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異世界のキャンセラー~俺が不遇な人生も纏めてキャンセルしてやる!~  作者: 空地 大乃
第二部一章 王国騎士団編

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第10話 別々のルートへ

「主様ーーーー! 主様ーーーー! ああぁあああぁあああぁああああああ!」


 この世の終わりでもやってきたかのような悲鳴を上げ、コアンが大岩に近づき、拳を何度も打ち付け、更に必死に押してどかそうとする。


 床に穴があいた時、コアンもそのままでは落ちそうであったが、シャドウによって穴の反対側へと突き飛ばされた。

 その結果コアンは落とし穴にはまらずにすんだが、シャドウはヒット達と一緒に吸い込まれるように消えていき、その直後転がってきた岩が穴にはまり動きを止めたのだった。


 おかげで彼らが岩に潰される心配はなくなったが、落ちた彼らがどうなったかを知ることが出来ない。

 生きてるのか死んでるのかもわからないのだ。

 だからこそ、コアンは必死に岩をどかそうとしているのだが、人の手でどうにかなるようなものでもない。


「落ち着けコアン!」


「うるさい! 黙れ! 主様が落ちたのだ! 私は、私は主様を助ける責務がある! 放せ!」


 コアンの肩を押さえ、同じく穴に落ちずに済んだアンジェが声を張り上げるが、コアンは取り乱したままだ。

 それだけシャドウの事を想っているという事なのだろうが。


「……シャドウは無事。慌てなくても大丈夫」

「クゥ~ン――」


 フェンリィが一足早く危険を察してくれたおかげで、穴を回避できていたセイラが呟くように言った。

 

 するとコアンが、キッ! と睨めつけ、どうしてそんな事が判るの! と怒鳴りつけた。

 無責任な事を言うな! と全身に怒気が漲る。


 しかしセイラは特に気にもせず落ち着いてそれを指さした。

 するとコアンが目を丸くさせ、あ……と細い声で呟いた。


「これは主様のお創りになられた――」

「そや、鴉やな。全くこんな簡単なことにも気がつかない程パニックに陥ってたん? 情けないわ」


「な! なんだと!」


 片目を半眼にさせ、呆れたように口にするカラーナにコアンが噛み付いた。

 だがすぐに顔を曇らせ俯いてしまう。

 ふがいない自分を悔いているのかもしれない。


「コアン。シャドウが心配なのは判るがとにかく今は無事なのは確かだ。それよりこの鴉が何かを訴えてるようにも思えるのだが、それが何かコアンならわかるのではないか?」


 アンジェの言葉で俯いていたコアンが顔を上げる。

 思い出したような表情であり、天井で何かを描くように羽ばたき続ける鴉をみやった。


「地下へ――無事――どこかで、そうか……」


「なんや? ボスやメリッサは無事なんか? 大丈夫やとは思うとるけど……」


「……主様も他の皆も無事だそうだ。どうやら地下の階層に繋がっていただけらしい。主様は主様で他の皆と探索を続けるから、こっちも先に進んでくれと……おそらく他にも地下に繋がる道はあるはずだから移動を続けていればどこかで合流できるだろうと……」


「なるほどな。意外と冷静やなシャドウ。まぁでも皆無事で取り敢えず良かったわ」


 コアンから話を聞きカラーナは安堵の表情を浮かべる。

 

「まぁヒットの事だ。私達よりもしっかりしている事だろう。しかしそれならば我々も先を急ぐべきだ。下へと繋がる道を見つけ早く合流しないとな」


「……普通にいくなら、階段かも」

「クゥ~ン」


 セイラの言葉にカラーナが、そやな、と頷く。


「とにかくそうと決まれば善は急げだ! ほらお前たちグズグズするな! はやく主様を探さねば!」


「さっきまであんだけ取り乱しとったのに現金な子やな」


 う、うるさい! と語気を荒らげつつ、コアンはすたすたと先を急ぎだす。


「ちょい勝手に一人で進むなや! 全くなんやねん!」


 カラーナもぶつくさ言いながらもコアンの後を追った。

 その姿にアンジェは眉を落とし、若干このメンバーで進むことの不安を覚えながらもセイラと共に後に続く――






◇◆◇


「いつつ――」

「ご、ご主人様大丈夫ですか!?」


 俺のお腹の上でメリッサが上半身を起こし、案じるように声を上げる。

 穴に落ちた俺は直ぐにメリッサを胸元に引き寄せ、抱きしめたまま床に落下した。

 衝撃が背中を突き抜けたが、俺自身かなり丈夫になっているおかげかそこまでのダメージはない。


 ただ、目の前で揺れる大きな果実は俺に別な意味でダメージを与えてくる。

 ドレスの露出度が高いのも考えものだな……


「だ、大丈夫だメリッサ。大したことはない」


 頬を掻きつつそう応えるとメリッサがほっと胸を撫で下ろした。

 その所為でも揺れるんだよなそれ――


「全くいつまでイチャイチャしてるつもりにゃん?」


 ニャーコの呆れたような声が降ってきた。

 声の方をみやると、腕を組み直立して俺たちを見下ろす猫耳娘の姿。

 

 思わずぱっ! とメリッサが離れ立ち上がり、俺も徐ろに腰を上げる。

 

「にゃ、ニャーコも落ちたのか」

「うんにゃ。油断したにゃん。でもヒットと違って華麗に着地したにゃんが」


 仕方ないだろ、俺はメリッサを抱きかかえていたんだから。


「まぁなにはともあれ皆さん無事でよかった」


 立ち上がり横を見るとシャドウが微笑を浮かべながら立っていた。

 

「シャドウも落ちたのか……でもコアンは?」


「彼女は上ですよ。思わず落ちる前に皆に向けて突き飛ばしてしまいましてね」


 笑いながらシャドウがそんな事を言った。

 どうやらシャドウにとってもコアンは大事な存在……まぁ恋愛対象という事はないだろうが、家族として大事に想っているのかもしれない。

 だからこそ咄嗟に手が出たのだろう。


「それにしてもシャドウ、あんまり怪我とかしてなさそうだな?」

「えぇ私は咄嗟にスキルでクッションを敷きましたから」


 そのスキル結構便利だな……


「それなら俺達も助けてくれればよかったのに」


 大して気にもしてないが、それでもなんとなく癪だったのでちょっとだけ文句を述べる。


「ヒット様ならば私の力など必要ないと思いますし、それに――ちょっとこれまでの魔力の使用量が多いせいかそこまで余裕はなかったというのもあります」

「あぁそういえばシャドウナイトも馬車近くで守らせてるんだもんな」

「それもありますが、他にも鴉を残してたりもしますしね」


 鴉? と尋ねるとさっき道を決めるときに創りだした鴉がそのままであることを教えてくれた。

 そしてそれで今から上のコアンに簡易メッセージを送ることも。


 どうやら予め鴉の動きで伝言できるようにコアンに教えてあったようだ。

 で、これからどうするかだが、やはり先に進むしかないといったところか。

 幸いどこかに閉じ込められたといったような事もなく、ただ下の階に落下しただけのようだしな。

 

 どこまで落ちたかは判断が難しいが――ただ俺達が落ちた穴を見上げると天辺はそれなりに高い。

 どうやらあいた穴は、追い掛け回してきた大岩で塞がれてしまったようでもある。

 つまりどちらにしても登るという選択肢はない。

 

 今いる場所は、穴の影響で一部の天井に口が開いているという以外は上と構造はほぼ一緒だ。

 天井はこの階の方が少し高いかな? ぐらいだ。壁が光ってるのも一緒なので視界には不自由もしない。


「取り敢えずはやっぱ進むしかないな」


「そうですね。上のメンバーにもコアンを通してとりあえず別々で行動して後で合流しようという意図は伝わってる筈ですし」


 現状はそれが一番だろうな。まさか下に繋がる道がこの落とし穴だけってことはないだろうし。


 なので先に進もうと思うが、落ちた先からは道は前後に貫いていてどっちに行くかを選ぶ必要があるな。


「シャドウクラフト・ドッグ」

 

 するとシャドウがスキルを使用し影で出来た犬を現出させた。


「これに様子を探らせながら先に進むとしましょう」


「助かるな。しかし本当に便利だなシャドウのそれ」


「まぁそうなのですが、ただ先程も申したように既に結構使用してしまってますので、この状態だとあまり多くを創るのは難しいですね」


 肩を竦めながらシャドウが応えた。

 魔力量の問題ってところか。


「何か現れた時は私が鑑定を」

「そうだな頼りにしてるよメリッサ」


 俺の言葉にメリッサが頬に手を添え嬉しがる。

 

「なんか見てられないにゃんね……」


 ジト目でニャーコが呟きつつも、とりあえず影犬に先を進ませ前をニャーコが歩きその後に俺たちが続くが――


「キャン!」


「……貫かれたな」

「はいご主人様……」

「串刺しにゃん」

「ははっ……まぁでも先に進ませておいてよかったですね」


 先を歩いていた影が左右の壁から飛び出た槍に突き刺されてしまった。

 当然影は消えたが――あんなもの喰らっていたらと思うと肝が冷える。


「それにしても影でも鳴くんだな」

「創るときにある程度その辺は融通が聞きますからね。鳴き声を上げるようにした方が何かあった時に判りやすいですから」


 あぁ確かにそうか。それにシャドウはアンジェに自分の声を届けたこともあるようだしな。


 とは言え、槍が出ると判ってる道を進む気にもなれないので、再びシャドウに犬を創ってもらい踵を返し逆方向を歩き続ける。


 とりあえずこっちの道ではすぐに槍が貫かれるという事はなかった。

 そのまま道を歩き続けると今度は道が十字路に分かれている。


 その交差点に先に犬が到達したが――その瞬間何本もの矢が胴体を直撃し影で創られた犬は霧散した。


 その為に創られたとはいえよくやられるな――しかし。


「わ、罠でしょうか?」

「いや、違うぽいな」

「何か聞こえるにゃん」

「えぇ、まぁ恐らく」


 ガシャン、ガシャン、と耳障りな音を奏でながら近づいてくる存在がいた。

 音の感じから鉄の何かを着ているような雰囲気。

 

 そして先ほどまで犬が様子を見ていたあたりにそれが姿を見せた。


「あれは――スケルトンか……」


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