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2章 第67話 ある意味一番楽しい時期

「じゃ、じゃあお借りします」


「好きに使ってくれたら良いから。タオルはここで」


 朝から色んな自宅で出来るトレーニングを(まこと)君に教えて貰った。お昼はせっかくだからと、近所にある彼オススメの飲食店に食べに行く事になった。

 それならお互い、汗を流した方が良いとなるのは理解出来る。


 改めて現状を確認してみよう。休みの日に彼氏の自宅に来て、今からシャワーをする。そこだけ見たらわりとあるシチュエーションかも知れない。

 しかし、この家は少々普通ではない。芸能人の、有名な大女優さんが住む家でもある。両親が殆ど帰って来ない、実質真君の一人暮らし状態とは言え。

 そんな空間でモブ選手権日本代表みたいな私が、お風呂場を借りるなんて恐れ多いにも程があるのでは?

 でも同時に、私の様な一般人が汗も流さずこの家を歩くのも、それはそれで失礼な気もする。天秤にかけるとギリギリの僅差で後者に傾いた。


 でもやっぱり、恐れ多いと言う感覚は消えない。どうすればこの場を切り抜けられるだろうか。…………そうだ、真君が利用しているついで、オマケみたいな感じで隅っこに居れば良いのでは?

 それなら、まだ何とかなる気がする。私はオマケ、真君のオマケだからね。背景に溶け込もう。壁のシミとして存在させて貰おう。


「真君も一緒に入ろうよ」


「はぁっ!? な、何を言ってるんだよ鏡花(きょうか)! ダメだろそんなの」


「え、だ、ダメかな? 私は端っこに居るから」


「何でだよ!? 洗おうよ!? ……良いからほら、先に使ってくれ。俺はリビングに居るから」


 残念ながら断られてしまった。今や洗面所には私しか居ない。もう私はついでです作戦は使えない。

 1人で入る以外の道を絶たれてしまった。それにしても、あんなに拒否するなんて一体何が………………あ゙っ。


(しまったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?)


 芸能人の家で、お風呂場を借りると言う点ばかりに気を取られて、またやらかしてしまった。

 自分の体に自信はなくとも、彼が望むなら見られても構わない。そんな風に思っていたからか、うっかり自分からお風呂に誘ってしまった。

 これじゃあ、恥知らずの発情期みたいじゃないか。変態さんだよ、誰が望むんだよそんな私。

 そんなつもりじゃ無かったのに、とんでもない誤解を招いたかも知れない。はぁ……後でちゃんと誤解を解かないと。


 一緒にお風呂も、それはそれで良いとは思う。だけどそれはまだ早いって言うか。一度もそう言う関係になっていないのに、いきなりから色々とすっ飛ばすのも良くない。

 心の準備とかも必要だし。まあ、正しい恋人との進展と順序とか、全然分からないんだけど。


 ともあれこの場は仕方ない。これ以上悩んでいても、時間の無駄。恐れ多くとも、使わせて頂こう。し、失礼致します。

 意を決して裸になった私は、真君の家のお風呂場に入る。流石と言うか、自分の家と違って目茶苦茶広い。

 ちょっとした温泉とか、ホテルのお風呂みたいな感じ。デザインも凝られていて、和洋のバランスが絶妙だった。


 これがお金持ちのお風呂……凄いと言う在り来りな言葉しか浮かばない。家の中も当然豪華でオシャレだったけど、一般的な日本人としてはこのお風呂場が一番衝撃的だ。

 綺麗なブルーのタイルと大きな鏡は洋風だけど、浴槽は純日本風な木製の湯船。あれは、多分檜風呂ってやつだよね。

 お高いやつに違いない。間違っても入らないぞ。そもそもシャワーするだけだからね、湯船は張られていない。

 ただちょっとだけ気になるのは、あのお風呂も自動でお湯はりされるかどうか。それらしいパネルが湯船近くの壁にある。物凄く見覚えのあるメーカーの名前が書かれている。


「檜風呂も全自動なんだ……」


 ショックとまでは言わないけれど、何となく抱いていたイメージが崩れた気がする。

 庶民が持つ漠然としたお金持ちと日本の文化みたいな、そんな想像の世界とちょっと違った。

 そんな事を言い出せば、お城にエレベーターが設置されてたりするんだから、今更な話でもあるんだけれど。


「あ、いけない真君が待ってるんだ」


 つい身近な人の住む豪邸の、お高いだろうお風呂場に見入り過ぎた。さっさと汗を流して家主に変わらないと。

 そう思って、何となくスポンジを手にしようとした時だった。


(これ、真君がいつも使ってるんだよね?)


 い、良いのだろうか。これを私が使ってしまっても。いやいやいや、ダメじゃない? 幾ら何でもそれはダメだよね。

 同棲とか結婚とかしたらそうなるかもだけど、まだそこまでの関係ではないし。同じシャンプーやボディソープを使うのとは、わけが違うと思う。

 いつも真君が体を洗うのに使うスポンジを私が? それは何処か惹かれる所もありつつも、いけない事をする様な背徳感がある。


「手、私の手で十分だよね! うん、そうだよね」


 結構体が柔らかい方だから、背中だって素手で行ける。これで問題は解決…………スポンジ使って無かったら、洗ってないとか思われる?

 この後、真君もシャワーするよね? 必然的に分かるのではないだろうか。なら、濡らすだけ濡らしておく方が良い?

 でもそれなら、同じの使ったと思われない? 正解はどっちなんだよ〜〜!? 誰か教えて下さい!


 結局悩みに悩んだ鏡花は、体を洗って居ない女と思われるのを嫌った。使った風を装い、素手で体を洗う道を選んだ。

 そのお陰で真は、鏡花もこれ使ったんだよなと、誤解し悩む事になる。そんな事になっていると鏡花は知らないし、鏡花がこんな葛藤をしていた事を真は知らない。

 何処か似ていても、毎度どこかで微妙にすれ違う2人だった。

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