Quest35:メアリとアンをサポートせよ【後編】
※
「……フェーネ」
「分かってるッス」
マコトが呼びかけると、フェーネはスリングショットを手に取った。
鏃をつがえるが、まだ弦を引かない。
腕を下げ、ぴくぴくと耳を動かしている。
モンスターの気配を探っているのだ。
「警戒は任せてもいいか?」
「もちろんッス。兄貴はメアリとアンに意識を集中して欲しいッス」
「ありがとな」
マコトは礼を言い、メアリとアンに視線を向けた。
メアリは槍を、アンは弓を構えながら進んでいる。
まだモンスターの存在に気付いていないようだ。
しばらく川沿いを進み――。
「……メアリ、気を付けて下さい。何かいます」
「分かったわ」
二人は立ち止まり、きょろきょろと周囲を見回す。
ガサッという音が響き、茂みに視線を向ける。
「私が様子を見に行くから援護は任せたわ」
「……分かりました」
メアリが槍を構えて茂みに近づいていく。
十メートルほど離れた場所で立ち止まる。
だが、モンスターは飛び出してこない。
そのまま十秒ほどが経過する。
二人がホッと息を吐いた次の瞬間、モンスターが飛び出してきた。
赤黒い毛並みの兎だ。中型犬ほどの大きさで、額から角が生えている。
「――ッ!」
アンが攻撃を仕掛けるが、矢は地面に突き刺さった。
兎が躱したのではない。
彼女が外したのだ。
無理もない。
虚を衝かれた。
ましてや彼女は駆け出しだ。
攻撃を仕掛けられただけマシだ。
兎が突進する。
速い。兎とはこんなに速く動けるのかと思うほどのスピードだ。
メアリは逃げない。
大きく踏み込んで槍を突き出す。
しかし、槍は虚空を貫いた。
兎が槍を躱したのだ。
それも直角に曲がって。
信じられない光景だ。
だが、そこで兎のスピードはがくんと落ちた。
脇腹に穴が空いている。
フェーネの放った鏃が脇腹に突き刺さったのだ。
「兄貴!」
「点火ッ!」
マコトは足を上げ、地面に振り下ろした。
爆音に似た音が響き、地面に亀裂が走る。
漆黒の炎が噴き出し、亀裂を押し広げながら兎に迫る。
兎は戸惑うような素振りを見せた後で地面を蹴った。
逃げるつもりだ。
だが、遅い。
漆黒の炎が兎を呑み込み、塵に変える。
やや遅れてコツという音が響く。
魔石と鏃が地面に落ちた音だ。
「流石、兄貴ッス! 格好いいッス!」
「そ、そうか。時々、使うヤツに指向性を持たせてみたんだが……」
「超イケてるッス!」
フェーネに賞賛され、何となく照れ臭くなって頭を掻く。
だが、悪い気はしない。
「二人は――」
「無事ッスよ」
マコト達はメアリとアンに視線を向けた。
二人はその場にへたり込んでいた。
しばらくしてよろよろと立ち上がる。
「殺されるかと思いました」
「……私もです」
メアリが安堵したかのような口調で言い、アンは溜息を吐くように応じる。
正しい認識だ。
マコト達がいなければメアリは殺されていただろう。
自分の役割を果たせたことに安堵しつつ横目でフェーネを見る。
「今のは強いのか?」
「一角兎は近隣最弱のモンスター、つまり雑魚ッス」
雑魚、とマコトは顔を顰めた。
魔法を使ってこなかったのでそうかなという気はする。
だが、あのスピードだ。
さらに、こちらが油断してから襲ってくるという知能もあった。
下手をしたらベテランでもやられるのではないだろうか。
「あんなに大きな一角兎は見たことがありません」
「……普通は兎サイズです」
メアリが叫び、アンがぼそっと呟く。
兎サイズの兎――言い得て妙だが、あれは一般的な一角兎ではないらしい。
「栄養状態がいいとあれくらい大きくなるッスよ」
「……まさか」
アンがぼそりと呟く。
栄養の正体に心当たりがあるようだ。
マコトも察しは付くが――。
「念のために聞くが、あれは肉食か?」
「もちろんッス。で、二人ともどうするんスか?」
フェーネは頷き、二人に問い掛けた。
言葉の意味が分からないのだろう。
二人はきょとんとしている。
「どうするって、どういう意味ですか?」
「一角兎が何を食べたのか確認しに行かないのかって意味ッス」
「そ、それは……」
フェーネの言葉にメアリは口籠もった。
助けを求めるようにこちらに視線を向ける。
「俺達は保険だからな。方針は二人で決めてくれ」
「確認しなくても問題はないッスよ。食べ残しで別の一角兎が巨大化するかもッスけど」
問題あるじゃねーかと思ったが、口にはしない。
それに、フェーネは親切と言えば親切だ。
そういう問題を踏まえた上でどうするかを問い掛けているのだから。
「……どうしますか?」
「そっちはどうなのよ?」
「……余裕があるのなら確かめたいです」
「そうよね」
アンの言葉にメアリは頷き、チラリとこちらを見る。
「マコトさんならどうしますか?」
「俺達は保険だぜ?」
「分かってますが、参考までに意見を聞きたくて」
「場合にもよるが、俺は基本的にメンバーの安全を優先する。だから、安全かつチームの不利益にならなけりゃ面倒臭ぇけど、確かめに行く。余裕があるのに確かめないで人が死んだり、怪我したりするのは後味が悪ぃからな」
「……なるほど」
メアリは神妙な面持ちで頷き、難しそうに眉根を寄せた。
「…………確認しに行きます」
長い沈黙の後、メアリは意を決したように口を開いた。
「なんで、そう考えたんスか?」
「私達はマコトさん達のお陰で余裕がある状態です。なので、確認しに行くべきだと判断しました。他力本願で申し訳ないのですが……」
「まあ、ありな判断じゃねーかな」
他人の力を借りられる時に借りるのは悪いことではない。
自分達の力だけで何とかしようとして失敗するよりはいいだろう。
「じゃあ、二人で追跡して欲しいッス」
「……では、私が。これでも、狩人の端くれなので」
「よろしく頼むッス」
はい、とアンは頷き、一角兎が飛び出してきた茂みに向かった。
メアリはすぐに、マコトとフェーネはやや遅れて付いていく。
アンはしげしげと茂みを眺める。
よく見ると、茂みの奥には獣道のようなものがある。
先程の一角兎はいつもこの道を使っているのだろう。
「……獣道を辿ります」
アンはぼそっと呟き、獣道を辿り始めた。
その後にメアリが続く。
フェーネはといえば何やら満足そうに頷いている。
「行くぞ」
「分かってるッス」
マコトが歩き出すと、フェーネは早足で付いてきた。
アンに先導され、森の中を進む。
下生えの草が生い茂っているものの、かなり歩きやすい。
山歩きについては素人なのでありがたい。
長い期間、一角兎がここを行き来していたと考えると薄ら寒いものを感じるが。
「さっき満足そうに頷いてたが、フェーネは狩りの経験もあるのか?」
「単独でできるDランクの依頼は殆どこなしてるッスよ」
狩りについては我流ッスけどね、とフェーネは小声で付け加えた。
「結構、痛い目にも遭ってるのか?」
「そりゃそうッス。冒険者は痛い目に遭って成長するもんス。兄貴もそうッスよね?」
「まあ、数え切れないくらい死にかけたな」
「そんなにッスか?」
「いきなりダンジョンの最下層に落ちたからな」
マコトはしみじみと呟いた。
よくもまあ、死ななかったもんだと我がことながら感心してしまう。
「兄貴が強い理由が分かったッス。それにしても、おいらと別れた後にそんな目に遭ってたんスね。責任を感じるッス」
「フェーネが気に病むことじゃねーよ。まあ、ユウカには少しは感謝して欲しいけどな」
「なんで、姐さんが出てくるんスか?」
「ユウカがゴーストに纏わり付かれて縦穴から落ちそうになったんだよ」
「それで、兄貴が助けたんスか?」
「ああ、放っておけなくてな」
「……兄貴はお人好しッスね」
フェーネがぼそっと呟いたその時、首筋がチクリと痛んだ。
やや遅れてアンが立ち止まり、手を上げる。
止まれという合図だ。
マコト達は立ち止まり、獣道を目で追う。
その先には草に隠れるように人が倒れていた。
何匹かの一角兎が群がっている。
小さめの個体だ。
先程の個体の子どもだろうか。
よく見えないが、食事中のようだ。
「死んでるよな?」
「十中八九、死んでるッス」
念のため確認すると、フェーネは小さく頷いた。
「必ずアンデッドになるって訳じゃないんだな」
「だからと言って安心はできないッスけどね。近づいた所をガブッなんて嫌ッス」
「そいつはホラーだな」
ホラー映画のワンシーンのようだ。
「どうするんだ?」
「ここから狙撃します」
マコトの言葉にメアリは迷うことなく言った。
当然といえば当然の判断か。
だが――。
「全滅させるのが目的なら俺が行った方がよくないか?」
「……マコト様にそこまでして頂くのは」
メアリは申し訳なさそうに言ったが、遠距離攻撃では撃ち漏らす可能性がある。
ここまできたら一角兎を全滅させる方向で動くべきだと思う。
彼女はしばらく迷った末――。
「……お願いできますか?」
「おう、任せとけ」
マコトは足を前後に開き、膝を屈めた。
葛葉戦で使えるようになった気を使ってみたい。
しかし、ここは無難にいくべきだ。
何しろ、覚えたばかりの技術だ。
失敗したら目も当てられない。
「念のためにバックアップを頼むぞ」
「任せて欲しいッス」
フェーネが力強く頷き、マコトは少しだけ気分が楽になる。
「よし、行く――ぞッ!」
そう言って、地面を強く蹴る。
次の瞬間、マコトは爆発的な加速を得て宙を舞っていた。
まるで解き放たれた矢のようだ。
あっという間に一角兎の頭上を飛び越える。
もちろん、計算通りだ。
空中で体を捻って反転、木の幹を蹴る。
「点火ッ!」
漆黒の炎に包まれた右拳を地面に叩き付ける。
ズシンと地面が揺れ、衝撃波が広がる。
一角兎達は衝撃波に打ちのめされ、その場に倒れ伏した。
マコトは体を起こし、右腕を振った。
炎が一角兎達を呑み込み、あとには魔石と人間の死体だけが残った。
ホッと息を吐いて炎を消す。
「流石、兄――!」
「マコト様、お疲れ様です!」
「……ありがとうございます」
メアリとアンが駆け寄ってきた。
言葉を遮られた上、先を越されたフェーネは不満そうに唇を尖らせている。
マコトは苦笑し、死体を見下ろした。
死んでそれほど日が経ってないらしく腐乱していない。
冒険者らしく、粗末な革鎧を身に着けている。
武器は持っていない。
多分、何処かで落としたのだろう。
アンは死体の傍らに立ち、首から下げた金属のプレート――通行証を見つめている。
「……メアリ」
「しばらく見ないと思ったら、こんな所にいたのね」
アンが目配せし、メアリは顔を顰めた。
「友達か?」
「ただの顔見知りです」
メアリは小さく頭を振った。
「太股の傷が致命傷みたいッスね」
いつの間にやって来たのか、フェーネが死体の傍らに跪いていた。
ポーチを漁り、小瓶を取り出す。
中には薬草らしきものが入ってる。
「まさか、盗むんじゃねーよな?」
「こんなに萎れてたら使えないッス」
フェーネは少しだけムッとしたように言った。
「どうして、こんなことに……」
「薬草を採取した帰りにグサッって感じッスね」
フェーネは通行証を取り、メアリに放った。
咄嗟のことだったが、メアリは何とかキャッチする。
「不意の遭遇だったのか、モンスターを討伐しようとしたのか分からないッスけど、依頼を受けた時は依頼をこなすことに注力した方がいいッス。でないと、こうなるッス」
「「――ッ!」」
フェーネの言葉にメアリとアンは息を呑んだ。
無理もない。二人は依頼とモンスターの討伐を平行して進めようとしていた。
もちろん、絶対にこうなるという訳ではない。
だが、二兎を追えばこうなると端的に示されたのだ。
反省会は『黄金の羊』亭に戻ってからと思っていたが、何事にもタイミングはある。
死体の前で話した方が効果的だろう。
「駆け出しの内は二兎を追わないことをお勧めするッス」
「分かりました」
「……分かりました」
二人は神妙な面持ちで頷いた。
「兄貴はどうッスか?」
「一角兎が飛び出してきた時に反応できたのはよかったと思うぜ。ただ、攻撃の精度が今一つだったから、攻撃の精度を高める訓練を積んだ方がいいんじゃねーかな。あまり役に立つことを言えなくて申し訳ねーが」
「いえ! そんなことはないですッ!」
「……はい、高レベルの冒険者に指南を受けられることはまずありませんから」
二人は頭を振って言った。
「そんなにありがたがらなくていいからな。こういう意見もある程度に受け止めてくれ」
はい、と二人は頷いた。
やや間を置いてメアリがおずおずと口を開いた。
「あの、通行証はどうすればいいんですか?」
「教会に届ければ冥福を祈ってもらえるッス」
「……死体はどうすれば?」
アンがぼそっと呟く。
「兄貴、お願いできるッスか?」
「勝手に塵にしちまって大丈夫か?」
「大丈夫ッスよ」
「罪に問われないんならいいか。モンスターに食い散らかされても困るしな」
マコトは頭を掻き、盗賊に殺されたクリスティンの部下を思い出した。
あの時、死体はあとで回収すると言っていた。
それを考えると、冒険者の扱いは軽い。
せめて、骨くらいは残してやりたい。
骨を残すと強く意識しながら――。
「点火、炎弾」
マコトが呟くと、右腕から炎が噴き出し、球体を形作った。
炎弾を放る。炎弾は死体に触れた瞬間、爆発的に膨れ上がった。
五秒ほどで炎は消え、あとには骨だけが残った。
「骨が残ったッスね」
「残したんだよ」
「そんな微調整ができるんスね」
「あまり使う機会はねーけどな」
前に使ったのは盗賊からローラを助ける時か。
「一角兎の件は片付いたし、さっさと依頼を片付けちまおうぜ」
「「はい!」」
二人は元気よく返事をした。
その後は何事もなく、二人は薬草を採取することに成功した。
※
夕方――マコトとフェーネは一足先に『黄金の羊』亭に戻ることにした。
薬草の採取はメアリとアンが受けた依頼だ。
教会への報告は二人がやるべきだと考えたのだ。
スウィングドアを通って中に入る。
カウンターの中にはシェリーが、カウンター席にはユウカ、リブ、フジカがいた。
「二人ともお帰りなさい」
「お帰り」
「よう、久しぶり」
「お帰りなさいみたいな」
シェリーの後にユウカ、リブ、フジカが続く。
マコトは指定席――カウンター席の端に、フェーネはその隣に座る。
五人が座っているので、かなり手狭だ。
「それで、メアリちゃんとアンちゃんはどうでした?」
「トラブルはあったが、無事に薬草を採取できたぜ」
「それはよかったです」
シェリーはホッと息を吐き、マコトとフェーネの前にグラスを置いた。
マコトはグラスを手に取り、口元に運ぶ。
こまめに水分補給をしていたが、ここで飲むレモン水の味は格別だ。
「メアリとアンって新しい客だよな? そいつらとマコトにどんな関係があるんだ?」
「薬草を採りに行くってんで、旦那とフェーネちゃんに面倒を見て欲しいってお願いしたんですよ。出過ぎた真似をしちまったかも知れませんけどね」
リブの質問にシェリーが答える。
「マコトさんは面倒見がいいし」
「面倒見がいいんじゃなくてお人好しって言うのよ」
フジカが感心したように言い、ユウカは軽く肩を竦めた。
「そういえばリブは何をしてたんだ?」
「フランクの代わりに誰が団長代理を務めるかで揉めてたから仲裁をしてたんだよ」
「きな臭ぇ話だな」
「派閥争いとかじゃねーから安心してくれ」
そうか、とマコトは胸を撫で下ろした。
「アンタ、巻き込まれるのは嫌だなとか思ったでしょ?」
「巻き込まれたら何とかしなきゃならねーな。面倒臭ぇなって思ったんだよ」
ユウカが意地の悪い笑みを浮かべて言い、マコトは内容を訂正する。
「つーか、もう指輪の効力は切れたのかよ」
「最初から効力なんてないわよ」
ふん、とユウカは鼻を鳴らした。
自分の手――指輪を見下ろし、ふへへと笑った。
よかった。まだ指輪の効力は持続しているようだ。
マコトは内心胸を撫で下ろし、リブに視線を向けた。
「ふ~ん、手助けしてくれるつもりだったんだな」
「そりゃ、仲間だからな」
「恋人だろ、そこは。でも、ありがとうな」
リブはムッとしたように言った後で笑みを浮かべた。
「ああ、でもよ、派閥争いでもないのに揉めることってあるのか?」
「俺が団長代理になるって殴り合ったり、力比べをしたりだな」
「割と碌でもないよな、お前の一族は」
「皆お祭り好きだからこういうのにかこつけて騒ぎたがるんだよ」
「フランクさんが倒れたのに騒いでていいの?」
ユウカが顔を顰めながら言い、リブは困ったように眉根を寄せた。
「あ~、そこな。う~ん、なんて言えばいいのか」
「バイソンホーン族はこういう連中なんスよ」
「畜生、反論できねぇ」
フェーネが溜息交じりに言うと、リブは口惜しげに呻いた。
「きっと、死生観が違うみたいな」
「チッ、きれいに纏めたわね」
「そこは舌打ちする所じゃないし」
「舌打ちする所に決まってるじゃない」
ふん、とユウカは小馬鹿にするように鼻を鳴らし、頬杖を突いた。
「そろそろ休暇もおしまいね。次に何をするか――」
「次は私のレベル上げをよろしくみたいな」
「そういうことなら休暇は延長ね」
「なんで、そういうことを言うかなみたいな!」
フジカは声を荒らげた。
「そのことなんだけど、ちょろっと考えてみたのよ」
「せめて、じっくり考えて欲しいし」
うぐぐ、とフジカは呻いた。
「レベルを上げてもアンタが役に立つビジョンが浮かばないのよね」
「お前は鬼か」
マコトはすかさず突っ込んだ。
世の中には言っていいことと悪いことがある。
「こんなに慈悲深い鬼がいる訳ないじゃない」
「地獄への道は善意で舗装されてる的なアレか?」
「誰が地獄よ!」
ユウカは顔を真っ赤にして言い――。
「だから、ちょろっと考えたのよ」
「話が戻ってるぞ」
「うっさいわね。ここから別ルートなの、別ルート」
ユウカはムッとしたように言って、腕を組んだ。
「フジカって戦闘での立ち回りを根本的に分かってない感じがするのよ。だから、レベルを上げて、魔法を覚えても上手く活かせない気がするの」
「いや、それは、後衛職だし」
「あたしも後衛職だけど、上手く立ち回ってるし、ある程度は白兵戦に対応できるわよ」
フジカがごにょごにょと呟くと、ユウカは得意げに鼻を鳴らした。
確かに葛葉戦では大活躍だった。
「あまり調子に乗るなよ」
「分かってるわよ。あたしの白兵戦能力は本職に及ばないもの。精々、『後衛は簡単にぶっ殺せるぜ! ヒャッハーッ!』って舐めて掛かってきたヤツを返り討ちにする程度ね」
マコトの忠告をユウカは素直に受け入れた。
まあ、後半部分はどうかと思うが――。
「要するに、アンタは自分の戦闘スタイルを確立するほど経験を積んでないってこと」
「じゃ、どうすれば……」
フジカは途方に暮れたように言った。
「一人でダンジョンに――」
「死ぬし! それは絶対に死ぬし!」
ユウカの言葉をフジカは遮って言った。
「過酷な状況に身を置かないと成長しないわよ?」
「それで死んだら元も子もないし」
「はいはい、分かったわよ。その辺のさじ加減はマコトに任せるわ」
「俺に丸投げかよ」
「リーダーだもの」
ユウカは当然のように言い放ち、身を乗り出してきた。
実に、嬉しそうな顔をしている。
「どんな感じにするの? あたしとしては生かさず殺さずでお願いしたいんだけど」
「ま、ま、マコトさん! お手柔らかにお手柔らかにお願いしますみたいな!」
「お手柔らかかは分からねーけど、アイディアはある」
「それはどんなみたいな?」
フジカが首を傾げたその時――。
「ただいま帰りました」
「……帰りました」
メアリとアンの声が響き、マコトは振り返った。





