レン君怒る
テスタを王城に届けてから初めての家族会議が行われた。
「では、恒例の会議を始めます。今回は新しく、マリルとターラが王都に同行することになりました。『コウヅキ』も人数が増えてそろそろ宿での生活も難しくなってきたので、この王都に拠点を作りたいと考えています」
桜火のおかげで旅団員は自由に王都に行き来できるようになったから、光月村からの王都組を増やしたのだ。
「王都のどこかに土地を買って、そこに拠点を建てるのはどうでしょうか?」
「うん。それが無難かもしれないね。みんなでいい土地がないか探してみようか」
ルカからの提案にみんなが同意した。王都は王城を中心に大きく広がっている。王城に近ければ近いほど物価が高くなる。逆に端に行けば行くほど安くなっていた。しかし、その分治安も悪くなっていた。
今回、特別報酬が沢山手に入っているので資金には余裕がある。
「じゃあ数日みんなで王都を回り、手ごろな土地がないか探しに行こう。とりあえず今日は稽古組と、土地探し組にわかれて動こうか」
俺は土地探しに向かう事にした。当然のように狐月がついてきた。珍しく桜火とローラも一緒だった。
「今日は稽古は良かったの?」
「たまにはお兄ちゃんと一緒に出かけたいもん。いつも狐月さんばっかでずるいし」
そうだよ。桜火は元々こういう妹キャラだったじゃないか。最近焔にあてられて戦闘狂になってしまったんじゃないかと心配していたのだ。
ローラさんは一緒に商店街で買い物がしたいとのことだった。現世の料理を覚える為に、食材から一緒に選びたいとの事だった。
「そしたら、今日は王都の端の方にある商店街に行ってみようか、その前にギルドに依頼達成報告だけしに行ってもいいかな?」
「もちろんです」
俺達は最初にギルドに向かうことになった。
ギルドに着くと、いつもの受付にパナメラが立っていた。
「あらレンくんこんにちは。炎帝の森の視察お疲れ様でした。今日はその報告かな?」
「はい。色々ありましたけど無事に終わりました。報酬は王城で直接もらいましたよ」
「それは良かった。はい、これで完了報告の受理はおしまい。評価も反映されてると思うけどギルドカードは更新してく?」
「いや···今日は大丈夫」
どうせレベルは上がってないだろう。見るだけで悲しくなってくる。パナメラと話をしていたら、狐月が何か言いたそうにしていた。
「···あの、若様。私も若様と同じそのカードが欲しいです」
「え? 狐月も冒険者になりたいの?」
「桜火さんも持っているのにずるいです」
(あっ、そういうこと)
俺はパナメラに頼んで狐月の登録手続きをしてもらった。当然嫌な予感しかしなかったが、それは予想外の結果になった。
狐月のギルドカードが完成し、みんなで確認した。
――――――――――――――――――
コゲツ
年齢:18
ランク:E
レベル:???
魔法適正:???
ジョブ適正:上級メイド
???、???、???
所属パーティ:『コウヅキ』
――――――――――――――――――
「え? 何これ? ほとんど『???』じゃん。パナメラさんこれって正常なの?」
「はい···。何度か試したのですがどうしても表示がされなくて、もしかすると、信用保護の魔法が掛けられているかもしれません」
「信用保護?」
信用保護の魔法は、支従関係のある者が主人の情報を守る為に従者に掛ける魔法だ。掛けられた従者は拷問されてもその情報を話すことは出来ない。もちろん、ギルドカードのような情報開示も出来ない。
狐月は元々ドレーヌの従者だった。もしかすると、ドレーヌに信用保護の魔法を掛けられていたのかもしれない。気にしてないといいが。
「わー。若様見てください。私も若様と同じカードが持てました」
(うんよかったねー)
狐月はとても喜んでいた。中身はさほど気にしてなかったようだ。実は狐月の適性を、俺はすごく知りたかった。これまで色々と見てきたが成長の速さと能力が異常だったからだ。特にあのトゥカの攻撃を躱す技術は不可解だった。今回のギルドカードの適正で何か分かると思ったが謎が深まっただけだった。
報告が終わった俺達はギルドを出て、商店街に向かうことにした。
「商店街に行く前にお昼でも食べに行こうか」
「レン様、それなら私、以前レン様がパナメラさんと行ったお魚料理のお店に行ってみたいです」
「えっ!? お、俺は別にいいけど、二人はそれでいいのかなぁ?」
(ローラ、二人の前でその話題はだめだ!)
見なくても分かる。桜火と狐月の殺気がぐんぐん上がっている。
「お、お兄ちゃんが行きたいなら私は別にいいよ」
「わ、私も若様がそれで良いのなら構いません。
(なんだその心の読みにくいアクセントは! 何が正解なんだ!)
「こ、今回はローラの希望だから魚料理の店にしようか」
俺は全力でローラの希望を強調した。店に着くまで俺の気は休まらなかった。店に着いて魚料理が出てくるとようやく二人の機嫌も直ってきた。
「これおいしい! こんなおいしいの食べてたんだ」
(あれ?)
「若様とてもおいしいです。さすがです」
(なにが?)
なぜか言葉に棘を感じるのは気のせいだろうか。ローラだけが純粋に料理を味わっていた。
今日の店はとても落ち着いていた。そのせいで他のお客の会話も耳に入ってきた。その会話の中に『コウヅキ』という言葉が聞こえてきたのが分かった。桜火と狐月も表情が変わった。どうやら二人とも気づいたようだ。
「今日このお店に連れて来てくれるって言ったじゃないですか」
「だから、『光月一家』が急に来れなくなったって言ってるじゃねぇか。しつこいな。とりあえずここの勘定はお前持ちだからな」
「そんなお金もうありません」
「じゃぁ『光月一家』に会えなくても仕方ないな」
「お金はもう渡したじゃないですか!」
「いっぱい持ってたじゃないか、あの金を渡すんならすぐに呼んできてやるよ」
「あのお金はおねぇちゃんが私達の為に預かった大事なお金なの。もう渡せません」
「分かった。それじゃこの話はおしまいだ。おい、行くぞ」
「待ってください!」
話の流れでだいたい理解はできた。俺達の名前を勝手に使った騙りだ。女の子を騙してお金をまきあげているのだろう。
どんな奴でも光月の名を汚す者は許さない。そう思った俺の目の前には料理を一生懸命に見つめるローラの姿しか無かった。
「おい、何なんだお前ら! 邪魔だ! どきな!」
今回は俺が出ようかと思っていたが、桜火と狐月がすでに男達の前に立ちはだかっていた。
「何だいお嬢さんたち俺達にいいことでもしてくれるのかな? でもそっちの変わった格好をしたお嬢さんじゃないと夜の相手は出来ないか。わっはっはっは」
(ばかなやつ)
店の中だから止めようと思ったが遅かった。桜火の蹴りが男の大事なところに炸裂していた。男の体は軽く浮いた。男性諸君、君達ならこの痛み分かるだろう。そう、彼は死んだ。
「て、てめぇ! いきなり何しやがる! ···お、おい、お前それって···」
他の男が桜火を見て何かに気づいた。桜火は蹴り上げた男が沈む前に胸ぐらを掴んでいた。そのせいでコートがはだけ、腕についてた旅団の腕章が見えていたのだ。
「こ、こいつ本物の『光月一家』だ···」
男達が一斉に逃げ出そうとしたが、狐月がそれを許さなかった。一人の男を鉄扇で殴り倒し、もう一人の男にその鉄扇を突きつけた。
「店のお代と、この子のお金、お忘れじゃありませんか?」
店は騒然としていた。ローラがやっと状況に気づいて「レン様大変です」と言ってきた。うちにはこういう人材も必要だ。みんな行動が速すぎる。全く俺の出番がないのだ。
「二人とも、お店に迷惑をかけちゃだめだよ。桜火もその人は···、もう色々と大変だから早く放してあげて。おじさん達もう行っていいですよ」
男達が倒れた仲間を抱えて立ち去ろうとした。
「それから···。二度と光月の名を騙るなよ」
通り過ぎる男達が俺を見て足を止めてしまった。いや動けなくなってしまったのだ。俺は光月の名を大事にしている。俺の人生そのものだからだ。それを子供を騙す為に使ったのが俺は許せなかった。気づかない内に殺気を放っていたようだ。それに当てられて男達が気を失いかけていた。
「お兄ちゃん!」「若様!」
気づいたら両腕を桜火と狐月に掴まれていた。そこで初めて自分が怒っていたことに気づいた。
俺が我に返った後は、桜火が男達を追い払うように俺から遠ざけていた。狐月はまだ心配そうに俺を見つめていた。
「ありがとう。もう大丈夫だよ。それより女の子を見てあげて」
狐月は何が起きているか分かっていない女の子の様子を見に行った。ローラはお店の関係者に謝ってくれていた。俺もみんなに迷惑をかけていたんだと思い反省した。
女の子を俺達のテーブルに招待し、話を聞くことにした。
「では、お嬢さん。『光月一家《ぼくたち》』にいったい何の用だい?」
【次回予告】
少女の話を聞くことになったレン。そこには意外な繋がりが···。
次回
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