2章 第77話 夏の水着イベント
夏休みに突入してそれなりに経った頃、俺達は海水浴に来ていた。幸いな事に山も海もある都道府県に住んで居るので、レジャーに困る事はない。その代わり、都会と言える程の華やかさも無いのだが。
しかしそんな事、今はどうでも良い。遂に鏡花の水着姿を見れるのだ、それ以外の些末なアレコレなんて用はない。
既に裸を見たから今更水着姿なんて、そんな風に考えるのは浅はかだ。また違った良さがあるのだ。
着る物の違いによって、美しさや可愛さは違って来る。早い話、目茶苦茶楽しみだった。
「何そわそわしてんだよ真」
「別にそわそわなんてしてないだろ」
「いや、してるよ葉山」
いつもの男子メンバーである真と翔太に恭二と、体育会系3人衆は女性陣をビーチで待っていた。
7月のギラつく日差しの下で、ハーフパンツタイプの水着に着替えた男子達。一番背の高い恭二は、普段体育館を使うバレー部故に、厳つい顔の割に肌は白い。
170cmにギリギリ届かない翔太は、可愛い系だが屋外で競うラクロス部なので日焼けが目立つ。バイトで肉体労働をしていた真もまた、そこそこに日焼けの跡が見受けられた。
長身でワイルド系、同じく長身の美形、そして見た目だけなら可愛い系の男子。3人が3人共、引き締まった体をしているのも合わさり、海水浴に来た女性達の注目を集めていた。
そこに更に目立つ美少女3人と、見事なまでに背景に馴染む3人、そして華やかな2人の美女が追加される。
言うまでもなく小春達美少女3人と、鏡花達モブ女子3人組の女子高生6人。そして引率係で保護者代わりの沙耶香と涼香の大人組である。
この人数で海水浴ともなれば、車での移動は必須。GWの時とほぼ同じメンツになるのは当然だった。
「やあやあ男子諸君、荷物の運搬は終わったかな?」
「ああ。車のキー返すよ」
着替えに大した時間も掛からず体力も力もある男子3人は、予め荷物の運搬をこなしていた。
男女9人の大所帯で、その内6人が女性だ。荷物の量はそれなりにあったが、この3人にとっては朝飯前。
これと言ったトラブルも無く、レジャーシートとパラソルの設置は恙無く済んでいる。
「ほれほれ〜どうよ?」
「今更小春達の水着姿を見てもなぁ」
「これやから葉山はアカンねん。彼女やのうても褒めるんが常識やろ」
「デリカシーが無いわね」
昔から知ってる小春と友香の水着姿なんて見慣れているし、モデルの水樹は雑誌で散々見た。今となっては新鮮味もクソも無い。
3人共スタイルが良いのは分かって居るし、変に褒めたら誂われるのが目に見えている。ノータッチで居るのが一番マシだ。
「大体、それなら翔太と恭二だって……」
俺だけじゃないだろうがと見回してみれば、2人はそれぞれ結城さんと小日向さんに話し掛けている。
に、逃げやがった……俺は生贄かよ。あいつ等あとで覚えておけよ。面倒事を押し付けやがって。
「ま、アンタの本命はこっちだもんね」
その言葉と共に、3人の背後に隠れる様に着いて来ていた鏡花が披露される。容姿端麗な3人に比べたら、華やかさに欠けるかも知れない。
だけど、そんな事は気にならない。どんな美人が現れようとも、この女の子より魅力的に感じる事はない。そう自信を持って断言出来る自分の彼女がそこに居た。
「あの……どう、かな?」
水着と言う肌を露出する着衣ながらも、清楚な空気感を演出する真っ白な水着。下は腰から足首辺りまであるパレオ。
トップスは谷間の見えない前面を覆う形だが、よく見ると脇の辺りから背中はしっかり露出している。
水着姿よりも先に裸を見てしまって居ても、こうして見る細い腰はまた違う魅力があった。ハッキリ言って、凄く可愛い。
「そう、だな。良く似合ってると思う」
「ほ、ほんと!?」
「ああ。お世辞じゃないくて、本当に良いと思う」
「お触りは禁止やで。見るだけや」
言われ無くても分かってるよ。こんな公の場でそんな事するかよ。こうして鏡花の水着姿を見れただけで満足だ。後は楽しい思い出が出来れば十分。
せっかくの海水浴なんだから、皆で楽しまないと…………結城さんデカくない!? 制服姿でも多少は思っていたけど、こうして水着姿になると大きさが目立つ。まさか、さや姉を遥かに凌ぐ大きさとは思わなかっ
「痛たたたたたたたたた」
「そんなにカナちゃんが気になるかな?」
「ち、ちがっ、そんなつもりは」
悪気があったんじゃない。チラっと視界に入った、大きな胸につい視線が吸い寄せられただけで。
今までに見た事がないサイズだったから、流石に驚いただけだ。決して大きな胸が好きとか、そう言うアレじゃない。
ジットリとした目で見上げてくる鏡花に、手の甲をギリギリと抓られている。違うんだよ、誤解なんだ勘違いしないでくれ。
あと翔太、何で今俺の脛を蹴ったんだ。軽くとは言え痛いのには変わらないぞ。
「やっぱり、真君も大きいのが好きなんだ」
「違うから! そうじゃないから! 俺は普通が良いから!!」
拗ねてしまった鏡花を宥めるのには、中々に苦労させられた。彼女と居るのに別の女性を見てしまった男に、自分がなるとは思わなかった。
不届きな輩だと断じていた事は謝ります。見事に俺もそうなりました。理屈ではないと、こうして学びを得ました。
「そ、それで、日焼け止めはどこに?」
「え? 日焼け止め?」
「手の届かない所は、彼氏が塗るんじゃないのか?」
良く見る展開だし、参考にしている恋愛指南本にも書かれていた。不快感を与えない塗り方については、事前にしっかり勉強して来た。
こちらの準備は万端だ、いつでも言ってくれ。しっかり役目を果たして見せる。
「これだけ女性が居るんだから、皆で塗ったよ」
「……あっ!」
「もう、やっぱり真君はエッチだよ」
あの恋愛指南本、もう捨てよう。




