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リュックサックと生き残り


 光る剣は兎も角、小銃とリュックサックの効果は判明した。


 リュックサックは予測通り軍用品、またはそれに類するものならある程度取り出せるようである。


 単純に想像した「爆弾」という単語で、健一の手には手榴弾が握りこまれた。そして迷彩服といったものも取り出しが可能であった。


 これ幸いと健一は上着から下半身に至るまで全て迷彩柄の服に着替え、それを理解した美希も同様にリュックサックから迷彩柄の衣服を取り出し、二人仲良く迷彩服へと着替えていた。


 地獄に一番近い島に来て既に4日、森林の中での生活で既に着ている学校指定の制服が限界だったのだ。


 こうして汚れた制服を仕舞い、新しい服へと着替えた二人はゴーレムに追われ逃げた地点で野営を行う。


 周辺に危険な生物の気配も無いこの場所で、今日も変わらず保存しておいたオオカミ肉を焼いて塩などで味付けし、食べる。


 だが今日からは軍用飯が食事のラインナップに加わる事になった。


 リュックサックから取り出せた軍用飯、レーションにはご飯や鯖の味噌煮、そして甘味であるチョコレートが入っていた。


「チョコレートだぁ……ちょっとビターだけどあまぁい」


 嬉し泣きをしながらチョコレートを頬張る美希に若干引きながら、健一も鯖の味噌煮缶を啄む。


 美希の料理の腕のお陰で何とか毎食オオカミ肉を食べていたが、そろそろ日本食が恋しくなってきていた所に軍用飯の登場である。


 これで嬉しくない訳が無かった。


 普段以上の食事に満足した二人はやはり野営地で火を囲みながら毛布に包まり火を眺めている。


 何となく沈黙してしまっているが、食事の満足感や岩山から駆け下りてきた疲れなどで自然と口を開いていないだけである。


 パチパチと爆ぜながら燃え盛る炎に今日岩山で見た二人の事を思い出す。


 頭から潰され、肉の塊と化していた体育教師の熊野。


 そしてゴーレムの腕力で吹き飛ばされ、絶命していた生徒の死体。


 二人の死に様を面白そうに中継していた兎の男の事を思い出し、ギリと奥歯を噛みしめる。


 あの二人が死んでしまったのも、自分が現状のような生命の危機に瀕する場所に身を置く事になったのも、全てあの兎の男の所為だ。


 あの男だけはどうしても、健一は許せそうになかった。


「……私達、どうなっちゃうんでしょうね」


 ぼそりと呟いた美希の言葉に思わず視線を美希に向ける。


 当の美希は遠い目をしながら、焚き火から視線を外さなかった。


 恐らく美希も同じように今日見た二人の事を思い出し、思わず呟いたのだろうと健一は感じた。


 どこか此処ではない場所へ視線を馳せる美希へ、健一が応える。


「兎も角、この島から脱出しないとな。幸い食事はどうにかなるし、どうにか森を脱出して島の外周に出れば」


「私達以外の生き残りの人は、どうなっているんでしょう」


「それは……」


 健一の言葉に被せるように言ってきた美希に思わず口を止める。


 自分達以外の生き残りと言うと、先日の姿を消す生徒が思い出されるが、それ以外にもまだ生き残りはいるはずだ。


 彼らがどうなっているのかは分からないが、もしかしたらこの森の中を彷徨っていればいずれ会えるかもしれない。


 その時、どうするかは相手を見て考えよう。


「大丈夫、きっと他にも俺達みたいに生き残っている奴はいるはずだ。あの姿を消したりする奴も居たんだし、便利な能力貰って生きてるさ」


「そう、ですよね。合流できたらいいんですけど」


「あぁ、そうだな。敵対的じゃなければ合流して、一緒に脱出するようにしたいな」


「そうですね」


「その為にもとりあえず、英気を養ってかないとな。七瀬は先に寝ておけ、周囲は俺が見張っておくから」


「……はい。いつもすみません」


「いいからいいから」


 健一の言葉に申し訳無さそうにしながらも、美希は毛布に包まり横になるとすぐに寝息を出し始める。


 やはり疲れていたんだろうと納得した健一も、欠伸を噛み殺しつつ周囲への警戒を忘れず、程々に眠る事にした。



----



 その日の目覚めは酷く騒がしく、不快だった。


『やあやあ「地獄に一番近い島」の皆様、いや生き残りの皆様。どうもおはようございます』


 朝から不快な声を撒き散らし、盛大に空中に投写された兎の男の姿に、その不快さを隠そうともせずに健一はその映像を睨みつける。


 そして兎の男の声に飛び起きた美希も慌てて宙へと視線を向ける。


 すると、まるで健一達の視線に気付いたように兎の男が大仰に頷くと、言葉を続けた。


『さて、それでは。――中本健一君、七瀬美希さん。どうもおはようございます』


 兎の男の言葉に、健一は奥歯を噛み締め、美希はどうすれば良いのか分からず、思わず返事を返す。


「お、おはようございます……」


 すると、兎の男はパチパチと手を叩き始めた。


『はい、良く出来ました。中本健一君、挨拶にはきちんと挨拶を――』


「うるせぇ!」


 兎の男の言葉に被せて、健一が怒声を上げる。


 その姿に思わず美希がビクリと震え驚くが、そんな美希を視界に収めもせずに健一は兎の男を睨み続けた。


「てめぇ……急にこっちとコンタクト取り始めやがって。おちょくってんじゃねぇぞ!」


『嫌だなぁ、急に怒ったりして』


「てめぇが今までしてきた事を顧みてみろ! てめぇがそんな態度で出てくる時はロクな事がねぇんだよ! 今度は何だ、また誰かが死にそうになってんのか!?」


 健一のそんな指摘に兎の男は嬉しそうに頷くと、言い放った。


『おや、話の早い。でも残念ですが、誰かが死にそうでは無いんです。もう死んだんです』


 その言葉に思わず健一も虚を突かれ、一瞬言葉に詰まる。


 だが次の瞬間、感情は怒りに染まり、激情に駆られるままに叫んだ。


「ふざけてんじゃねぇぞてめぇ!! 一体どんだけ人の命を弄んで殺せば気が済むんだ!?」


『さて、どれぐらいか……あぁ、21名ですね。生き残りは君達含め残り9名といった所です』


「……生き残ってる人が、他にも居るんだ」


 思わず、といった声で美希が呟く。


 そんな美希の言葉に大きく頷いた兎の男が提案をした。


『えぇ、あなた達の他7名は、生きています。その様子をご覧になりますか?』


 その提案に、美希が即答を返そうとした所で、健一が叫ぶ。


「待て! 良く考えろ、マトモにこいつが情報を提供してくる訳がねぇんだ。何か裏があるに決まってる」


「で、でも……」


『おやおや、随分信用の無い。まぁ自業自得ではありますがね、ケヒヒヒッ』


 健一の言葉に迷う美希に、それを肯定するかのように自嘲しながら呟く兎の男。


 健一の言う「何か裏がある」という意味も理解できるが、それでも美希としては、他の生き残りの姿が見られるのなら、と考えた。


『さぁ、どうしますか。見ますか? 見ませんか?』


「――見ます。他の生き残ってる人達を、見せてください」


 美希の決断に、健一は思わず顔を顰めるがそれだけに留める。結局健一としてもその裏が何か分からないので、具体的に止められはしないのだった。


 そして美希の決断を兎の男は嬉しそうに受け止める。


『いいでしょう。それではどうぞ、御覧なさい。じっくりとね――』


 そうして兎の男と入れ替わるように空中に投写されたのは、二つの映像だった。


 暗がり、陽の光が直接当たらないような洞窟の中を、両方の映像が写している。


 そしてそこに映る状況は、役者を変えてはいるが、内容としては同一のものだった。


 片方の映像では赤黒い肌をした額から角の生えた大柄の化け物と、こ汚い緑色の肌をした同じく額から角を生やした化け物。


 もう片方の映像では、贅肉を身体全てに凝縮したような醜悪な身体と、豚に良く似た顔形をしている人型の化け物。


 そのどちらの映像に映る化け物も、まるで示し合わせたかのように裸の女子を組み敷いて、その上に跨がり腰を振っていた。


 生き残り、そう兎の男が言った限り生きてはいるのだろう。


 だがその映像に映る女子達はそのどれもが虚ろな表情を浮かべ、或いは頬に痣を作り涙を流しながら、化け物どもに組み敷かれるがままにされていた。


 身体は体液塗れとなり、されるがままに身体を揺すられ、体内へと化け物どもの迸りを強制的に受け入れさせられている。


 そんな映像が、延々と流されていた。


「いっ……いやぁあああああっ!!」


 美希は映像から目を離さず、しかし叫び声をあげながら涙を流していた。


 この凄惨な映像に怒りと、悔しさを覚え、心のままに叫ぶ。


 そして健一も予想していなかった状況に、手に持つ槍を握りしめ、ギリリと奥歯を噛み締めた。


『まぁ、こんな状況なものでして。まともに生き残りと言えるのは君達二人ぐらいなもんなんですよねぇ、ケヒヒヒッ』


 映像を消して現れた兎の男はまるで軽口のようにそう告げる。


「……殺してやる。てめぇは絶対、ぶっ殺す」


 心に燻る憎悪のままに、健一が兎の男へと告げる。


 兎の男が嬉しそうに頷くと、健一の持っているデバイスへと着信があった。


 それを見ると、やはり地図アプリ。そこには二つのピンが立っており、予想通りであれば、あの凄惨な映像の事が起こっている場所である。


 やっぱり弄んでやがる。


 思わずデバイスを握りつぶしそうな勢いで握りこんだ健一の手に、美希の手が被さってきた。


「……中本さん、助けに行きましょう」


 涙を流しながら告げる美希の言葉に、健一は考える。


「だが……もし助けられなくて、やつらに捕まったら、君も同じ目に合うのが目に見えてるぞ」


「それでも、あんな風になっている人達を放っておきたくありません」


 どうやら美希の意志は既に固まっており、後は健一の覚悟だけのようだ。


 健一は数瞬考えた挙句、一つ頷いた。


「分かった、助けよう。申し訳無いが近くの場所から助ける事になるが、それでもいいな」


「はい、ありがとうございます」


 健一の言葉に大きく頭を下げて礼を述べる美希。


 健一としてもあの所業は業腹ではあるし、助けられるのであれば助けたい。


 そして、生きているのであれば助けた後に協力し合える可能性が高い。


 危険に飛び込む理由をそう積み立てると、健一は腹に力を込めて気合を入れた。


 あの化け物達を全部、根絶やしにしてやる、と。

ここまでお読み頂いてありがとうございます。

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