88話「さらば! サイツオイ竜王国!!」
熾天使フェミニエルと女神さまを正座させて、ガミガミ説教する妖精王ヤマミを尻目に、千年妖精王ナッセと話し合う。
《まぁ気にすんな。この星幽界域では時間や距離の制約受けねぇからな。過去へ戻って、女神エーニスックを始め創造主たちに説教して回ってるんだ》
《千年後の自分自身に会うってのも奇妙だけどさ、つか他にもあるんかよ……》
《まぁな、あちこちで分霊転生させてたみてーだからな》
千年妖精王ナッセは片目ウィンクする。
《オレはアッセーだけど、死んだら戻るの?》
《確かに最終的にナッセとしての本体へ還元されるけど、それは本体がヒトとしての天寿を全うした後の話だな。それが分霊転生の制約だぞ》
いずれにせよ戻れる事に一応ホッとする。
アッセーとしての人生が先に終わった場合は、本体が死ぬまで待機させられるらしい。
一応、通常生命体としてはナッセとアッセーは個別として判定されるからだそうだ。
《つー事でアッセーとしての人生は別枠だから、向こうで好きな人がいたら結婚していいぞ》
《そうなんか……?》
《ああ》
要するに神々が強制的に分霊転生者を配合させるのは違法。
女神さまのように激レアキャラを量産させる為に、意図的にハーレム婚約させて大量繁殖を促す行為は禁じられているんだそうだ。
《後でヤマミに殺されるかなと思って、独身貫こうと思ってたけどな》
《気にしないわよ》
なんとヤマミの顔をした黒い小人が四人で囲んで、呆れている。
これも血脈の覚醒者の生態能力で、分身して地形を伝播したりできる黒い小人だそうだ。
《あなたはアッセーなんでしょ》
《こっちの世界も重婚オッケーな社会だからね。いまさらよ》
《しっかり好きな人見極めてね》
《気にせずアッセーとしての人生全うしなさい》
思わずアッセーことナッセは《はぁ……》と後頭部をかく。
《ところで未来から来たんだろ?》
《うん?》
《ええ》
たぶん聞いても無駄だろうとは思う。
《アッセーとして結婚してしまう相手は知ってる?》
《それは言えねぇ》
《そういうこと》
二人して首を振る。やっぱ教えてくれねぇか……。
《それにしても二人ともオッケーなのが不思議というか……》
《それはこうして永遠に一緒でいれるからよ》
《そうだな》
千年妖精王ナッセにまとわりつくヤマミ小人。
上位生命体として星幽界域まで生活圏が移っても一緒だから、誰と結婚しようが関係ないって事なんだろう。
《そんなわけで好きにやっていけ!》
《ああ! そうする!》
お互いナッセ同士で快く親指を立てた。
きっちり絞られた女神さまはショボンとしてた。
元々、分霊転生者には好きにやらせるのが暗黙のルールだしなぁ。
《ぐすん。GJ欲しいよぉ…………》
ザマァ展開ではないが、一応これで落ち着きそうだ。
女神さまを騙ったジャスティスメシアによる侵略行為を解決してから三日後、新たに進展が起きた。
実は竜王国はここだけではなく、他に四ヶ国もある。その中の一つアナドレン竜王国よりイケメン王子二人がはるばるやってきたのだ。
初めて王様に会う前に通り過ぎた、あの二人の王子様なのだ。
ハーズが一目惚れしたという、あの王子様。
第一王子ツツマシは二十代前半。第二王子オチツーイは十代前半。年の差が離れている兄弟王子だ。
どっちもドラゴン化できるらしい。
「きゃー!! 婚約ですってー!!」
両目をハートにしたカナーリ姫は、第一王子ツツマシと婚約する事になって有頂天だ。
モットツオ王様はニコニコ満面で安心している。
そしてハーズは第二王子オチツーイとドキドキ初恋の様子。
「よ、よろしく……」
「うん。お願いします」
おどおどしつつも、悪くない感じだ。
ハーズはアッセーには憧れの感情を恋愛と勘違いしていて、本当に好きな人ができて違う事を知ったのだ。
前のはすれ違ったが、今回はお互い接触している。互い意識し合っている。
そして今度こそ本当の意味で恋愛ができる。
「ご、ごめんなさい……。オチツーイさまと一緒に遊びたいです。アッセーさん」
「気にすんなって。よかったなー。仲良くできてさ」
「うん!」
「遠慮なく行ってこい」
「うんっ!」
ハーズは明るい顔で頷いた。
楽しい足取りでオチツーイと手を繋いで遊びに出かけていった。これから色々な思い出を作っていって、過去の辛い思い出を塗り潰してくれるであろう確信があった。
なんだか全部丸く収まってスッキリできたぞ。
しばし世話になった教会にて、龍人神官トウビと妻の二人にアッセーたちは頭を下げた。
当分はハーズの里親としてやっていけるそうだ。
いずれはオチツーイ王子と婚約して幸せになるだろう。
「あ主らもお気をつけて」
「立ち寄ったら会いに来るよ」
「ははは。いつでも待ってますよ」
トウビと妻と握手してにっこり微笑みあった。
そしてアッセーはローラル、アルロー、ユミ、マトキと一緒に雪路を歩きながら手を振って去っていく。
どことなく寂しげがあったが気を取り直す。
ギルドで護衛依頼を受けて、商団馬車が出発するまで待機していた。
すると急いでたハーズが飛んできて、息を切らしていた。
ギュッと抱きしめ合う。
「行っちゃうんですね……」
「これで今生の別れじゃねぇんだ。またいつでも会えるしさ。もしオチツーイ王子とケンカしたら相談してくれよな」
「もう! アッセーさんったらー!」
ハーズは顔を赤らめてポスポス殴ってくる。
しばし談笑をした後に、優しく頭を撫でた。そして馬車へ乗ったまま彼女へ手を振り続けた。
スッキリした気持ちを胸に、アッセーたちは次の冒険へ旅立った。




