表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アラフォーおっさんはスローライフの夢を見るか?  作者: サイトウアユム


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

130/138

Quest39:王都に向かえ その8

 ホァァァァァァッ! とゴーストの群れが甲高い声を上げながら濃霧の向こうからやってくる。

 いや――。


「ユウカッ!」

「ゴーストよ! ただのゴーストッ!」


 マコトが大声で叫ぶと、ユウカは叫び返してきた。

 名前を呼んだだけで全てを察してくれるとはありがたい。

 流石、相棒だ。

 相手はゴースト――ならば魔法による攻撃を警戒せずに済む。


「フジカ、ギリギリまで引きつけて昇天ターン・アンデッドだ!」

「りょ、了解だし!」


 フジカに指示を出す。

 すると、彼女は口籠もりつつ応えた。

 微かな金属音が響く。

 フジカが震えているせいで錫杖が鳴っているのだ。

 ダンジョンを攻略して自信を付けたかと思ったが、そう簡単にはいかないようだ。

 ギリギリまで引きつけてと言わない方がよかっただろうか。

 そんなことを考えていると、ユウカが口を開いた。


「なに、ビビってんのよ?」

「ビビってないし」

「そ、なら頑張りなさい」


 フジカがムッとしたように言い返すが、ユウカは素っ気ない。

 いや、わずかに優しさを感じさせる声だった。

 錫杖の音が止まる。

 思わず息を呑む。

 まさか、ユウカがフジカを気遣う日が来るとは思わなかった。

 夢でも見ているような気分だ。

 だが、感動に浸ってはいられない。

 ゴーストの群れが迫っているのだ。

 気を引き締めなければ。

 しばらくしてようやくゴーストの姿が明らかになる。

 といっても一体だけだ。

 それ以外のゴーストは濃霧の向こうに隠れている。

 ホォォォォォッ! とゴーストが大きな声を上げる。

 それが合図になっていたのか。

 それとも偶然か。

 ゴーストの群れが一斉にその姿を現す。

 その数は二十体以上。

 もちろん、ただ姿を現した訳ではない。

 猛スピードで迫ってくる。

 距離が一気に詰まり――。


「昇天みたいな!」


 フジカが魔法を使った。

 光に照らされ、ゴーストの群れが悲鳴を上げる。

 そして、光の中でのたうつように消滅した。

 だが、全てではない。

 生き残った数体のゴーストが一塊になって突っ込んでくる。


点火イグニッション


 マコトがぼそっと呟くと、右腕から漆黒の炎が噴き出した。

 手の平を上に向ける。

 漆黒の炎が収束して炎の玉になる。

 炎弾を投げようと腕を振りかぶるが――。


魔弾ブリット!」


 マコトが炎弾を投げるより早くユウカが魔法を使った。

 魔弾が一直線に突き進む。

 直撃するかと思いきやゴースト達は動きを止め、四方に散った。

 まるで危険を察知した魚のように。

 まさか、ユウカの魔法を避けるとは。

 だが、避けても避けなくても結果は変わらなかっただろう。


「昇天みたいな!」


 この隙を見逃さず、フジカが魔法を使った。

 先程と同じように数体のゴーストは光の中でのたうつように消滅する。

 マコトは腕を下ろし、炎弾を握り潰した。

 久しぶりの炎弾だったのだが――。

 いや、言うまい。

 それよりもユウカの成長を喜ぶべきだ。

 ユウカはフジカをサポートしようとしていた。

 だからこそ、魔弾が間に合ったのだ。

 もっとユウカの成長を喜びたいが、濃霧の向こうには無数の影が蠢いている。

 まだその時ではない。

 それにしてもあれだけの数を相手にするのは骨だ。

 フジカの魔力が先に尽きかねない。


「ユウカ、頼めるか?」

「はいはい、分かってるわよ」


 マコトの言葉にユウカは頷いた。

 仕方がないわね~という表情が目に見えるようだ。

 ホォォォォォッ! という甲高い声が響く。

 ゴーストの群れ――その第二陣が攻撃を仕掛けてきたのだ。

 前方からゴーストの群れが迫る。先程と同じ二十体以上の群れだ。

 錫杖の音が響く。

 フジカが錫杖を握り締めたのだろう。

 ユウカが呪文の詠唱を始める。


「スキル・並列起動マルチタスク×50。リュノ・ケスタ・アガタ! 無窮ならざるペリオリスよ、追え追え猟犬の如く、我が敵を追う猟犬となれ! 顕現せよ、追尾弾ホーミング・ブリット!」



 呪文が完成し、追尾弾がマコトの頭上を越えてゴーストの群れに向かう。

 ゴーストの群れが散開する。

 一斉に散開する様はある種の美しさを感じさせる。

 だが、ユウカの魔法の前では無意味だった。

 追尾弾は散開したゴーストに猟犬の如く追い縋り、その体をごっそりと抉り取る。

 体を抉り取られたゴーストは甲高い悲鳴を上げて霧散した。

 残っていた追尾弾は濃霧の向こうへと飛んでいく。

 複数の甲高い悲鳴が上がり、それに呼応するかのように周囲から甲高い声が響く。

 マコトは反射的に視線を巡らせた。

 来る。右、正面、左からゴーストの群れが迫る。


「後ろは!?」

「いないッス!」


 正面を見据えたまま叫ぶと、フェーネが叫び返した。

 背後からの襲撃を警戒しなくていいのはありがたい。

 だが、館の主とゴーストが無関係ということは有り得ない。

 つまり、館の主はマコト達に逃げ込んできて欲しいのだ。

 だから、逃げ道を残している。

 罠であることは明白だ。

 ならば引き返すべきだ。

 問題は――。

 いや、とマコトは思考を中断する。

 まずは三方から迫るゴーストを退けなければならない。

 ゴーストの群れが間近に迫り――。


「昇天だし!」


 フジカが魔法を放った。

 ゴーストの群れが甲高い悲鳴を上げて消滅する。

 だが、ゴーストの群れは消滅してしない。

 後続が迫っている。


再詠唱リピート!」


 今度はユウカが魔法を使う。

 追尾弾が三方に飛び、ゴーストを次々と貫く。

 しかし、ゴーストの群れはなおも迫ってくる。

 こちらの処理能力を試すように数を増してだ。

 それだけではない。

 濃霧の向こうには数え切れないほどの影が蠢いている。


「昇天!」

「再詠唱!」


 フジカとユウカがほぼ同時に魔法を使う。

 ミスではない。

 そうしなければ捌けなくなってきているのだ。

 マコト達にはまだ余裕がある。

 マコトはもちろん、リブとフェーネも戦力を温存している。

 だが、このままではじり貧だ。

 仕方がない。

 館の主の思惑には乗りたくないが――。


「屋敷まで後退するぞッ!」

「は!? 何を――」


 マコトの叫びにユウカが異を唱えようとする。

 だが、彼女は最後まで言い切ることができなかった。

 ホォォォォォッ! というゴーストの甲高い声に言葉を遮られたのだ。


「うっさいわね! 再詠唱ッ!」


 ユウカが大声で怒鳴り、魔法を放つ。

 追尾弾がゴーストを貫く。

 いや、後退しつつあるゴーストをというべきか。

 マコトは溜息を吐く。

 館の主に聞こえれば攻撃が止むのではないか。

 そう考えて叫んだのだが、こうもあからさまだと溜息が出てくる。


「ちょっと! 逃げてんじゃないわよッ! 再詠唱! 再詠唱! 再詠唱!」


 ユウカが立て続けに魔法を放つ。

 一回目、二回目とあの甲高い悲鳴が響いたが、三回目は何も聞こえなかった。

 気が付けばあれだけいたゴーストは消えていた。

 マコトは結界を消して振り返った。

 すると、ユウカが地団駄を踏んでいた。

 まだ怒りが冷めやらぬようだ。

 成長したと思ったのにユウカはやはりユウカのようだ。


「屋敷まで退くぞ」

「どうして、わざわざ罠に飛び込むような真似をするのよ?」


 マコトが改めて言うと、ユウカはかなりトーンダウンした様子で問いかけてきた。


「あのまま戦ってもじり貧だっただろ?」

「確かにそれはあるし」

「そう? あたしは余裕だけど?」


 マコトの言葉にフジカが頷く。

 すると、ユウカが髪を掻き上げながらマウントを取る。


「ユウカはそうかも知れないけど、私はそうじゃないし」

「ふふん、精進することね」


 フジカが拗ねたように言い、ユウカは勝ち誇ったように鼻を鳴らした。


「話を続けてもいいか?」

「うん? ああ、ええ、いいわよ」


 さっきまで話していた内容をちゃんと覚えているだろうか。

 不安だが、口にはしない。

 そんなことをしても話が長引くだけだ。


「あのまま戦ってもじり貧だったと思うんだよ」

「切り抜けられる可能性もあったじゃない」

「そりゃな」


 ユウカの言葉にマコトは頷いた。

 切り抜けられる可能性もあった。

 だが――。


「切り抜けられない可能性もあっただろ?」

「悲観的ね」

「自分達の命を賭けたギャンブルだからな。悲観的にもなるさ」


 ユウカが呆れたように言い、マコトは肩を竦めた。


「で、罠に飛び込むにしても消耗しきった状態と余力を残した状態のどっちがマシかって言ったら――」

「断然、後者よ」


 ユウカがマコトの言葉を遮って言った。


「そういうことだ。まあ、相談しなかったのは悪かったと思うけどよ」

「おいらは兄貴の判断に賛成ッス。どれくらいゴーストがいるか分からないッスから」

「あたいもだな。罠を力尽くで突破ってのが気に入ったぜ」

「そもそも、霧の中から脱出できるとは……」

「魔力が尽きて何もできなくなるのは勘弁して欲しいし」


 マコトが視線を巡らせると、フェーネ、リブ、ローラ、フジカの四人が応えた。


「じゃ、館に入るぞ」

「その前に雇い主に報告でしょ?」

「そうだな」


 マコトはユウカの言葉に頷き、足を踏み出した。

 クリスティンの乗る箱馬車の前で立ち止まり、扉を叩く。

 ややあって、扉が開いた。

 当然、扉を開けたのはクリスティンだ。


「終わったのか?」

「いや、これから館に入る」

「何じゃと!?」

「実は――」


 クリスティンが驚いたように目を見開き、マコトはこれまでの経緯を説明した。

 話を終えると、クリスティンは渋い顔をしていた。


「大丈夫なのか?」

「保証はできねぇ。つか、今の状況からして罠に嵌まってるみたいなもんだからな」

「まだ罠を食い破れる見込みがある内にということじゃな?」

「そういうことだ」


 う~む、とクリスティンが唸り、ユウカが口を開いた。


「館に入るのは決定事項よ?」

「分かっとるけど、心の準備が必要なんじゃ」


 う~~む、とクリスティンはさらに唸り、意を決したように口を開いた。


「よし、ワシは進むぞ! 箱馬車を進ませるのじゃッ!」


 クリスティンが大声で叫ぶと扉を閉めた。

 箱馬車が動き出し、マコト達もそれに合わせて進む。

 門を通り抜けてしばらく進むと、ギィという音が背後から聞こえた。

 この後の展開を半ば予想しながら振り返る。

 すると、門が閉じようとしていた。

 門は耳障りな音を立てて閉じていき、最後に重々しい音を響かせた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

コミック第3巻絶賛発売中‼


同時連載中の作品もよろしくお願いします。

HJ文庫様からリブート!!

クロの戦記 異世界転移した僕が最強なのはベッドの上だけのようです

↑クリックすると作品ページに飛べます。


小説家になろう 勝手にランキング
cont_access.php?citi_cont_id=878185988&size=300
ツギクルバナー

特設サイトができました。

画像↓をクリックすると、特設サイトにいけます。

特設サイトへ

+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ