82話「天から叩き落とされる傲慢な天使！」
マーエルは背中の両翼から生成する天聖剣で、アッセーを包囲しての連続射撃。
幾度なく繰り返されて飛沫が連鎖して巻き上がっている状況。
普通なら防ぎきれず、標的は穿たれ続けて肉片に散ってもおかしくないはず。
「ワンパターン過ぎて退屈だぞ。やめてもらっていいか？」
呆れかえるような一言に、マーエルはこめかみから冷や汗が垂れる。
バリアも張らず、一体どうやってアッセーは余裕で防いでいるのかマーエルは焦りを募らしていた。
「なら破って見ろおッ！！」
「了解。サンライト・スラッシュ！」
なんと連鎖する飛沫の中から横薙ぎの軌跡が煌く、マーエルは見開いて「くっ！」と顔を傾ける。
通り過ぎた斬撃は頬に切り傷を入れた。
そのせいで、猛攻が途絶えて煙幕が晴れていく。
「ぐぬ……！ だが外し……」
「さっきのは掠るように撃っただけだぞ」
「なっ！？」
なんとアッセーたちの足元を中心に円状の雪原が残っている。その外周からは包囲網からの連撃で抉れ返ったクレーター。
あの絶えない天聖剣による包囲網攻撃を、何事もなく防いだというのか？
余裕と突っ立っているアッセー。
「バカな！？ バリアなど──！？」
「ああ。張ってねぇぞ。剣戟の結界による絶対防御……って感じ？」
竜騎士ドラギトもカナーリ姫も、そんなアッセーに驚くしかない。
天使の猛攻撃を、アッセーはずっと剣を下段に構えたまま周囲に一瞬煌く軌跡で全て防ぎきっているのを見届けたからだ。
目にも映らぬほどの剣戟の嵐で防いだと思うが、やはり信じられない。
「それでいて余裕のアッセー！ これは婚約せねばならーん！」
「婚約破棄で」
「やだやだやだー！！」
呆れるアッセーの振り向きに、カナーリ姫は駄々をこねる。
ローラルたちは汗を垂らして呆れた。
「ぐ……ぐぐっ！ それなりにやるようだな！ だが、なまじ強いばかりに生き地獄を味わう事になるのだぞ！ 悪魔のガキめッ！」
「御託はいい。聞き飽きたぞ」
「その不遜な態度、改めよっ！ 悪魔悪魔悪魔ああああああッ！！！」
ぶてぶてしいアッセーが気に食わず、四本の天聖剣による突きの構えで怒りの突進をぶちかまそうとする。
しかし尋常じゃない殺気を放つアッセーは剣を正眼に構え、カッと眼光を煌めかす。
「流星進撃！！ 八連星！！」
八筋煌く流星のような軌跡を描いて、天聖剣を砕き、巨躯のマーエルの全身を滅多打ちする。
マーエルは「ばぐああッ！」と吐血し、信じられないと目をひん剥きながら吹っ飛ばされる。そのまま森林へ突っ込んでバキバキ突き抜けていって岩山に激突して雪煙を高々と巻き上げた。
「な……なに…………！？」
血塗れになったマーエルは久しぶりの激痛に、現実を疑った。
立ち上がれないほど複雑骨折させられて、鮮血が雪原や森林を赤く染めていく。こんなのは夢を見てるとしか思えない。
あんな妖精王のガキに圧倒されるなど天使族としてはあってはならぬこと。
天界から地上を支配する一員としてプライドが許せない。
「そんな事ありえるかああああああああッ！！」
なんと折れた骨を高速修復して、傷を塞ぎ、天聖剣を生成し再び立ち上がる。
これまで嫌な笑みを浮かべていたはずが、もうそんな余裕もなく、プライドを傷つけられて怒りに満ちた形相になっていた。
息を切らし、アッセーを睨む。
「この悪魔のクソガキがあああああ！！！」
「よく言われるよなぁ。クソガキってさ……」
アッセーは呆れる。
転生前でも糞餓鬼と見下された事は多かった。そういうのに限って強がりの減らず口レベルだとも知っていた。
「我が全身全霊の力でもって葬り去ってくれるわああああッ！！ ダブルエックス・ホーリースラッシュ────ッ！！！」
超高速で突進しながら四本の腕から繰り出す二つの交差斬撃が、アッセーを押し潰さんと肥大化してくる。
それに対し、アッセーはカッと眼光を煌めかす。
「おおおおッ！！ サンライトォ────・ライズ────ッ！！」
アッセーは気合いを入れて地面に切っ先を触れさせた太陽の剣を思いっきり上空へ向けて斬り上げる。
それは肥大化した二つの交差した斬撃をも打ち破り、マーエルの顎を打って上空へと突き上げていった。
何層もの雲海を突き破って、マーエルの更に上へ舞ったアッセーは周囲から光子を集めて生成した銀河の剣を振り上げていく。
マーエルはそんな超巨大な剣に見開いていく。まるで天を衝くような剣だ。
「な────！？」
「三大奥義が一つ『賢者の秘法』！ オオガに続いて二回目──っ！！」
アッセーが振り下ろした超巨大な剣がマーエルの頭上を打ち、一気に急下降。雲海を突き破り地上へ向かう。
その際に流星のように光の尾を引きながら星屑を散らしている。
「があああああッ！！ そっ、そんなものおおおおッ！！」
マーエルは頭上にのしかかる銀河の剣を掴むが、ウンともスンとも外れてくれない。
まるでマーエルの頭上と一体化したかのような接着力だ。
信じられぬとマーエルは血眼で見開く。そのまま急下降はグングン加速していく。
「ならば、これでどうだああああッ！！」
今度は背中の両翼をバキバキ肥大化させて浮遊能力を高めた。
しかも空気抵抗で落下が鈍るだろうと確信した。しかし依然と変わりがなく急降下はますます加速していく。
空気抵抗も浮遊能力も一切無視した事象にマーエルは絶句するしかない。
「そんなバカな────、あり得るわけが────！！」
その時、気づいた。
自分はたった一人のガキに剣で打ち下ろされているのではなく、巨大な隕石の下に張り付いたまま落下しているにも等しいと……。
そう、アッセーはまさに隕石となっているのだ。
それに抗うなど微々たるもの、とマーエルは愕然するしかない。
「ギャラクシィ・シャインフォォ────ルッ！！！」
天空から一直線とマーエルの頭を地上に叩きつけ、大地を大きく揺るがす。
まるで隕石でも落ちたかのように波紋状の衝撃波が広がっていった。土砂の飛沫が舞い上がる。
しばし吹き荒れる烈風に龍人たちやローラルたちは腕で顔をかばってこらえる。
静まり返った時、巨大なクレーターの中心で真っ逆さまに脳天を埋めたマーエルは苦悶に「ギガハァ～ッ」と吐血し、巨躯が縮みながら横たわった。
「クソガキの悪魔が完全勝利ですまんな。正義の天使さま」
「くそ……が……」
悔しいままマーエルは意識を失った。
わあっ、と歓喜に満ちたローラル、ユミ、アルロー、マトキ、ハーズがアッセーへと駆け寄る。
