95話「圧巻! シンエン精霊里の三大精霊王!!」
迷いの森は物質世界の法則と異なる場所で、妖精王アッセーの力を介した指輪を装備してなければ永遠に迷うとされる。
グニャグニャ風景がうつろいゆく。
ユミは怖くてたまらず、アッセーの腕に抱きついた。
「指輪なくすなよ?」
「うん」
アッセーを先頭にローラル、アルロー、ユミ、マトキ、グングが続く。
ただ真っ直ぐ歩いているのに、勝手に分岐の道へグルンと視界が切り替わったり、急坂になって登っていく感覚になったり、螺旋状の道を通って上下の感覚がおかしくなりそうだったりと奇妙だった。
これがアッセーとアルローが認識している光景なのだ。
「た……確かに……どこまで行っても行き止まりございませんわ……。延々と迷うのも分かります……」
「森林として見えているが、実際は障害物なんて全くないからな」
「それは怖いですわ……」
ローラルもアッセーの後ろから両肩に手をついて歩くようになった。
マトキも無口で裾を握って離さない。
「そ、そ、それでも、不思議で変わった森でありますね!」
グングは初めて見る不思議な世界をキョロキョロ見渡している。
……見た目がああなってるだけで、本当は何もない空間なんだよなぁ。
「そろそろ精霊の里に出るぞ」
「シンエン精霊里なのです」
確かに目の前から光が溢れる。近づくほど眩くなっていく。
思わず目を瞑るローラル、ユミ、マトキ、グング。徐々に目を開くと、アッと驚いてしまう。
「な、な、ななな!? なんか家が浮いているであります~~!?」
グングがびっくりするのもムリもない。
深淵の闇をバックに、光源もないのに見える浮遊する細長い道。途切れ途切れの道も浮いている。
それでいて無数のレトロチックな家が上下縦横無尽と浮いているのだ。
とてもこの世とは思えない光景である。
「これが……シンエン精霊里か」
「私も初めて見るのです」
「な、な、なんか小さいのが来るであります~!」
グングに裾を掴まれて、指さされる方を見やると二つの光が飛んでくる。
《あらあらー、久しぶりのヒトだねッ!》
《妖精王さまー! こんにちはー!》
なんと小さな妖精が二体飛んできた。こちらを興味深そうにぐるぐる飛び回る。
妖精王アッセーのように原寸大の人間ではなく、本に絵などで記述されているような小人で蝶々のような羽を生やしている。
妖精王国に発展したが、小さな村の頃から妖精はたくさんいた。
「驚いたですわ……。ここにもいるんですわね」
「妖精と妖精王は全く違うでありますね……」
「ちなみに『妖精の種』を摂食して進化したら、元がどんな大きさであれ、このように小さくなる」
「アッセーも知ってたのですか?」
「というか、転生前の異世界で実際に見たからな。ヒトが妖精に変身して小さくなるの」
「そうなんですね……」
「おお~、初めて聞いたであります!」
ユミとグングは感嘆する。
アッセーのように生きている内は変身のように切り替えれるが、死後は変身後が本来の姿となる。
つまり、この妖精も同様という事になる。
「妖精か妖精王か、選べないんですか?」
「こればかりは運だからなぁ。妖精の種ガチャって感じか」
「ガチャって何ですわ?」
「『妖精の種』って、妖精、妖精王、精霊、精霊王、天使などどれになるかは摂食した生物次第だ。オレはたまたま妖精王になっただけで……」
「どれになるかは運試しって事ですね」
《うんうん》《そーですー》
ナッセの両肩に妖精がちょこんと座っていた。
「オレは妖精王アッセー。この里におられる精霊王さまより指定依頼を承った」
《それじゃ案内するですー!》
《いこいこー!》
アッセーの先頭へ飛んで、無邪気に手招きしてくる。
「それにしても不思議な空間ですわね」
「こ、こ、こんなの初めてでありますよ~!」
シンエン精霊里は、三途界域と隣接する亜空間にあるもので通常は行けない場所だ。
そこでは混濁する闇の最中、浮いている途切れ途切れの細長い道とレトロチックな家。
しかも明かりもないのにクッキリ見える。
無数の妖精が飛び交い、火水土風など様々な形状をした精霊がのそのそ徘徊する。
明らかに物理事象を超えた里だ。
《あの三大精霊王さまが集っているんだよー》
《うんうん。そろそろあの時期だからねー》
無邪気な妖精二体が踊りながらアッセーを誘導している。
「三大精霊王って……!?」
「世界天上十傑の三人だ。基本的に三途界域で別々の地域で暮らしているが、百年の周期でここに集まってくる」
「そうなのです。業火の精霊王ボウエルノさま、水源の精霊王リュウエルノさま、陸土の精霊王フミナルノさまの三体なのです」
妖精と妖精王みたいに、精霊と精霊王もまた違う。
基本的に精霊は自然と一体化しているような風貌が共通としているが、サイズはケタ違いだ。
精霊は小さなものからヒトサイズまであるが、精霊王は自然を象徴するかのように雄大で大きな体躯が特徴。
当然だが、自分と同じ属性攻撃を受けても全く効かない。
「転生前の世界でも、オレと同期の精霊王と会ったけどヒトサイズだった。恐らく死後は変身後の姿を基本に、大きく肥大化していくと思う」
「そうなんですね……」
「スケールが違いますわ」
「は、は、初めて聞いたであります……!」
「あ、あの向こうに大きな存在が三つ感じられます。それもかなり強力な……」
レトロチックな家が少なくなっていって、心細い道だけが続き、やがては大きな魔法陣と四方を囲む塔みたいな装飾柱が見えてくる。
そしてマトキの言う通り、三つの大きな存在が確認された。
二体の妖精は《それではどうぞ》と礼儀作法をしてから、どこかへ去っていった。
《ようこそ……妖精王アッセーよ……》
轟々燃え盛る火炎を纏う上半身の褐色巨人、下半身は火炎球だ。おっかない顔をしているが口調は穏やかだ。
誰が見ても明らかな業火の精霊王ボウエルノだ。
《ふふふ、若いのに我らと同等の力を持っているとか頼もしいわね》
下半身が渦潮で、羽衣のように水流の帯が循環していて、美しい青白い肌の美女。白い雪が毛皮のように恥部を覆っている。髪の毛は流れる水流。
水源の精霊王リュウエルノだ。
《かつて私は人間だった……。懐かしいものよ……》
亀のような甲羅の下半身で四つの太い足、甲羅の上にゴーレムみたいな巨体。岩を張り合わせた強面でギロリと目が覗いてくる。
陸土の精霊王フミナルノだ。
そんな圧巻とも言える巨大な精霊王が三体、こちらを見下ろしていた。




