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アラフォーおっさんはスローライフの夢を見るか?  作者: サイトウアユム


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Quest37:ユウカの話を聞け

 マコトは目眩に襲われてよろめいた。

 転移魔法に伴う目眩だ。

 軽く頭を振って周囲を見回す。

 すると、そこは城門の前だった。

 転移に成功したようだ。

 さらに全員がいるか確認する。

 ユウカ、フェーネ、リブ、ローラ、フジカ、メアリ、アン――ちゃんと七人いる。

 年嵩の門番が近づいてくる。


「お疲れさん、今日は大所帯なんだな。首尾はどうだった?」

「ま、目的は達成したな」

「そういうこともあらぁな」


 マコトが肩を竦めると、年嵩の門番はハハッと笑った。

 どうやら不首尾だったと思われたようだ。

 本当に目的を達成しているのだが――。


「念のために言っておくが――」


 訂正しようと口を開くが、中断させられた。

 いつの間にか隣に来ていたユウカが二の腕を叩いたのだ。

 結構、痛い。漫才コンビだったら解散の切っ掛けになりかねない。


「何だよ?」

「急ぎの用件があるって言ったでしょ、急ぎの用件があるって」

「分かったよ」

「その態度は何よ!」


 マコトが溜息交じりに言うと、ユウカは声を荒らげた。

 いつも通りだが、疲労感が増したような気がする。

 仕方がない。体力を温存するために訂正するのは止めておこう。


「そういう訳だ」

「アンタも大変だな」


 門番は同情するように言い、他のメンバーの通行証を確認した。


「さあ、行くわよ! 善は急げ! タイムイズマネーッ!」


 ユウカが歩き出し、マコト達は後に続いた。

 夕方ということもあってか。

 大通りに人気は少ない。

 ついでにユウカほど元気よく歩いているヤツもいない。


「あいつは元気だな~」

「きっと、マコトさんが帰ってきて――」

「――ッ!」


 フジカが何かを言いかけた次の瞬間、ユウカが振り返った。

 鬼のような形相でフジカを見ている。

 気圧されたのだろう。

 フジカは視線を逸らした。


「アンタ、何か言おうとしてた?」

「い、いえ、何もみたいな」

「そう、ならいいけど、マコトが帰ってきて喜んでるみたいなことを言ったら魔弾で頭を吹き飛ばすわよ。いいわね?」

「全然よくないけど、分かったみたいな」


 ユウカが右手を胸の高さに上げる。

 そういえば魔弾を放てる指輪を装備していた。

 流石に仲間に魔法をぶっ放したりしないと思うが、相手はユウカだ。

 本当にぶっ放しそうで怖い。

 迂闊な真似をしたら何をされるか分からない。

 これが抑止力か。


「マコトさんと――」

「……口出しするのは止めましょう」


 今度はメアリが何事かを言いかけ、アンが窘める。


「でも、気になるじゃない。アンは気にならないの?」

「……気にならないと言えば嘘になりますが、他人が踏み込んでいいとも思っていません。大切に感情を育てている最中なのかも知れないので」

「大切?」


 アンの言葉に反応したのはフジカだ。

 言い方は『た~、い~、せ~、つ~?』だ。

 脅されたばかりなのに命知らずな真似をする。

 予想通りと言うべきか。

 ユウカが肩越しに視線を向けてきた。


「何?」

「ユウカが大切に――」

「魔弾!」

「ぎゃひぃぃぃぃッ!」


 ユウカの放った魔弾が石畳に突き刺さり、フジカが悲鳴を上げた。


「い、いきなり攻撃を仕掛けてくるなんてどうかしてるみたいな!」

「警告を無視するからよ!」


 ユウカがフジカに叫び返す。


「いい? アンタは『いくらユウカでも流石に撃ったりしないみたいな~』とか高をくくってたかも知れないけど、あたしはいつでも本気よ! 手を汚す覚悟はできてるわ!」

「そ、それはやり過ぎみたいな」


 フジカが恐れおののいた様子で言った。

 口は災いの元とは言うものの、恋バナで殺されそうになるとは思うまい。

 救いを求めてか。

 視線をさまよわせる。


「ふぇ、フェーネちゃん?」

「フジカは生存本能がぶっ壊れてるッスね」

「え!? 私が悪いのみたいなッ?」


 フェーネが呆れたように言い、フジカは驚いたように目を見開いた。


「り、リブさん?」

「止めろって言ってんのにやったんだから自業自得じゃねーの?」

「ローラさん?」

「諦めて下さい」


 フジカが救いを求めるが、フェーネ、リブ、ローラの三人はにべもない。

 三者三様ながらユウカとの付き合い方を学んでいるようだ。


「そんな~」

「ユウカさんはこういう生き物なんです。分かって下さい」

「ちょっと! こういう生き物って何よ!?」


 フジカが情けない声を上げ、ローラが慰めるように言う。

 すると、ユウカが声を荒らげた。


「そういう心構えが必要だと伝えているだけです」

「そういう態度だから行き遅れるのよ」

「ぐッ、た、たた、確かにまだ結婚はしていませんが……」


 ユウカが吐き捨てるように言い、ローラは呻いた。

 だが、不意に口元を綻ばせる。


「ふふ、時間の問題です」

「ちッ、打たれ強くなったわね」


 再び吐き捨てるように言い、正面に向き直る。

 足取りは荒々しい。

 突然、視線を落とす。

 また指輪を見ているのだろうか。

 足取りが軽くなる。

 まだ指輪には効果があるようだ。


「あれは絶対に恩返しの指輪だと思ってないし」

「……フジカ、止めましょう」

「は~い、分かりましたみたいな~」


 アンに窘められ、フジカは拗ねたような口調で言った。



 大通りから路地に入り、さらに奥へと進む。

 しばらくすると、明かりが見えた。

『黄金の羊』亭の明かりだ。

 ユウカがスウィングドアを開けて中に入り、マコト達も続く。

 店に入ると、シェリーがカウンターで料理を作っていた。


「帰ったわよ」

「おや、お帰りなさい」


 ユウカが声を掛けると、シェリーは手を休めてこちらに視線を向けてきた。


「メアリちゃん、アンちゃん、フジカちゃん、お帰りなさい」

「俺は?」

「旦那とフェーネちゃんもお帰りなさい」


 マコトが催促すると、シェリーはくすくすと笑った。

 指定席――カウンター席の端に向かう。

 すると、ユウカに肩を掴まれた。


「マコト、あたしの話を聞いてくれるって言ったわよね?」

「分かった」


 降参、とマコトは手を上げた。

 レモン水くらい飲ませて欲しい。

 だが、そんなことを言えば事態がややこしくなるに決まっている。

 ユウカは中央にあるテーブル席に向かい、イスを引いた。


「はい! 座ってッ!」

「分かった分かった」


 マコトは溜息を吐きつつ、イスに座った。

 ユウカが対面の席に座る。

 おずおずとメアリが手を上げる。


「あの~、私達はどうすればいいんでしょう?」

「メアリちゃんとアンちゃんは部屋でゆっくりしてて下さい。お手伝いは……時間が空いている時でいいですから」


 答えたのはシェリーだ。

 時間が空いている時としたのは状況を考えてのことだろう。


「ありがとうございます」

「……ありがとうございます」


 メアリとアンはぺこりと頭を下げ、階段に向かった。

 宿に着いて疲労が押し寄せてきたのか。

 階段を登る足取りは重い。


「私はどうすればいいみたいな?」

「自分の部屋に行けばいいじゃない」

「シェリーさんの後だとユウカの塩対応が余計に応えるし」


 ユウカが突き放すように言い、フジカはしょんぼりした様子でカウンターに向かった。

 カウンター席に座り、深い溜息を吐く。

 哀愁が漂っている。


「私はマコト様の――」

「おいらッス、兄貴の隣はおいらッス!」


 ローラがマコトの隣に座ろうとする。

 だが、フェーネが先んじて座る。

 リブが対面の席に座り――。


「その様子だと、進展はなかったみてぇだな」

「うぐぐッ、その通りッス」

「そういうことでしたら」


 溜息交じりに言うと、フェーネは口惜しげに呻いた。

 ローラは上機嫌でフェーネの隣に座る。

 フジカは――カウンター席でレモン水を飲んでいる。

 席を移動するつもりはないようだ。


「はい、どうぞ」


 シェリーがカウンターから出て、マコト達の前にグラスを置く。

 グラスを手に取り、冷たい水を飲む。

 レモン水の爽やかな味わいが広がる。

 マジックアイテムのお陰でダンジョンでも冷たい水は飲めた。

 だが、ここで飲むレモン水の方が美味しいような気がする。

 水質の差か。それともストレスから解放されたからだろうか。

 ユウカはレモン水を一気に飲み干し、息を吐きながらグラスをテーブルに置いた。


「は~、生き返るわね」

「お前は留守番してただろ」

「停留所での待ち時間が長かったのよ」


 マコトの言葉にユウカはムッとした様子で言い返してきた。


「それで、話って何なんだ?」

「ふふん、聞きたい?」

「……うん、まあ、一応」

「なんで、すぐに答えないのよ!」

「脳内シミュレーションをしてたんだよ」

「『うん、まあ、一応』以外の反応は?」

「聞きたくねぇって言うつもりだった」

「どっちも駄目じゃない!」


 ユウカは声を荒らげた。

 予想通りの反応だ。


「それで、話って何だよ?」

「ふふん、聞いて驚きなさい」


 ユウカはポーチから紙を取り出し、差し出してきた。

 紙を受け取り、しげしげと見つめる。


「武闘大会?」

「そう! 王都で武闘大会が開催されるのよッ!」

「俺に参加しろって流れか」

「そういうこと。話が早くて助かるわ」


 ユウカは腕を組み、勝ち誇ったような笑みを浮かべた。

 参加資格は不問で、優勝賞金は100万A。

 大金だが――。


「どう?」

「面倒臭ぇ」

「どうして、そういうことを言うのよ!」


 ユウカは顔を真っ赤にして言った。


「主催者の欄を見たか?」

「ええ、主催は国王ね」

「きな臭くねーか?」

「嘘吐き!」


 マコトがうんざりした気分で言うと、ユウカは声を荒らげた。

 いきなり嘘吐き呼ばわりとは――。

 ちょっとだけムカッとした。


「なんで、俺が嘘吐きなんだよ?」

「武闘大会があったらコウキ君達に『ざまあ』してくれるって言ったじゃない! それなのに、いざ武闘大会が開催されるとなったら面倒臭ぇとか、きな臭ぇとか、それが嘘吐きじゃないなら何なのよ!」

「ぐッ、よく覚えてやがるな」


 ユウカが捲し立てるように言い、マコトは呻いた。

 自分の発言に足を掬われる日が来るとは思わなかった。

 溜息を吐き、ローラに視線を向ける。


「まともな大会なのか?」

「まともな大会と言われると、国王陛下や諸侯の戦力誇示的な側面もあるので……」

「ほら!」

「何がだよ?」


 声を弾ませるユウカに突っ込みを入れる


「戦力の誇示ってことは必ずコウキ君達が参加するわ」

「そうか?」

「分かってないわねぇ」


 マコトが首を傾げると、ユウカは左右に首を振った。


「フトシの一件でコウキ君達の評価は落ちてるわ。だから、自分達の評価を上げるために武闘大会に参加するはずよ」

「出させてもらえねぇ可能性も……」


 ルークの姿が脳裏を過り、口籠もる。

 あの男ならばコウキ達が武闘大会に参加できるように手を回すだろう。

 もちろん、自分のためだ。

 武闘大会に参加させ、無様に敗北する姿を衆人環視に曝す。

 そうやって、自分達の価値を誇示するのだ。


「ありえそうだな」

「でしょ!」


 ユウカは嬉しそうに言った。


「クラスメイトを追い込むスタイルは感心しないみたいな~」

「は!? あたしがどんな目に遭わされたと思ってるのよッ? ダンジョンに置き去りにされて当然とか、捜索する余裕なんてないとか……。あと、タケシのヤツはあたしをフトシに売ったわ! マジで許せないんだけどッ!」


 フジカがぼそっと呟くが、ユウカの怒りに油を注ぐだけだった。


「ねぇ~ん、お願い」

「うぉぉぉぉ! ユウカが猫撫で声を出してるしッ!」

「あたしが恥を忍んで頼んでるんだから黙ってなさいよッ!」


 フジカがぶるりと身を震わせると、ユウカは顔を真っ赤にして叫んだ。


「お・ね・が・い」

「――ッ!」


 ユウカがウィンクし、マコトは息を呑んだ。


「なんで、息を呑むのよ!」

「普段の態度が悪ぃからだよ!」

「ギャップ萌えでしょ! ありがたがりなさいよッ!」

「下心ありきなのはギャップ萌えって言わねぇんだよ! 出直してこいッ!」

「そこまで言う必要ないでしょ! これだからオタクは面倒臭いのよッ!」

「オタクじゃねぇよ!」

「まあまあ、いいじゃありませんか」


 マコトがユウカと怒鳴り合っていると、珍しくシェリーが割って入った。

 どういう風の吹き回しだろうか、と視線を向ける。

 視線に気付いているのかいないのか。

 彼女はカウンターで料理をしている。


「経緯はさておき、旦那は約束しちまったんですから」

「でもなあ……」


 マコトは頬杖を突いた。

 葛葉の襲撃から間もないのだ。

 シェリーを一人にするのは心配だ。


「アンタ、イチャイチャしたいだけじゃないでしょうね?」

「そんな訳あるか」

「ふん、どうだか」


 マコトが否定すると、ユウカは鼻を鳴らした。


「私のことなら心配しなくていいですよ」

「ほら、シェリーもこう言ってるわよ。これは武闘大会に参加するしかないって感じね」


 う~ん、とマコトは唸った。

 心配しなくていいとは言うものの、心配なものは心配なのだ


「分かったわ。そんなにシェリーが心配ならあたしがタクシー役をやってあげるわ。あ~、すごい。今あたしはものすごく譲歩してるわ。譲歩しすぎて腸が切れそう」


 ユウカはお腹を押さえてテーブルに突っ伏した。

 断腸の思いと言いたいのだろうか。

 それに、とシェリーがぽつりと呟く。


「ここで断っても明日には領主様が来て、参加するように言ってきますよ」

「ああ、ありそうだな」


 床に寝転び、手足をばたつかせるクリスティンの姿が目に浮かぶようだ。


「仕方が――」

「ちょっと待った!」


 ユウカがマコトの言葉を遮った。


「折角、やる気になってたのに何だよ?」

「もし、クリスティンが参加するように言ってきたら……」

「言ってきたら?」

「依頼料をもらいましょ」

「お前ってヤツは……」


 ユウカの言葉にマコトは呻いた。

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