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アラフォーおっさんはスローライフの夢を見るか?  作者: サイトウアユム


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【幕間7:タテイ・タケシ】前編

 タケシ達――タケシ、コウキ、キララの三人は街道を進む。

 王都ヴェリスから西に伸びる街道だ。

 街道沿いには鬱蒼とした森が広がっている。

 森ばかりでうんざりするが、それはここに限った話ではない。

 骸王のダンジョンやフトシを討伐しに行った時も街道沿いには森が広がっていた。

 例外は東の草原地帯くらいらしい。

 どうして、森を切り開かないのか理解に苦しむ。

 木は建築資材になるし、森を切り開けば食料を増産できる。

 さらに森に生息するモンスターを減らせる。

 いいことづくめだ。

 にもかかわらずこの国、いや、この世界の人間はそれをしない。

 開拓に回す余力がないとか、根回しが必要とか言い訳ばかりを口にする。

 要するにこの国、いや、この世界の人間は怠け者ばかりなのだ。

 苛々しながら歩いていると、馬車が見えてきた。

 箱馬車ではない。古い、あちこちが破損している荷馬車だ。

 森に突っ込むように横転している。

 足を止め、顔を顰める。

 すると――。


「タケシ、あったよ。報告にあった荷馬車だ」


 後ろにいたコウキが小さく呟いた。

 どうして、分かりきったことをわざわざ口にするのだろう。

 苛立ちが募る。


「アンデッドの群れに襲われたという話でしたが……」

「何処かに行ってしまったみたいだね」


 キララが小さく呟き、コウキがまた分かりきったことを口にする。

 さらに苛立ちが募る。


「くそッ、無駄足かよ」


 タケシは吐き捨て、小石を蹴飛ばした。


「探すぞ」

「待つんだ」


 足を踏み出した次の瞬間、コウキに肩を掴まれた。

 手を払い除け、コウキに向き直る。


「なんで、止めるんだ?」

「一旦、報告に戻ろう」

「何を言ってるんだ、お前は」


 タケシは信じられない思いでコウキを見つめた。

 今回の作戦――アンデッド討伐の指揮を執っているのはルークだ。

 あの男はコウキ、いや、タケシ達を嫌っている。

 自分の地位を奪われることを恐れているのだ。

 だから――。


「このまま戻ったらまた難癖を付けられるぞ」

「まさか、そんなことしないさ」

「フトシの件を忘れたのか!? あいつは何もしてねぇくせに手柄を自分のものにしたんだぞッ! そんなヤツを信じられるかよ!」

「落ち着くんだ、タケシ」

「俺は落ち着いてる!」


 タケシは声を荒らげた。

 マズいと思ったが、感情を抑えられなかった。

 フトシに敗北した屈辱の記憶が鮮やかに甦る。

 あれ以来、タケシは惨めな敗北者として扱われるようになった。

 きっと、コウキは否定するだろう。

 だが、目を見れば分かる。

 それにキララだ。

 キララがよそよそしくなった。

 一時期はあんなに仲がよかったのに――。


「お前こそ、分かってるのか!? 俺達には後がないんだぞッ!」


 そうだ。自分達には後がない。

 死霊王のダンジョンを攻略するという話は立ち消えになった。

 予算も削られている。

 自由に動く権限もない。

 今では近衛騎士団の下部組織のような扱いだ。

 近衛騎士団と共に行動し、陣地を構築させられたり、斥候をさせられたりしている。

 このままでは本当に下部組織にされてしまう。


「分かってるさ」

「本当に分かってるのか?」

「ああ、今の状況は折衝を担当している僕が一番分かってるさ。でも、こういう時こそ落ち着いて行動しなきゃ駄目なんだ。焦ると愚かな行動に走ってしまからね」

「ぐッ……」


 コウキらしくない痛烈な皮肉にタケシは呻いた。

 二人きりの時ならば殴りかかっていただろう。

 それをしなかったのはここにキララがいるからだ。

 今以上によそよそしい態度を取られたくない。


「大丈夫さ。僕達は客人だ」

「ああ、確かに俺達は客人だ。けど、二度も期待を裏切っちまってるんだぜ」

「一度や二度の失敗で切り捨てられないさ。僕達には価値がある」

「それはレベル100に到達できるってだけで俺達の価値じゃねぇ」

「同じことだよ」

「……」


 違う、とタケシは言いたかった。

 客人として備わった能力と努力して身に付けた力は別のものだ。

 キララに視線を向ける。

 王国の連中は客人の能力を次の世代に引き継がせようとしている。

 金の卵を産むガチョウを絞め殺すような真似はしないはずだ。

 だが、もしかしたらという思いがある。

 もしかしたら、連中はタケシ達を家畜扱いすることも辞さないのではないかと。

 タケシはキララが家畜のように子どもを産まされる姿を想像して唇を噛み締めた。

 戦力になることを示して最悪の未来を回避する。

 そのためにタケシは戦ってきた。

 だから、コウキもそうだと考えていた。

 だが、ここに至って疑念を持った。

 本当に自分達は同じ目的のために戦っているのだろうかと。

 いや、とタケシは自身の疑念を否定する。

 コウキとは長い付き合いだ。

 親友なのだ。

 それにこの世界に来てから何度もコウキに命を救われた。

 疑ってどうするというのか。

 だから――。


「俺達は価値を示さなきゃならねぇ」


 そう呟くに留めた。

 その時、背後から音が聞こえた。

 木の枝が揺れたかのような音だ。

 アンデッドだろうか。

 だとしたら運がいい。

 これでルークに難癖を付けられずに済む。

 タケシは振り返り、落胆に近い思いを抱いた。

 期待通り、アンデッドはいた。

 だが――。


「何だよ、スケルトンじゃねぇか。しかも、たった一体」

「あれは鎧を着ているからスケルトン・ウォーリアだよ」

「同じことだろ。どっちも雑魚だ」


 ふん、とタケシは鼻を鳴らした。

 スケルトンはこちらに気付いていないらしく荷馬車の周りをうろうろしている。


「ですが、アンデッドには違いありません。どうしますか?」


 キララが問いかけてくる。

 アンデッドの群れに遭遇したら後方の陣地に誘導する。

 それが今回の作戦だ。


「報告に――」

「待てよ」


 タケシはコウキの言葉を遮った。


「あいつはまだ俺達に気付いていない。今なら簡単に倒せる」

「そうだけど、ここは慎重に――」

「スケルトン相手に逃げ出せるかよ!」


 タケシは叫び、駆け出した。

 報告に戻ったらルークに嫌みを言われるに決まっている。

 たった一体のスケルトンも倒せなかったのかと。

 また評価が下がる。

 させない。キララを家畜扱いなんてさせない。

 スケルトンがこちらを見るが――。


「遅ぇ! 盾撃シールド・バッシュッ!」


 タケシが盾を構えて突っ込むと、スケルトンはバラバラになって吹っ飛んだ。


「見たか!」


 タケシは地面に転がる骨を踏み砕いた。

 その時、コウキが叫んだ。


「危ない!」

「――ッ!」


 次の瞬間、衝撃がタケシを貫いた。

 いや、揺らした。

 スケルトンが森から飛び出し、体当たりを仕掛けてきたのだ。

 それも一体や二体じゃない。

 十体、いや、二十体はいる。

 それらが次々と体当たりを仕掛け、さらにしがみついてくる。


「放しやがれ!」


 タケシは振り解こうとした。

 だが、スケルトンを振り解くことができない。

 くそッ、と悪態を吐く。

 スケルトンは雑魚だ。

 戦い始めた頃は苦戦したが、レベルが上がって雑魚になった。

 だというのにこんな――実力を示さなければならない場面で苦戦している。


「ぐぁッ!」


 肩に衝撃が走り、思わず声を上げる。

 スケルトンが剣を振り下ろしてきたのだ。

 痛い。だが、我慢できないほどではない。


「放せぇッ!」


 振り解こうとその場で回転するが、スケルトンは離れない。


「今行く! 剣気解放オーラ・ブレードッ!」


 コウキが剣を抜き放つと、刀身が純白の光に包まれた。

 スケルトンどもの中に飛び込んで横薙ぎの一撃を放つ。

 それだけで五体のスケルトンの背骨を断った。

 上半身が地面に落ち、やや遅れて骨がバラバラになる。

 恐るべき威力だ。

 人間ならば恐怖し、動きを止めたに違いない。

 だが、敵はアンデッドだ。

 ヤツらに恐怖はない。

 あるのは生き物を殺すという本能だけだ。

 残ったアンデッドが襲い掛かってくる。

 コウキは一体、二体と斬り伏せるが、三体目を切った所でスケルトンにしがみつかれた。

 振り解こうとしたそこにガチャガチャという音が響いた。

 音のした方を見ると、スケルトンの群れが押し寄せてくる所だった。


「キララ! 昇天ターン・アンデッドだッ!」

「僕達に構わずに逃げるんだ!」


 タケシとコウキは同時に叫んだ。

 だが、その内容は異なるものだった。

 正反対と評してもいい。

 顔を見合わせ、キララに視線を向ける。

 タケシの言葉に従ってくれたのだろう。

 キララは錫杖を握り締めた。


「ペリオリスよ! 不浄なる者を――ッ!」


 祈りの途中で息を呑む。

 スケルトンの群れ――その一部がキララに向かって歩き出したのだ。

 聖乙女は僧侶の上位職だが、物理的な戦闘力は低い。

 このままではキララがやられてしまう。

 スケルトンを振り解こうと暴れる。

 だが、結果は同じだ。

 振り解けない。

 コウキの言葉に従えばよかった。

 後悔の念が湧き上がる。


「タケシ! 声だッ!」

「声? ――ッ!」


 タケシは鸚鵡返しに呟き、息を呑んだ。

 そうだ。騎士系のジョブには敵を引きつけるスキルがある。

 それはタケシのジョブ――守護騎士も例外ではない。

 深く息を吸い――。


「お――ッ!」


 雄叫びを上げようと口を開いた瞬間、スケルトンが横薙ぎの一撃を放った。

 痛恨の一撃!

 強烈な一撃が顎を捉え、タケシは尻餅をついた。

 まだ生きている。

 ステータスが上回り、さらにスケルトンの剣が錆びていたせいだろう。

 だが、脳を揺らされた。

 足に力が入らない。

 スケルトンの群れがキララに襲い掛かる。


「くそ――」

「おおおおおおおおッ!」


 タケシは口惜しさのあまり叫んだ。

 そのつもりだったが、タケシの声は大気を震わせる雄叫びによって掻き消された。

 スケルトンの群れがキララの脇を通り抜ける。

 その先に一人の男がいた。

 白銀の鎧に身を包み、盾を構えている。

 ヴェリス王国の近衛騎士団長――ルーク・アバディーンだった。

 背後には彼の部下達が控えている。

 スケルトンの群れが迫る。

 にもかかわらず、ルークも、彼の部下も動こうとしない。

 ルークが盾を構えたままわずかに体を沈ませる。


「盾撃ッ!」


 裂帛の気合いと共に加速する。

 スケルトンの群れの中に突っ込む。

 いや、貫く。

 ルークに触れた瞬間、スケルトンは砕け散った。

 触れなかったものも無事では済まない。

 吹き飛ばされ、他の個体を巻き込んで砕ける。


「盾撃ッ!」


 一瞬でスケルトンの群れを壊滅させ、再び裂帛の気合いと共に加速する。

 目の前を砲弾と化したルークが通り過ぎる。

 鎧袖一触とはまさにこのことだ。

 それだけでタケシ達を取り囲んでいたスケルトンの半数が死んだ。


「すげ――ッ!」


 すげぇ、と言いかけて唇を噛み締める。

 ルークは敵だ。

 客人を敵対視している。

 そんなヤツを認めちゃいけない。

 ガチャガチャという音が響く。

 スケルトンの足音だ。

 背後からルークに襲い掛かろうとしているのだ。

 気付いていないのか。

 ルークは振り返ろうとしない。


「危ねぇ!」


 どうして、あんなヤツのためにと思いながら叫ぶ。

 不意に視界が翳り、光が降り注いだ。

 スケルトン達が動きを止める。

 そこで視界が翳った理由に気付いた。

 あれはマジックアイテムが頭上を通り過ぎたせいだったのだ。

 きっと、ルークの部下がマジックアイテムを投げたに違いない。

 だが、それほど強力なマジックアイテムではなかったのだろう。

 わずかな時間、スケルトンの動きを封じることしかできない。

 だが、それで十分だった。


「吶喊!」

「うぉぉぉぉぉぉッ!」


 精悍な声が響き、ルークの部下達がスケルトンの群れに突っ込む。

 動きを封じた上、さらに多勢に無勢だ。

 みるみる内にスケルトンの数が減っていく。


「やれやれ、ルーク団長にも困ったものだよ」


 ルークの部下――確かレイモンドと言ったはずだ――がぼやきながら近づいてきた。

 タケシの前で立ち止まり、手を差し出す。


「立てるかい?」

「自分で立てる」


 手を払い除け、立ち上がる。

 ふらふらするが、何とか踏ん張る。


「……近衛騎士団は待機しているはずだっただろ」

「遅かったから心配で見に来たんだよ。僕は必要ないと言ったんだけどね」


 睨み付けるが、レイモンドは平然としている。

 タケシが睨み付けると、大抵の相手は畏縮するというのに。


「余計な真似をしやがって。俺達だけで何とかできたんだ」

「僕もそう思うよ。でも、ルーク団長は心配性だからね。シャーロット様から預かっている君達が怪我をしたら困ると言ってね。本当に困ったものだよ。どうせ――」

「レイモンド、まだ戦闘中だぞ」


 野太い声がレイモンドの言葉を遮った。

 当然のことながら声の主はルークだ。

 スケルトンと戦う部下達に注意を払いながら近づいてくる。

 タケシの前で立ち止まり、ふんと鼻を鳴らす。


「無事で何よりだ」

「俺達は自力で切り抜けられたんだ」

「私にはそうは見えなかったがね」

「何だと!」

「待て!」


 タケシが声を荒らげると、コウキが割って入った。


「先程は助けて頂き、ありがとうございます」

「おい、こんなヤツに――」

「ルーク様、助けて頂き、感謝いたします」


 いつの間にやってきたのか、キララが頭を垂れる。


「君は頭を下げないのかね?」

「ぐッ……」


 タケシは呻いた。

 確かに助けてもらった。

 頭を下げるべきなのだろう。

 だが、できない。

 自分から頭を下げるのならともかく、ルークの言葉には従えない。

 敵に頭を下げるのは屈辱の極みだ。

 フトシの時のような惨めさを二度も味わいたくない。


「頭を下げたくないのならそれで構わん」


 ルークは溜息交じりに言い、タケシ達に背中を向けて歩き出した。


「レイモンド、あとは任せる」

「はッ、お任せ下さい」


 レイモンドが背筋を伸ばして言った。

 ルークの姿が遠ざかる。

 そのまま後方の陣地に戻るのかと思いきや街道沿いの倒木に腰を下ろした。


「……戻らねぇのかよ」

「ルーク団長は現場主義だからね」


 レイモンドがやれやれと言わんばかりの口調で言った。

 それでいながら信頼を感じさせる。

 あんなヤツの何処がいいんだ。

 ただ強いだけじゃないか。


「そう言えば知ってるかい?」

「無駄口を叩いてないで指揮を執れよ。命令されてただろ」

「見なくても状況は分かるさ。何しろ、そういうスキルを持っているからね」

「嘘を吐くな」

「どうして、嘘だって分かるんだい?」

「ぐッ……」


 タケシは呻いた。

 どうもこいつは苦手だ。

 いや、こいつに限らず口が達者な相手は苦手だ。


「君達の友達……。ああ、ユウカ君とフジカ君だったかな?」

「友達じゃねぇよ」


 タケシは吐き捨てた。

 あいつらは裏切り者だ。

 ユウカはこれまでのことを水に流してやるつもりだったのに戻ってこなかった。

 フジカは自分達の下を去った。

 どちらも救いようがない。


「二人とも黒炎っていうチームに所属しているんだけど――」

「そんなことは分かってる」


 タケシはムッとして言い返した。


「何でも三体目の七悪を倒したそうだ」

「――ッ!」


 タケシは息を呑んだ。

 あれからフトシと同格の相手を二体も倒したというのか。


「……どうせ、マコトってヤツの力だろ」

「どうだろうね? でも、ユウカ君は魔王、フジカ君は聖女なんて呼ばれているそうだからね。おんぶにだっこって訳じゃないと思うよ」

「二人とも元気そうで何よりです」

「そうだね。僕達も頑張らないとね」


 キララの言葉にコウキが同意する。


「そんな訳ねぇよ」

「どうして、そう思うんだい?」


 タケシが吐き捨てると、レイモンドが問い返してきた。

 ニヤニヤと笑っている。


「ユウカは口ばかりの糞女で、フジカは男に媚びを売るしか能のないビッチだ。そんなヤツらが魔王だの、聖女だの、信じられる訳ねぇだろ」

「そうかい?」

「そうだ。嘘に決まってる」


 タケシは自分に言い聞かせるように呟いた。

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