3章 第90話 水族館デートは定番だけど悪く無い
今日はちょっと遠出をして、隣の県まで足を伸ばしてみた。真君と2人で電車に乗って移動。地元には無い、そこそこ大きい水族館に来てみました。
久し振りだなぁ水族館なんて。もう何年も来ていない。覚えてる限りだと、小学生の時が最後かな。
「やっぱ土日は人が多いな」
「わざと夏休みを外したのにね」
そう、最初は夏休みに行こうと考えた。でも家族連れが多いだろうし、ゆっくり観れないのも嫌なのでわざとズラした。だからピークは過ぎている筈なんだけど、中々の盛況振りだった。
「ま、見れなくもないか」
「私は背が低いから、ちょっと大変かも」
「肩車しようか?」
「目立つからノー!」
それは流石に恥ずかしいのでパスします。水族館に来たからって、はしゃいでる妹みたいになっちゃう。とんだ羞恥プレイだよ、高校生にもなってそれは少々キツイ。
2人きりの浜辺で、夕日を浴びながら〜とかだったら良いかもだけど。公の場ではちょっと出来ないよね。
「なら前の方に行こうか」
「そうだね」
「鏡花、手を離すなよ」
ピークでは無いと言っても、それなりの人混みになっている。はぐれない様にしっかりと手を繋いで歩く。私はおチビだから、簡単に人の群に埋もれてしまう。
流れに呑まれない様に、真君の後について行く。暫しの行軍の末、何とか巨大な水槽の前まで抜け出す事が出来た。
「へぇ、これは凄いな」
「綺麗だね〜。あ、エイだ」
エイの裏側と言うか、口の所って何か可愛いよね。簡単に描いた顔みたいって言うか。エイ本来の顔は、結構怖いけどね。
尾に毒を持つ種類も居るから、見た目よりは危険な生き物なんだよね。こうしてひらひらと泳いでいる姿は可愛いけど。
「流石デカいな、ジンベイザメ」
「そう言えばここ、ジンベイザメをイメージしたジュースがあるらしいよ」
「そんなの有るのか? 後で探してみるか」
水族館もただ海の生き物を見せるだけじゃ、商売として続かないもんね。何かしらの方法で集客しないといけない。
ペンギンとかイルカみたいな定番だけじゃ、目新しさが足りなくなるんだろうね。ラッコやアザラシの赤ちゃんをSNSでアップしてたりもするよね。
水族館勤務の飼育員って何となく憧れがあるけど、実際になったらそれはもう大変に違いない。餌やりとか健康管理とか。
「お、見ろよ鏡花。厳ついサメだな」
「名前は、シロワニだって。え!? 絶滅危惧種なんだ」
「そうなのか? 何処にでも居そうな見た目なのにな」
水槽近くのプレートに書かれた説明を2人で読む。絶滅危惧種で、日本でも展示している水族館は限られているらしい。
見た目は普通のサメなのに、かなり珍しい種類みたい。サメって凄く種類が多いから、知らないサメが沢山居る。
趣味でサメ映画を観る事はあるけど、そこまで詳しくはない。全世界だと数百種類にも及び、日本近海だけでも100種類以上居るらしい。
海洋生物学者を目指しては居ないので、せいぜい数種類しか知らない。知っているのは映画で観た幾つかだけ。
「そう言えば、何か今サメの映画やってたよな? 面白そうな奴」
「え!? 真君も『メガロドンVSメガオルカ』に興味あるの!? アレはね、メガロドンVSシリーズの3作目なんだけど、いつも目茶苦茶な内容が逆に笑えるって言うか、急に俳優さんが銛1本で戦い出したりしてね」
「お、おう。鏡花、もしかして好きなのか? あの映画」
「ぁ゙っ!? う、うん」
し、しまったぁぁぁぁぁぁぁ!? オタク特有の早口トークをやってしまった! ネットで話題だったから観てみたら、案外面白くてハマってしまったんだよ。
元々はサメ映画にそれほど興味無かったんだけど、あれ以来色んなサメ映画を観た。今では結構好きな部類だ。ただ、女の子らしい趣味じゃないよね。
「か、可愛くないよね。サメ映画好きなんて……」
「そんなの気にするなよ。鏡花が好きなんだったら観に行こう」
「ほ、本当に!? 良いの!?」
「ああ。俺も気になってたしな」
や、やったー!! 仲間が増えたよ! カナちゃんも麻衣も興味が無いから、これまで1人で観に行ってた。でもこれからは、ソロじゃないんだ!
いや、待って。まだサメ映画そのものに興味があるか分からない。今回だけかも知れない。ここは先ず、日本でだけ何故かウケた『シャークハリケーン』シリーズから布教するのが先では無かろうか。そして一緒に沼ろう、サメ映画沼に!
「好きな物なら何でも教えてくれ。俺も知りたいから」
「あ、ありがとう」
神じゃ!! 神が居られる!! オタクに優しい彼氏の鑑!! マニアックな趣味にも引かず、寛容で理解のある男子!!
素晴らしい! ブラボー! 好き!! これから毎日真君の家の方に向かって祈らなきゃ。ありがたやありがたや。
「な、何で急に拝むんだよ」
「いやーあはは。何でもないよ」
その後も水槽を泳ぐ魚達を見たり、イルカショーを観に行ったりして水族館を満喫した。デフォルメされた可愛いサメのアクリルキーホルダーを、2人で買ってお揃いにしたり。
今までに無かった楽しい経験を沢山出来た。来年には新しく産まれるアザラシの子供が披露されるらしいので、また一緒に観に来る約束もした。
「また来年も来ような」
「うん!」
楽しい休日を堪能した私達は、その余韻を味わいながら帰路に着いた。次またここに来るその日に、思いを馳せながら。




