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アラフォーおっさんはスローライフの夢を見るか?  作者: サイトウアユム


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Quest39:王都に向かえ その3

 夜――マコトがベッドに横たわって天井を見上げていると、トントンという音が響いた。

 扉を叩く音だ。

 食事の準備ができたのだろう。

 体を起こして扉の方を見る。


「ど――」

「入っていいわよ!」


 どうぞと言うつもりだったが、それは叶わなかった。

 ユウカに先を越されたのだ。

 ユウカの方を見る。

 すると、彼女はテーブルを挟んでローラと向かい合っていた。

 テーブルにはカードが伏せられた状態で並んでいる。

 神経衰弱だろうか。

 ローラはカードを裏返し、がっくりと肩を落とした。

 どうやら外れたようだ。

 状況は――ユウカが圧倒的に有利だ。

 自分の得意なゲームを選んだに違いない。

 そんなことを考えていると、ガチャという音が響いた。

 扉が開いたのだ。

 扉を開けたのは部屋まで案内してくれた女性だ。

 おずおずと口を開く。


「……食事の準備が整いました」

「分かった」


 返事をするが、女性は扉を閉めようとしない。

 どうやら食堂まで案内してくれるつもりのようだ。

 ベッドから下りて立ち上がる。


「ふふん、あたしの勝ちね」

「なッ、まだ勝負は付いてません!」

「あたしの手元に札が28枚あるんだから勝負は付いてるわ」

「もう一勝負! もう一勝負ッ!」

「どうしようかしら?」


 ローラが身を乗り出して言うと、ユウカは笑みを浮かべた。

 邪悪、もとい、意地の悪そうな笑みだ。

 金を賭けようとか言い出しそうだ。

 もちろん、その時は止めるつもりだ。

 止めなければローラはムキになって勝負を続け、一文無しになってしまうに違いない。

 まあ、それはそれとして――。


「ユウカ、ローラ、食事ができたってよ」

「分かってるわよ」


 声を掛けると、ユウカはカードを束ねて立ち上がった。

 渋々という感じでローラも立ち上がる。

 ようやく食堂に行けそうだ。

 同じことを考えたのだろう。

 女性は溜息を吐いた。


「どうぞ、こちらに」


 女性が踵を返して歩き出し、マコト達はその後に続く。

 部屋を出て、廊下を通り、階段を下り、廊下を通って食堂に辿り着く。

 食堂に入ると、クリスティン達――クリスティン、フェーネ、リブ、フジカは席に着いていた。

 ちなみにクリスティンはお誕生日席、フェーネ、リブ、フジカはテーブルの右側に座っている。

 マコト達はテーブルの左側に座った。

 フジカがユウカとローラを交互に見て、口を開く。


「ユウカ、何かあったみたいな?」

「なんで、そんなことを聞くのよ?」

「妙にすっきりした顔してるし」

「部屋でちょっと遊んだだけよ」

「あ~、それで……」


 ユウカの言葉にフジカは合点がいったとばかりに声を上げた。

『それで……』の続きは『道理でローラさんの元気がないはずみたいな』だろう。


「何か言いたいことでもあるの?」

「言いたいことなんてないし」


 ユウカが問いかけると、フジカは首を左右に振った。

 沈黙が舞い降りる。

 気まずい、居心地の悪い沈黙だ。

 その雰囲気に耐えられなくなったようにフジカが口を開く。


「それで、何して遊んだのみたいな?」

「なんで、アンタにそんなことを答えなきゃならないのよ?」

「ただの好奇心みたいな」

「好奇心?」


 そう言って、ユウカは顔を顰めた。

 ちなみに言い方は『こ~う~きし~ん~』だ。


「嫌ならいいし」

「嫌じゃないわよ」


 フジカが興味を失ったように言うと、ユウカはあっさりと態度を翻した。

 押して駄目なら引いてみろ――つまり、そういうことだ。


「で、何して遊んだのみたいな?」

「神経衰弱よ。結果はあたしの圧勝だったけどね」

「ぐッ……」


 ユウカが得意げに鼻を鳴らして髪を掻き上げる。

 すると、ローラが呻いた。


「やっぱり、そういうの苦手なんスね」

「やっぱりって何ですか!?」


 フェーネがしみじみとした口調で呟くと、ローラは悲鳴じみた声を上げた。


「ローラさんは脳き、もとい、体を動かすのが得意そうッスからね」

「ぐッ、確かに体を動かす方が得意ですが……」


 フェーネの言葉にローラは苦しげに呻いた。

 微妙に気を遣った会話だ。

 一応、空気が読めているのだろう。

 ユウカも『それって馬鹿ってことよね?』とは言わない。

 まあ、空気が読めても無視することが多いので油断はできないが――。


「ユウカ、もうちょっと加減した方がいいし」

「なんで、そんなことしなきゃいけないのよ?」

「私はお盆や年末年始に親戚の子と遊ぶことがあるみたいな」

「つまり、ビッチを装ってるのはギャップ萌えを狙ってる訳ね。分かるわ」

「いや、そんな話してないし」


 ユウカが腕を組んで頷くと、フジカが突っ込みを入れた。


「アンタの魂胆は分かってるのよ。ビッチなのに子どもに優しいとか、ビッチなのにオタクに優しいとか、そういう評価を狙ってる訳ね」

「優しさをアピールするのにそんな面倒な真似したくないし」

「ちッ、あざとい、あざといわ」


 フジカが溜息交じりに言うが、ユウカは聞いていない。

 手が白くなるほど力を込めて拳を握り締めている。

 あざとさに親でも殺されたのだろうか。


「時々、ユウカのことが分からなくなるし」

「はッ、当然でしょ。アンタ如きにあたしを推し量れるもんですか」

「その件については同意するし」

「へぇ、妙に物分かりがいいじゃない」


 フジカがこくこく頷くと、ユウカは感心したように言った。


「アンタもようやく道理が分かってきたみたいね」

「私がユウカを理解するより人類が宇宙の神秘を解き明かす方が早いみたいな」

「どういう意味よ?」

「そういう意味だし」


 ユウカが身を乗り出して言うと、フジカは体を引き、視線を逸らしながら答えた。

 文句を言おうとしてか。

 ユウカが口を開く。

 その時、村長がやって来た。

 手伝いの女性も一緒だ。

 彼女達は料理を載せたトレイを持っている。

 村長が席に着くと、手伝いの女性がテーブルの上に料理を並べ始めた。

 パンと鶏のもも肉、具沢山のスープ、サラダなどなどこれでもかと料理が並ぶ。

 その中でも特に目を引いたのが二人がかりで運んできた豚の丸焼きだ。

 子豚なのだが、インパクトがでかい。

 豚の丸焼きを目にする日が来るとは思わなかった。


「失礼いたします」


 手伝いの女性がテーブルに杯を置き、陶製のピッチャで透明な液体を注ぐ。

 アルコールの臭いがしないので果実水か何かだろう。

 料理を並べ終え、手伝いの女性が壁際に寄ると、村長は口を開いた。


「……クリスティン様」


 うむ、とクリスティンが鷹揚に頷き、立ち上がった。

 村長に視線を向ける。


「突然の通達にもかかわらず、盛大な歓待を受け、ワシは心から感謝しておる」

「とんでもございません」


 クリスティンが芝居がかった口調で言うと、村長も芝居がかった口調と態度で応じた。

 何故、小芝居をと思い、視線を巡らせる。

 困惑しているのはマコト、ユウカ、フェーネ、平然としているのはリブ、ローラ、フジカだ。

 それで何となく理由が分かった。

 平然としている三人の共通点――それはパーティなどに縁がありそうということだ。

 元の世界でも政治家とかがにこやかに抱擁したり、わざとらしく褒めちぎったりする。

 マコトも部署移動した先輩に会った時は社交辞令を口にした。

 これはもうちょっと踏み込んだ、まあ、外交みたいなものだろう。

 クリスティンと村長の遣り取りはさらに続く。


「私どもがあるのはエルウェイ伯爵家のお力があればこそ」

「いや、ワシらは両輪じゃ。どちらが欠けても前に進めぬ。そもそも、この地は――」


 クリスティンは滔々とエルウェイ伯爵家と村の関わり合いについて語り始めた。

 要約すると、辛い時代もあったけど、一致団結して乗り切ってきました。

 これからも頑張っていきましょうという感じだ。

 ユウカに視線を向ける。

 いつもなら文句を言いそうだが、どういう風の吹き回しかおとなしい。

 もしかして、村長の顔を立てているつもりなのだろうか。

 有り得る。

 ユウカはチョロい、もとい、自分に敬意を払ってくれるというか、へりくだってくれる相手にはびっくりするくらい寛容なのだ。

 俺もへりくだった方がいいだろうかという考えが脳裏を過るが、すぐに無意識のダストシュートに投げ捨てる。

 自分達は相棒だ。

 へりくだったら相棒でなくなってしまう。

 面倒臭いヤツだが、その意識だけは共有していると思う。


「――という訳じゃ。では、ワシらの未来に」


 マコトが考え事をしている間に話が終わり、クリスティンが杯を手に取る。

 マコト達もそれに倣う。

 もちろん、ユウカもだ。


「乾杯!」

「「「「「「「乾杯ッ!」」」」」」」


 クリスティンが杯を掲げ、マコト達も杯を掲げた。

 杯を打ち鳴らしてすぐに村長が立ち上がる。

 何かあったのだろうか。

 疑問に思ったが、すぐに理由が分かった。

 村長がナイフで子豚を切り分け始めたからだ。

 手伝いの女性が皿を持ってやって来て、村長は切り分けた肉を載せた。

 手伝いの女性はまずクリスティンのもとに、その後はマコト、ユウカ、ローラ、リブ、フェーネ、フジカの順で肉を運んだ。

 折角なので、切り分けてもらったばかりの肉に手をつける。

 ナイフとフォークで切り分け、口に運ぶ。

 軽く目を見開く。

 子豚だからだろう。

 肉が軟らかく、それでいて噛み締めると肉汁が染み出てくる。

 塩っ気が効いているのもありがたい。


「美味い」

「そんなの見れば分かるわよ」


 思わず呟くと、ユウカが呆れたように言った。


「なんでだ?」

「そりゃ、美味しそうに食べてるんだもの」


 ユウカはやれやれと言わんばかりに肩を竦め、パクッと肉を頬張った。

 軽く目を見開き、ゆっくりと咀嚼する。

 澄ました顔だが――。


「……美味ッ」


 肉を呑み込んで小さく呟いた。

 それからハッとしたようにこちらを見る。


「何よ?」

「美味しそうに食べるんだな」

「いいじゃない。本当に美味しいんだから」


 マコトの言葉にユウカは拗ねたように唇を尖らせた。

 マコト達の遣り取りを見て、好奇心がくすぐられたのだろう。

 フェーネは二つに割ったパンを皿に置き、肉に手を伸ばした。

 肉を頬張って、すぐに三本の尻尾がぴんと立つ。


「美味いッス! こんなに美味い肉、食べたことがないッス!」

「ああ、マジで久しぶりだ」


 フェーネが感極まったように言うと、リブが肉を口元に運びながら頷いた。

 久しぶりという言葉に反応し、フェーネがリブに視線を向ける。

 すぐに見られていることに気付いたのだろう。

 リブはフェーネを見る。


「何処でこんなに美味い肉を食ったんスか?」

「おいおい、あたいは傭兵なんだぜ」

「今は冒険者ッス」

「ああ、そうだったそうだった」


 リブはバツが悪そうに頭を掻き――。


「まあ、あたいはそこそこ腕の立つ傭兵だったからな。そんな頻繁じゃねーけど、いい肉を食わせてもらう機会があったんだよ」

「いいご身分スね」

「そうか?」

「そうッス」


 リブが微妙な表情を浮かべる。

 いい肉を食べる機会はあったが、それ以上に苦労が多かったということだろう。

 だが、そこまで考えが及ばなかったのか、それとも別の理由からだろうか。

 フェーネは拗ねたような表情を浮かべて肉を頬張った。

 リブは気分を害した素振りも見せずにパンを食べるローラに視線を向けた。


「そういや、騎士様はどうなんだよ?」

「どうとは?」

「どうって、美味い肉を食う機会があったかに決まってるじゃん」


 ローラが問い返すと、リブは責めるような声音で言った。

 ローラは小さく千切ったパンを口に運び、咀嚼して呑み込む。


「お腹が空いていればどんなお肉でも美味しいです」

「ちょっと! 元雇い主ッ!」


 ローラがしみじみとした口調で言うと、何故かユウカが大声で叫んだ。

 突然、大声を呼ばれ、クリスティンがびくっと体を震わせる。


「……な、何じゃ?」

「ちゃんと食べさせてやりなさいよ」

「ワシ、結構な給金を支払ってたんじゃけど……」

「お給料だけじゃ足りないのよ。こう、何というか、生活全般を面倒見てやらなきゃ。根本的に生活力と女子力が皆無なんだから」


 クリスティンがごにょごにょと言うと、ユウカは溜息交じりに言った。

 それにしてもすごい評価だ。

 ふとローラの家を思い出す。

 そういえば床に埃が積もっていた。

 それを考えると、ユウカの指摘もあながち間違っていないような気がする。

 ローラがおずおずと手を挙げる。


「そこまでひどくないと思います」

「……ローラ」


 ローラの言葉にユウカは深々と溜息を吐いた。


「気持ちは分かるわ」

「本当ですか?」

「ええ、自分が回りと違うなんて認めたくないものね。あたしも自分の家が普通と違うって気付いた時、そりゃ傷付いたものよ」

「貧乏だって言ってたもんな」

「貧乏じゃないわよ! 平均的なご家庭よりも……」


 マコトがしみじみと呟くと、ユウカが声を荒らげた。

 だが、途中で口を噤んでしまう。

 貧乏や貧しいに代わる表現を探しているのだろう。


「ちょっとアレなだけよ!」

「貧乏は辛いな」

「ぐッ……。だから、貧乏じゃないっての。というか、うちは借金がある訳じゃないし、マコトのうちより大分マシよ」

「そうだな」


 ユウカが吐き捨てるように言い、マコトはグラスを口元に運んだ。

 透明な液体の正体はレモン水だったらしく爽やかな味わいが広がる。


「二人とも苦労してるんじゃな」

「うっさい、くそセレブ」


 哀れむかのように言うクリスティンにユウカは悪態を吐いた。

 だが、その言葉はいつもに比べて弱々しい。

 元の世界のことを思い出して感傷的な気分になったのだろう。


「とにかく、ローラには全面的なバックアップが必要よ」

「……」


 ユウカの言葉を聞いてクリスティンはローラに視線を向けた。

 信頼関係が壊れて久しいが、思う所があったのだろう。

 ローラが居住まいを正す。


「……そうじゃな」

「どうして、フォローしてくれないんですか?」

「ユウカの言葉にも一理あると思ったんじゃもの」

「クリス様は私のことを見くびりすぎです」


 クリスティンが溜息交じりに言い、ローラはムッとしたように言い返した。


「まさか……」

「ええ、私はマコト様と将来を約束しています」

「予想外の展開じゃ」

「なんで、そういうことを言うんです?」

「だって、ローラじゃもの」


 そう言って、クリスティンは深々と溜息を吐いた。


「ご安心下さい。責任を取って下さると約束しました。根回しも済んでいます」

「「根回し?」」


 マコトとクリスティンの声が重なる。


「対外的には私が正妻ということで、実際の序列はシェリーさん、リブ、私――」

「異議ありッス!」


 フェーネがローラの言葉を遮って言った。


「どうかしましたか?」

「おいらの方が兄貴と先に知り合ったんスよ」


 ローラが不思議そうに小首を傾げると、フェーネは身を乗り出した。


「つまり、序列三位はおいらッス」

「いえ、これは関係を持った順ですから」

「出会った順も加味して欲しいッス」


 フェーネが拳を握り締めて言うと、ローラは顔を背けた。

 いや、リブに助けを求めるような視線を向けたのだ。

 リブは渋い顔をしたが、見捨てられなかったのだろう。


「くだらねぇことに拘るなよ」

「くだらなくなんてないッス。おいらには切実な問題ッス」


 リブがうんざりしたように言うと、フェーネは語気を強めて言い返した。


「これだからフォックステイル族は」

「種族は関係ないッス。というか、リブが序列二位を譲ってくれたら全て解決ッス。くだらないと思ってるなら譲ってくれるッスよね?」

「いいぜ」

「「――ッ!」」


 リブがこともなげに言うと、フェーネとローラは息を呑んだ。


「譲ってしまっていいんですか?」

「別に構わねーよ」


 ローラがおずおずと尋ねるが、リブは平然とした口調で答えた。


「そもそも、序列は揉めねぇようにするためのもんだしな。お前らがキチッと役割をこなしてくれるんならあたいは何も言わねぇよ」

「役割ッスか?」

「そうだよ。あとから入ってきたヤツの面倒を見るとか、揉め事が起きた時に頭を押さえ付けて収めるとかな。もちろん、頭を押さえ付けてるだけじゃ不満が溜まる一方だからバランスも重要になってくるけどな」


 そう言って、リブはパンに齧りついた。

 フェーネに考える時間を与えるようにゆっくりと咀嚼して呑み込む。

 レモン水を飲み――。


「どうする?」

「…………序列四位でいいッス」


 フェーネはかなり間を置いて答えた。

 どうやらデメリットの方が上回ったようだ。

 相手を押さえ付けられるタイプではないので仕方がない。


「で、出産予定はいつじゃ?」

「まだありません」

「ないのか」

「できれば結婚してから」


 クリスティンががっくりと肩を落とすと、ローラはもじもじしながら言った。


「ワシがバックアップしてやるからできるだけ早めにな」

「そのことですが……」

「……何じゃ?」


 嫌な予感でもしたのだろうか。

 クリスティンは警戒する素振りを見せながら言った。


「男の子が産まれたらクリスティン様の旦那様にどうですか?」


 バシバシという音が響く。

 ユウカが手の甲でマコトの二の腕を叩いたのだ。


「何だよ?」

「あれ、伯爵家を乗っ取るつもりよね?」

「そんなことないだろ」


 マコトはユウカの言葉を否定した。

 もちろん、嘘だ。

 あんな申し出をしておいて乗っ取るつもりがないなんて考えられない。

 武器を持った相手に『何もしないからこっちにおいで』と言われて、のこのこ近づくくらい有り得ない。


「嘘を吐かないで。ローラは伯爵家を乗っ取るつもりよ」

「分かってるなら聞くなよ」

「まだ見ぬ我が子を道具にするなんて碌でもない女ね。暗黒騎士になったのも頷けるわ。ったく、本当に嫌になるわね」

「じゃあ、笑うなよ」

「笑ってないわ」


 マコトが指摘すると、ユウカはハンカチで口元を押さえた。


「どうなると思う?」

「本当に楽しそうだな」

「そんなことないわよ。かつての主従が反目し合うなんて心が痛むわ」


 ユウカはわざとらしい口調で言った。


「まあ、ローラも大概だと思うけどよ」

「けど、何よ?」

「俺達の子どもが騎士として使い潰されるのはな~」

「ああ、マコトは社畜だったものね」


 マコトが溜息交じりに呟くと、ユウカは合点がいったとばかりに声を上げた。


「出世しても地方の騎士団長――子会社の部長だろ? いや、部長に出世できるだけでもすごいんだけどよ。そこから先のキャリアプランが望めないってのはな~」

「滅茶苦茶、実感が籠もってる台詞ね。でも、それを言ったらあたし達は……」

「自営業というか、まあ、そんな感じだ」

「自営業か~」


 ユウカはしみじみとした口調で言った。


「ま、最初の頃はフリーターみたいなもんだったし、キャリアアップよ」

「ポジティブだな」

「あたしまでネガティブになったらお通夜みたいになっちゃうじゃない」


 そうかな? とマコトは視線を巡らせた。

 フェーネ、リブ、フジカの三人は会話を楽しみながら食事をしている。

 割と賑やかだが――。


「ああ、こっちは暗いな」

「でしょ? だから、あえて前向きな発言をしてるの」

「割と考えてるんだな」

「割とは余計よ。けど、褒め言葉として受け取っておくわ」


 ふふん、とユウカは鼻を鳴らしてパンを千切って頬張った。


「でも、マコトの気持ちも分かるわ。一応、あたし達は何処までも行けるけど、クリスティンに仕えたら先が見えてるものね」

「一応、王家の血を引いてるんじゃけど……」

「王家の血を引いてるだけでしょ?」


 クリスティンがごにょごにょと言うと、ユウカは平然と返した。

 エルウェイ伯爵家だってそれなりの名家なんじゃぞ、とクリスティンはスプーンでスープを掻き混ぜた。


「それで、どうでしょう?」

「ぐぬッ……」


 ローラが催促すると、クリスティンは呻いた。

 覚悟を決めたのか。

 ローラを見つめて居住まいを正す。


「その件についてはワシの一存では答えられぬ。武闘大会が終わってからじゃな」

「分かりました。ですが、決断はお早めに」

「うむ、善処する」


 クリスティンは鷹揚に頷いた。

 決めたのは返事を先延ばしにする覚悟だったようだ。

 当然といえば当然か。

 ふと視線を感じてクリスティンを見る。

 すると、彼女は難しそうに眉根を寄せてこちらを見ていた。


「あれは自分がマコトの嫁になるか、ローラの提案を呑むか考えている顔ね」

「そ、そんなことは考えておらんぞ」

「モテる男は辛いわね」


 クリスティンが上擦った声で否定するが、ユウカは聞いていない。

 ニヤニヤ笑いながらマコトに話し掛けてきた。

 そうだな、とマコトは相槌を打ってパンを頬張った。

 その時、ふぅという音が響いた。

 フジカが溜息を吐いたのだ。


「なんで、溜息を吐いてるのよ?」

「ユウカも、ローラさんもクリスティンちゃんに厳しいし」


 ユウカが問いかけると、フジカは溜息交じりに答えた。

 マコトは二人の会話に聞き耳を立てつつスープを口に運ぶ。

 肉も美味いが、スープも美味い。

 具沢山で味も染みてる。

 料理人の苦労を思うと何だか申し訳ない気分になる。


「子どもと言っても領主よ、領主」

「領主と言っても子どもだし。もっと優しくしてあげるべきみたいな。神経衰弱の件もそうだけど、手加減は大事だし」

「自殺されたり、ぶち切れて反撃してこないギリギリのラインを攻めろってことね。やっぱり、アンタはえげつないことを考えてるわね。流石、セレブね」

「いや、そんなことは言ってないし」

「あ~、あたしにはそんな真似できないわ」


 ユウカはわざとらしく言ってパンを頬張った。

 沈黙が舞い降り、村長が口を開く。


「そういえばマコト様達は七悪を倒したとか?」

「うむ、その通りじゃ」

「なんで、アンタが偉そうなのよ」

「討伐隊編制の資金はワシが出したんじゃぞ? ちょっとくらい偉そうにしてもいいではないか。それに、貴重なマジックアイテムも提供しとるし」


 ユウカが突っ込むと、クリスティンはぼやくように言った。


「流石、クリスティン様。貴重なマジックアイテムを提供するなど並の領主にできることではございません。王家の血は伊達ではありませんな」

「ちょ――」

「もちろん、貴重なマジックアイテムを提供されても使いこなせなければ意味がございません。古来より達人の持つ木剣は三流の使い手が持つ名剣に勝るという言葉がございまして、ユウカ様達のような一流の冒険者が貴重なマジックアイテムを持てば一騎当千の強者となれましょう」


 文句を言おうとしてか、ユウカが口を開く。

 だが、村長はユウカを褒めちぎった。

 見え見えのお世辞だが、ユウカは――満更でもなさそうにしている。


「そんなことないわ」

「そんなことないのじゃ」


 ユウカとクリスティンは満更でもなさそうに、いや、得意げに髪を掻き上げた。

 ふわりと空気が流れ、楽しい食事が始まる。

 まあ、ユウカと言い合いながら食事をするのも楽しいのだが、それとは違う種類の楽しさだ。

 あれほど沢山あった料理がなくなっていき、口数も少なくなっていく。

 そろそろ、お開きかなと感じ始めたその時――。


「そういえば最近おかしなことが起こっておりまして……」

「「おかしなこと?」」


 ユウカとクリスティンの声が重なる。

 噴き出しそうになるが、何とか堪える。


「はい、王都の方からやってくる馬車の数が例年に比べて少ないのです」

「盗賊かしら?」

「分かりません」


 ユウカの言葉に村長は小さく頭を振って答えた。

 ですが、と続ける。

「くれぐれもお気を付け下さい」

「うむ、忠告感謝するぞ」


 クリスティンは鷹揚に応えた。

 盗賊くらいとと思ったが、嫌な予感がした。

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