Quest36:新生ダンジョンを攻略せよ その6
マコト達は隊列を組み直して第二階層を進む。
前衛がマコトとメアリ、中央はアンとフジカ、後衛はフェーネだ。
周囲を警戒しながら進む。
「……変だな」
「何がッスか?」
マコトが呟くと、フェーネが問い掛けてきた。
わずかにメアリのスピードが鈍る。
恐らく、会話に意識を割くためだろう。
効果はどうだろうか。
正直にいえばよく分からない。
だが、メアリが必要と判断したのならば必要なのだろう。
「敵が出てこねぇと思ってよ。ダンジョンなのに敵が出ねぇのはおかしいだろ?」
「ダンジョンといってもできたばかりッスからね。戦力が尽きたのかも知れないッス」
「ダンジョンがそれでいいのか?」
「おいらに言われても困るッス」
マコトが溜息交じりに呟くと、フェーネはちっとも困ってなさそうな口調で応じた。
「でも、そういうことがあっても不思議じゃないッス」
「アンデッドが何匹集まると、ダンジョンができるとか分かりゃいいのにな」
「そうッスね。帰ったらローラさんに――ッ!」
フェーネはハッと息を呑んだ。
「どうかしたのか?」
「何でもない――」
「きっと、二人きりにする口実を作ってしまったとか思ったみたいな」
フェーネの言葉をフジカが遮る。
「でしょでしょみたいな?」
「そうッスよ」
フジカが声を弾ませて尋ねると、フェーネは呻くように言った。
「に、苦虫を噛み潰したような表情だし」
「そりゃそうッス。兄貴との仲を進展させたかったのに全く進展してないッス」
フジカが何処か怯えたような声音で指摘すると、フェーネは溜息を吐くように言った。
「フェーネちゃんにはまだ早いみたいな」
「おいらの方が兄貴と早く会ってるんスよ。プライドが傷付くッス」
「それは舎弟として? それとも、女の子としてみたいな?」
「両方ッス、両方。というか、おいらは女ッス、女」
「そうだねみたいな」
「うぐぐ、腹立つッス」
フジカが優しい声で言い、フェーネは口惜しそうに呻いた。
やはり、二人の認識は噛み合っていないようだ。
「ところで――」
「話題を逸らすつもりッスか?」
「違うし。ダンジョンを歩いてて……」
フジカは何かを言いかけ、黙り込んでしまった。
何事かと肩越しに視線を向ける。
「ユウカはいないぞ。遠慮なく気付いたことを口にしろ」
「いや、ユウカの気配を感じたとかそんなんじゃないし」
「……では、何が気になったのですか?」
フジカが手を左右に振って否定すると、アンが不思議そうに首を傾げた。
「曲がり角はあったけど、分かれ道はなかったなと思ったみたいな」
「……言われてみればそうですね。でも、どうして黙り込んだのですか?」
「分かれ道がなかったと言った直後に分かれ道があったら気まずい思いをするみたいな」
「……なるほど、慎重派です」
感心しているのか呆れているのかどちらとも言えない口調でアンは呟いた。
「……実際の所、どうなのでしょう?」
「四角形というか、渦を巻いている感じッスね」
アンの問い掛けにフェーネは地図を見ながら答えた。
言われてみればという気はする。
「渦を巻くように中心に向かっているみたいな?」
「そういうことッス」
「そういう構造って珍しいのか?」
「初めて見るッス」
ふ~ん、とマコトは相槌を打った。
骸王のダンジョンは川と最下層の地底湖が繋がっていた。
それを考えると、どんな構造でも不思議ではないような気がする。
不意に首筋がチクッと痛んだ。
正面を見ると、二十メートルほど先に曲がり角があった。
「敵だ」
「音から察するに敵は一体ッス」
「フレッシュなゾンビとジューシーなゾンビ、どっちみたいな?」
「走ってるからフレッシュな方ッス」
「メアリ、アン、フジカ、出番だ。アンが矢で足止め、それでも走って近づいてくるようならフジカが昇天、一応、フェーネは背後を警戒してくれ」
「「「了解ッ!」」」
「了解ッス!」
マコトとメアリは壁際に寄り、アンとフジカの射線を確保する。
フェーネはスリングショットを構えて背後を警戒する。
タッタッタッという音が響く。
ゾンビの足音だ。
「オオオオオッ!」
叫び声がダンジョンに響く。
かなり近くまで来ているようだ。
次の瞬間、ゾンビが曲がり角から飛び出してきた。
アンが矢を放つ。
狙いは頭部だ。
というのもゾンビが鎧を身に着けていたからだ。
冒険者の成れの果てだから当然か。
それにしても死んでまで戦わなければいけないのだからひどい世界だ。
ブラックすぎる。
矢が眼窩に突き立ち、ゾンビのスピードが緩む。
二射目を放つ。
盾割りの鏃だ。
見事に膝を捉え、ゾンビが転倒する。
いや、転倒しかけたというべきか。
ゾンビは地面に接触する寸前に手を突き出し、四足歩行に移行したのだ。
四足歩行なのに恐ろしく速い。
ついでに言うと気持ち悪い。
夢に見そうだ。
「オオオオオオオッ!」
「昇天!」
フジカが魔法を使う。
光がダンジョンを照らし、ゾンビが硬直した。
もちろん、勢いはそのままだ。
ど派手に転倒し、二転三転した後で動きを止める。
まだ距離はあるが――。
「はッ!」
メアリが飛び出し、裂帛の気合いと共にポールハンマーを振り下ろした。
ポールハンマーが後頭部を捉える。
生々しい音が響き、内容物が飛び散る。
メアリは跳び退り、ゾンビを見つめる。
ゾンビは動かない。
どうやら死んだようだ。
ふぅ、とメアリが溜息を吐いた次の瞬間、ダンジョンが歪んだ。
目眩のような感覚を覚え、咄嗟に足を踏ん張る。
そのつもりだったが、滑りそうになる。
視界ではなく、ダンジョンそのものが歪んでいるのだろう。
メアリ、アン、フジカの順で尻餅をつく。
尻餅をついた方が安全なのではないかと考えた瞬間、足が地面を捉えた。
ホッと息を吐き、視線を巡らせる。
ダンジョンが元に戻っている。
「ダンジョンが歪むのは初めてだな」
「びっくりしたッス」
「俺もだよ」
フェーネが胸を撫で下ろし、マコトは再び息を吐いた。
メアリが不安そうに口を開く。
「沢山アンデッドを倒したせいでダンジョンが維持できなくなっているんでしょうか?」
「そう考えていいんじゃねーかな」
よし! とメアリが立ち上がる。
「……気合いが入っていますね」
「だって、ダンジョンを攻略できるのよ? 気合いが入らなきゃ冒険者じゃないわ」
「…………そうですか」
アンはゆっくりと立ち上がった。
いつもより答えるまでに時間が掛かっている。
気になることでもあるのだろうか。
よいしょ、とフジカが立ち上がり、アンに視線を向ける。
「何か気になることがあるのみたいな?」
「……私達程度にダンジョンが攻略できるものでしょうか」
「うッ、折角やる気になってたのに」
「卑下しすぎだし」
メアリが呻き、フジカが突っ込みを入れる。
アンは浮かない顔だ。
きちんと確認しておいた方がいいだろう。
「どうして、アンはそう思ったんだ?」
「……ゾンビを見て、独力でモンスターハウスを切り抜け、第二階層まで到達した冒険者がやられてしまったのに私達が勝てるのかと不安になりました」
マコトが尋ねると、アンは恥ずかしそうに肩を窄めた。
「確かに……。モンスターハウスを突破したってことはそれなりに装備が整っていたはずだ。それがゾンビになるってのは気になるな」
「……そういうことです」
アンがコクコクと頷いた。
少し嬉しそうだ。
やる気に水を差されたせいだろうか。
メアリが不満そうに唇を尖らせる。
「単にゴーストに追い立てられただけかも知れないじゃない」
「……その可能性はあります」
「俺は何かあると考えて行動した方がいいと思うぜ」
マコトはメアリとアンの会話に割って入った。
可能性としてはどちらも有り得る。
だが、ここで話し合っても意味がない。
検証できないのだから水掛け論になるのがオチだ。
「そうですね」
「……はい」
「じゃあ、話が纏まった所で出発ッス」
メアリとアンが頷き、フェーネが声を張り上げた。
※
マコト達は隊列を組み直して通路を進む。
真っ直ぐに伸びた通路を進み、曲がり角で曲がる。
その繰り返しだ。
敵とは遭遇していない。
もう戦力が残っていないのだろうか。
いや、現時点ではどちらの可能性もある。
ならば最悪を想定すべきだ。
だが、戦力が残っていないのだとしたらボスが独力で冒険者を倒したことになる。
新しいダンジョンのボスとはいえ侮れない。
切り札を隠し持っている可能性も考慮すべきだ。
そんなことを考えていると広い空間に出た。
百メートル四方の空間だ。
中央には小さな祭壇があり、それを守るようにスケルトンが立っていた。
鎧を身に着け、剣と盾を装備し、さらに尻尾を生やしている。
骨でできた鞭に見えなくもない。
スケルトン・ウォーリアの亜種だろうか。
「どうする?」
「やります」
「……やります」
「でも、ピンチの時はお願いしますみたいな」
念のために確認すると、メアリとアンが頷いた。
フジカは及び腰だが、戦意はあるようだ。
「フェーネ、いざという時のバックアップを頼む」
「了解ッス。ところで、兄貴はどうするんスか?」
「俺はここで敵を警戒する」
マコトは通路の壁に寄り掛かった。
「指示はどうするんスか?」
「基本的な作戦を立てて、あとは三人で声を掛け合う感じだな」
うッ、とメアリが小さく呻く。
「自信がないか?」
「正直に言えば……。でも、やります」
メアリはポールハンマーを握り締めた。
「……作戦は?」
「まず……」
マコトはスケルトンに視線を向けた。
「あのスケルトンにメアリが接近して一対一の状況に持ち込む。その後、アンとフジカは移動して射線を確保、任意に援護する感じだな」
「作戦という割に……」
「雑な作戦だが、これくらいしか思い付かねーな」
フジカが呻くように言い、マコトは軽く肩を竦めた。
ふぅぅ、とメアリが息を吐く。
溜息ではなく、精神統一の一環だろう。
「よし! 二人とも――」
「……待って下さい」
「もう! 折角、やる気になってたのにッ!」
アンに言葉を遮られ、メアリは苛立ったように言った。
「で、何なの?」
「……作戦を立てましょう」
「マコトさんはこれくらいしか思い付かないって」
「……ちゃんと考えるべきです」
「賛成みたいな」
アンが言い含めるように言い、フジカが手を挙げる。
「もう! 分かったわよ」
メアリはふて腐れたように言い、その場にしゃがんだ。
円を描くようにアンとフジカも座る。
「じゃあ、あのスケルトンにどう挑むかだけど――」
メアリが切り出し、作戦会議が始まった。
メアリが主導し、アンが突っ込みを入れる。
会議が白熱する場面もあったが、フジカが上手く間に入った。
二十分が経過し――。
「もう意見はない?」
「……はい」
「まだまだ不安だけど、あとは臨機応変に対処みたいな」
メアリが視線を巡らせると、アンとフジカが頷いた。
基本はそのままだが、詳細はかなり詰められている。
少なくとも右往左往することはないだろう。
「フジカ、魔法をお願い」
「ペリオリス様、お願いしますみたいな。祝聖刃」
フジカが魔法を使うと、メアリのポールハンマーが光に包まれた。
「よし! 今度こそ行くわよッ!」
「……はい」
「了解みたいな」
メアリが立ち上がり、アンとフジカも立ち上がる。
三人がスケルトンを見つめる。
スケルトンは祭壇の前から動いていない。
メアリがゆっくりと歩を進め、アンとフジカも動き出す。
メアリは真っ直ぐ、アンとフジカは左斜め前だ。
射線を確保し、メアリがやられた時に二人で戦えるようにするためだ。
ちなみにフェーネはすでにスケルトンの側面に回り込んでいる。
といっても標的にならないようにかなり距離を空けているが――。
メアリがゆっくりと距離を詰める。
あと十メートルという所でスケルトンが動いた。
無造作に距離を詰めてくる。
あと五メートルという所でメアリが動いた。
「はッ!」
一気に距離を詰め、裂帛の気合いと共にポールハンマーを振り下ろす。
スケルトンは盾で攻撃を受け止めたが、勢いに負けてよろめいた。
メアリは追撃を仕掛けたいはずだ。
だが、思いっきりポールハンマーを振り下ろした後だ。
次の行動に移れない。
スケルトンが体勢を立て直し――。
「祝聖刃!」
「……撃ちます」
アンがフジカの魔法で強化した矢を放つ。
鏃は――盾割の鏃だ。
スケルトンは跳び退り、剣で矢を叩き落とした。
だが、矢は次々と飛んでくる。
流石に全てを剣で叩き落とすことはできないと判断したのか。
スケルトンが盾を構える。
そこに――。
「はぁぁぁッ!」
メアリが襲い掛かる。
ポールハンマーを振り下ろそうとした時、スケルトンの尻尾が動いた。
「きゃッ!」
メアリが悲鳴を上げ、尻餅をつく。
攻撃を受けたからではない。
突然、真下――死角から現れた尻尾に驚いたのだ。
敵ながら見事な戦法だ。
いつか自分でも使ってみたい。
スケルトンがアンとフジカに向かう。
「このッ!」
メアリがポールハンマーを繰り出す。
だが、尻餅をついた状態で繰り出した攻撃だ。
スケルトンには届かない。
その時――。
「昇天みたいな!」
フジカが魔法を使った。
光を浴び、スケルトンが動きを止める。
そこに無数の矢が襲い掛かる。
魔法で強化された矢だ。
鈍い音が断続的に響く。
いや、鈍い音だけではない。
小さな音が聞こえる。
スケルトンに視線を向け、目を細める。
すると、骨に罅が走っていた。
どうやら小さな音の正体は骨に罅が走る音だったようだ。
スケルトンがわずかに身動ぎする。
昇天の効果が薄れているようだ。
スケルトンが膝を屈める。
一気に距離を詰めるつもりか。
そこに――。
「アンタの相手は私よ!」
メアリがスケルトンの側面に回り込み、ポールハンマーを一閃させた。
ポールハンマーが胴を捉え、スケルトンが吹っ飛んだ。
背中から地面に叩き付けられる。
そのままぴくりとも動かない。
メアリはポールハンマーを構え、スケルトンに歩み寄る。
やはり、動かない。
ふと違和感を覚えた。
呆気なさ過ぎる。
ボスがこの程度でいいのだろうかと。
ほぅ、とメアリが息を吐く。
「やっ――」
「残心!」
マコトがメアリに向かって叫んだ次の瞬間、スケルトンが飛び起きた。
地面を蹴り、一気に距離を詰める。
「昇天!」
フジカが魔法を使う。
ナイス判断だ。
だが、スケルトンの動きは鈍らない。
「な、なんで!?」
「距離です!」
フジカが叫び、アンが叫び返す。
そう、スケルトンは昇天の効果範囲外に逃げたのだ。
たった一度見ただけで対応するとは――。
「くッ……」
アンが矢を番え、呻いた。
メアリが邪魔で矢を放てなかったのだ。
そして、スケルトンが剣を突き出した。





