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アラフォーおっさんはスローライフの夢を見るか?  作者: サイトウアユム


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Quest39:王都に向かえ その4

 朝――マコトは階下から響く音で目を覚ました。

 バタバタという音だ。

 多分、手伝いの女性が朝食の準備をしているのだろう。

 正直にいえばもう少し寝ていたい。

 だが、ここは『黄金の羊』亭ではない。

 さらにいえば王都に向かう最中だ。

 二度寝する訳にはいかない。

 仕方がなく目を開け、体を起こす。

 すると、息を呑む音がした。

 音のした方を見ると――。


「こっち見ないで! 馬鹿ッ!」


 ユウカの声が響いた。

 残念ながらもう見てしまった、

 ユウカは着替え中だった。

 スカートは穿いておらず、セーラー服の上着で胸元を隠している。

 頭の片隅で警鐘が鳴る。

 マズい、危険だ、と理性と本能が訴えている。

 だが、起きたばかりのせいだろう。

 理性と本能の訴えをスムーズに処理できない。

 しばらくして顔を背けなければという当然といえば当然の発想が湧き上がる。

 顔を背けようとした次の瞬間――。


「魔弾!」


 ユウカが魔法を放った。

 まだ意識がはっきりしていないせいだろう。

 反射的に魔弾を掴んでしまった。

 マズい。手が吹っ飛ぶ。

 だが、予想していた衝撃はいつまで経ってもやって来なかった。

 魔弾が消滅したのだ。

 思わず手を見る。

 ちゃんと指が付いている。

 それだけではない。

 素手で魔弾を掴んだというのに傷一つなかった。

 魔法耐性スキルの効果だろうか。

 いや、魔法耐性はそこまで万能じゃない。

 というか、こんなことができるのならば葛葉に腕を斬り落とされたりしなかった。


「どうなってるの?」

「それはこっちが――」


 ユウカが呆然と呟き、マコトは顔を上げた。

 すると――。


「だから、こっちを見るなって言ってるでしょうがッ!」


 ユウカの怒声と枕が飛んできた。

 避けることもできたが、甘んじて攻撃を受けてユウカに背中を向ける。

 ふと魔法をぶち込んでくるのではないかと不安になる。

 流石にそんなことはしないだろうと思うが、今しがた攻撃を受けたばかりだ。

 それにユウカならばそれくらいのことをするという謎の信頼感もある。

 新手の拷問か、とマコトは手を組んだ。

 背後から衣擦れの音が響く。

 そのたびにドキッとしてしまう。

 もちろん、甘酸っぱい予感にではない。

 魔法をぶち込まれるのではないかという恐怖にだ。

 長い、長い時間が過ぎ、衣擦れの音が止む。

 マコトはホッと息を吐き、頭を振った。

 油断してはいけない。

 油断して振り向いたらまだ着替え中という事態も有り得る。

 念のために確認すべきだ。

 マコトは咳払いをし――。


「振り返ってもいいか?」

「いいわよ」


 ユウカの言葉にマコトはホッと息を吐き、すぐに思い直す。

 あれだけのことがあった後だ。

 報復しようとしている可能性もある。

 いや、むしろ報復しようとしていると考えた方が自然だ。

 危ない危ない。

 危うく術中に嵌まる所だった。


「本当に大丈夫か?」

「本当に大丈夫よ」

「本当に、本当に大丈夫か? 何か企んでないか?」

「企んでないわよ!」


 さらに念を押すと、ユウカは声を荒らげた。


「何かあっても俺のせいじゃないからな?」

「しつこいわね」


 ユウカがうんざりしたように言う。

 もう一回くらい念を押しておきたい所だが、怒らせて魔法をぶっ放されたくない。

 それに、ここまで言うのなら信じてもいいかなという気になる。


「信じてるからな、相棒」

「あたしを信じなさい、相棒」


 よし! とマコトが振り返ると、ローラが下着姿で立っていた。

 彼女らしくシンプルな下着を身に着けている。

 引き締まった体付きをしているせいもあってムラムラとしない。

 何というか、アスリートの鍛え上げられた体を見ているかのような感慨がある。

 くそッ、とマコトは吐き捨て、ユウカに視線を向ける。

 すると、彼女は邪悪な笑みを浮かべていた。

 信じるんじゃなかったと心から思う。

 やはり、ユウカが頼りになるのは緊急時だけなのだ。


「信じなさいって言ったよな、相棒?」

「ごめん。嘘を吐いたわ」


 ふふん、とユウカは鼻を鳴らした。

 実に楽しそうだ。

 ローラはといえば下着姿でこちらを見ていたが、興味を失ったように服を手に取った。


「ちょっと!」

「きゃッ!」


 ユウカが指で脇腹を突くと、ローラは可愛らしい悲鳴を上げた。

 ローラは脇腹を押さえつつユウカに向き直った。


「何をするんですか!?」

「それはこっちの台詞よ!」


 ローラが大声で叫ぶと、ユウカは大声で叫び返した。

 まさか、叫び返されるとは思わなかったのだろう。

 ローラはきょとんとしている。


「折角、あたしがマコトを罠に嵌めたのに、どうして平然としてるのよ!?」

「どうしてと言われても……」

「どうして、黄色い悲鳴を上げないのよ? ここは『キャーッ!』って悲鳴を上げる所でしょ、『キャーッ!』って」


 ローラが口籠もると、ユウカは捲し立てるように言った。


「はい、『キャーッ』」

「え? 何ですか?」

「だから、『キャーッ』って叫んで」


 困惑しているのだろう。

 ローラが聞き返すが、ユウカは当然のように指導をする。

 噛み合っているようなまるで噛み合っていない。


「はい、『キャーッ!』」

「き、きゃぁ」


 ユウカが促すと、ローラは躊躇いがちに声を上げた。


「違うわ! 『キャーッ!』よ、『キャーッ!』」

「……キャーッ!」


 ローラはしばらく黙り込んでいたが、このままでは埒が明かないと考えたのだろう。

 意を決したように叫び声を上げた。

 ユウカは満足そうに頷き――。


「少しはよくなったわ。でも、まだまだね。こんなんじゃマコトを罠に嵌めることなんてできないわ。練習しときなさい」

「は、はぁ」


 ローラは生返事を返した。

 気持ちはよ~く分かる。


「返事!」

「はい!」


 ユウカが鋭く叫ぶと、ローラは背筋を伸ばして言った。

 悲しいかな。

 胸は揺れない。

 ローラは深々と溜息を吐き、のそのそと服を着た。

 起きたばかりなのにひどく疲れているように見える。


「そういえば――」

「――ッ!」


 ユウカがぽつりと呟くと、ローラは軽やかに身を翻した。

 脇腹を突かれたばかりなので警戒心が働いたのだろう。

 だが、ユウカはきょとんとしている。

 何故、ローラが身を翻したのか分からないという顔だ。


「なんで、身を翻してるのよ?」

「ユウカさんに脇腹を突かれたからです」


 ふ~ん、とユウカは相槌を打った。

 邪悪な笑みを浮かべている。

 これはいいことを聞いたと言わんばかりの表情だ。

 ローラはユウカに向き直り、円を描くように――窓を拭いているようにも見える――手を動かした。


「何、それ? 太極拳?」

「いえ、何でもありません」


 ローラはしれっと言い、ベッドに腰を下ろした。


「それで、どうかしたんですか?」

「どうかしたって?」


 ローラが尋ねると、ユウカは不思議そうに首を傾げた。


「いえ、何か言おうとしていたようでしたので。何もなければ――」

「ああ!」


 ユウカは声を上げ、手を打ち鳴らした。

 くッ、とローラが小さく呻く。

 余計なことを言ってしまった。

 そんな気持ちが伝わってくる。


「そういえばローラに言おうとしていたことがあったのよ」

「そう、ですか」

「なんで、呻くように言うのよ?」


 ローラが呻くように言うと、ユウカは問い返した。


「悪い予感が……」

「そんなこと言わないわよ」

「本当ですか?」


 ユウカがムッとしたように言い、ローラが問いかける。

 当然といえば当然だが、ユウカの言葉をこれっぽっちも信じていない目だ。


「本当よ。あたしを信じなさい」

「そんなこと言って、裏切ったばかりじゃねーか」

「それはそれ、これはこれよ」


 突っ込みを入れるが、ユウカは何処吹く風だ。

 相棒を裏切ったことなど歯牙にも掛けていないようだ。

 まあ、らしいといえばらしいが――。


「それで、何を言おうとしていたのですか?」

「大したことじゃないんだけど……」

「じゃあ、いいです」

「ちょっと! 人の話を聞きなさいよッ!」


 ローラがきっぱりと断ると、ユウカは声を荒らげた。


「大したことでないのならば別に――」

「重要よ、重要! 世界の命運が掛かってるくらい重要ッ!」


 ユウカはローラの言葉を遮って言った。

 すごく必死だ。

 それにしても世界の命運が掛かっているとは大きく出たものだ。


「まあ、そこまで言うのなら……」

「ぐッ、世界の命運が掛かってるのに」

「それくらいで滅びる世界なら……」


 ユウカが口惜しげに呻くが、ローラは乗り気でなさそうだ。

 世界の命運を引き合いに出すユウカもユウカだが、それくらいで滅びるならと言うローラもローラだ。


「それで、何を言おうとしていたのでしょう?」

「聞いて驚きなさい」


 そう言って、ユウカは腕を組んだ。

 だが、口を開こうとしない。

 どうしたのだろう。


「ユウカさん?」

「ここまで盛り上げておいてなんだけど、呆れられそうな気がするわ」


 ローラが声を掛けると、ユウカは難しそうに眉根を寄せて言った。

 ここまで引っ張ったんだからちゃんと言えよと思わないでもない。


「そうですか」

「悪いけど、言わないでおくわ」

「分かりました」


 ローラが頷き、ユウカはどっかりとベッドに腰を下ろした。

 沈黙が舞い降りる。

 階下からバタバタという音が聞こえる。

 朝食までまだ間があるようだ。

 ローラがユウカにチラチラと視線を向ける。

 ユウカが何を言おうとしていたのか気がかりなようだ。


「ところで、何と言おうとしていたのでしょう?」

「ん? 大したことじゃないわ」

「ですが、世界の命運が掛かっていると」

「嘘に決まってるでしょ。世界の命運は掛かってないわ」

「そうですか」


 そう言って、ローラは俯いた。

 だが、気になるのだろう。

 視線こそ向けないものの、落ち着かない様子で体を揺すっている。

 しばらくしてユウカが口を開く。


「……ローラ」

「何でしょう!?」


 教えてもらえるかも知れないという期待からだろう。

 ローラが勢いよく振り返る。


「トイレならさっさと行きなさいよ」

「違います! ただ、ちょっと……」


 ローラは声を荒らげ、口籠もった。

 すると、ユウカは勝ち誇ったような笑みを浮かべた。


「あたしが何を言おうとしてたのか気になって仕方がないって顔ね」

「――ッ! い、いえ、そういう訳では……」


 ローラは息を呑んだ。

 だが、すぐに自身の失策を悟ったのだろう。

 慌てて否定する。

 マコトは溜息を吐いた。

 これでは気になって仕方がないと言っているようなものだ。

 ユウカも同じように感じたのだろう。

 笑みを深める。


「どうしようかしら?」


 ユウカは腕を組むとしなを作った。


「さっき聞きたくないって言ってたし」

「ぐッ……」


 ユウカがわざとらしく言うと、ローラは口惜しげに呻いた。

 やっちまったな、とマコトは二人を見ながら思う。

 ローラが聞きたくないと言ってもユウカはことあるごとに思わせぶりな態度を取るはずだ。


「お願いしますって言ったら教えて

「ぐッ……」


 ユウカが嫌みったらしく言い、ローラがまたしても呻く。

 まんまとユウカの術中に嵌まっている。

 どちらにしろ、勝敗は決まったようなものだ。


「どうするの?」

「ぐぅ……、お願いします」

「仕方がないわね」


 ユウカはこれまた嫌みったらしく言って、髪を掻き上げた。

 だが、これ以上いたぶるつもりはないのだろう。

 居住まいを正す。


「さっき、あたしは思ったのよ」

「……はい」


 ユウカの言葉にローラは神妙な面持ちで頷いた。


「ローラって女子力が足りないわねって」

「またそれですか!?」

「話は最後まで聞きなさい!」


 ローラが声を荒らげると、ユウカはぴしゃりと言った。

 うぐぐ、とローラは呻いたが、素直に従った。

 そんなにユウカの言葉が気になるのだろうか。


「さっき、マコトに下着姿を見られても平然としてたでしょ?」

「……はい」

「それが駄目なのよ」

「駄目ですか」


 ユウカが駄目出しをするが、ローラはきょとんとしている。


「駄目よ! 女の子は下着姿を見られたら叫び声を上げるものなのッ!」

「そう、でしょうか」


 ローラは今一つ納得できていないようだ。


「そうなの。女にとって下着姿は裸も同然」

「裸も同然」


 ユウカの言葉をローラは鸚鵡返しに呟いた。


「ですが、私は騎士ですし、有事に恥ずかしがっているようでは何も守れません。それに、私はマコト様になら下着くらい……」

「ぐッ……」


 ローラが両手で頬を押さえて言うと、惚気られるとは思わなかったのだろう。

 ユウカは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。

 気を取り直すためか、小さく頭を振る。


「駄目よ。男ってのは恥じらいを求めるものなの。さっき、あたしの下着姿を見たマコトなんて目を爛々と輝かせてたわ」

「目を爛々と……」


 ごくり、とローラは喉を鳴らし、身を乗り出した。


「そのことなんだが……」

「言い訳なんて男らしくないわよ」


 ふと気になることがあって切り出すと、ユウカはムッとしたように言った。

 聞きたくないのならわざわざ指摘しなくてもいいかなという気になる。

 だが、危険を指摘しないのもどうかなという気がする。

 少し悩んだ末に指摘することを選ぶ。


「そんなこと言っていいのか?」

「は?」


 ユウカは問い返してきた。

 何を言っているのか分からないという顔だ。


「だから、バレたらフジカに弄られるんじゃねーの? 『ユウカったらいつの間にマコトさんとそんな仲になったのみたいな』って」

「……何か、本人に言われる百倍くらいイラッとしたんだけど」


 ユウカはやや間を置いて言った。


「マコト、信じてるわよ?」

「わざわざ念を押さなくても言わねーよ」


 マコトは溜息交じりに答え、ローラに視線を向けた。

 すると、ユウカもローラに視線を向けた。

 もちろん、マコトはユウカの下着姿を見たことを言うつもりはない。

 だが、ローラがどうするかまでは分からない。


「ローラ、今の会話は誰にも言っちゃ駄目よ?」

「何故でしょう?」

「何故って分かるでしょ?」

「お願いしますは?」

「お、お願いします」


 ローラがにっこり笑って言うと、ユウカは地の底から響くような声で言った。

 どうしましょう? とローラが可愛らしく小首を傾げる。

 だが、マコトには火薬庫の傍で火遊びをしているようにしか見えない。

 彼女には見えていないのだ。

 怒りを堪えるように握り締められたユウカの拳が。

 ユウカが魔法をぶっ放そうとしたら割って入らなければ。

 ローラの頭が吹っ飛ばされる光景を見たくない。

 マコトは少しだけベッドから腰を浮かせた。

 その時、コンコンという音が響いた。

 扉を叩く音だ。

 ナイスタイミングだ。


「どうぞ!」

「……失礼いたします」


 マコトが声を張り上げると、扉が開いた。

 扉を開けたのは手伝いの女性だ。

 ユウカがギロリと睨み付ける。

 だが、幸いというべきか。

 手伝いの女性は顔を伏せていた。


「朝食の準備ができました」

「よし! 二人とも行くぞッ!」

「はい」

「……」


 マコトが立ち上がると、ローラも立ち上がった。

 だが、ユウカは立とうとしない。

 もしかして拗ねたのだろうか。

 つくづく面倒臭い。


「ユウカ、行くぞ」

「分かったわよ」


 声を掛けると、ユウカは渋々という感じで立ち上がった。

 よしよし、従うだけの素直さが残っているのなら大丈夫だ。

 朝食を食べれば機嫌を直すに違いない。

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