【別視点】 シャルティア② 大脱走
私たちは月光の案内で迷路のような通路を進んでいた。
「ねぇ本当にこっちであってるの?」
『黙ってついて来いばか』
(こいつ)
相変わらず筆談を続ける月光を睨みながらも、方向がわからないので仕方なくついて行いく。
ここは大人しくしておいて、外に出たらその仮面を引きはがしてくれよう。くっくっくっ。
しばらく進むと私たちが入っていたような牢屋が並んでいるところに出た。そこには沢山の人が囚われていた。
「これほどとは···」
アルスはひどく悲しい顔をしていた。そんなことを構いもせずに、月光がまた筆談を始めた。
『この先にあなたが探している人がいる』
「ありがとう。早く何とかしなければいけないわね···」
囚われた人たちがアルスに気づいて助けを求めてきた。そのうちの一人が大声をあげた。
「アルス様!」
「ラミス!? あなたなんでここに?」
アルスとラミスのやり取りを聞いていて分かったことは、ここはレザリア王国の王城の地下だといことだった。何かの調査をしていて、アルスと連絡が取れなくなり、王城に侵入したところを見つかってしまい、ここに囚われてしまったらしい。
「ご無事で何よりです。アルス様」
「あなたもよラミス。シャルティアさん、こちらの檻を先に壊して頂いても構いませんか?」
「はーい。ちょっと離れててくださいね」
チンチンチンッ!
ガラガラカランカランッ!
「あ、アルス様···この子は···」
「ふふふ。頼もしいでしょ?」
「へへへ」
いつもは周りにルカ様や、焔さんがいて、こうやってちやほやされることがないからすごくうれしい。
ニヤニヤしていたら、月光がまた筆談で何か言おうとしたので全力でその紙を破いてやった。
月光が私を馬鹿にしたポーズをした後、奥に進んでひとつの牢屋を指さしていた。
「アルスさんあそこみたいですよ」
アルスは駆け足でそこに近づいた。月光が指さす牢屋の中には、後ろに手を縛られていて、首には鉄の輪がはめられていた。
「ハウザー···、やはりここに囚われていたのね」
「アルス様···なぜあなたがここに···」
アルスもラミスも同じ理由で囚われてしまっていたようだ。それだけこの場所には秘密が隠されているのかもしれない。
私はすぐに檻を壊した。
「なぜあなたほどの人がここから出られなかったのですか?」
「この首輪のせいです。これに力を奪われてしまって身動きがとれないんです」
あれは見たことがある。狐月さんがドレーヌの屋敷で使用人をしていた時に首に付けていた物と似ている。焔さんが確か神器だと言って若様に伝えていたのを覚えてる。
「壊せるかどうか試してみましょう」
私は持っていた薙刀で破壊を試みようとした瞬間、またしても後頭部を殴られた。
「ちょっと! それ、じみに痛いんだけど!」
『ばかにはまだ早い。首が飛ぶ』
それを見たアルスが自分の首元を押さえていた。
月光に言われるまでもなく、私も知っていた。焔さんが神器を壊すにはそれなりの稽古が必要だと言っていた。あれをいとも簡単に壊す若様が異常らしい。正確な型と動きが出来れば私たちでも破壊は不可能ではないとも言っていた。しかし、今の私にはその技術がない。月光の言う通りだった。
そう思っていたら、月光が腰を落として、帯刀していた刀に手を掛けていた。
「シャルティアさん···これ···」
アルスは月光に渡された紙を見せてきた。そこには「絶対に動くな」と書いてあった。やる気だ。
「は、ハウザーさんでしたっけ。死んでも動かないでください。むしろ動いたら死ぬかも···」
「な、何をする気だ!?」
「いいからハウザー動かないで」
「わ、分かりました···」
そう言ってハウザーは目を閉じた。私とアルスは息をのんで見守った。空気が張り詰めた瞬間「チンッ!」と音が鳴ったと思ったら、月光の腕はすでに上方に伸びきっていて、首輪は綺麗に斬り落とされていた。まったく見えなかった。月光が私にはまだ早いと言っていた意味が分かった。
「すごいな···。感謝する」
「ハウザー、動けそうかしら。今からみんなを開放してここを出ようと思うの」
「問題ありません。首輪が外れたおかげで力が出せそうです」
「ハウザー、こちらは私を助けてくださったシャルティアさんと月光さん? それと私の協力者のラミスです」
ハウザーはその場で感謝を述べていたが、月光が『先を急いだほうがいい』と筆談してきたので、囚人たちを開放することにした。
「あの···、ここには実験場があるはずなのですが、そこにも拐われた子がいるはず
···」
アルスが言いかけた途中で月光が彼女の服の袖を掴み顔を横に振っていた。どうやら手遅れという意味のようだ。
「···そうですか。なら、この件を速やかに終わらせて、せめて亡骸を連れ戻し弔うと致しましょう。いいですでねハウザー」
「仰せのままに」
ハウザーはレザリアの冒険者ギルドのギルドマスタ―だという。その彼の態度を見るとアルスはかなり身分の高い人だという事が分かった。
囚人を全員解放したら、全部で10名ほどが囚われていた。みんな泣きながら感謝していた。これだけの人数を連れながらの脱出はなかなか難しくなりそうだった。
ここから先はハウザーが先頭に立つことになった、私はアルスたちの護衛を任された。月光には後方から全体のサポートをしてもらうことになった。
私たちが移動を始めようとした時に、別の場所から笛の音が響いてきた。私たちが逃げてきた方向からだった。どうやら、私たちが逃げ出したことに気づいたらしい。
「みんな、今から戦闘が始まることになる。すまないが戦える二人には協力してもらうことになりそうだ。それと···」
ハウザーが何か言葉をのみ込もうとしたが、そんな場合ではないと思ったらしく話をつづけた。
「アルス様は何が何でも守ってくれ。この方はいずれこの国の女王になるお方だ」
女王様!? 身分が高いとは思っていたがそれほどとは思わなかった。彼女だけを守ることはもちろんできる。でも他の人は? アルスを守りながら全員を守ることができる? ここにルカ様がいてくれたら何て言うだろう。
そんなことを考えていたら後ろから紙が飛んできた。私はその紙に書かれていた文字を読んで、そのまま紙を丸めて捨てた。迷いはもうなくなっていた。
「さあ行きましょう! 光月旅団の名にかけて全員守ってみせます!」
こうして私たちの大脱走が始まったのだ。




