92話「宇宙人と婚約しちゃった!?」
ここは転生先のナッセにとっては異世界ドラエフサーガ。
アッセーたちが暮らしている星杯以外にも、数え切れぬほどの星杯が数多とある。
やはり星杯と星杯の間の距離は一億二〇〇〇万キロもあるという。これは地球と太陽の距離に近い。
ちなみに地球を一周すれば四万キロ。地球と月の距離は三八万キロ。
前にも語ったが、星杯と光珠の距離は一七万キロ。
そんな気の遠くなる星杯と星杯の間を渡っているボロボロの箱舟があった。
相当長い年月を航行してきたのだろう。
「生命の反応がある星杯は、なかなかないであります」
《そのようだな》
数え切れぬほどの星杯が存在するが、全部生命体が住める環境とは限らない。
木星のように混濁した乱気流の渦だけのガス星杯、周囲に輪を持ち凍える氷の星杯、砂漠だらけの暑いだけの星杯、超巨大で重力が高い熱い氷の星杯、高気圧で濃硫酸しかない高温の星杯……。
しかしその中で僅かに生命体が存在する星杯も確認できた。
それでも実は微生物ばっかりの未発達な生命体だったり、ギャオースと幅を利かせる恐竜だけだったり、海しかない環境ゆえに魚やクラゲだけだったり、あまつさえ既に文明が滅んでいた跡地だったりとか……。
《今後の旅路を諦めて、そんな地へ降りた同胞は今でも元気であろうか……》
「もう確認しようがないでありますよ」
《そうじゃな……》
この巨大な箱舟はかつて数百人も抱えていたが、今や無人のように静かだ。
「もはや生き残りはワタシ一人を除いて絶滅したであります……」
《五十年前に疫病が蔓延して、なんとかワクチンを作ったが数人生き残るのみで絶望的だったな。最終的に両親も息を引き取って、お主のみとなった》
「うん、であります……」
広い操縦室で、前方を見渡せる巨大モニターを儚げに見ている少女がいた。
その後ろで妖精の羽を六枚浮かしている妖精王もいた。彼女もまた物憂げな顔で、精一杯の微笑みを作っている。
《それもこれも、己の住む星杯を食い潰した末路というべきか……。四方に散った同胞の箱舟コロニーとともに長い空旅をするハメとなった。ここも、いつ墜落するともしれん》
「妖精王ランスピアさま……」
《出発時には数百人と数多くいた住民も、グング・ニアル一人となってもうた……》
寂しさを紛らわすように妖精王ランスピアと少女グングは抱きしめた。
《嗚呼……。何代目のコロニー住人か、もう忘れた。しかし自分の可愛い娘のように育ててきた……》
「諦めないであります。いつかきっと、知的生命体が存在する星杯にたどり着いて、運命の殿方に婚約できるであります!」
《あなただけが唯一の希望じゃ……》
住めなくなった故郷の星杯を離れ、幾千年も気の遠くなる年月を経て何代もの世代を重ねて生き残った唯一の少女。
他に別れた箱舟の安否など誰も分からない。
もしかしたら、この箱舟以外は力尽きて墜落したのかもしれない。
ピコン! なんと生命反応レーダーが久しく音を鳴らした。
思わずランスピアとグングは見張った。
「その先、残り三〇〇〇万キロの星杯に複数の生命体がいるであります!」
《ふむ。今度こそ知的生命体が存在しているといいが……》
モニターに写る光珠が希望の輝きのように一点煌く。
さながら広大な宇宙で一点煌く太陽のような儚げな光景だ。長い長い航行の終わりが近づいているかもしれない。
妖精王ランスピアと少女グングはそれを見つめ続けていた。
馬車から降りて、妖精村でギルドに報告して報酬をもらったアッセーたち。
「これで全員婚約しちゃいましたね」
「もう言い逃れできないですわ」
「聖女として鼻が高いです」
「なのです」
約束を果たしたエルフ姉妹のせいで、なし崩しに婚約してしまうハメになった。
トホホ、とギャグ涙を流すアッセー。
ちなみにエルフ姉妹は満足してオダヤッカ王国へ時空間転移で帰ってしまったそう。きっと王様喜んでそう。
「いつでも時空間転移で会いに来れるから余裕なのです。さすが姉さまなのです」
「迂闊に約束したオレも悪いが……」
「もはや観念するのです。むっふー!」
アルローは得意げだ。
そんな折、空の一点が視界に入った。その一点は徐々に大きくなっていく。
「ん? 空を飛ぶ船……?」
見上げていると、巨大な船に呆気に取られた。
ボロボロで欠けているところもあるし、コケがおびただしく覆っていて、限界ギリギリって感じだが、正しく空を飛んでいる船だ。
村の妖精たちは大慌てだ。
そんな妖精村の上を通り過ぎていって、向こうの森林へ突っ込んで大きく振動が響き渡った。
「オレ見てくる!」
うやむやにするべき、婚約から逃げるかのように妖精王に変身して飛んでいった。
しかしローラル、アルロー、ユミ、マトキは追いつくレベルのスピードで走ってくる。婚約者を逃すまいと執念深さが窺えた。観念するしかないかなとアッセーはガックリした。
森林の真ん中で墜落した巨大な船は破損が酷く、二度と航行できない事が窺えた。
あちこち火の手が上がっていたので水の魔法をぶっかけて消火。
「……生き残りいるかな?」
フワッと船のふもとへ降り立つ。
ローラル、アルロー、ユミ、マトキが追いついてきて「これはすごい」と見上げた。
しかし気配が感じられる。
船の割れた穴から、光の玉がフワッと飛び出してきて、こちらの手前へ降りてきた。
「ぬお……、人か?」
ピンクのロングを揺らし、薄ピンクのキトンを着ていて、凛とした黄緑の羽を六つ浮かす妖精王ランスピア。
そして黄緑のベリーショートで未来的なワンピースを着た少女グング。
《言葉が通じると思いますが、私は桃花の妖精王ランスピアです》
「ワタシはギルガメッシ星杯の生き残りであるグングであります! 婚約したいでありますー!」
なんとグングが人恋しくアッセーへ抱きついてきちゃった。
ぷにっと胸が当たってきた。
なんと頭の中から女神さまが語りかけてきた。
《基本的にある程度の知的生命体は生殖行為が可能なように創ってあるから、魔族に限らず、ここの星杯外生命体とも婚約オッケーだよ》
「なんじゃそりゃああああああっ!!?」




