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異世界のキャンセラー~俺が不遇な人生も纏めてキャンセルしてやる!~  作者: 空地 大乃
第一部 異世界での洗礼編

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第152話 結界の能力

 俺は相手との距離を一気に詰めようと前に出る。

 ステップキャンセルで瞬時に移動も考えたが、相手の結界の能力の事もあって取り敢えず様子見だ。


 だが、思ったより早く思わぬ障害にぶち当たることになる。

 奴との距離は残る一〇数歩分といったところだが、そこで見えない壁が行く手を阻んだからだ。

 

 恐らくこれがプリズムウォールによる結界の壁の効果なのだろう。

 しかし不可視というのは予想以上に厄介だな。

 

「ご主人様! その壁は全部で三つ展開されてます! 高さはご主人様の倍、幅は四メートル程度です! 位置は――」


 背後から発せられたメリッサの声。メリッサは俺が直前に出した指示通り、今の位置から動いてはいないようだ。

 

 それにしても……そうか、メリッサは擬態する魔物も見破れたし、そもそも北門の結界だってメリッサの力で詳細がつかめたんだ。

 相手のスキルだけなら本人を鑑定するより時間も掛からないし――ここはやはりメリッサがいてくれて助かったというべきだろう。


「……ほう? どうやら中々すぐれた鑑定能力を持っているようだな。ますます興味が湧いたぞ」


 メリッサを一瞥しながらアルキフォンスが感心したように言う。

 勿論、みすみすメリッサを奪われる気なんて毛頭ないがな。


「だが、だからとどうという事もないがな。例え知られたとしても貴様らにはどうすることも出来まい」


 そこまで言って、奴がいよいよ動きをみせる。杖を前に出し意識を集中させるようにし――


「永久なる戦場を駆ける戦馬車よ、その輪廻は四輪の焔なり――」


 この詠唱は確か炎の最上級の、流石にこれを使用されるのはまずいか。

 メリッサが教えてくれたおかげで壁の位置は判ってる。

 だから俺は横に飛び出しつつ、奴に向かってキャンセルを掛けた。

 詠唱途中なら通常のキャンセルでいけるはず、そう思ったのだが……



「回れ回れ戦士を乗せて、振るえ振るえ朱き鞭を、赤熱たる馬よ引け、焔の鬣靡かせて、戦場駆け抜け全てを燃やせ――【ファイアリィチャリオット】!」


 奴の詠唱は中断されることなく最後まで紡がれた。

 俺のキャンセルが効かないって事か? どうして、と考えてる場合でもない。

 

 奴を正面に捉え、魔法が発動されるのを待つが。


「ご主人様! 横の壁です!」

「何!?」


 メリッサからの注意を呼びかける声に、俺は首を巡らせた。

 アルキフォンスの設置した不可視の壁は正面だけでなく、俺からみて右側の奥にも設置されていた。

 なんでそんなところにと思ったが、俺が目を向けるのとほぼ同時に炎の戦車が猛進してくる。

 戦車といっても近代タイプではなく、馬車が引くタイプのもので、四頭の炎の馬が同じく人型をした炎の御者を乗せた車を引き突撃してくるタイプ。


 勿論こんなものに轢かれでもしたらたまったものではないし、更に御者は御者で炎の鞭で攻撃してくる。


 とにかく俺は、最初の突撃をステップキャンセルで移動し避けた。

 炎の戦車は当然、車輪も炎で出来ており、俺が躱すとすぐに転回し、床に二本、赤熱のラインを刻みながら更に俺を追撃してくる。


 ファイアリィチャリオットは込める魔力で馬の数が変化する魔法だったな。

 勿論馬の数が多いほど威力が高く最少は一頭。


 しかしその最少の一頭だったとしても鋼鉄を瞬時に溶かす程の熱を持ち、巨岩を破壊する突撃力を有している。


 それが四頭ともなると俺の装備でもまともに喰らえばアウトだな、仕方ない。

 俺は迫り来る炎の馬車を見据え、それに向かってマジックキャンセルを使用する。

 コンマ数秒判断が遅れていれば、俺は全身を焼かれながら吹っ飛んでいたことだろうが、マジックキャンセルの効果で、見事炎の馬車は消滅した。


 だが――厄介なことにこの魔法一つで再使用までに課せられたリスクは二〇分。

 範囲効果をつければ別スキル扱いで再度使用可能だが、正直あまり無駄撃ちは出来ないな。


 範囲効果はチャージキャンセル、マジックキャンセル、スキルキャンセルの三つのスキルに付ける事が可能。

 残りはスキルキャンセル分として単独と範囲、マジックキャンセルとチャージキャンセルで範囲分が一度ずつか……

 

「魔法が、消えただと? そうか、これがガイドの言っていたという妙な力か」


 灰色の目が俺を捉え、表情が変わる。

 今さっきまで、俺のことを他愛もない相手と見縊っていたんだろうがな。

 魔族だからと少々調子に乗りすぎだ。


「ご主人様――その、その男は今、プリズムコートの力で加護されております! ですから……」


 メリッサが奴の状態を教えてくれた。ただ、声はどことなく力がない。

 不安が滲み出ている感じだ。


 プリズムコート……確かまとっている間は一切の攻撃を受け付けないんだったな。

 そうか、それで俺のキャンセルが効かなかったと――チッ、流石にやっかいすぎる。

 

 はっきりいえば、その効力が効いている間は完全に無敵って事だろ――メリッサが不安がるのも判るってものか。


「ふふっ、どうした? 顔色が悪いぞ? まぁ当然か。その女の言うとおり、この能力で守られている限り私は無敵だからな」


 お前ほど顔色は悪くない、とでも返したい気分だが……しかし、気になるな。何故こいつはそんな能力を持っているのに壁まで作っている?

 

 壁を通してのさっきの魔法は、魔道結界というスキルによるものなのだろう。

 つまり奴は魔法を壁を通して発動することが可能。

 だから前だけでなく横にも設置し、死角からの攻撃も可能としている。

 その為の壁、いや、だとしてもだ。


「……とりあえず、やれることはやっておくか」

「させはしないさ――」


「!? ご主人様お気をつけ下さい! 三つの壁で正面と左右は防がれております!」


「何!?」


 ちっ! 後ろか上かの二択か! 


「闇に染まる飛膜、研ぎ澄まし鋭牙、顕現たれ暗夜の支配者――」


 そして奴はもう詠唱を終わらせている。これは確か闇の初級魔法、蝙蝠を生み出し襲わせ、血ではなく魔力を奪う。


 俺は仕方ないと一旦後ろに下がって様子を見ることに。

 するとニヤリと奴の口角が吊り上がり。


「馬鹿め!」


 俺に向けて突きつけられる杖。荒ぶる声が耳に届き、かと思えば俺の身体は何かによって囲まれた――


「ふふっ、閉じ込めたぞ。これで終わりだ!」

 

 俺はその不可視の檻から出ようと剣で斬りつけてみるが、どうにもビクともしない。

 さっきの壁とは違い、丁度俺が収まるぐらいの箱に入れられてしまったかのような感覚。


 これが恐らくプリズンキューブ……相手を閉じ込める為の結界のスキル。


 そして奴の口が開き、杖が掲げられ詠唱が紡がれた。魔道結界はこの檻の中でも効果が発動されるという事か――


「滅熱の時、破壊の動悸、爆轟は赫灼と共に、千度の熱、万度の熱、爆殺の認、爆砕の印、今こそ荒れ狂う灼爆を持って、全てを消し去れ――」

『炎が生まれた、この手に生まれた、それは強大の炎、一つ一つが猛々しく、更に集まり大地をも貪り尽くす。さぁ立ち上れ、煉獄より猛る炎柱よ!』


 しかもスペルマスターのスキル【ダブルスペル】と来たものだ。

 これは二つの詠唱を重ねるように行い、別々の魔法の効果を同時に発動させる――


「【エクスプロージョン】『【メガフレイドル】』」

 

 アルキフォンスの魔法を発動する言葉が二つ重なり、その瞬間俺の視界が紅蓮色に染まった。

 爆轟と共に炎が渦を巻き、轟々と天井に向け吹き上がる――


「そんな――ご主人様ーーーー!」


「ふふっ、終わりだ。この炎の中生きている筈もない。まぁ本当は女をあの男の見てる前で奪ってやりたかったがな」

「いや、てか勝手に殺すなよ」


 何!? というアルキフォンスの声。 

 全く、派手な魔法を使いやがるから床も天井も黒焦げで、煙もやたら立ち込めてるから、俺が無事であることに気がつかなくても判らないでもないがな。


 しかしメリッサが無事でよかった。

 上級魔法のエクスプロージョンは、指定した位置を中心に範囲爆発を引き起こすからな。

 たく、メリッサに何かあったらどうする気なんだ。

 まぁキャンセルトラップがあるからそれは平気なんだけどな。

 

 しかし……煙がはれてきたから、メリッサの方を確認してみたが、トラップの数は減っていないようだ。

 メリッサを奪うなんてふざけたことを言っている男だが、それが本気故か、メリッサに影響が及ばないよう調節はしていたようだな。


 そしてメガフレイドル――これは本来ファイヤーボールのように火炎弾を発射し、着弾した時点で巨大な火柱を引き起こすというもの。

 魔道結界の効果で火柱を引き起こす弾丸は瞬時に着弾した形だけどな。

 この魔法は最上級だけに威力は絶大。

 当然喰らってたら今頃消し炭だっただろうが。


「……貴様一体何をした?」

「そんな事を敵にわざわざ教える馬鹿はいないだろ?」


 俺がそう告げると、ギリッと歯噛みし、眉間に皺が寄る。

 随分と悔しがってるな。よほど今の攻撃に自信があったというところか。


「よかったご主人様……本当に――」


 メリッサが涙まじりの声で、俺が無事であることに安堵してくれている。

 まぁあの魔法を見れば、危ないと思うのも当然か。


 実際は対応策はふたつあったがな。その内の一つはスキルキャンセルを使用し結界の檻そのものを消す方法。

 ただこれだと、相手がその事にすぐに気がついてしまう可能性があったからな。

 

 寧ろ結界で動きを封じられた状態から、どういうふうに攻撃が展開されるかを見ておきたかったわけで、だからもう一つの方法で回避した。

 スペシャルスキルのキャンセルアーマーを三秒間だけ展開する形でな。

 奴の仕掛けてきた炎魔法は爆発に火柱。この組み合わせは威力は絶大だが、攻撃の効果事態はすぐに終わる。

 だから三秒で十分と踏んだ。

 それでも三十分間は再使用不可だけどな。


「チッ――」


 奴が舌打ち混じりに俺を睨めつけてくる。

 そして――


「ご主人様! 今度は壁を前に集中して設置してきました」

「そうか、数は?」

「三つです!」


 ……なるほど。どうやら壁は三つまでしか設置できないようだな。

 

「……女、少々面倒だな、暗に閉じよその眼は闇なり、闇に暮れ闇に惑え深淵を彷徨いたまへ――ダークブラインド!」


「きゃっ!」

「メリッサ!」


 俺は思わず彼女を振り返る。今のは闇の初級魔法【ダークブラインド】か!

 くそっ! トラップがあるからと油断したか。


「大丈夫かメリッサ!」

「は、はい身体は。ですが目の前が真っ暗で――」


 ……やはりこの効果か。ダークブラインドは指定した相手の視界を暗く染める。

 しかも相手を指定するタイプだけに、キャンセルトラップでは防ぐことが出来ない。


「……メリッサを気に入ったと言っていた割に、随分な真似をしてくれるな」


「ふん、ただ視界を奪っただけだ。効果だってその内切れる。尤も切れるまで貴様を生かしておくつもりもないがな」


 ……確かにメリッサの身に危害が及ばなかっただけましと見るべきかもしれないが、サポートなしとなるとちょっと面倒だな――

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