別れの挨拶 桜火
シュリが住んでいた場所は、エルミナ王国の王都から少し南に位置するロナという町にある。 ロナの町には、俺と焔、シオンとレオンが付いていくことになった。
帰る途中にシュリがどれくらい強くなったか確認する為、森で魔物を探すことにした。焔がいると結界の影響で小型の魔物しか近寄って来ないから、焔に結界を解除してもらった。
本来炎帝の森には魔物が多く存在する。結界なしで歩きまわっていたらすぐに魔物に見つかり襲われてしまう。人が森を通る時は、魔物除けの結界が施された道を使うか、焔のように範囲結界を展開するしかない。
「早速お出ましのようじゃの」
俺達の目の前に折れた木が吹き飛ばされてきた。飛んできた方向から、ゆっくりと魔物が現れた。そいつは二足歩行で角の生えた牛のようだった。手には大きな斧を持っている。ミノタウロス?
「ほう、こやつはブラックホーンではないか」
「知ってるの?」
「昔はよう遊んでやったわ。ミノタウロスの上位種ってとこじゃな。この森ならよう出てくる」
やっぱりミノタウロスだったんだ。でも上位種ってことはそこそこ強いのかな。でも見た目は人型だから動きは読みやすいか。変な魔物より、シュリには丁度良いかもしれない。
「シュリ大丈夫?」
「うん」
俺と焔は少し下がり。シュリが対峙する。
ブラックホーンが吠え、手に持っていた斧を振り上げる。そのままシュリの頭上に振り下ろそうとしていた。シュリは小太刀に手を当て、構えたまま動かない。ブラックホーンが斧を振り下ろした瞬間、シュリは体を横に向ける。斧の軌道はすでに変えることができず、その軌道上にシュリはいない。シュリは小太刀を逆手に握り、鞘から抜き上げた。
ブラックホーンが、今度は叫び声をあげた。斧を握っていた両腕が吹き飛んでいたのだ。斧が振り下ろされた時の力を利用して、抜き上げた小太刀が、ブラックホーンの両腕を切り落としたのである。
シュリは無防備になったブラックホーンの腹部に一太刀入れると、その場に沈んだ。
初めての実戦。動きの読みも、型も稽古通り出来ていた。この短期間でよく身に付けたものだ。現世の同い年の子供でもここまで上達の早い子はほとんどいない。
それにしても小太刀の切れ味も中々なものだ。これなら使い物になるだろう。この戦いで色々情報を得ることが出来た。
「やるのぉ。ブラックホーンの体は硬くて有名なのじゃがな。普通は傷をつけるのも困難なんじゃが、その腕を切り落とすとは」
(え?)
「この小太刀すごいよ。切った感覚がほとんどなかったよ」
(え?)
ベレンさん。いったい何を造ったの? 俺はシュリにとんでもない物を渡してしまったのかもしれない。
力試しも終わり、その場を去ろうとしたら。シュリがブラックホーンを見つめていた。
「どうした?」
「お兄ちゃんこれって素材にして売れるんじゃない?」
「素材? どうなの焔?」
「しらん。昔から魔物や動物は、食料としてしか扱ってなかったからな。食えないものは全部燃やしておったわ」
三人であれこれ議論し、結局、角だけを切り落として持って行くことにした。その後も三人で何体か魔物を討伐しながら森を出た。
森から出ると草原が広がっていた。少し進むと王都につながる街道に出た。目的地のロナの町もその途中にある。シュリと一緒に居られるのもあと少しだ。
『おいおい、なんという顔をしておる』
焔が念話で話しかけてきた。
『そんなに別れるのが嫌だったら村で一緒に暮らせば良かろう』
『······』
そんなことはできない。シュリには本当の家族がいるのだから。きっと家族もシュリがいなくなって心配してるはずだ。
『ごめん。もう大丈夫』
『ならよいが···』
数時間程歩くとロナの町に着いた。来る途中にシュリと色々話した。「また会いに来るね」と言ったら、シュリも「私も会いに行くよ」と言ってくれた。そうだ.、別にもう会えない訳じゃない。それにこれからは王都に来る機会も増える。そう考えたら何だか気が楽になってきた。
シュリの家の前に着いた。木造の平屋だ。家の横には馬小屋らしきものが建っている。俺は家の扉をノックした。「はぁーい」と気の抜けた男の声が聞こえた。その声を聴いてシュリの顔が曇った。もうすぐお別れだからだろう。
扉が開くと年配の男が出てきた。
「どちらさん?」
シュリの父親だろう。小太りで頭もぼさぼさだ。全くシュリに似ていない。男がシュリに気づいた。
「···お前、シュリか?」
男はシュリが戻ってきたことに驚いていた。シュリがいなくなってから数週間は経っている。当然だろう。男は慌てた様子で辺りを見渡し、「とりあえず中へ」と俺らを案内してくれた。シオンとレオンを中に入れるわけにはいかないので、焔と一緒に入り口の外で待っていてもらうことにした。
中に入るとシュリの母親と二人の兄がテーブルに座っていた。皆シュリに気づいて驚いている。父親がシュリの肩を掴む。
「お前どうやってここに来た。なぜ戻ってこれた」
「······」
俺は自己紹介をしてシュリが拐われたこと、俺と一緒に炎帝の森から来たこと。スイブルのことは割愛し、一応賊も討伐したことも伝えた。それを聞いた父親と母親の表情が変わった。何やら焦った表情だ。後ろからテーブルに座っていた兄が近づいてきた。
「おい、シュリ。お前がいなくなって大変だったんだぞ。戻ってきてくれて助かったぜ。またよろしくな」
「おい!」
「······」
父親が兄をたしなめる。シュリはまだ一言も喋ってない。
『おい、レン』
焔が声を掛けてきた。もういいか。
「シュリ。ちゃんと別れの挨拶をしておいで」
「え!?···う、うん」
シュリは俺の横を通り過ぎ、別れの挨拶をする為に焔達の方に向かっていった。
「焔お姉ちゃん今まであ···
「違う。そっちじゃない」
シュリが焔に別れの言葉を言おうとしたとき、俺はそれを遮った。
「別れを言うの俺達じゃない」
その場にいる全員の視線が俺に集まる。
「···どういう···意味?」
シュリも状況がつかめていない様だ。焔は笑っている。
「シュリ!」
「はい!」
「今日からお前は光月桜火を名乗れ!」
「ッ!?」
呼ばれてとっさに返事をしたが、その後の言葉にシュリは固まってしまった。その目からは涙が流れていた。あの晩、確かにシュリは言っていた「シュリじゃなくて、オウカが良かった」と。この家に戻りたくない、俺達と一緒に居たい、こんな兄達の妹ではなく、俺の妹でありたいと、きっとそんな風に想ってくれていたんだと思う。その想いに応えたい。
シュリは拐われたんじゃい。この父親に売られたんだ。それをシュリは分かっていたのだろう。こんな奴らのところにシュリを置いていく訳にはいかない。
「俺の妹になってくれる? 桜火」
「···うん。ありがとう。お兄ちゃん」
シュリが泣きながら俺に抱きついてきた。
「何を勝手なことを言ってるんだ! そんなことが許されるわけがないだろう!」
父親が怒鳴り散らしている。シュリを売り手に渡さないとまずいことになるのだろう。俺達にシュリを連れて行かれる訳にはいかないようだ。その時入り口の外で、ものすごい音がした。入り口の方を見ると焔がサーベルを抜いていた。どうやらサーベルの一振りで馬小屋が吹き飛んでしまったらしい。
「光月を名を名乗る以上、ワラワの妹分のようなものじゃ。その妹分に指一本触れてみろ。この家もろとも消し炭にしてやる」
「···焔お姉ちゃん」
父親が腰を抜かしてる。他の家族も焔の威圧に震え上がっていた。
そりゃそうだ。あなた達の世界の四帝なんだからね。本当だったら気絶していてもおかしくない。焔もだいぶ手加減を覚えたらしい。
「さあ。今度こそちゃんと挨拶しておいで」
「うん」
シュリは座り込んでいる父親に近づき「今までお世話になりました」ときちんとお辞儀をして踵を返した。別れを告げられた父親が「シュリ」とこぼすように呟くと、振り返らずシュリは応える。
「私はシュリじゃありません。私の名前は、···光月、光月桜火です」
最後の別れを告げ外に出ると、シオンとレオンがシュリに飛びついてきた。
「シオン、レオンこれからもよろしくね」
「よかったの」
「焔お姉ちゃん、ありがとう!」
今度はシュリが焔に飛びついた。「や、やめんか」と言って照れている。俺はシュリの家族に「失礼します」と軽く頭を下げ家を後にした。
外に出て破壊された馬小屋の方に目をやると、目を覆いたくなった。馬小屋の先にあるお隣さんまで被害を受けていたのだ。
「さ、さぁ、二人とも早く王都に行かないと暗くなっちゃうぞ」
「何をそんなに急いでおる。桜火も一緒なのだ、ゆっくり行けばよかろう」
(お前が言うな。分かれ!)
「お兄ちゃん、今日からまたよろしくお願いします」
「お、おお。こちらこそ宜しく。桜火」
こうして異世界にレンの新しい家族が誕生した。将来レン達は、周りから『光月一家』と呼ばれるようになるが、知る由もなかった。
【感謝】
数ある作品の中からこの小説を読んで頂き、そしてここまで読み進めて下さり本当にありがとうございました。
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