77話「竜王国の姫様と、まさかの婚約!?」
ドラゴン化の真相を知ってから一ヶ月が経った。時が経つの早いもんだな。
サイツオイ竜王国の王城の軍用牧場でワイバーン群が翼をたたんでいて、竜騎士たちが世話をしていた。
それをアッセーたちは歩きながら見学していた。
「暴走して野生化したワイバーンを飼い慣らしたのか?」
「昔は苦労したようだが、今では手懐けるカキュラムができてて飼養が可能になっているよ。ワイバーンは空軍。グリーンドラゴンは陸軍だね」
「ドラゴンを飼養は困難なはず……?」
「それは家畜のように繁殖させる場合だ。野性のを捕らえて手懐けていく場合は問題ない」
「そうか……」
アッセーたちに竜騎士ドラギトが快く説明してくれた。
なぜ、王城へ入っているかっていうと王様に呼ばれたからだ。理由は知らないが、有名になったから?
王様のところへ向かう時、交差する通路に差し掛かる際、どこかの国の王子様が二人が横切って去っていく。
するとハーズがアッセーの裾を引っ張る力を強めた。
「どうし……」
なんと呆然としたハーズが頬を赤く染めていた。
アッセーに懐いているのとは明らかに違う感情……。
さっきの王子様に一目惚れだって分かる。確かに二人揃ってイケメンだしな。
「な、なんでもない。い、い、いこ……」
「ああ」
俯き、どもった感じでハーズがうろたえている。
湧いてきた恋心に翻弄されているのだろう。赤面したまま落ち着きない。
ローラル、アルロー、ユミ、マトキは「はは~ん」とニヤつく。
しかしアッセーは知らないフリする事にした。
さっきの王子様と入れ替わるように王様への通路へ進んでいく。
「そそうのないようにな……」
ついに謁見の間へ通されると、先頭のドラギトが「連れてまいりました」と頭を下げる。
サイツオイ王様……、白髪と白ヒゲでかなり高齢だが鋭い目を見せる歴戦の男。
王妃も銀髪で若く、慎ましい表情で堂々としている。
「よくぞ参られた……。アッセー・クルナッツ殿。ワシはこの国を治めるモットツオ王である」
「はい」
アッセーは跪き、ローラル、ユミ、アルロー、マトキ、ハーズもそれに続く。
「此度、呼びつけたのは他でもない。来なさい」
なんと姫様が凛として登場してきた。
年頃は一六歳で、母親譲りの銀髪ロング、大きな胸、ジト目っぽい澄まし顔、フリル溢れるドレス。
「我が娘、第一王子であり長女であるカナーリ姫である」
「すまん。婚約破棄で」
「お主は……、妖精王は心を読めるスキルでもあるのか?」
ガッカリ顔で顎を落とすモットツオ王様。
「ちょっとー! なにマジで婚約破棄してくれんのよ! アッセーって聞いてから懇願してたのにー!」
なんとまくし立てるようにギャアギャア叫びだす姫様。
「カナーリ姫様、なんで婚約したいん?」
「だってそーでしょ! 世界天上十傑であり、魔嫁ズや魔姫が惚れるほどの男、見逃すわけないじゃん!」
なんとカナーリ姫の左半身を竜のウロコのオーラがポコポコ覆い始めていく。
それは全身を覆ってツノ、翼、尻尾と次々象る。所狭しと威圧が膨らんで烈風が吹き始めていく。
壁際に並んでいた竜騎士たちも畏怖していく。
「ウリイイイイイッ!!」
「そっちもドラゴン化してんのかよおおおお!!!?」
「これッ!!」
モットツオ王様が喝を入れると、姫様はハッと我に返ってシュワシュワ竜のオーラを引っ込めていく。
姫様は「すみませんでした」と神妙に頭を下げる。
とはいえ、王様の一喝で暴走を止めるとは……。
「って事は王様自身も……?」
モットツオ王様が立ち上がると、全身から竜のウロコが急速に湧き出し連なって覆っていく。
ツノ、翼、尻尾を象って、凄まじい威圧を放つ。
縦スジとなった瞳と剥き出しにした牙でニヤリと笑ってきた。
「それが我が王家のならわし。サイツオイ竜王国を治めるに相応しい王として、ドラゴン化はもちろん制御も完璧にできなければならぬ。そのせいで遺伝子的に『魔獣の種』と適合しやすくなっている」
「はぁ……」
「ちなみに王妃の私はドラゴン化をしていません」
「だからヒトの外見をしてて王様の地位についていたのですか……」
王様はシュワシュワ竜のオーラを引っ込めて、王座に座り直した。
アルローの言う通り、この王国は龍人が多い。
てっきり王族も龍人かなと思っていたら、実はドラゴン化できるヒトが王位に就いていたという。
「数百年もかなり前の王様は龍人だったんだが、養子として迎えられたワシの先祖がドラゴン化をマスターして後継となったようじゃ」
「それはいいとして、なんでオレに婚約を?」
「じゃかましいわ! そんなの決まってんじゃーん!」
カナーリ姫様が赤らめて叫びだす。
「ワシとしても婚約してくれて構わなかったんじゃがの、しかし振られればやむを得まい」
「私のどこがいけないんだー!! 言ってみろー!!」
「そ……そういうところかな」
肩を落としてアッセーはゲンナリする。カナーリ姫様は不満そうに膨れっ面。
「それはそうとして、アッセー殿」
「さておきましょう」
「二人して、さておくんなコラー!!」
プンプンとカナーリ姫様は拳を振り上げる。
「本題は、ドラゴン化する野生動物の異常な多さ。竜騎士たちがパトロールしているが、なかなか尻尾を掴めぬでいる。なにか情報があれば教えてくれ」
「う~ん。こっちもギルドの依頼を受けて周辺を冒険しているんですが、変わったものは見当たらないですね」
アッセーも首を傾げて困った顔を見せる。
「アッセーさまの『察知』はかなり広大なのですが、それでも見つからないのは相当ですわ」
「なのです!」
「うん」
「この聖女マトキも、感知を試みていたのですが何も……」
聖女の能力を持つマトキですら尻尾を掴めぬとは、なんとも不思議な事だ。
「それを踏まえて報告しよう」
「そうですわ! これが婚約の理由でもありまーす!」
「報告?? 理由??」
「それはアッセー殿がこの王国へ滞在してから、ドラゴン化の異常な大量発生が鈍っているとのデータが出た」
「ええっ??」
「前々から、パトロールの他に野生動物のドラゴン化のデータを取ってたんですよ」
ドラギトがそう説明してくれる。
彼らのデータによると、アッセーがここに来てから鳴りを潜めたように大量発生が静まった。
つまり……?
「何者かがアッセーを恐れて、引っ込んでいるのではないかと思われるのだ」
「えー、マジで……?」
「だから婚約兼魔除けにしたいと思ったんですよー! ばかばかー!」
カナーリ姫様は駄々っ子のように両拳をブンブン振っている。
「だからか……。オレを呼び出したのは……」




