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アラフォーおっさんはスローライフの夢を見るか?  作者: サイトウアユム


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Quest39:王都に向かえ その13

再詠唱リピート!」


 ユウカは本日四発目の炎爆フレイム・バーストを放った。

 魔法陣から噴き出した炎が森を数十メートルに渡って焼き払う。

 あとに残るのは焼け焦げた大地と半ば炭化した木々、灼熱した大気だ。

 自分でやったことだが、地獄のような光景だと思う。

 マコトが駆け出し、ユウカとローラはその後に続いた。

 灼熱した大気が肌を焼き、気管を痛めつける。

 さらにブーツ越しに熱が伝わってくる。

 靴に穴が空くのではないかと不安になる。

 こんな所を走りたくないが、そうせざるを得ない。

 何故なら――。

 チュミィィという音、いや、鳴き声が響く。

 走りながら視線を巡らせると、木の枝が左右から迫ってくる所だった。

 これが理由だ。

 木の枝は驚くほど再生速度が速いのだ。

 熱が冷めるのを待っていたら再び行く手を塞がれてしまう。

 マコトとローラが広範囲を吹き飛ばす手段を持っていればまた話は違ったのだろうが。

 チュミィ、チュミィィと鳴き声が迫ってくる。

 肩越しに背後を見ると、木の枝が間近に迫っていた。

 チュミィィッ! と一際大きな鳴き声が響き――。


炎弾ファイア・ブリット!」


 マコトが振り向き様に炎弾を放つ。

 ヂュミィィッ! と耳障りな悲鳴が響き、木の枝が塵と化す。

 ユウカはホッと息を吐き、正面に向き直った。

 その時、視界が開けた。

 森から抜け出せたのではない。

 敵本体に辿り着いたのだ。

 マコトが足を止め、ユウカとローラも足を止めた。

 そこには巨大な木があった。

 幹は『黄金の羊』亭が収まってしまいそうなほど太く、枝は空を覆い尽くすほどだ。

 いや、ここに来るまでに焼き払ってきた木の枝もこいつの一部だ。

 それを考えれば空を覆い尽くすという表現は過小評価に違いない。

 その時、ローラが叫んだ。


「マコト様!」


 ユウカは視線を巡らせ、ある一点で目を留めた。

 そこに箱馬車があった。

 クリスティン達の乗っていた箱馬車だ。

 敵本体から離れた場所にある。

 あれだけ離れていれば巻き込むことはないだろう。

 さらに視線を巡らせ、敵本体――根に近い場所に巨大なうろがあることに気付いた。

 うろは闇で閉ざされているが、嫌な予感しかしない。

 敵本体がざわめき――。


「避けろ!」


 マコトが叫んだ。

 マコトとローラが弾けるようにその場から待避する。

 半瞬遅れてユウカはローラの方に向かった。

 さらに半瞬が経過し、地面が震動する。

 そして、木の根が飛び出した。

 ドッと汗が噴き出す。

 危ない所だった。

 マコトの指示に従っていなかったら絡め取られていた。

 再び敵本体がざわめく。

 視界の上部で何かが動く。

 わずかに視線を上げると、木の枝が迫っていた。

 防御力が高くないことは分かっている。

 だが、数が圧倒的な上、スピードも速い。

 植物系モンスターなのだからもっとゆっくり動けと言いたい。


「再詠唱!」


 ユウカはスキルを使って魔法を放った。

 魔法はここに来るまでに何度も使った炎爆だ。

 魔法陣が展開し、炎が噴き出す。

 木の枝は一瞬で燃え尽きたが、やはり数が圧倒的だ。

 揺らめく大気の向こうから数本の枝が伸びてくる。

 マズい。

 避けられない。

 身を固くした次の瞬間、ローラが割って入った。


「はッ!」


 裂帛の気合いと共に剣を一閃させる。

 クリスティンから奪った、もとい、供与された聖属性の剣だ。

 容易く枝を切断するかと思ったが、全てを切断することはできなかった。

 何本目かの枝に食い込んで止まる。

 もちろん、敵はその隙を見逃さない。

 新たな枝を伸ばしてローラを絡め取ろうとする。


盾撃シールド・バッシュ!」


 ローラの体が霞み、枝は空を掴んだ。

 彼女は剣を手放し、盾撃で後方に高速移動したのだ。

 それにしても盾撃で後ろに移動できるとは思わなかった。

 彼女はもう一本の――曾祖父が国王陛下から授かったという剣に手を伸ばした。


闘気剣オーラブレード!」


 ローラが再び剣を一閃させる。

 黒い光に包まれた刃が容易く迫りくる枝を切断する。

 しかし、状況は一段落とは程遠い。

 敵は新たな木の枝を伸ばしているのだ。

 やはり、数が圧倒的な上、スピードがある。


「再詠唱!」


 ユウカは炎爆を放った。

 こちらに向かっていた枝が灰と化す。

 何本か撃ち漏らしたが、これはローラが対処した。

 マコトに視線を向ける。

 枝と根対策だろう。

 マコトは漆黒の炎を全身に纏って戦っている。

 そのお陰で敵の攻撃は通じていない。

 だが、ユウカには攻めあぐねているように感じられた。

 手数に圧倒されていつも通りの戦いができていない印象だ。

 マズい、と唇を噛み締める。

 敵の再生能力が高すぎて決め手を欠いている。

 このままでは徐々に疲弊して負ける。

 チラリと箱馬車を見る。

 フェーネ達がいればもっと楽に戦えるのにと歯噛みする。

 解放して戦力の増強を図るべきかと考え、すぐに思い直す。

 解放しても戦えるとは限らない。

 それに、敵に仲間を助けたがっていることを知られたくない。

 何とかして流れを変えなければと考えたその時、巨大なうろが目に留まった。


「再詠唱!」


 ユウカはうろに向かって炎爆を放った。

 だが、枝が、根が伸びて炎爆を防いでしまう。

 チッと舌打ちをする。

 攻撃を防がれたことに対する舌打ちではない。

 防御に枝と根を使ったにもかかわらず攻撃の手が緩まなかったことに対する舌打ちだ。

 どうすればと自問したその時、あるアイディアが思い浮かんだ。

 起死回生の一手というほど大したものではない。

 押して駄目なら引いてみろ的なアイディアだ。

 通じるかは分からないが、今のパターンを繰り返すよりいいだろう。


「マコト!」

「――ッ!」


 ユウカが叫ぶと、マコトは腕を一閃させて枝を塵に変えた。

 跳躍してユウカを守るように敵本体と対峙する。


「時間を稼いで!」

「分かった!」


「スキル・魔法極大化マキシマイズ!」

 ユウカは笑みを浮かべ、杖を敵本体に向けた。

 本能か、それとも理性で判断したのか。

 敵が枝を繰り出す。

 視界が暗くなるほどの圧倒的な数と密度だ。

 だが、ユウカは静かに詠唱を開始した。


「リュノ・ケスタ・アガタ! 無窮ならざるペリオリスよ、凍てつけ凍てつけ氷の如く、閉ざせ閉ざせ霧の如く――」


 半球状の魔法陣がユウカを中心に展開する。

 敵はユウカを標的に定めたようだ。

 枝がユウカに向かって伸びるが、ローラが前に出る。


闘気咆ハウル!」


 ローラが叫ぶと、空気が震えた。

 叫んだと言ってもそれは尋常の範囲内だ。

 空気が震えるほどではない。

 何らかの技なのだろう。

 敵が動きを止めていた。

 もちろん、その隙を見逃すマコトではない。


点火イグニッション!」


 マコトの叫びに呼応するように体を包んでいた漆黒の炎が勢いを増す。

 マコトが腕を一閃させた。

 漆黒の炎が弧状の刃となって飛ぶ。

 動ければまだしも被害を抑えられたかもしれないが、ローラの技の影響から脱せていない。

 弧状の刃は枝を次々と切断する。

 枝がぼたぼたと地面に落ち、呪文が完成する。


「我が敵と共に凍り付け! 顕現せよ! 霧氷の世界! 氷爆アイシクル・バースト!」


 半球状の魔法陣が砕け、白い光がうろに向かって飛んだ。

 うろを守るように枝や根が伸びる。

 白い光が炸裂し、爆風が押し寄せる。

 爆風といってもそれは熱を伴わない。

 余波だけで痛みを感じる、そんな冷気の爆風だ。

 冷気の爆風の中で枝が、根が、幹が凍り付いていく

 枝の一つが砕け、それが切っ掛けとなったようにうろを守っていた枝と根が砕ける。


「再詠唱!」


 ユウカは再び魔法を放った。

 魔法陣が砕け、白い光がうろへと向かう。

 ギシッという音が響く。

 響いただけだ。

 枝と根は動くことも再生することもできなくなっている。

 白い光がうろの中に消え、再び爆風が押し寄せてきた。

 突然、視界が傾ぎ、ユウカは蹈鞴を踏んだ。

 魔法の使いすぎかと思ったが、違う。

 地面が揺れているのだ。

 うろの奥に光が灯る。

 赤い、二つの光だ。

 地面の揺れが激しくなり、二つの赤い光が大きくなる。

 いや、うろから出て来ようとしているのだ。

 地響きと共に現れたそれは――。


「「「蝸牛かたつむり」」」


 ユウカ、マコト、ローラの声が重なる。

 うろから出てきたのはどす黒い蝸牛だった。

 まあ、魔法の影響で表面が凍り付いていたが――。

 ユウカ達は呆然と蝸牛を見上げる。

 蝸牛がぶるりと身を震わせると、表面の氷が落下した。

 再び蝸牛が身を震わせる。


「走れ!」


 マコトがユウカの手を掴んで走り出す。

 もちろん、ローラも一緒だ。

 次の瞬間、蝸牛が何かを吐き出した。

 その正体は粘液としか言いようのない物質だ。

 粘液は地面に着弾すると、汚らしく広がった。

 それだけではない。

 白い煙が立ち上り、地面が溶けていく。

 酸だ。

 酸を吐いたのだ。


「再詠唱!」


 ユウカはマコトに手を引かれながら魔法を放った。

 氷爆の白い光が蝸牛に向かう。

 だが、白い光は蝸牛に触れるか触れないかの所で消滅した。

 魔法を無効化したのだ。

 ユウカは目を細める。

 黒い光が蝸牛を覆っていた。


「七悪!?」

「くそッ、エンカウント率が高すぎんだろ!」


 ユウカが叫ぶと、マコトは悪態を吐いた。

 その間にも蝸牛は次々と酸を吐きかけてくる。

 このまま際限なく酸を吐きかけているのではないかと考えたその時、突然攻撃が止んだ。

 足を止め、蝸牛の方を見る。

 蝸牛はクリスティン達の箱馬車を見ていた。

 マコトは手を放すと前に出た。

 変神メタモルフォーゼするつもりなのだ。


「あとのことは頼んだぞ」

「任せてって言いたいけど、巻き込まないでね」

「善処する」


 そう言って、マコトは大きく息を吸った。


「変神!」


 その言葉と共にマコトは漆黒の炎と化した。

 目を凝らしてもマコトの姿は見えない。

 炎が揺らぎ、その中に影が見えた。

 心臓を鷲掴みにされたような圧迫感を覚える。

 胸元に手を伸ばしたその時、炎の中から黒騎士が現れた。


「ウ、オォォォォォォォッ!」


 黒騎士が吠え、蝸牛が動きを止めた。

 こちら――黒騎士に視線を向ける。

 すると、黒騎士は自身の胸に指を突き立てた。

 葛葉を倒したあの一撃を放つつもりなのだ。

 確かにあれなら一撃で片が付く。

 だが――。


「駄目ッ!」


 ユウカは叫んだ。

 確かにあれならば一撃で片が付く。

 だが、空を砕く一撃なのだ。

 地表に向けて放ったらどうなるか。

 黒騎士が肩越しにユウカを見る。

 それだけで漏らしてしまいそうだが、何とか堪える。

 黒騎士はしばらくこちらを見ていたが、やがて興味を失ったように正面に向き直った。

 わずかに膝を屈めて跳ぶ。

 いや、飛んだというべきか。

 黒騎士は空へと向かう。

 その時、蝸牛が身震いした。

 氷が砕け、戒めから解き放たれた枝が黒騎士に伸びる。

 だが、枝は黒騎士を捉えることができなかった。

 漆黒の炎によって塵に変えられたのだ。

 黒騎士はさらに上昇を続け、蝸牛を見下ろせる高さに到達する。

 黒騎士が再び吠える。

 すると、黒騎士と蝸牛の間にいくつもの魔法陣が浮かび上がった。


「あれは――ッ!」

「知っているのですか!?」

「ええ、知ってるわ」


 ローラの問いかけにユウカは頷いた。

 黒騎士が蝸牛に向かって飛ぶ。

 頭からではない。

 足からだ。

 蹴りを放つつもりなのだ。

 黒騎士の足が接触し、魔法陣が砕けた。

 その代わりに黒騎士は加速する。

 魔法陣を砕いて黒騎士は加速加速加速――閃光と化す。


「あれは……」

「あれは?」

「平成ライダーのパクりよ!」


 ユウカが叫んだ次の瞬間、黒騎士の蹴りが炸裂した。

 蝸牛の体が、その向こうにあった巨木がごっそりと抉れる。

 残っている部分の方が少ない。

 それほどのダメージを受けたら七悪でも死ぬしかない。

 蝸牛が地面に倒れ、巨木がゆっくりと傾き始めた。

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