一、ニの三! と発し扉を押し開きふたりで中に飛び込んだ瞬間――
「グウウゥウウゥウウウウウウゥウウオオオオォオオオォオオオ!」
開口一番の凄まじい咆哮。暴風に煽られ一瞬俺もアンジェも動きが止まる。
意識が持って行かれないだけまだマシだが、この声一つとっても、中の敵がこれまでと格が違うというのがよく判る。
そして俺達の一瞬の隙を突いて、それは地面を蹴り空中へと戦闘場所を移した。
俺も正気を取り戻し、瞬時に黒目を巡らせ周囲を確認。
少し変わった場所だ。部屋はかなり広めだが、これまでのような四角い部屋ではなく形は円形。
それがパッとみたところ左右にも一つずつ。
歯車が噛み合うように連結している。
部屋の真ん中に一段高くなった台があり、その上には大きめのレンズのようなものが備わっている。
肝心の俺達の相手をする化け物は、レンズの手前から上昇し、今は上から俯瞰してきている状態だ。
そしてその敵は――俺は初めて相手するタイプ。
ただ、みたところ魔獣ぽいか。その敵は顔が前に長い顎門が特徴の竜、しかし胴体は黄金の毛を有し雄々しき獅子、その胴体からは二枚の竜の皮膜といった様相だ。
「あれは魔獣? いや、もしかしたらキメラか?」
ぼそるとつぶやいたアンジェの様子が気になり、
「知っているのかアンジェ?」
と訊いてみる。
「王国図書館で読んだ知識というだけなのでそこまで詳しくは――ただ実際にガロウ王国ではキメラグリフォンが創られ王国騎士団に採用されているからな」
キメラグリフォン? グリフォンといえば本来は幻獣として召喚されるもので、放置されたものが魔獣化して人を襲ったりなどという話がある生物だが……
どちらにせよ、この化け物について詳細がわかるということではないようだな。
ここはやはりメリッサ頼りか。
だったら俺達も鑑定が出来るよう誘導しないとな。
「おい! こっちだ化け物!」
「私はこっちだ! どうした掛かって来い!」
俺とアンジェは円形の広間をふた手に分かれ壁沿いを走り相手を挑発する。
そして相手の注意は――俺に向けられその竜の口からいきなり炎を吐いてきやがった!
「キャンセル!」
俺はその炎をスキルキャンセルで止める。既に炎は見えていたからな。
しかしこの炎一発でリスク五分か結構キツイな。
だが炎をキャンセルしたことで相手の動きが止まり何かを考えている様子。
何故ブレスを吐くことが出来なかったのか理解できないといったところか。
「ご主人様!」
「メリッサ! 鑑定の方はどうだ?」
「それが、このままだと時間が――」
やはりか、そこはある意味予定通りだな。
ならば――
「キャンセルだ! これで鑑定出来るだろう」
「あ、はい! 流石ご主人様です!」
チャージキャンセルはこういう時やはり便利だな。
しかし、こいつ空中で身体を旋回させ、掲げた剣のような鋭い瞳で獲物を品定めしている。
「メリッサ、相手はかなり好戦的だ! 鑑定結果は要点だけ頼む!」
「はい! それは古代種のキメラである【ドライゴーン】! ファイヤーブレスとファイヤーボールブレス、それに爪による攻撃を得意としてます。弱点は、これといってありませんが……炎には耐性をもっています!」
おいおい……弱点無しとか普通に厄介なんだが――




