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アラフォーおっさんはスローライフの夢を見るか?  作者: サイトウアユム


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Quest31:葛葉を討伐せよ その13



 夢を見ている。

 ある少女の夢だ。

 少女は東国の市民階級出身だった。

 生まれにも、育ちにも不幸はなかった。

 美しくもなければ醜くもなかった。

 大抵のことはこなせたが、突出した才はなかった。

 要するに凡庸な少女だった。

 他人と違う所があるとすれば少女は努力家だった。

 また、いい子であろうとしていた。

 あの子は勉強熱心ないい子だと聞けば、彼女も熱心に勉強した。

 あの子は裁縫が得意ないい子だと聞けば、裁縫が得意になるよう努力した。

 弟妹の面倒も、家の手伝いも行った。

 そのまま成長すればそれなりの幸せを掴めただろう。

 だが、そうはならなかった。

 ある日、彼女は街で王族――王太子を目にした。

 輿に乗り、目の前を通り過ぎただけだったが、彼女は運命に出会ったと感じた。

 生まれて初めて抱いた恋心だった。

 しかし、自分達が結ばれないことも分かっていた。

 子どもにも分かるほど身分の差は絶対的なものだった。

 ここで諦めていればまた別の人生が待っていたはずだが、彼女は諦めなかった。

 結ばれなくてもいい。

 せめて、傍にいたい。

 それすらも過分な望みではあったが、彼女は血の滲むような努力をした。

 その結果、宮廷に上がることを許された。

 遠くから見ているだけで幸せだったが、やがて満足できなくなった。

 自分を見て欲しい。

 声を掛けて欲しい。

 触れて欲しい。

 自分の望みを叶えるためにさらに努力したが、努力は実を結ばなかった。

 宮廷は綺羅星のごとき才で溢れていた。

 血の滲むような努力で得たものはそこでは価値があると見なされなかったのである。

 さらに周囲の人々の優しさが苦しみをより深いものとした。

 優しさとは持たざる者に向けられるもの。

 脅威に成り得ない者に与えられるもの。

 そのように彼女は考えた。

 それでも、諦められなかった。

 無駄と分かりながら努力を続けた。

 胸を掻き毟るような苦しみ。

 その果てに七悪――嫉妬の力に目覚め、苦しみは増した。

 彼女が得たのは幻を操る力だった。

 存在しないものを存在しているかのように見せるだけの力だ。

 七悪の力は道具、あるいは手段に過ぎない。

 彼女もすぐそれに気づき、道を踏み外した。

 他人を陥れるために七悪の力を使ったのだ。

 もっとも、当時の彼女は今とは比べものにならないほど弱かった。

 だから、言葉を用いた。

 幻を操り、噂を流し、ライバルを陥れ、潰し合わせた。

 やがて、彼女は王太子の傍らに侍ることになった。

 しかし、それは新たな苦しみの始まりだった。

 当然か。彼女自身は何一つ変わっていないのだ。

 ライバルを排除し続けなければ王太子の傍らにいられない。

 自分が排除されないように警戒もしなければならなかった。

 宮廷は瞬く間に魔窟と化し、彼女の力は増した。

 王太子の寵愛を得るために殺して、殺して――討伐の対象となった。

 彼女は力の限り抗ったが、徐々に追い詰められ、逃げ出した。

 逃げて、逃げて――そして、力尽きた。


「……気持ちは分からなくもねーけどさ」


 マコトが目を覚ますと、そこはベッドの上だった。

 見慣れたとまでは言わないが、見覚えのある天蓋が頭上を覆っている。

 クリスティンの屋敷だ。

 視線を巡らせるが、部屋には誰もいない。

 右手を翳してみる。

 ユウカからもらった指輪がない。

 クリスティンからもらった籠手と一緒に砕けてしまったのだろう。

 無理もないか。黒炎、気、魔法――三つの力を束ねた一撃を放ったのだ。

 壊れない方が不思議だ。

 そんなことを考えながら右手を握ったり、開いたりしてみる。

 切断されかけたのに驚くほど違和感がない。

 少しくらい違和感があった方が安心するのだが――。

 贅沢な悩みだな、と右手を翳したまま目を閉じる。

 そのまま意識を内側に向けると、揺らぎのようなものを感じた。

 揺らぎを意識したまま目を開ける。

 右手が淡い光――気に包まれていた。

 溜息を吐くと、気が掻き消える。

 今度は目を開けたまま揺らぎを意識する。

 再び気が右手を包む。

 気を消し、小さく溜息を吐く。

 フランクは気の存在に気づくことが大事だと言っていたが、同意見だ。

 自転車に乗れるようになった時の気分に似ている。

 できるようになってみれば何でもない。

 どうして、こんなことができなかったのかとさえ思う。


「……さて、起きるか」


 体を起こしたその時、扉が開いた。

 扉を開けたのはユウカだ。

 その後ろにはローラがいた。

 ユウカはマコトを見ると驚いたように目を見開き――。


「よくもまあ、三日もぐーすか眠れるわね」

「起きたばかりで嫌みかよ」

「ったく、心配させるんじゃ――ッ!」


 ユウカはハッとしたように口を押さえた。


「やり直すわ。ちょっとエッジの利いた台詞を考えるから五分待って」

「やり直すなよ」

「マコトが『へへ、ユウカも可愛い所があるじゃねーか。俺に惚れてるな』って妄想したら大変じゃない。主にあたしが。と言うか、あたしに迷惑だから止めてよね」

「安心しろ。今の台詞を聞いてお前に惚れるヤツはいねぇ」

「あたしの何処が不満なのよッ!」

「性格に決まってるだろッ!」

「ちッ、マジでムカつくわね」


 ユウカは吐き捨てるように言い。こちらに歩み寄ってきた。

 ベッドサイドにあったイスに腰を下ろし、脚を組んだ。

 ローラはユウカの背後に控えている。

 一目で力関係が分かる。

 分かっても大した意味はないが――。


「マコトは三日間もぐーすか寝てて浦島太郎状態な訳だけど、聞きたいことはない?」

「ローラに聞くからいいよ」

「聞きたいことはない?」

「お前はゆっくり休めよ」

「聞きたいことはない?」

「葛葉はどうなった?」

「そんなの後で――」

「マコト様が倒しました」


 ユウカが睨み付けると、ローラはそっぽを向いた。


「はいはい、いつものパターンよ、いつものパターン。ぺッ、この主人公気取りが」

「いつにも増して態度がひでぇ」

「当たり前でしょ。マコトが回復するまでどれだけ大変だったか」

「わり――」

「南総里見八犬伝なんて目じゃない大冒険だったわ」

「二時間くらいか?」

「また映画の話?」


 ユウカは渋い顔で問い返してきた。


「子どもの頃だったけど、面白かったぜ。元の世界に戻ったら見てくれよ」

「嘘でもいいからもっとまともな気持ちを託して欲しいわ」

「そうは言っても未練は……」

「なんで、急に黙り込むのよ?」

「大した金額じゃねーけど、銀行に預けている金があってな」

「いらないわよ、そんなもの。行方不明になったヤツの口座からお金を引き出したら逮捕されちゃうじゃない」

「だよな。やっぱり、お前に託せるのは映画を見て欲しいって思いだけだ」

「だから、もっとまともな気持ちを託しなさいよ」


 相変わらず、ユウカは渋い顔をしている。


「自分らしく生きて欲しいとは思うんだが、お前は好き勝手に生きそうだしな」

「つまり、あたしはマコトの理想を体現しているって訳ね」

「理想は体現してねーよ」


 ユウカが得意げに言い、マコトは突っ込みを入れた。


「で、俺が回復するまで何があったんだ?」

「死闘を繰り広げたのよ。ローラなんて腕と脚が千切れそうになって大変だったんだから」

「そいつは――」

「いえ、そこまで重傷では」


 マコトの言葉をローラが遮った。

 ユウカは肩越しに背後を見やり、深々と溜息を吐いた。


「その溜息は何でしょう?」

「あたしが活躍をアピールしてやったのにやれやれだわ」

「――ッ!」


 ユウカが肩を竦めると、ローラは息を呑んだ。


「ええ、ええ! マコト様を守るために四肢が千切れそうになりましたッ! マコト様のために! マコト様のためにッ!」

「お、おう、ありがとうな」

「いえ、私はマコト様の騎士ですから」


 ローラが照れ臭そうに身を捩り、ユウカは小さく溜息を吐いた。

 言いたいことは分かる。

 感謝の気持ちに嘘はないが、タイミングを外しすぎた。


「それにしても、よくあのタイミングで新しい技を使えたわね」

「新しい技? ああ、不破城砦ですね。前々から練習はしていたんです。まともに発動できたことはありませんでしたが……」

「ちッ、こんな所にまで主人公気取りがいるわ」

「言葉の意味はよく分かりませんが、恐らくレベルが上がったのが原因だと思います」

「ああ、ローラもレベルが上がったのね」


 ユウカは合点がいったとばかりに頷いた。


「ということは?」

「あたしもレベルが上がってるわよ」


 ふふん、とユウカは鼻を鳴らした。


「いつレベルが上がったんだよ?」

「葛葉の尾を吹っ飛ばした時に決まってるじゃない。お陰でレベル80よ、80」

「私は45になりました」


 ユウカとローラは自慢げに胸を張って言った。


「レベルが上がったんなら――」

「マコトがやられちゃったから言えなかったのよ」

「悪ぃな」

「いいのよ、別に。うんうん、自分の非を認めるのは大事よね」


 ユウカは満面の笑みを浮かべて言った。

 何と言うか、本当に嬉しそうだ。


「他の三人は?」

「分からないけど、フジカは絶対に上がってないわ」

「あ~、まあ、そうだよな」


 魔法を使って葛葉の動きを鈍らせてくれたが、大ダメージを与えていない。


「次はフジカのパワーレベリングをしねーとな」

「経験値を稼がせてやらないと本格的に役立たずになるわね」

「フジカには言うなよ?」

「善処するわ」

「そこは言わないって約束しようぜ」

「あたしは守れない約束をしない主義なの」

「主義ときたか」

「そうよ」


 ユウカは勝ち誇ったように胸を張った。


「ところで、葛葉を倒した後はどうだったんだ?」

「フランクさんが倒れたからロインが討伐隊を纏めたわ」

「フランクさん?」

「流石、歴戦の傭兵よね。自分が倒れた後のことまで考えてるんだから」

「フランクさん?」

「しつこいのよ!」


 マコトが再び問いかけると、ユウカは顔を真っ赤にして言った。


「なんで、さん付けなんだよ?」

「そりゃ、マコトを助けてもらった恩があるもの」

「それだけか?」

「ちゃんとした人だから敬意を払おうと思ったのよ」


 ユウカはムッとしたように言った。

 フランクが敬意を払うべき男であることに異論はない。

 それにしても――。


「お前がそんなことを言うなんてな。明日は雪か?」

「マジでムカつくわね。いいじゃない、敬意くらい払ったって」

「俺には――」

「マコトには無理ね」


 ふん、とユウカは鼻を鳴らし、そっぽを向いた。

 チラリと視線を向け、こちらに向き直る。


「マコトは敬意って感じじゃないのよね」

「そうですね。二人の関係はもっと親しい関係だと思います」

「親しぃい?」


 ユウカは苦虫を噛み潰したような顔で言った。

 言い方も『したぁしぃい~?』である。

 懐かしい感じだ。


「うん、まあ、でも、それはあると思うわ」

「珍しく……」

「なんで、黙るのよ?」

「素直にって続けたかったんだが、『うん、まあ、でも』だからな」

「捻くれてて悪かったわね」


 ユウカは顔を顰めた。

 まあ、こっちの方が彼女らしくていいか。


「なに、ニヤニヤ笑ってるのよ?」

「お前はつくづくユウカだな」

「誉めてないのは分かるけど、あたしはいつだってオールウェイズユウカよ」


 ユウカは腕を組み、胸を張った。

 センスが古い。

 ナウなヤングにバカウケと言い出しそうだが、ここは黙っておこう。

 アラフォーのおっさんにセンスが昭和と言われたら立ち直れないだろう。


「そう言えば逃げ出した冒険者はどうなったんだ?」

「あたしは知らないわ」

「全員、亡くなったそうです」


 質問に答えたのはローラだ。


「いつの間に……」

「帰る準備をする時に調べたんです」


 ローラは照れ臭そうに言った。


「そいつは残念だな」

「全然、残念そうに聞こえないわよ」

「手間が省けてよかったぜ」

「流石、殺人鬼ね。言うことが違うわ」


 そう言って、ユウカは体を引いた。


「他に聞きたいことはある?」

「あとは仲間とフランク、レドのことだな」

「フェーネはレドのお見舞いよ」

「レドは大丈夫だったのか?」

「かなり衰弱してて、記憶もないみたいだけど、命に別状はないそうよ」

「記憶がない?」

「そう、葛葉のことも覚えてないそうよ」


 やれやれだわ、とユウカは不機嫌そうに呟いた。


「でも、それでよかったのかもな」

「そう? あたしは覚えてて欲しかったけど……」


 ユウカは押し黙り――。


「でも、マコトがいいって言うならいいわ」

「ふ~ん、どういう風の吹き回しだ?」

「一番痛い目に遭ったマコトが何も言わないならあたしは黙るしかないじゃない」

「ありがとな」

「礼を言われるほどのことじゃないわ。リブは宿、フランクさんは入院中よ。本人は目を覚ますかは賭けって言ってたわ」


 そうか、とマコトは溜息交じりに呟いた。


「フランクさんの件はあまり思い詰めない方がいいわよ。フランクさんは自分の意思でマコトを助けたんだもの。恩に着つつ、あたし達にできることをしましょう」

「そうだな。俺達にできることと言えば――」

「クリスに入院費用を出させることくらいね」

「俺達にできることって言わなかったか?」

「雇い主に責任を取らせること。それがあたし達にできることよ」

「そうか」

「そうよ」


 ユウカは当然と言わんばかりの態度で言った。

 その時、扉を叩く音が響いた。



 メイドに先導され、マコト達は屋敷の廊下を進む。

 どうやってクリスティンに入院費用を出させるか考えていると、ユウカが手の甲で二の腕を叩いてきた。


「何だよ?」

「今までローラが案内してくれたのに不思議よね?」


 ユウカは不思議と思ってなさそうな口調で言った。


「なんでかしらね?」

「う、うぐぐ……」


 ユウカがニヤニヤと笑いながら言うと、背後から呻き声が聞こえてきた。

 呻き声を発しているのはローラである。

 宝物庫を荒らした意趣返し、もしくは主従関係を解消しようとしている。

 そう考えるのが妥当だ。


「なんでか――」

「どうぞ、お入り下さい」


 メイドがユウカの言葉を遮り、扉を開けた。


「なんだ、もう着いたの」

「どうぞ、お入り下さい」

「分かってるわよ」


 ユウカはムッとしたように言い、扉を潜った。

 やや遅れてマコトとローラも続く。

 クリスティンは机に肘を突き、顔を隠すように手を組んでいた。


「七悪の討伐、ご苦労。帰って――」

「帰る前にお願いしたいことがあるのよ」

「まだ何かあるのかッ?」


 ユウカが切り出すと、クリスティンは声を荒らげた。

 ちょっと涙目だ。


「大したことじゃないわよ。フランクさんの面倒を見て欲しいの」

「何じゃ、そんなことか」


 クリスティンはホッと息を吐いた。


「それなら問題ない。ワシがちゃんと面倒を見る」

「嘘を吐いたら街を火の海にするからね」

「ぐぬ、ちゃんと面倒を見ると言った直後に……ワシはどれだけ信用されてないんじゃ」

「お付きの騎士を庇ってやれない程度だもの。それに、案内役がメイドになってたし」

「非常時とは言え、宝物庫を荒らすんじゃもの。忠誠心も今一つじゃし」


 クリスティンが視線を向けると、ローラは顔を背けた。


「復帰は絶望的ね」

「ぐッ、やはりそうですか」

「元雇用主よりお金を選んだくせに復帰するつもりでいたの?」

「い、いえ、復帰は絶望的かと思っていましたが……」

「思っていましたが?」

「社会的地位が惜しくなりまして」


 ユウカが鸚鵡返しに尋ねると、ローラは呻くように言った。


「社会的地位って」

「大事なことです。今の収入はもちろん魅力的ですが、フリーの騎士は世間体が……」

「もう少しリブを見習いなさいよ」

「そうなんですが、そうなんですが……」


 うぐぐ、とローラは拳を握りしめた。


「…………忠誠心の欠片もないの」

「そんなことは……」


 ローラはクリスティンの方を見たが、黙り込んでしまった。


「嘘でもいいから忠誠心があるって言ってやりなさいよ」

「あ、いえ、嘘を吐くのはどうかと」

「暗黒騎士になったんだから落ちる所まで落ちちゃいなさいよ」

「嫌です!」


 ローラは声を張り上げた。


「で、ローラは解雇?」

「む、それは……」


 ユウカの言葉にクリスティンは口籠もった。

 その時、ローラが叫んだ。


「クリス様!」

「何じゃッ?」

「私はレベル45になりました!」


 ローラは胸を張り、鼻息も荒く言い放った。


「ぐッ、このタイミングで言うとは……」

「騎士団長のルーク殿に迫る勢いです。その私を家賃程度の金額で部下にしていられるのはまさに破格の条件ではないかと」

「家賃?」

「ローラに家を貸しとるんじゃ。しかも、ただで」


 マコトは首を傾げると、クリスティンは溜息交じりに言った。


「家賃程度と言うが、あそこは準一等地じゃぞ」

「破格です」

「そうじゃけど、そうじゃけど!」


 うぐぐ、とクリスティンは呻いた。

 そして、がっくりと肩を落とす。


「……今まで通り家賃はただじゃ」

「賢明な判断です」


 ローラは満足そうに頷いた。



 金槌で釘を打つ音があちこちから聞こえる。

 マコトとユウカは復興が進む街を横目に見ながら『黄金の羊』亭に向かう。

 途中で別れたため、ローラの姿はない。


「……逞しいよな」

「そう?」


 マコトがぽつりと呟くと、ユウカは訝しげな表情を浮かべた。


「あれだけのことがあったのにもう働き始めてるんだぞ?」

「働かないとどうにもならないから働いてるだけで逞しい訳じゃないわよ」

「それも含めて逞しさだと思うけどな」

「見解の相違ね」


 ユウカは軽く肩を竦めた。

 どうやら、この話題を続けるつもりはなさそうだ。

 しばらく無言で大通りを進む。

 路地に入り、さらに進む。

 ようやく『黄金の羊』亭が見えてきた。

 いつもと同じ佇まいだ。


「何だか、安心するな」

「そう?」

「何と言うか、帰ってきたって感じがする」

「あたしは溜息が出てくるわ」

「お前は宿が火事になったからな」

「ええ、お気に入りの服が焼けたわ」


 ユウカは口惜しげに拳を握りしめた。

 どうやら怒りが再燃したようだ。

 葛葉を倒してそれでおしまいという訳にはいかないみたいだ。


「また新しい服を買えよ」

「あれが気に入ってたのよ」

「……そうか」


 マコトは溜息を吐きつつ、『黄金の羊』亭のスウィングドアを通り抜けた。

 相変わらず、食堂は閑散としていた。

 シェリーはカウンターで料理を作っている。

 手を休め、こちらを見る。


「…………旦那、お帰りなさい」

「ああ、ただいま」


 マコトはカウンターに歩み寄り、一番端の席に座った。

 すぐにグラスが差し出される。


「あたしは自分の部屋に戻ってるわ」


 そう言って、ユウカは階段を上った。

 マコトはグラスを手に取り、口元に運んだ。

 レモン水の爽やかな味わいが広がる。

 飲み干し、グラスをカウンターに置く。

 すると、シェリーがレモン水を注ぐ。

 マコトはグラスを手に取り、半分ほど飲んでカウンターに置いた。


「どうでした?」

「結構、しんどかったな」

「そうですか」


 マコトが溜息交じりに答えると、シェリーは苦笑した。


「次の予定は?」

「装備を買ったり、仲間と相談したり……まあ、色々やることはあるが、しばらくはのんびりしたいな」

「そうですか」


 シェリーは少しだけ嬉しそうに微笑んだ。

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