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アラフォーおっさんはスローライフの夢を見るか?  作者: サイトウアユム


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Quest30:葛葉討伐の準備をせよ その3



「こちらがフェーネさんの部屋になります」


 ローラは廊下で立ち止まり、手の平で扉を示した。

 マコトは扉を見つめ、それからユウカに視線を向けた。


「なんで、あたしを見るのよ?」

「お見舞いより倉庫に行きましょって言うと思ったんだが……」

「……あたしを何だと思ってるのよ」


 ユウカは地の底から響くような声で言った。


「予想外の展開だ」

「マコトとは本気で決着を付けなきゃいけないみたいね。覚えてなさい。月の出てる夜ばかりじゃないってことを教えてあげるわ」

「新月の夜は俺に有利だぞ」


 マコトは暗視スキルを取得しているが、ユウカは取得していない。


「あ、あたしに何をするつもりよ」

「お前が考えてるようなことはしねーよ」


 ユウカが胸の前で腕を交差させて後退ったので突っ込んでおく。

 セクシャルな話題は止めろというくせに、なんでそういう態度を取るのか。

 変な空気が流れてもやりにくいだけなのだから流して欲しい。


「念のために言っておくけど、あたしは泣き寝入りしないわよ。いつかという言葉を使っても絶対に首を掻き切ってやるわ」

「ユウカって割と自分の首を絞めるよな」

「は? なんで、自分の首を絞めたことになるのよ?」


 マコトの言葉にユウカは訝しげな表情を浮かべた。


「そりゃ~、絶対に報復するヤツだって分かってたら始末するよな」

「そうですねぇ」


 リブが間延びした口調で呟き、ローラが頷く。

 ユウカはギョッとマコトを見た。


「し、始末?」

「なんで、俺を見るんだよ?」

「話の流れ的にマコトしかいないじゃない」

「俺しかいねーのかよ」

「マコトが言い出したんでしょ」

「確かに俺が言い出したが……」


 マコトはこめかみを押さえた。


「別に殺そうとは――」

「いいわ、殺すなら殺しなさい。あたしはもう絶対に折れないから」


 ユウカはマコトの言葉を遮って言った。

 もう少し聞く耳を持って欲しい。


「どうして、そこまで俺を信用しねーんだよ?」

「マコトの何を信用すればいいのよ?」

「ダンジョンで出会ってから今日この瞬間までの出来事に決まってるじゃねーか。言いたくはねぇが、俺はすごいぞ?」

「何がすごいのよ」

「死にかけた回数に決まってるだろ」


 ユウカはうんざりしたように言ったが、ここは断固として主張しておく。


「傷は男の勲章ってヤツね。はいはい、すごいすごい」

「そうじゃねーよ」


 ユウカが小馬鹿にしたように拍手をしたので即座に否定する。

 それにしても傷は男の勲章なんていつ知ったのやら。

 いや、文庫版が出ているはずなのでそれで知ったのかも知れない。


「俺はユウカを守るために何度も死にそうな目に遭ってるんだよ」

「役割分担でしょ。あたしは後衛、マコトは盾」

「せめて、前衛って言えよ。本音が煤けてるぞ」

「煤けてどうするのよ」

「間違ったんだよ。失礼、噛みました」

「一生迷子になってなさいよ。リュックがないからナメクジだけど」

「お前も道連れだ」

「あたしを抱えてトラックに突っ込む気ッ?」

「そこからスタートかよ。お前と一緒にトラックに轢かれるとかどんな罰ゲームだよ」

「お生憎様、トラックに轢かれるのはマコトだけよ。あたしは何としてでも逃げ切るわ」

「神様に会ったらチートの代わりにお前を指名するからな」

「は? マコトと一緒に異世界転移なんてどんな罰ゲームよ」

「今と変わらねーよ」

「って、マコトはこの世界に来るまでおっさんだったのよね?」

「まあ、今も気持ち的にはおっさんだが」

「マジで最悪なんだけど」


 ユウカは溜息を吐くように言った。


「何が最悪なんだよ?」

「おっさんに抱えられてトラックに突っ込むことが最悪でなくて何なのよ? 首尾よく助かってもあたしの人生は滅茶苦茶だわ」

「ワイドショーが盛り上がるな」

「きっと、フジカあたりがインタビューで前々から訳の分からない所があったみたいなって言うに決まってるのよ」

「一応、悲しんでくれるんじゃねーか?」

「悲しむ?」


 ユウカは不愉快そうに顔を顰めた。

 ちなみに言い方は『かぁなぁしむぅ?』である。


「あ~、はいはい、クラスの連帯感を高めるために泣いて下さるって訳ね。チッ、マジでセレブどもはクソね。死ねばいいのに」

「妄想して逆恨みするなよ」


 突っ込んだその時、背後から扉の開く音が響いた。

 肩越しに背後を見ると、フジカが立っていた。

 フジカはしばらくこちらを無言で見ていたが、いきなりパタパタと走り出した。

 マコト達の前で立ち止まり、胸の前で手を組んだ。


「二人とも無事でよかったし! すごく強いアンデッドが出たって聞いて……二人とも怪我してないか超心配だったし!」

「うッ!」


 フジカが涙目で言うと、ユウカは呻いた。


「体調が悪かったら遠慮なく言って欲しいし」

「もう少し休んでろよ」

「そうです。無理をせずにしっかり休んで下さい」

「大丈夫だし! マコトさんやユウカに比べたら無理の内に入らないし!」


 リブとローラが気遣って声を掛けるが、心配させまいとしてか、フジカは力瘤を作って元気だとアピールする。

 まあ、あまり元気そうに見えないが。


「ユウカ、これがお前が死ねばいいって言ったクソセレブだぞ?」

「よく分からないけど、いつも通りのユウカで安心したし」

「あ、あたしにそんな笑顔を向けるんじゃないわよ!」


 フジカが弱々しく微笑みかけると、ユウカは後退り、上擦った声で叫んだ。


「分かってるのよ! アンタがあたしのことを嫌ってるって! 上げて、上げて落とすつもりなんでしょッ? 分かってるのよ、アンタ達の魂胆はッ!」

「ユウカ、疲れてるなら休んだ方がいいみたいな」


 あ、ああ~、とユウカは呻いた。

 何だか可哀想な人みたいだ。


「善意の力でユウカが浄化されていく」

「されないわよッ!」


 ユウカはペシッと手の甲でマコトの胸を叩いた。


「突っ込みが弱々しいぞ。やっぱり、弱体化してるんだな」

「してないわよ! って言うか、あたしが弱くなったら葛葉とどうやって戦うのよッ!」

「個人的にはきれいなユウカを見てみたいんだが……」

「はァッ? きれいなユウカって何よ! あたしはいつだってきれいでしょ!」

「サラッとスゲーことを言いやがったな」


 どれだけ自分に自信があるのだろう。

 いや、まあ、美人ではあるのだが……。


「マコトさんが落としたのはきれいなユウカ、それとも汚いユウカみたいな?」

「ちょ、アンタ、汚いって何よ!」


 ユウカがフジカに食って掛かる。


「汚いユウカだな」

「正直者には二人のユウカを差し上げましょうみたいな」

「地獄か」


 マコトは思わず呟いた。


「何が地獄なのよ! って言うか、イジメ? これはイジメよね? いいわよ、受けて立つわよ! あたしがべそべそ泣く根性なしだと思ったら大間違いよ! アンタ達が想像しているよりも遥かに大きな、想像を絶する大ダメージを与えてやるわ!」


 ユウカはマコトを指差して言った。

 指先がぷるぷると震えている。

 マコトはユウカの背後にタイツを穿いた芸人を幻視する。


「いつも思うんだが、お前は江が――」

「女子高生になんてことを言うのよ!」


 ユウカは悲鳴じみた声を上げた。


「あたしが小学生なら不登校確実よ」

「そんなに嫌いか。言ってることとか、やってることは見事なもんだぞ」

「それはそれ、これはこれでしょ。って、その前にあたしが2人いて地獄になる理由を説明しなさいよ」

「きれいなユウカも、汚いユウカも――」

「だから、汚いって言わないで!」

「分かったよ」


 マコトはぼりぼりと頭を掻いた。

 まあ、言われてみれば女子を形容するのに汚いはないかも知れない。


「どっちのユウカもユウカな訳だ」

「あたしを2人もパートナーにできるなんて来世の分まで運を使い果たしたわね」

「相変わらずスゲー自信だな」


 こういう性格なら人生が楽しいかも知れない。


「それはさておき、俺が思うに方向性が違うだけで厄介さは変わらねぇと思うんだよ」

「厄介さって」


 ユウカは頬を引き攣らせた。


「殺し合いを始めてくれたらまだましだが、お前らは……普段は仲が悪くても誰かを陥れるために共謀すると思う。ったく、これが地獄でなくてなんなんだ」

「知らないわよ! マコトこそ、勝手に妄想して勝手に嘆いてるんじゃないわよ!」


 ああ、もう! とユウカは廊下を踏み鳴らした。


「ユウカはオンリーワン、かけがえのない存在みたいな」

「アンタ、綺麗に纏めたつもり?」

「いいことを言ったはずなのに低い声で恫喝されてるし」


 フジカはがっくりと肩を落とした。


「ところで、どうして対消滅反応の話をしてたのみたいな?」

「そんな話はしてないわよ」

「きれいなユウカと……きれいじゃないユウカの話は何処から?」

「そのネタはアンタが振ったのよ」


 フジカが首を傾げると、ユウカは低い声で言った。


「最初はマコトがあたしと心中するとかしないとか言い出したのよ」

「違ーよ」

「そうだったわね。月のない夜は性犯罪に走りたくなるって話だったかしら?」

「俺を陥れる気満々だな、お前」

「や、ユウカの話を鵜呑みにする人はここにいないし」


 フジカはパタパタと手を上下に動かす。もう片方の手は口元にあり――何だかおばちゃんテイストが漂うジェスチャーだ。


「はァッ? あたしが信用できないっての?」

「ユウカがマコトさんについて語る時は別腹みたいな。リブさんも、ローラさんも信じてないし」

「もちろん、私はマコト様を信じてます」

「そうか?」

「えッ?」


 ローラはぎょっとリブの顔を見る。


「マコトは一線を越えるとぐいぐい来るぜ」

「え、それは、どういう?」

「タイミングだな、タイミング」


 リブは腕を組み、ふふんと鼻を鳴らした。

 まあ、間違ってはいないような気がする。


「もう少し詳しく」

「仕方がねーな」


 ローラが詰め寄ると、リブは満更でもなさそうな表情を浮かべた。


「二人とも信じてないわよ」

「ユウカが言ってるようなことはないし」

「チッ、痛い目に遭っちゃいなさい」


 ユウカは不愉快そうに顔を顰めた。


「そもそも、ユウカ自身がそう考えていないように思えるし」

「何でもかんでも恋愛に結び付けやがるわね。これだから恋愛脳は」

「むしろ、甘えてる感じがするし」

「はッ、その手には乗らないわよ」


 ユウカは鼻で笑い、マコトに視線を向けた。


「ほら、さっさと行ってきなさいよ」

「何がだ?」

「フェーネの見舞いに決まってるでしょ」


 何を言っているのか分からずに尋ねると、ユウカは呆れたように言った。


「俺一人で行くのか?」

「当たり前でしょ。マコトが一番年上なんだし」

「年上って言っても大したことは言えねーと思うぜ」

「マコトが一番マシってだけの話よ」


 マコトが視線を巡らせると、リブ、ローラ、フジカの三人は頷いた。


「失敗した時はフォローしてくれよ」

「また、予防線を張って」

「社会人の知恵だよ」


 経験上、無駄になることも多いが、一手間を惜しんで全責任を負わされるのは――。

 いや、ここは全責任を負うべき所か。

 まあ、それでも失敗した時に備えるのは間違いではないだろう。

 マコトは扉を開け、部屋に入った。

 カーテンは閉ざされ、部屋の空気は生温かかった。

 フェーネはこちらに背を向けてベッドに横たわっている。

 マコトは後ろ手に扉を閉め、ベッドに歩み寄った。

 あと数歩でベッドという所でフェーネが身動ぎをし、マコトは足を止めた。


「兄貴ッスか?」

「よく分かったな」

「あれだけ騒いでたら誰にでも分かるッス」

「まあ、そうだな」


 マコトはベッドの近くにあったイスに座った。

 何を言えばいいのだろう。

 元気を出せと言うのは無意味どころか害悪だ。

 それくらいで元気を出せるのならやっているだろう。


「……何も言わないんスね」

「何も言えねーだけだよ」


 チームの中では最年長だが、年齢を重ねたくらいで心に届く言葉を吐けるのなら世の中はもっと平和になっているだろう。


「おいらは動くべきだと思うんス。レドは殺されたと決まった訳じゃないッス。けど、起き上がる気力がないんス」

 フェーネは震える声で言った。

 やはり、フェーネにとってレドの存在は支えだったのだろう。


「分かるよ。動かなきゃならねぇのに動けない時期が俺にもあった」

「兄貴でもッスか?」

「こっちの世界に来る前だけどな」


 借金やクレーム、パワハラで精神を削られて起き上がれない時期があった。

 どうにも怠くて起き上がれないのだ。


「どうやって、克服したんスか?」

「克服はできなかったな。仕事をサボる訳にもいかなかったから体に鞭を打って、やっとこさって感じだな」


 今にして思えばあれが会社を辞めるチャンスだったのかも知れないが、結局は辞めずに借金を返し続けた。

 死ぬか、重傷を負うかどちらかを選べと言われて重傷を選んだようなものだ。


「……俺は」


 マコトは立ち上がり、ベッドに腰を下ろした。


「まあ、やっぱり何も言えねーな」

「何スか、それは」

「そのままの意味だよ。こういう時に励ましの言葉の一つも浮かばねぇんだから無駄に歳を重ねちまったんじゃねぇかって思うよ」


 もっとちゃんと歳を重ねていれば色々なことに折り合いが付けられたのかも知れない。

 だが、折り合いを付けられず、鬱屈したまま歳を重ねたのが自分だ。

 過去をやり直すことができない以上、今の自分で何とかするしかないのだ。


「俺は俺にできることをするよ」

「できることッスか?」

「ああ、レドの無事を確かめて、葛葉を殺す」


 アンデッドを殺すというのも変な話だが、言葉を飾っても仕方がない。

 それにしても――。


「何と言うか、情けねぇ話だな」

「何がッスか?」

「アラフォーで、レベルも完ストしてるのにできることは二つしかねーんだよな」


 レベルが高いに越したことはないが、人生に大切なのはレベルだけじゃないのだ。

 むしろ、数値化できない要素の方が大切なように思える。


「……あとはフェーネの味方でいてやることくらいか」

「おいらの味方ッスか?」

「ああ、できる限り味方して、できる限り話を聞いて、できる限り傍にいるよ」


 マコトはフェーネの頭をそっと撫でた。

 フェーネは胎児のように体を丸めた。


「もう少しだけ寝てていいッスか?」

「……ああ」


 マコトは少しだけ乱暴にフェーネを撫で、立ち上がった。

 廊下に出ると、ユウカ、リブ、ローラ、フジカが心配そうな表情を浮かべていた。

 静かに扉を閉める。


「……どうだったの?」

「どうって、適当に話をしただけだよ」

「適当?」


 ユウカが顔を顰める。


「カウンセラーじゃねぇんだから話しただけで元気づけることなんてできねーよ。つか、カウンセラーだって無理だろ」

「それはそうだけど……」

「ユウカはマコトさんならフェーネちゃんを何とかできると思ってたみたいな」


 フジカが腰を捻りながら手を合わせる。

 擬音を付けるとすれば『きゃる~ん』だろうか。


「首の骨をへし折るわよ」

「ユウカの対応がいつも通り塩っぱいし。これじゃ女の子同士のキャッキャウフフなトークなんて夢のまた夢だし」


 ユウカが手を握ったり開いたりしながら言うと、フジカはしょんぼりと肩を落とした。


「やっぱり、そういう所がいけないと思うし!」

「なんちゃってビッチのアンタに言われたくないわよ」

「やっぱり、ユウカは塩っぱいし」


 は~、とフジカは重々しい溜息を吐いた。


「キスの一つもしてやれば元気になったんじゃねーの?」

「元気にならなかった時がヤベーよ」


 マコトはリブに突っ込んだ。


「ローラはどうよ?」

「私ですか?」


 リブに話を振られ、ローラは難しそうに眉根を寄せた。


「状況によるのではないでしょうか?」

「ローラはしばらく駄目かもな」

「ど、どうして、私が駄目なのですか?」


 ローラはリブに詰め寄った。


「真面目に考えすぎなんだよ。ほら、その場のノリってヤツが大事なんだよ」

「こういうことは真面目に考えるべきだと思います」

「こういうことを言うヤツに限って雰囲気に流されるんだぜ」


 そう言って、リブはマコトの頭に腕を乗せた。


「俺もそうかも」

「マコトはそうなんだよ」

「返す言葉もねぇ」


 まあ、リブが言うからにはマコトは雰囲気に流されやすいタイプなのだろう。


「ローラさんは重そうだし」

「軽そうなふりをしてるアンタが言うことじゃないわよ。アンタみたいな女はいきなり重くなるのよ。この白色矮星が」

「普通はブラックホールだし」

「はッ、アンタは白色矮星で十分よ。このなんちゃってビッチ」


 ユウカは髪を掻き上げ、吐き捨てた。


「まあ、フジカはどうでもいいわ」

「人を罵っておきながらあんまりな言い草だし」

「さっさとお宝を頂戴してずらかるわよ」


 ユウカはフジカの突っ込みを無視して言った。



「こちらが倉庫になります」

「随分、立派な扉ね。これは期待できそうだわ」


 ローラが倉庫の扉を手の平で指し示すと、ユウカは仁王立ちで腕を組んだ。

 ユウカの言う通り、地下にある扉はかなり立派だ。

 これほどの扉なのだからという期待感もあるが――。


「さっきから盗人みたいな台詞だし」

「言い掛かりは止しなさいよ」


 ユウカはフジカを一瞥する。


「いや、お宝を頂戴してずらかるとか女子高生の台詞じゃねーよ」

「ふふん、マコトは女子高生に夢を見すぎてるわ」

「どちらかと言えば夢を見させて欲しいんだが……」


 マコトはこめかみを押さえた。


「キララさんとか夢が見られるかも! 華道の家元の娘さんで大和撫子だし!」

「あ゛? 寝言を言ってるんじゃないわよ」

「ひぃッ!」


 ユウカがぎろりと睨み付けると、フジカは小さく悲鳴を上げた。


「わ、割と仲がよかった印象があるみたいな。そ、それに、キララさんはユウカのことを心配してたし」

「だから、アンタはチョロいのよ。このチョロインが。雰囲気に流されて碌でもない男に美味しく頂かれちゃいなさいよ」

「な、流れるように罵られたし」


 フジカは驚いたように目を見開いた。


「あの女があたしの心配をする訳ないでしょ。あの女は『黄金の羊』亭であたしがいないと思って好き勝手言いやがったわよ」

「マコトさん?」

「なんで、マコトに聞くのよ!」


 フジカがこちらに視線を向けると、ユウカは声を荒らげた。


「ユウカ・フィルターが発動した結果だと困るし」

「あ、アンタまで……ユウカ・フィルターとかマジでムカつくんだけど」

「ユウカは本当のことを言ってるみたいな?」

「……一応、本当のことだな」


 ユウカのことが苦手だったと言っていたし、タケシの言葉にも同調していた。

 マコトは心情的にユウカの味方だが、連中の言い分にも一理あるとは思っている。


「ほら、見なさい。あたしの言ってることは正しいのよ」

「間と一応って言葉が気になるし」


 ユウカは勝ち誇ったように胸を張ったが、フジカは今一つ納得していないようだ。


「本当の所を教えて欲しいし」

「その話をすると、アンタの犯行にまで話が及ぶわよ?」

「ユウカのことを信じてるし!」


 フジカはあっさりと自己保身に走った。


「大体、あの女は初めて会った時から気に食わなかったのよ。誰に対しても分け隔てなくて、華道の家元の娘で――」

「それはユウカの僻みだし」

「そう! 名前よ! キララって名前が嫌いだわ! こう、DQNネームっぽくて」

「今はキラキラネームって言うし」

「名前を変えたって本質は変わらないわよ。オマール海老なんて気取ってもザリガニはザリガニなのよ」

「それはロブスターのことだし、それにキララさんのキララは雲母みたいな」

「細かいことはいいのよ! 大事なのはあたしがあの女を嫌いってことだから!」

「次から次に敵を作ってくスタイルは感心できないみたいな」

「はッ、最初から敵だったのよ」


 ユウカはフジカの諫言を鼻で笑った。


「開けてもよろしいでしょうか?」

「もちろんよ」


 むふーッ、とユウカは鼻息も荒く答える。

 ローラがおずおずとマコトに視線を向ける。


「よろしいでしょうか?」

「ああ、頼む」

「なんで、マコトなのよ」

「そりゃ、俺がリーダーだからだよ」


 マコトは不満そうに唇を尖らせるユウカを横目に見ながら反論しておく。

 ローラが扉を開けると、埃っぽい空気が押し寄せてきた。

 どういう理屈なのか、手前から奥に向かって照明が点灯する。


「……マコト」


 ユウカがこちらに視線を向ける。


「何だよ?」

「Go」


 マコトが尋ねると、ユウカは倉庫の奥を指差した。


「俺は犬かよ」

「坑道のカナリアと言うべきね」


 ふふん、とユウカは鼻を鳴らした。


「罠の類はありませんよ?」

「呪いのアイテムがあるかも知れないじゃない」

「曰く付きのアイテムはありますが、それを言い出したらキリがありませんし」


 ローラは困ったように眉根を寄せた。

 確かに貴族――歴史ある家柄なのだから曰く付きのアイテムはいくらでもあるだろう。


「マコト、Go!」

「分かったよ」


 マコトは扉を潜り、そのまま倉庫の中を進む。

 倉庫とは言うものの、中は『黄金の羊』亭の一階部分が余裕で収まってしまいそうなほど広い上、整理整頓が行き届いている。

 風がマコトの脇を通り抜ける。

 まあ、風とはローラのことなのだが――ローラはマコトの脇を通り抜けると、目的の箱を開けて満面の笑みを浮かべた。

 周囲が明るくなったと錯覚するような笑みだが――。


「千年の恋も冷めるわね」

「冷めるのが早すぎだろ」


 いつの間にか隣に立っていたユウカに突っ込む。


「そう言えば……杖が折れたんだろ? ユウカはアイテムを探さなくていいのか?」

「何処に何があるのか分からないのに探せる訳ないじゃない」

「意外と消極的なんだな」

「合理的なのよ、あたしは」


 ユウカは箱を開けるリブとフジカに視線を向けながら言った。

 ふと鑑定を取得していたことを思い出す。

 役に立っていない死にスキルだが、アイテムに付与された魔法は読み取れた。


「……鑑定」


 ぼそりと呟くと、複数のウィンドウがポップアップした。

 ローラが箱から取り出した盾を見ると、物理・魔法耐性とウィンドウに表示されていた。

 その隣に胸甲冑も同じ、さらにその隣の脚甲は敏捷強化、籠手は筋力強化、さらにさらに剣には聖属性という表示がある。

 どうやら、全装備を新しくするようだ。


「10%くらいか」

「何が10%なのよ?」

「魔法が付与されているアイテムだよ」

「分かるんなら――」

「おッ?」

「ちょっと!」


 マコトはユウカを無視して、ある箱に歩み寄った。

 箱を開けると、中には一対の籠手が収められていた。

 そのウィンドウには――。

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